生命保険の支払調書が危ない理由。

生命保険の契約者変更(名義変更)に関する支払調書の改正の影響が意外に大きい。

平成27年度税制改正の大綱が閣議決定され、その中の生命保険会社の提出する支払調書に関する改正が、いよいよあと半年後、平成30年1月1日から適用されます。

◆念のための用語説明
契約者=お金を出すひと、契約の所有者(変更できる)
被保険者=体を出すひと(変更できない)
受取人=保険金をもらう人(契約者が指定・変更できる)
保険料=保険会社に払うお金
保険金=保険事故のとき保険会社から受取るお金
保険事故=死亡などの保険金支払い事由に該当する事故
解約返戻金=解約した時に残っていれば受け取れるお金
契約者変更=名義変更
支払調書=特定の支払いをした事業者が、その明細を税務署に提出する書類

1) 保険業界の大量の契約者変更(名義変更)

CIMG2867保険営業にとっては、気になるというより内心戦々恐々といったところではないかと思います。

保険営業の場面では契約者変更(名義変更)はそれほど珍しい保全手続きではありません。

親が子を被保険者にして親自身が契約者になり保険料を負担すれば、いずれ必然的に契約者を子に変更するときが来ます。

子が独立したり結婚すれば契約者を子に変更し、保険料負担者も子に移行します。

仮に契約者を変更せず親が保険料を負担し続けても、いつかは相続が発生し生命保険契約は子に引き継がれますから、やはり契約者変更は避けられないのです。

実はよく考えれば保険料は生活費でも養育費でもありません。親から子へのまぎれもない贈与です。税法上贈与税の対象になるのは当然と言うべきです。

相続間際に生命保険契約の名義変更を行うケースもあります。子を被保険者にして一時払終身保険に何本か加入して、子に名義変更します。名義変更しただけでは支払調書はいきませんから課税当局に把握されることなく相続財産を減額できます。

少々荒っぽいやり方でおすすめはしませんが、相続税がかかるかどうかの瀬戸際の場合、手っ取り早い手法です。

これまでは、契約者変更しても保険金の支払いが発生しなければ支払調書は提出されませんでした。税務署は生命保険契約の贈与について生命保険会社に照会をかけないとわからなかったのです。

この手の隠れ贈与とでもいうべき生命保険契約は保険営業のセールストーク「支払調書が行くわけでなし、税務署にわかることはありません。」に乗せられて大量にあると思われます。

2)支払調書の改正点

これまでの支払調書はシンプル(見本)です。

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[現行記載事項]支払調書では以下の項目が税務署に報告されていました。
・受取人氏名、住所、個人番号
・契約者氏名、住所、個人番号
・被保険者氏名、住所
・保険金額等(又は満期金額、解約返戻金額)
・保険料総額(既払込保険料総額)
・保険事故発生日、保険金等の支払日

この支払調書には契約者変更は記載する必要がありませんでしたから、税務署も支払調書だけでは相続や贈与の事実はつかめませんでした。また、保険金や解約返戻金等の支払が100万円以上なければ支払調書は発行されませんでした。

以下のa.b.は生命保険の支払調書の改正点をできるだけわかりやすく言い換えました。

a. [提出ルールの変更]

契約者死亡(相続時)による契約者変更(名義変更)に支払調書提出義務。

・保険金支払が発生していなくても解約返戻金相当額で支払調書提出。
・相続で引き継がれる生命保険契約の把握が目的。
・事例でいうと、
契約者(保険料負担者)=親 被保険者=子
契約者死亡により契約者変更=子が新契約者

この場合被保険者は生存していますから、死亡保険金は支払われませんが、生命保険の契約者は変更になります。子が新たな契約者として保険料を払い続けるか、払済みにするかは人それぞれですが、生命保険会社では契約者死亡による契約者変更は解約返戻金相当額を記載した支払調書を発行することが義務化されます。

[記載追加]:生命保険の支払調書には現行記載事項に以下が追加されます。
死亡した契約者の氏名・住所・ 死亡日
新契約者の氏名・住所
解約返戻金相当額、既払込保険料総額、死亡した契約者の既払込保険料

ここまで支払調書で報告されれば、相続財産に生命保険契約の加算漏れは完全になくなると思います。それが課税当局の狙いではありますが。

b. [記載事項の変更]

最終契約者の既払込保険料等の記載を追加。

・契約者死亡時でなければ契約者変更しても支払調書は提出されません。
・保険契約がお金に変わる時(保険金、解約返戻金等)支払調書提出義務が発生。
・生命保険契約の契約者変更による贈与事実の把握が目的。

契約者を変更しただけでは贈与は発生しません。当然贈与税の時効も開始しません。ここを勘違いすると痛い目にあいます。税務署は生命保険契約がお金に変わる時を贈与の開始とみなします。つまり支払調書が提出されると税務署は贈与の事実を把握することになり「お尋ね」を発行する場合が出てきます。

[記載追加]:生命保険の支払調書には現行記載事項に以下が追加されます。
支払時契約者の直前の契約者の氏名・住所
支払時契約者の既払込保険料
契約者変更の回数

誰から誰に契約者変更が行われたかを追記することで、契約者変更により支払時契約者(最終契約者)に贈与されたことが明確になります。最終契約者が負担していないこれまでの保険料は贈与と言うことになります。

一時払終身保険などの契約者変更(名義変更)を行えば最終契約者の保険料負担は0円ですから、そっくり贈与税の対象となります。支払調書がなければこれも把握できないことになります。

3)まとめと危惧するところ

[引用1]

・平成27年度税制改正の大綱(H27.1.14閣議決定)P47
(4)調書について、次の措置を講ずる。
① 保険会社等は、生命保険契約等について死亡による契約者変更があった場合
には、死亡による契約者変更情報及び解約返戻金相当額等を記載した調書を、税
務署長に提出しなければならないこととする。
② 生命保険等の支払調書について、保険契約の契約者変更があった場合には、
保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載することする。
(注)上記の改正は、平成30年1月1日以後の契約者変更について適用する。

[引用2] 財務省 平成27年度税制改正の解説-詳解 P210-213
2  改正の内容
 生命保険金等に基づく一時金又は損害保険等給付に基づく満期返戻金に係る一
時所得の金額の計算上控除できる額は、原則としてその生命保険金等又は損害保
険等給付の支払を受ける者本人が払い込んだ保険料等に限られていますが、例え
ば法人が契約した生命保険契約について、個人に名義を変更した後その個人に対
して保険金が支払われた場合に、本来その個人の所得金額の計算上控除できない
旧契約者(=法人)の払込保険料をも含めて控除しているなど、正しく所得金額
の申告が行われていないケースがありました。こうした問題に対応するため、次
の改正が行われました。生命保険等の支払調書の記載事項の追加「生命保険金等
の一時金の支払調書」について、契約の締結後にその契約に係る契約者の変更
(その契約に係る契約者の死亡に伴い行われる変更を除きます。)があった場合
には、次に掲げる事項を記載することとされました。
① その契約者の変更(その契約に係る契約者の変更を 2 回以上行った場合に
は、最後の契約者の変更)前の契約者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は
本店若しくは主たる事務所の所在地
② その契約に係る現契約者が払い込んだ保険料又は掛金の額
③ その契約に係る契約者の変更の回数
3  適用関係
 上記 2 の改正は、平成30年 1 月 1 日以後に支払の確定する生命保険金等で
同日以後に契約者の変更が行われたものについて適用されます(改正所規附則17、18)。

《逓増定期名義変更スキームへの影響》

CIMG2876税制改正大綱ではぼんやりとした言い方でしたが、詳解でははっきりと逓増定期保険の法人から個人に名義変更するスキームに焦点を当てていることが明記されています。

支払調書の記載事項改正の主要因が逓増定期の名義変更とは驚きました。

これは法人から個人に名義変更しても払込保険料総額(法人+個人)を解約返戻金額が100万以上上回らないと支払調書が出ないということを利用して、個人が得た一時所得を申告しない例があったため網をかけたということです。

裏を返せば、個人の得た一時所得はきっちり確定申告すれば問題なしという意味にも取れます。

この辺は立場の違いで判断が分かれるところですが、今のところの情報では議事録を整備し、手順どおりに一時所得の確定申告をしている限りにおいては問題を指摘された事例を聞いたことはありません。

いずれにしても逓増定期の名義変更スキームは今後、課税当局が完全に把握することとなりますから以下のページをご参考に対応怠りなくお願いします。

◆ 逓増定期保険の名義変更で落ちると怖い落とし穴を経験者が語ると。

《保険会社の対応と過去の契約者変更への影響》

①保険会社の対応はまちまちで、まだ明確なスタンスは見えない点。

保険会社各社からぼちぼち「保険契約の異動(契約者変更)に関する支払調書の新設等のご案内」が届いています。

基本的には上記で紹介したことにそって改正内容を案内してきています。しかし共通して明確になっていないのは過去(平成30年1月1日以前)の契約者変更を今後の契約者変更と区別して支払調書に掲載しないとは明記していないことです。

上記の引用によれば「平成30年 1 月 1 日以後に支払の確定する生命保険金等で同日以後に契約者の変更が行われたものについて適用されます。」とありますから一応保険業界の混乱を回避した形になっています。

②税務署には調査権限があり照会すればすべて明らかに。

支払調書に過去の名義変更が記載されていないからと言って安心できるわけではありません。税務署が過大な保険契約や不審に感じれば保険会社に照会をかけます。こうなれば洗いざらい報告されることは避けられません。

③生命保険の契約者変更(名義変更)はまぎれもない贈与です

何度も申し上げていますが、生命保険契約の契約者を変更したからと言ってその対価を支払うことは家族内ではありえないことです。対価を払えば売買ですから贈与ではないですが、そんなことは誰もしません。

従って生命保険の契約者変更はほとんどの場合、贈与に該当し基礎控除(110万)を越える部分は贈与税の課税対象になります。

念のため申し上げておきますが、年間保険料が110万円以下だから贈与税はかかっらないという考えは税務署には通用しません。名義預金の場合と同じで、生命保険がお金に変わる時、すなわち生命保険金や解約返戻金を受け取る時にまとめて贈与が発生したとみなします。それまでの保険料は名義を借りて貯金していただけという理屈です。くどいようですが、従って贈与税の時効も開始しません。

推測の域を出ませんが、保険業界の経験から大量の保険契約が隠れ贈与としてグレーゾーンにあるものと思います。それをひっくり返すと税務署も大変ですから線引きを設けて、過去の契約の蒸し返しまでは問わないという配慮でしょうか。

④老婆心ながら無申告加算税。適正申告のおすすめ。

◆ 生命保険の名義変更で無申告加算税が!

万が一課税当局に捕捉されれば、追徴課税が課せられます。追徴課税というのは状況にもよりますが、最悪の意場合、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税、の4つのパターンに延滞税がオンされます。

もうこうなるとサラ金真っ青の有様です。脅かして申し訳ないですが、重々ご注意を、と適正納税は安心を担保しますから庶民としてはおすすめです。

続編「支払い調書への対応を生命保険各社に確認しました。」書きました。

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