節税保険、国税庁のパブコメでトドメか?

節税保険、国税庁のパブリックコメントでトドメか?

2019年4月11日、ようやくにして国税庁から節税保険に関するパブリックコメントが公示されました。

節税保険販売停止のバレンタインショックからほぼ2ヶ月が経過しています。保険業界の混迷に終止符を打つのか、それとも拍車をかけるのかわかりませんが、

『「法人税基本通達の制定について」(法令解釈通達)ほか1件の一部 改正(案)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)等に対する 意見公募手続の実施について』が公開されました。

内容を読み解くと、国税庁も節税の抜け穴を防ぐためにそうとう呻吟(しんぎん・苦しんでうめくこと)したと思われる内容です。

じっくり読んでも意味がつかめない項目があります。結論から申し上げると、定期保険(長期平準定期保険・逓増定期保険)やがん保険などの第三分野をからめた医療保険など保険種類にかかわらず、すべての保険商品で損金効果(節税効果)をなくすという国税庁の新ルールです。

分かりやすく言えば、国税庁によると「最高解約返戻率」という急所を押さえ、それに合わせた資産計上率を大きくし、解約時の実質返戻率が100%を越えない縛りが出来ました。この規制は、節税目的の全商品にかけられたということになります。節税保険を一網打尽にしたついでに、事業保障の長期定期保険までも半損という一律の経理処理を認めず、新たに節税効果が最小限になるよう細かくルールが設定されています。

国税庁のパブリックコメントにより、このまま通達が発遣されれば、節税保険はこれで完全にトドメを刺されたと言えるのではないかと感じています。

■節税保険、バレンタインショックまとめ。

◆ 節税保険が狙われた理由。

国税庁と保険業界の法人保険による節税イタチごっこは、長年にわたり続いてきました。ここに来て終わりを告げるのでしょうか。法人契約の保険には、事業保障という目的のほかに、利益の繰り延べということがあります。

中小企業にとっては、保険によって利益を繰り延べることで、ある程度P/Lをコントロールしたり、退職金準備を設計したりすることができました。しかし国税庁にすれば法人税収減となります。

課税の繰り延べ効果を高めるためには、保険料をできるだけ多く損金に落とせることと、より高い解約返戻率が求められます。実質の解約返戻率が(100-実効法人税率)を越えていれば、利益の繰り延べができますから、出口対策さえしっかりできていれば節税になります。

ところが何ごとも「過ぎたるは及ばざるが如し」(ちょっと意味がずれていますが)保険業界の競争が熾烈になり、全額損金の節税保険販売競争が激化しました。その結果、保険商品を認可した金融庁が保険商品の見直しを指導し始めた矢先に、国税庁が保険業界の幹部を集めマッタをかけたというわけです。

国税庁からの指導で保険会社各社は販売停止を決め、戦々恐々で国税庁のパブリックコメントを待っていたということです。おかげで契約者である中小企業も節税目的で契約したものの、国税庁の判断先送りにずいぶん振り回されました。

◆ 節税保険の効果がなくなれば死活問題の保険代理店。

今回の国税庁のパブリックコメントで示された締め付けが通達として出れば、一番困るのは法人保険を主にあつかう保険会社と保険営業、そして保険代理店です。事業保障目的の定期保険だけでは、たびたび需要があるわけではありません。

節税保険なら利益の出ている企業では、毎年需要があります。かといってがん保険や介護保険などでは保険料が伸びません。法人保険をメインにしている代理店の主力商品は、やはり損金効果の高い節税保険です。

まさに代理店にとれば死活問題、存続にかかわる重大事態です。多くの中小企業も選択肢を奪われた形になり、今後の財務管理が難しくなります。国税庁も酷なことをするものです。

◆ パブコメの真意を読み解くと、国税庁の腹の内。

国税庁のパブリックコメントのタイトルは下記のように長々と意味不明です。

「法人税基本通達の制定について」(法令解釈通達)ほか1件の一部 改正(案)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)等に対する 意見公募手続の実施についてパブリックコメントの内容が5ページ、法人税基本通達の新旧対照表が18ページと読み解くにも骨が折れるボリュームです。

国税庁のねらいを、改正内容に絞り込んで分かりやすくまとめてみました。ただし現時点では国税庁の正式な通達として出ているわけではないですから、確定ではありません。念のため申し添えておきます。

・基本的な考え方と方向性(国税庁の立場)

法人税法上、前払部分の保険料は資産計上するのが原則
法人税基本通達(9-3-5)では保険料は期間の経過に応じて損金算入
保険の種類ごとの損金算入ルールを定めた通達を一本化し下記の新ルールを適用

解約返戻率が最高になる時点の返戻率を「最高解約返戻率」と定義しています。

イ 最高解約返戻率が50%超7 0%以下となる場合[50%<解約返戻率≦70%]

6割損金/4割資産計上となります。
実効法人税率33.8%では、 単純返戻率 70%のとき実質返戻率 ⇒ 87.8%

ロ 最高解約返戻率が70%超8 5%以下となる場合[70%<解約返戻率≦85%]

4割損金/6割資産計上となります。
実効法人税率33.8%では、 単純返戻率 85%のとき実質返戻率 ⇒ 98.3%

ハ 最高解約返戻率が85%超となる場合 [85%<解約返戻率]

実効法人税率33.8%では、 単純返戻率 95%  のとき実質返戻率 ⇒ 99.9%
単純返戻率 100%のとき実質返戻率 ⇒ 103.5%

(注:被保険者一人あたりの年換算保険料が30万以下は全額損金また経過年数に応じ損金算入割合の変動があります。)

わかりやすくするため、資産計上期間の細かいルールは省略して「イ」「ロ」「ハ」の最高解約返戻率区分による資産計上ルールを適用すると実質返戻率がどのように変わるかを示しています。特に「ハ」のケースでは長期平準定期にこのルールを適用されると混乱を生じるのではないかという複雑さです。

実質返戻率が100%を越えなければ節税効果はありません。事業保障を考えなければ、結果的に保険会社に利益を貢いだだけとなります。

また上記の計算シミュレーションは、解約返戻率のピーク時の解約を前提とした資産計上期間の実質返戻率を試算したものです。詳しくは国税庁パブリックコメントPDFでご確認下さい。

◆ 逓増定期の名義変更は生き残るか。

全額損金で販売されていた節税保険はこれにより意味をなさなくなります。長期平準定期保険も事業保障として考えれば意味がありますが、利益の繰り延べ効果(節税効果)はほとんどなくなることになります。

逓増定期保険は利益の繰り延べという意味では契約する意味がなくなりますが、名義変更スキームは存続するかもしれません。

ただし最高解約返戻率は「ハ」のグループに属すことになりますからなんと9割の資産計上になります。名義変更した時には巨額の雑損失が法人側に発生することになりますが、それはそれで利益が出ている法人では有効な使い道があるように思います。この雑損失は決算書で目立つでしょうから、税務署も目をつける可能性があります。さてどうなるか今後の動きを見守りたいと思います。

(追記:2022年3月のホワイトデーショックで道は絶たれました。)

◆ 経理処理ミスが山積。

国税庁のパブリックコメントによると、おかげさまで既契約には遡及しないようなことが記述にあります。

以下は引用です。

改正後の法人税基本通達9-3-4から9-3-7の2までの取扱いは、平成31年○月○日(改正通達の発遣日)以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料について適用します。

なぜ国税庁のパブリックコメントの締め切りが5月10日(金)で改正通達の発遣日の元号が平成なのか意味不明ですが、駆け込み契約は既得権を得たということのようです。とりあえず契約いただいたお客様に迷惑をかけずに済み、安堵している保険営業の顔が見えるようです。

それはさておき、既契約と新契約の経理処理が同じ保険でも異なるようなことになります。すでに過去において国税庁の通達が出るたびに経理処理が複雑化し、経理処理ミスが多い中、さらなる混乱の要素になりそうです。このルールでは保険積立てが正確に処理できるとも思えません。

節税効果がなくなり、もはや今後の契約は出口対策を考える必要はなくなりそうですが、経理処理を正確に行うことはかなり難しそうです。今後は保険会社が経理処理の案内にさらに力を注ぐべきでしょう。

◆ 国税庁のパブコメから見える保険業界の行く末。

保険を買う側ではありますが、一連の国税庁発のバレンタインショック騒動はhokenfpとしてとても興味深く追いかけました。過去に例のない事態ですからまだまだこれから保険会社各社、保険代理店も存続をかけて戦略を練り直さないといけないところでしょう。ただ国税庁のかけた網は最高解約返戻率という節税効果一網打尽策ですから、保険商品設計はさらに難しくなるように思います。

国税庁も大人の態度を示して既契約への遡及なしとし、過去の通達を見直し全体に通用する網をかけ直してきました。既契約への遡及はないのではないかという見解はOB税理士によると国税庁の考え方として「納税者に不利な通達変更は、通常遡り適用はありません。」ということのようです。節税保険の大量の駆け込み契約は出口対策が残りました。

気にかかる点はやはり保険代理店の苦境により業界の再編や廃業が相次ぐと、せっかく既得権で手に入れた全額損金の節税保険の出口対策がおろそかになりそうです。解約時期を誤ったり、出口対策もないまま解約したりするような無策は避けたいものです。

とくに保険設計をきちんと考えずに、とりあえず節税で駆け込み契約をしたようなケースが危ないと思われます。hokenfpの主張として再三申し上げていることではありますが、保険契約管理はあくまで自己責任でと繰り返し申し上げておきます。

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