保険会社は元から破綻しているが、オドロキの潰れない理由。
保険会社は顧客から、保険料として毎年お金を預かります。預かりますと言いますが、保険料は保険会社の収入となり、返済されることは原則的にありません。保険会社から契約者に払われる可能性があるのは、保険金と解約返戻金です。
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◆ 保険会社の事業のからくり。
通常の金融機関では、預かったお金は顧客のものです。時期が来れば契約により元本に、いくばくかの利息を付けて返金するのがルールです。
保険では、万一保険事故が起こり保険金を支払うケースは、保険料の何倍、何十倍、何百倍の保険金が支払われる可能性があります。たとえて言えば、ルーレットで大当たりを取ったようなことになります。
しかし解約返戻金は、多くの場合払込んだ保険料を下回ります。定期保険などの保障性の高い保険では、解約返戻金がまったくないか、あるとしてもわずかということがあります。
このような掛け捨て保険で、保険金を受け取るケースは希です。普通はお金の出入りだけを見れば、契約者は大きな損をします。変額保険などの例外はありますが、そもそも保険は儲けるためのものではありません。期間の保障を買ったというのが正解です。この保障に対応する損失部分が、生命保険会社の儲けになります。
保険料は、銀行などの金融機関と異なり、保険会社の収益となるのです。毎年毎年、契約者からきちんと契約通りの保険料が支払われ、それはすべて返さなくてもよい保険会社の保険料収入となるのです。保険会社が社員に給料を払い、なおかつ継続できるからくりです。
◆ 保険料収入は預り金ではない。破綻していると言える理由。
保険料収入という言葉がありますが、保険会社では保険料は預り金ではなく、保険会社の収入として処理されることは、前項で書きました。
銀行なら融資先の資金をすべて回収し、預り金をすべて返却すると自己資本比率の分だけ手元に残ることになります。しかし保険では取り付け騒ぎになっても、契約者へ保険料をすべて返却することはできません。
そういう意味では、預かったお金(保険料)が返せませんから、生命保険会社は元から破綻していると言うわけです。一般的には経営破綻と言われますが、保険会社でも同じことで、要するにキャッシュフローが滞ることによる倒産です。
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◆ 保険会社の安全性を示す指標の意味合い。
生命保険会社は、通常の企業と違う収益構造のからくりがあります。この辺はソルベンシー・マージン比率とか基礎利益とかいう、一般にはわかりにくい数値が使用されます。保険会社の健全性を示す指標としては、一定の意味はありますが、この指標では保険会社の財務的な本質は見えてこないと思います。
保険会社の格付は、専門の会社が発表しています。大手破綻の事例を見るまでもなく、格付けそのものがそのまま役に立つというものでもありません。いくら格付けが良くても破綻します。また格付けが低いからといって、今すぐ破綻するわけではないのです。
慌てて生命保険会社を乗り換えて、損をする事例にも事欠きません。
◆ 保険会社の倒産事例。
日本では過去に、8社経営破綻した会社があります。保険会社は、契約時に約束した運用利回り(予定利率)を勝手に変えることができません。それゆえ、低金利時代のあおりで史上最低の金利となり、運用益が減少すると保険会社はどんどん苦しくなります。その結果、経営破綻に進んでしまいます。
一般的な企業であれば経営破綻してしまった場合、再生か破産のどちらかを選択し、保有している資産の整理が行われます。残っている資産を債権者に返済して、返せない部分はあきらめてくださいと言うわけです。
仮に、生命保険会社が経営破綻をしても一般の企業と同様の手続きをすることはできません。契約者にとれば、契約が消滅してしまうと今まで掛けてきたことが、全く無意味になってしまうばかりか、解約返戻金も期待できなくなります。
さらに、別の保険会社で新規保険契約をしようとしても、健康状態によっては加入できないだけではなく、保険料も高くなり払えないというようなことも起こります。
そこで何の責任もない契約者を保護するためのセーフティーネットが制度として設立されています。また、引き受け手がなければ、受け皿としての保険会社も準備されます。
1:生命保険契約者保護機構が設立する子会社(継承保険会社)に保険契約を継承。
2:生命保険契約者保護機構が自ら引き取る。
いずれの場合も保険契約は、継続されます。しかし責任準備金は90%まで削減され、予定利率も見直されます。責任準備金は解約返戻金ではないので、解約するともっとひどいことになります。額面上は9割保障されると言えますが、予定利率が見直されれば、実際はひどい契約になることは避けられません。
保険会社が潰れたらどうなるのかということで言えば、最低限、保険契約自体がなくなることがないということだけです。実質は、契約者にとれば被害甚大だと言えると思います。
生命保険という商品は目に見えない商品です。保険会社からすると、保険会社が経営破綻すれば、保険業界全体に悪影響があります。それゆえ政府主導で、生命保険契約者保護機構が設立されたということです。
◆ 保険会社のセーフティネット、保険契約者保護機構制度。
保険会社の場合、債権者は保険契約をしていた契約者です。一般の企業のように、債権者集会で債権者全員と話すことは困難です。だからこそ、それらの人たちを一括で処理するために、生命保険契約者保護機構が設置されています。この保護機構により、政府からの資金援助を受けながら、保険契約者に対して金銭を支払うことで一括の破綻処理ができるわけです。
保険会社の経営破綻では、管財人が自由に保険契約の解除をする選択をできないようになっています。
生命保険契約者保護機構は、バブル崩壊やリーマンショックなどの金融危機の反省から創設されました。保険会社が経営破綻した場合に、保険の契約者が保護されるしくみです。
しかし、保護機構は原資があってのものであり、生命保険契約者保護機構の加入会社の負担金が前提となっています。財務状況が不安な場合には政府から資金援助が行われることがあります。
◆ 保険会社の破綻、まとめ。
ソルベンシー・マージン比率とは、理論上のリスク計算の積み上げです。しかしリスクには東日本大震災や、阪神淡路大震災を見るまでもなく、想定外のリスクがつきものです。確率が低いリスクを計算上除外することで、万全の安全性を確保しているという誤解と言えるのではないかと思います。
ソルベンシー・マージン比率は、保険会社の支払い余力を示す一つの指標には違いありませんが、その数値が低いから破綻するというわけではありません。契約者の不安心理が増幅され噂となって駆け巡ると、取り付け騒ぎならぬ、解約集中が起こります。
その結果、保険会社は資金不足に陥り、破綻の危機にさらされます。むしろソルベンシー・マージン比率が引き金となり、保険会社を追い込んでしまうというようなこともあるわけです。
保険の見直しや、生命保険に加入する際、保険会社の経営状況などを比較することは、安心するうえで大切なことだと思います。
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