告知義務違反のリスクと知っておきたい告知のさじ加減。
生命保険を契約するときは、自分の健康状態を告知する義務があります。契約内容に応じて、告知だけの場合と面接士による面接確認、医師による診査が必要な場合があります。
過去の病歴や通院の状況など、告知書で問われていることに虚偽の回答をすると告知義務違反になります。注意すべき点は、不告知も告知義務違反に問われるということです。実際の場面では、故意の告知義務違反か、単に忘れていたのか、実際はいろんなケースがあります。
突然、告知書を前に過去の病歴、通院歴、病名、治療経過が正確に思い出せる人はいません。告知義務違反かどうか考える余裕もなく、適当に覚えていることを書くと後で気になる事もしばしばあると思います。そのうち忘れますが、気になりだすと心配が続きます。
告知義違反は、保険会社による契約解除や大事な保険金の支払いが受けられないリスクがあります。告知義務と告知義務違反について、被保険者の立場から詳しく解説しました。また、どこまで告知すればよいか、契約する保険の種類による告知のさじ加減まで検証しました。
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◆ どこまで告知すれば告知義務違にならないか。
簡単な病気まで告知するのか、判断に迷うこともあります。花粉症や皮膚病、歯科通院などは告知すべきかどうかなど意図せずにアバウト告知になりがちです。それを告知義務違反として、どう判断するかという問題があります。
還暦近くの年になると、人間ドックでいくつもC判定をもらうようになります。C判定とは、要再検査です。健康診断で要再検査などの指摘を受けても、多くの場合放置しているケースがあります。自分では大したことがないと思っているため、ほぼ告知忘れになりそうです。健康診断での要再検査は、どこまで告知すればよいのでしょうか。
◆ 生命保険の告知義務について。
生命保険を契約する際、被保険者は、過去の病歴、通院歴、現在の健康状態、現在の職業などについて、告知書や生命保険会社の指定した医師の質問に、事実をありのままに告げる告知義務があります。
告知では記憶違いや忘れていることもあります。故意または失念して事実を告知しなかったり、事実と異なる告知をしたりすると告知義務違反となる可能性があります。
おぼろげな記憶の場合、告知を怠ることもありますが、告知しないと不告知ということになります。その結果、告知義務違反により契約が解除となったり、保険金・給付金が受け取れなくなったりする可能性があります。
告知する相手は、生命保険会社の指定する告知書、もしくは生命保険会社が指定した医師です。保険営業や保険代理店の担当者などに健康状態や傷病歴などを口頭で告げても、告知したことにはなりません。
◆ 告知内容について。
生命保険に加入するには申込書と保険料、そして診査が必要になります。診査には必ず告知が付属します。
生命保険の診査は保障額により面接士であったり嘱託医であったり、保険会社お抱えの社医であったりとさまざまです。
告知書のみでよい場合は、告知書の項目を自分で記入します。診査を伴う場合はいずれの診査の場合にも、診査医による聞き取りによる告知を必ず求められます。
告知とは過去の病歴や通院、治療、身体の障害の状況などを告知書に記入し健康状態を報告します。その内容を元に、生命保険会社は、保険契約引き受けの可否を判断します。
告知書の内容は保険会社、あるいは保険契約の内容により異なるのが普通ですが、基本的な確認事項はほぼ共通しています。
細部は異なりますが、大まかには以下のことを問われます。
① 重大疾病の罹患確認。
② 3ケ月以内に医師の診察を受けたか。
③ 2年以内の健康診断で異常はなかったか。
④ 5年以内に7日以上の治療はないか。
⑤ 身体に障害はないか。
①と⑤は忘れたとかいう問題ではないのですぐに書けると思います。②と④はきちんと覚えている人はまずいません。
しかし調べて書くほどのこともないのが普通です。誰でもインフルエンザにかかるし、花粉症にもなります。しかし5年さかのぼって、正確に覚えていることはないと思います。
ここは覚えている範囲で正確に告知するよりないというのが現実だと思います。
一方では命にかかわる重大な病気で治療を受けて、そのことを忘れている人もまたいないのです。
よく問題になるのは③です。誰しも健康診断を受けて[C:要再検査(経過観察を要する)]の一つや二つはあります。でも時間がなくて自覚症状がなければ、要再検査と言われても放置している方のほうが多いのではないでしょうか。その場合、健康診断の結果報告書を提出して、保険会社の判断にゆだねると告知としては、すっきりします。
異常ありと書けば生命保険会社は、診断書を求めてきます。過去に病歴があれば完治証明を求めてきます。
死亡保障を目的とする生命保険契約の場合、正確な告知はおろそかにできないところです。後で告知義務違反とみなされないためには、手間はかかりますが正確に押さえておく必要が出てきます。
しかし解約返戻金を目的とするような保険の場合は、正直言うとそこまで告知につきあう必要はありません。さじ加減の判断が分かれるところです。
【告知不要の場合】
・疾病の治療等ではなく、健康のための行為(市販薬やサプリメント、栄養剤等)。
・医師の診療を受けていない軽微な疾病(風邪、花粉症、皮膚病等)。
・医師に処方されていない市販の薬の服用(かぜ薬、目薬、頭痛薬、胃腸薬等)。
・風邪やインフルエンザが完治している場合。
・虫歯、花粉症(アレルギー性鼻炎)のため、医師の診察・治療を受けている場合。
【告知が必要な場合】
・糖尿病や高血圧などの生活習慣病で、定期的検査のための通院、薬の服用がある場合。
・健康診断や人間ドックによる「要経過観察」「要再検査」などの指摘を受けた場合。
・精神疾患の病歴がある場合。
・風邪やインフルエンザによる通院中の場合。
・帝王切開による出産の場合。
・歯科医によるインプラント治療、歯周病治療を受けている場合。
いろいろ書きましたが、ここまで理解して告知している人はいないと思います。あまり神経質にならずに覚えている限り正直に告知すること、そして問われていないことまで告知しないことが大事です。問われるのは保険金請求と告知との因果関係です。
故意の告知義務違反でない限り告知忘れが問題になることは少ないと言えますが、保険会社にはそれぞれの引受基準があり、それに抵触すると保険金が支払われない場合があり得ます。
過去の病気については、現在の状況もあわせて記入する質問項目で「はい」となった場合に記入する詳細告知欄では、さらに詳しく書く必要が出てきます。
「傷病名・診断名」「部位」「検査名」「医療機関名」「症状・原因」「診察・検査・治療・投薬の開始時期」「入院の有無と時期・期間」「手術の有無と内容」「後遺症・合併症」などのほかに、「現在の状況」まで記入が必要です。
この内容を正確に告知するのは、難しいと思います。さらに医学的な専門用語まで出てくることがありますから、ご自身の記憶と残っている関連資料で、できるところまで書くほかありません。
その告知内容により、保険会社が契約を引き受けるのに条件を付けたり、断ったりする場合もあります。
・ありのままを記入する
告知書は、被保険者本人が必ず記入しなければなりません。質問で問われていることに対して事実をありのままに、正確にもれなく告知する必要があります。ただし質問にないことまで答える必要はありません。
・曖昧な表現にしない
質問事項によっては、記憶がなく記入が難しい部分もあるはずです。そのようなときでも空欄にしておかず、診察券や診療報酬明細書などを頼りにできるかぎり記入することが大事です。告知書の説明文や記入例に、書き方の指示がかなり細かく載っているので、記入前に必ず目を通してください。
◆ 告知義務違反に対して生命保険会社は甘くない。
生命保険の告知義務違反は軽く見てはいけません。
告知内容に虚偽(嘘)があったり意図的に告知しなかったりした(不告知)場合は告知義務違反となります。その場合、保険金が支払われないことがあります。
保険事故が発生し保険金が請求されると、保険金額や保険契約の内容によって調査が入ります。保険金請求書には必ず医師による診断書が必要です。提出された診断書に基づき、医療機関に対して調査が入り告知書との整合性が確認されます。
もともと保険金請求と直接関係ない受診記録は、調査対象になりません。花粉症で耳鼻科を受診したとか歯医者に虫歯治療を受けたとか、肩がこるので整骨院にかかったとかは告知を忘れていても重大な問題になることはありません。
保険金支払いに直接関係のある受診記録を遡及し、告知事実と照合します。
医療保険では契約後、早期(2年以内)の請求内容によっては調査することが多いと言えます。(病気になってから契約したのではないかという調査)
忘れる程度の医療は大したことではないので、覚えている範囲で告知すればよいとお考え下さい。受診日を正確に思い出すことは難しいと思います。それは誰でもある程度仕方がないことです。
生命保険は一面ではビジネスですから、生死に関わらない少々の不具合は目をつむってくれます。しかし基本的な告知に関する知識がないと、些細なことで告知義務違反に問われることもあります。死亡保障を目的とした契約では、特に告知義務に違反しないように注意する必要があります。
生命保険の営業の中には、病歴のある方に告知義務違反は2年経過後、免責となりますから余計なことは告知しないようにアドバイスする人もいます。確かに研修でもそのように教えますし、約款を見ても告知義務違反の免責としてそのように書いてあります。
でも実際の告知義務違反の判断はそれほど甘くないのです。告知義務違反の内容が特に重大な場合、契約解除や詐欺として告訴し、保険金支払を拒否するケースもあります。
◆ 契約解除と時効について。
故意とは、意図的にある行為を行うことです。虚偽告知がこれにあたります。重大な過失とは、わずかな注意をすれば防げた告知義務違反を漫然と見過ごした状態と言えると思います。病歴の確認を怠った場合の不告知などがこれに当たると思われます。
・告知義務違反の2年免責
告知義務違反があった場合、2年以内であれば、生命保険会社は契約を解除することができます。保険法では告知義務違反による解除について、「生命保険契約の締結のときから5年を経過したときは解除できない」と規定しています(第55条4項)。 しかし、生命保険会社は約款で責任開始日から2年を超えて有効に継続したときは、保険契約を解除できないとされています。
・契約解除
故意または重大な過失による告知義務違反は、責任開始日から2年以内なら保険会社に保険契約を解除される可能性があります。保険金請求をしなければ告知義務違反はバレません。しかし2年経過後でも保険金の受け取り事由が責任開始日から2年以内にあった場合は、告知義務違反として保険契約を解除されることがあります。
告知義務違反とされると、保険金・給付金を受け取れる事由が発生していても受け取ることはできません。契約を解除されたときに解約返戻金があれば、それを受け取ることはできます。
・告知義務違反の時効
責任開始日から5年以内に保険金・給付金の受取事由が発生しなかったときは、告知義務違反があっても時効とされています。また保険営業などによる不告知教唆があった場合は、告知義務違反は問われません。
また告知義務違反の対象となった事実とは関係ない病気やケガで保険金・給付金を請求したときは、保険金・給付金を受け取れます。
◆ 生命保険会社の告知に対する考え方。
生命保険会社にとれば、告知義務違反は困るのです。余分な保険金を支払うことは利益のマイナスになります。しかしそれ以上に告知義務に意図的に違反されると、契約者間の公平性を損なうことを恐れます。
告知義務違反をしても保険金が出るなら、正直に告知した人との公平性が保てないのです。告知義務違反という不公平がまかり通ると、生命保険会社は信用を失いかねません。
これは契約者が法人であっても個人であっても変わりません。生命保険会社にすれば、保険契約において体を提供する被保険者の健康状態を確認して、保険としての引き受けリスクを低減するためです。
生命保険会社が成り立っているのは、保険数理で計算された範囲でしか保険事故が発生しないことを前提に保険金支払を予測しているからです。したがってリスクの高い個体が不正確な告知をすることは、告知義務違反として排除したいと考えます。
生命保険会社の理屈によれば、告知を厳しく確認するのは契約者間の公平を守るためであるということになります。もちろん営利を目的とする株式会社化された生命保険でも、経営の安定化は契約者の利益になると考えます。
◆ 死亡保障を目的とするなら正確な告知が重要。
生命保険で三大疾病と生活習慣病は、告知義務違反に厳しいと言えます。保険会社が一番気にするのは、重大疾病の中でも三大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)と生活習慣病です。
生活習慣病のうちでも、糖尿病に対しては、生命保険の間口は狭くなっています。精神疾患も同様に厳しくなっているようです。たとえば、うつ病は告知すれば引き受けは基本的に拒否されると思います。
節税対策の解約返戻金目的なら、告知義務違反でも特に重大な問題はないのです。でも事業保障を目的とした死亡保険は、できる限りあとで調査されて告知義務違反として問題のないように正確な告知が必要です。個人契約の場合も同様に、死亡保障を目的とする生命保険の場合、告知義務違反はやってはいけません。
◆ 知っておきたい告知のさじ加減。
サプリメントは告知不要です。たとえばグルコサミンを飲んでいることは告知の対象になるのでしょうか。まるで見た目は薬のような形態をしていてもサプリメント(いわゆる健康食品)です。服用してくださいとは書いていません。お召し上がりくださいと書かれています。
サプリメントとは言え食品(特定保健用食品・機能性表示食品・栄養機能食品、健康補助食品、栄養補助食品等)ですから告知には関係がありません。サプリメントはウナギやスッポンのようなもので効果があるかないかは関係なく健康維持のために補助的に服用する食品です。したがって告知する必要はありません。
コンドロイチンなども、第3類医薬品です。これは市販薬で、風邪ぐすりと同じです。保険の契約時に服用していても告知の必要はないものと思います。市販の風邪薬をのんでいても通院していなければ告知の必要はありません。
・告知不要の場合と告知が必要な場合
一方では些細な告知で、加入拒否もよく見かけます。若い人はほんとうに何にもありませんが、人間ある程度高齢になればどこか悪いところがひとつやふたつあって普通です。過去5年にわたり全部覚えている方が不思議です。それをして、告知義務違反と言われても困るわけです。
たとえば変形性膝関節症で4年目前に整形外科にかかっていれば、告知の必要があります。命に別状があるわけではないですし、将来的な死因に関係することもないでしょうから、告知しなくても問題になることはなさそうです。
しかし告知のルールから言えば整形外科であろうと、初診から最終受診日まで7日以上の期間、医療機関を受診していれば告知の必要があります。医師から来週来てくださいと言われれば、それで告知対象になります。
この辺の質問にかかってしまいます。
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- 過去3か月以内に、医師の診察・検査・治療・投薬を受けたことがあるか?
- 過去5年以内に病気やけがで初診日から最終受診日まで7日以上の期間にわたり、医師の診察・検査を受けたこと、または7日分以上の投薬を受けたことはあるか?
- 過去2年以内の健康診断で指摘を受けたことがあるか?
実際のところは、死亡保険金請求書に添えて提出した診断書が調査対象ですから、他の病院にかかっていることはつながりがない限りわからないし、また調べもしないというのが本当のところです。
生命保険会社も暇ではありませんから、必要最小限の調査に絞ります。しかし契約後2年以内の保険金請求とか、不審な保険金請求はとことん調べます。
告知義務違反を恐れるあまり、馬鹿正直に全部並べてしまえば入れる生命保険にも入れなくなります。この辺の告知のさじ加減が難しいところです。
生命保険会社がいやがることは避けつつ、告知義務違反にならないようにすることが大事です。もちろん加入目的によって告知も加減する知恵が大事です。
◆ 告知義務違反と告知のさじ加減、まとめ。
健康そうに見えてもどこかしら不具合が見つかり、医者にかかったりサプリメントを飲み始めたりと、年齢という自分の運命に抵抗を始めます。
病院を変われば告知義務違反をしてもばれないとか、いろいろなアドバイスもあるようですが、実際、重大な病気では、調査でわからないように病院を変わるなどということは難しいのです。
保険会社も保険金支払いに影響がない軽微な告知義務違反は重視しません。また告知義務違反には2年免責があり、重大疾病につながる告知違反でない限り問題になることは少ないと言えると思います。
ただ、正確な告知は大事ですから、死亡保障を目的とするなら告知義務違反には最大の注意を払いましょうと申し上げておきます。
正しく告知した結果、契約内容に条件が付いても告知義務違反におびえて暮らすよりそれの方がどれだけ安心できるかしれません。
それゆえ故意の告知義務違反や不告知はやはりリスクが高いと考えるべきなのです。
とくに大きな死亡保障の場合、告知内容は重要な情報になりますからしっかり確認しなくてはなりません。適当なことを書いて、さじ加減とはいきません。
誤解なきよう申し上げておきますが、告知義務違反を推奨しているわけでは決してありません。告知は正確に真実を告げるべきものですが、保険の種類や目的によっては、そこまで神経質にならなくてもよいという話です。
とくに法人契約するハーフタックスの養老保険などは、そもそも満期金か解約返戻金が目的ですから、あまり正直に告知されると、保険事務の手続きが煩雑になります。診断書や完治証明を求められると費用と時間と被保険者に負担がかかります。その結果「お引き受けできません。」と不成立になれば、社員の公平性が失われます。ケースバイケースで、保険の告知も考えることが良いのではないかと思います。
補足しておきます。重大な病歴があったのに告知するのを忘れていたら?それは不告知に該当し、告知義務違反となる可能性があります。生命保険会社に連絡して、改めて告知をし直す必要があります
体に異変を感じるようになると生命保険は加入のハードルが高くなります。それゆえに生命保険は若いとき、それも健康なときにしっかり検討することが重要です。そうすれば告知で悩むようなことも少なくなります。
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