
DNA解析の技術は年々進歩しています。
もし将来、DNAを調べるだけで、その人がどのような病気になりやすいか、
どの程度の確率でがんや認知症になるかまで高い精度で予測できるように
なったらどうなるのでしょうか。
生命保険は今まで通り成り立つのでしょうか。
保険営業を長くやっていると、そんなことを考える場面があります。
生命保険は病気や死亡という不確実な未来を前提に設計されています。
誰が病気になるかわからないし、誰が長生きするかわからないのです。
だからこそ多くの人が少しずつ保険料を出し合い、不幸に見舞われた人を
助けることができます。
ところがDNA解析によって将来の病気が予測できるようになると、
その前提が大きく変わってしまいます。
補足:ここでいうDNA解析とは、遺伝学的検査やゲノム解析などによって、
将来の病気へのなりやすさなどに関係する遺伝情報を調べることを指します。
追記:最新情報によると、現在の日本では、生命保険協会が、生命保険の引受・
支払実務において遺伝情報の収集・利用を行っていないことを公表しています。
また、金融庁も保険会社に対して、遺伝学的検査結果やゲノム解析結果の収集・
利用を行わないことなどを求めています。
この記事を書いた2014年当時は、DNA解析が進めば生命保険の仕組みそのものが
大きく変わるのではないか、と考えていました。しかし現時点では、少なくとも日本の生命保険業界では、遺伝情報を保険引受に利用しないという方向が明確になっています。
◆ 生命保険は相互扶助で成り立っている。

福沢諭吉の「災難請合」を引き合いに出すまでもなく、
生命保険は相互扶助の仕組みです。
病気にならない人や事故に遭わない人があり、長生きする人がいます。
そういう大多数の人たちが保険料を負担することで、万が一の不幸に見舞われた
人を経済的に支える制度です。
生命保険会社は保険料を集め、統計に基づいて保険金を支払います。
一見すると金融商品ですが、その根底にある考え方は助け合いです。
一人が万人のために、万人が一人のために。
生命保険の思想にはそういう側面があります。
◆ 病気になる人だけ加入したら保険は成立しない。

もしDNA解析によって、自分が将来高い確率でがんになることがわかったとします。反対に、自分は病気になる可能性が低いこともわかったとします。
そのとき人はどう行動するでしょうか。
病気になる可能性が高い人は保険に入りたいと思うでしょう。逆に病気になる可能性が低い人は、保険に入る必要性を感じなくなるかもしれません。
そうなると保険会社にはリスクの高い人ばかりが集まります。
当然ながら保険金の支払いは増えます。
保険料を値上げしなければ経営が成り立ちません。
すると今度は健康な人がさらに離れていきます。
保険料はさらに上がります。
現在のような保険料設定や引受の仕組みは成り立ちにくくなる可能性があります。
生命保険は病気になる人だけでは成立しません。
病気にならない人も加入しているからこそ成り立っているのです。
特定の病気について高い発症リスクが予測できる人だけが積極的に加入し、
低リスクと判断された人が加入を控えるようになれば、
保険制度の前提であるリスク分散が難しくなる可能性があります。
◆ 保険は金融商品へ変化してきた。

生命保険は本来、死亡や病気というリスクに備えるための商品です。
ところが現実には資産形成や相続対策、節税対策などさまざまな目的で
利用されるようになりました。
法人保険であれば事業保障や福利厚生、さらに退職金準備です。
しかし保険の本質がリスクへの備えであることは変わりません。
保険とは将来起こるかもしれない経済的損失に備える仕組みです。
そこを見失うと生命保険の価値も見えなくなります。
◆ DNA解析時代でも保険はなくならない。

ではDNA解析が進歩したら生命保険はなくなるのでしょうか。
私はそうは思いません。
確かに病気のリスクがより正確に予測できるようになれば、
今の生命保険の仕組みは大きな影響を受けるでしょう。
しかし人間の未来を完全に予測することはできません。
事故もあります。災害もあります。当然、予測できない病気もあります。
医療技術の進歩によって新しいリスクが生まれる可能性もあります。
社会が変われば保険も変わります。これまでもそうでした。
社会の変化や人々の保障ニーズに応じて、医療保険、がん保険、
介護保障などのさまざまな商品が登場してきました。
DNA解析が一般化すれば、それに対応した新しい保険商品や
制度が生まれる可能性もあります。
◆ DNA解析と生命保険、まとめ。

DNA解析によって病気が予測できる時代が来れば、生命保険は大きな転換点を
迎えることになります。
病気になる人だけが加入し、健康な人が加入しなくなれば、生命保険は
今の形では成立しません。
しかし生命保険の本質は相互扶助です。
人が生きる限り予測できないリスクが完全になくなることはありません。
だから生命保険も形を変えながら生き残っていくはずです。
生命保険には金融商品としての側面があります。
しかし、その根底には、人が抱える経済的なリスクを多くの人で分担するという
保険本来の役割があります。DNA解析の時代になったとしても、その本質だけは変わらないのではないかと思います。
■保険営業が活用すべき刺さる情報をまとめたページ
→保険営業が活用すべき生命保険周辺情報、医療費控除・相続登記・保険ブログ。
「DNAで病気が予測できる時代に生命保険は成り立つのか?」への2件のフィードバック