国税庁のトドメ通達で節税保険ついに全滅か。

国税庁のトドメ通達で節税保険ついに全滅か。

国税庁の法人契約保険に関する法人税基本通達が発遣されました。トドメの通達ではありますが、法人契約の保険が全滅するわけではありません。節税効果が期待できる、法人契約保険が壊滅したという意味です。

バレンタインショックから4ヶ月半、まさしくすったもんだのあげくに国家権力により保険業界に鉄槌が下ろされました。その結果、保険会社ではなく、厳密には末端で保険商品の販売を行う代理店や営業職員が路頭に迷う姿が見えてきます。

節税保険では、仮に利益の繰り延べが奏功したとしても出口課税が待っています。その分の雑収入を設備投資に回せば節税効果だけでなく、経済活性効果が期待できます。企業の利益というものは、まわり回ってどこかで課税の対象になります。なにごとも落としどころが大事、やり過ぎ過激がプラスになるとは限りません。

国税庁が発遣した、節税保険に対するトドメ通達のポイントを解説します。

■節税保険、バレンタインショックまとめ。

◆ 通達のポイントをまとめると。

通達がここまで遅れるとは、想定していませんでした。販売停止のあおりを食らった保険関係者は、なすすべもなく見守るよりありませんでした。ようやくにして6月最終日の28日の未明に、通達がアップされました。

一部の修正はありましたが、ほぼパブリックコメントとその後の漏れ伝わる情報に沿った内容でした。ただパブリックコメントの意見で指摘があった内容は抜け穴になりかねないので完全にふさがれた感じです。

1)最高解約返戻率で資産計上割合を決定。実質返戻率は100%未満に。

これは、今回の通達の眼目であり変わったところはありません。法人契約の定期保険・第三分野保険では最高解約返戻率という指標で資産計上割合が決まります。

基本的に実質返戻率が100%越えることはほぼなくなります。事業保障の保険としては十分意味がありますが、課税の繰り延べとしては完全にその効果がなくなりました。

要するに長期平準定期保険や法人契約のがん保険のような医療保険で節税する手法は、封じられたと言うことです。事業保障の保険を毎期入るような法人はないでしょうから、法人保険を主力とする保険募集人は保険販売の機会が激減し、戦略見直しを迫られることは間違いありません。

2)短期払い医療保険の保険料は原則資産計上に。

後から漏れ聞こえてきた短期払いの医療保険は、被保険者一人につき年間30万円以下が損金算入の限度となりました。医療保険の短期払いでは、払込期間が2年とか5年とか10年があります。

終身の医療保険料ですから年払いの保険料が数百万にもなりますが、ほとんどが資産計上となります。これで短期的な節税効果がなくなったと言えると思います。

ただ、解約返戻金相当額での名義変更は否定されていませんからスキームとしては残ると思います。タイミングがよければゼロ円で名義変更できますし、入院日額の10倍程度のわずかな解約返戻金を払うつもりであれば損金ネタを先送りできます。

ただ、笑止千万(しょうしせんばん)ながら短期払いの医療保険の資産計上には、なんと3ヶ月の猶予期間が設けられました。10月7日までの既契約は全額損金処理が既得権として認められるということになります。保険販売得意のOB税理士に配慮したものでしょうか。

3)令和元年7月7日以前の既契約には遡及しないことを明記。

既契約には遡及しないというのは大方の予想どおりで、パブコメの回答にも同様の趣旨が述べられていました。既契約遡及とでもなれば、社会的混乱は相当なものが予測できました。

OB税理士によると国税庁の考え方として「納税者に不利な通達変更は、通常遡り適用はありません。」ということはまさにはその通りでした。

通達の最後には(経過的取扱い・・・改正通達の適用時期)について令和元年7月8日(月)以後の契約にかかる定期保険又は第三分野保険の保険料について適用し、とあります。7月7日七夕ですが日曜日です。実質的な締め切りは7月5日(金)ということになりそうですが、要するにあと一週間の駆け込みOKとの指定です。

すでに販売停止している保険会社も多い中で、法人保険を主力にしている会社は、なりふり構わず駆け込み戦略を展開するかもしれません。

◆ 保険業界への重大な影響。

今回の通達により一定の結論は示されましたが、本質的な部分では決して生やさしい内容ではありません。保険業界、とくに法人保険をメインにあつかっている保険会社は苦境に陥ると思います。

すでに販売停止期間が長くダメージは浸透しているでしょうし、次なる保険商品の開発にも時間がかかるでしょう。一番気の毒なのは保険商品を販売する保険営業と保険代理店です。

◆ 逓増定期の名義変更には言及なし。

募集したパブリックコメントの中には、逓増定期保険の名義変更スキームに対しても対策を行う必要があるのではないかという意見がありました。

それに対して国税庁の回答は「国税庁としては、御意見のような保険商品やその利 用実態も含め、保険商品全般の実態を引き続き注視 し、必要に応じて取扱いの適正化に努めてまいりたいと 考えています。」とあります。

■御意見の概要及び国税庁の考え方→リンク確認

逓増定期の名義変更は、利益が安定的に出ている中小企業の経営資金移動に有効な手段です。とりあえず今回の通達では具体的な言及はありませんでした。通達の資産計上ルールに従えば、名義変更時の雑損失の発生時期のコントロールはできませんが、利益が出ている企業ではまだまだ使える仕組みと言うことになりそうです。

すでにその方向で保険商品の販売を準備している保険会社もあるように聞きます。

(追記:2022年3月のホワイトデーショックで道は絶たれました。)

◆ 納税協会の資金源に重大な影響。

今回の通達で懸念が残るのは法人保険専門のT社が販売する保険商品の多くが網にかかり販売実績を落とす可能性です。税務署にはその外郭団体として納税協会があります。納税協会には福祉制度委員会なるものがあり大型福祉制度という名目でT社の保険を販売促進する仕組みがあります。

この際の手数料の一部が納税協会運営の資金として活用されています。納税協会によっては何割かの資金に該当します。国税庁ではそこまでの配慮はしないものとみえて、言ってみればタコが自分の足を食っているようなところがあります。

制度商品としてあつかうのは節税効果があるものだけではありませんから、重大な影響とまでは言えないかもしれませんが、今後少なからず納税協会の資金源に影響があると考えられます。

◆ 節税保険ついに全滅、まとめ。

通達が出たことで、駆け込みで節税保険契約をした企業は一安心と言うことになります。保険会社および保険販売にかかわる人たちは、これからの事業戦略を練り直す必要に迫られることでしょう。

通達発遣、即日適用ではなく、妙な具合に適用時期が設定されたため駆け込み猶予ができてしまいました。

短期払いの医療保険に至っては3ヶ月もの販売猶予が認められています。そうなると落ちついていた保険代理店の販売合戦が再燃することになるかもしれません。もはやお墨付きの駆け込み販売です。

また節税という面では、効果が下がりますが養老保険のハーフタックスなども半分損金にできますからこれからの主力になるように思います。

パブリックコメントに対する国税庁の回答の最後に「その他」があり、ここでの内容を抜粋し紹介します。あまりの回答に言葉がありませんでした。

国税庁が、今回の通達改正の方針を生命保険協会に伝達した2月14日以降、金融庁が認可した商品でありながら販売停止を各保険会社に強制指導したことについて、その法的根拠は何か。

という問いに対して

国税庁において、各生命保険会社に対して保険商品の販売停止を求めた事実はありません。また、税の執行機関である国税庁は、各生命保険会社に対し、保険商品の販売に関する指導等をする立場にはありません。

という回答です。これまでの経緯を見てきたものとして唖然とする回答です。保険会社や保険営業ではない買う立場でも思わず一言苦言を呈さずにおれない言いぐさです。

週刊ダイヤモンドに掲載された金融庁長官のインタビューにしろ、国税庁のパブコメに対する回答にしても保険業界の関係者にとれば忍耐の限界に近いところでしょう。その中で生きる道を模索するほかありません。

記事を書く立場で申し上げれば、国税庁や金融庁の皆さん、格別なる話題提供をありがとうございました。

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