生命保険の名義変更は要注意、贈与税の無申告加算税が課せられる可能性があります。
生命保険は契約者を自由に変更できます。被保険者は契約するときの条件の一つですから何があっても変えることはできませんが、契約者と受取人は簡単な手続きで変えることができます。
保険の営業をやっていれば名義変更をすすめる場合があります。課税当局に通知が行くのは保険金や解約返戻金が支払保険料を100万円以上上回ったときだけですから大丈夫です。という例の話法です。
どこに届け出る必要もないですし直接の関係者以外は知り得ることがないのです。従って生命保険の名義変更をしただけでは何事も起こりません。
ここに課税関係の問題点が潜んでいます。
保険会社の営業職員やら保険代理店の言うままに名義変更をして知らぬ存ぜぬを決め込んでもよいものでしょうか。また生命保険の名義変更が贈与と言うことなら時効はどうなるのでしょうか。悩み尽きない方のお役に立てばと思い下記8項目のポイントをまとめました。
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- 0.1 ①生命保険の名義変更とは、詳しく説明すると。
- 0.2 ②贈与税、相続税が課税されるパターンは。
- 0.3 ③非課税になる保険金もあります。
- 0.4 ④支払調書を保険会社が提出すると。
- 0.5 ⑤生命保険の名義変更に対する課税庁のスタンス。
- 0.6 ⑥無申告加算税、重加算税の厳しさについて。
- 0.7 ⑦ここでも贈与税の時効について。
- 0.8 ⑧生命保険の名義変更にかかるリスクまとめ。
- 1 ① 生命保険の名義変更とは、詳しく説明すると。
- 2 ② 贈与税、相続税が課税されるパターンは。
- 3 ③ 非課税になる保険金もあります。
- 4 ④ 支払調書を保険会社が提出すると。
- 5 ⑤ 生命保険の名義変更にたいする課税庁のスタンス
- 6 ⑥無申告加算税、重加算税の厳しさについて。
- 7 ⑦ ここでも贈与税の時効について。
- 8 ⑧生命保険の名義変更にかかるリスクまとめ。
①生命保険の名義変更とは、詳しく説明すると。
②贈与税、相続税が課税されるパターンは。
③非課税になる保険金もあります。
④支払調書を保険会社が提出すると。
⑤生命保険の名義変更に対する課税庁のスタンス。
⑥無申告加算税、重加算税の厳しさについて。
⑦ここでも贈与税の時効について。
⑧生命保険の名義変更にかかるリスクまとめ。
① 生命保険の名義変更とは、詳しく説明すると。
生命保険の名義変更とはわかりやすく言えば保険契約の契約者変更です。契約者とは生命保険の所有者です。保険会社に契約の申込みをして保険料を支払う人で、契約の当事者です。その当事者を他の誰かに変更するということは、譲渡するということになります。
有償による譲渡は売買であり、無償の譲渡は贈与です。ここで問題にしている名義変更とは保険契約の無償の譲渡、すなわち贈与のことです。
死亡事故や満期には生命保険金が支払われ、解約すれば解約返戻金があり、それを受け取る権利がある人、もしくは保険金を受け取る人を指定できる権利を持った人が契約者です。その権利を名義変更して他の誰かに差し上げるのが契約者の変更です。
よって金銭的価値のあるものを贈与していることに間違いはないわけです。普通で考えれば親が契約している生命保険を子に有償譲渡はしません。生命保険の名義変更とは保険契約の無償譲渡、つまり、まぎれもない贈与なのです。
② 贈与税、相続税が課税されるパターンは。
生命保険の名義変更は贈与者と受贈者の関係でいろいろなパターンがあります。個人⇒個人、法人⇒個人、個人⇒法人、法人⇒法人と様々ですが、ここでは個人⇒個人と法人⇔個人について説明します。
その1) 個人⇒個人
個人⇒個人の契約者変更はほとんどが親⇒子になります。子⇒孫や祖父⇒孫という場合もありますが原則は同じです。ただし被保険者により課税関係が変わりますので一覧表を作成しました。
■被保険者が親(被相続人)の場合
契約パターン① 契約者 被保険者 受取人 説明
変更前 親 親 子
相続発生時は死亡保険金が相続税の対象
変更後 子 親 子 無償(贈与):受取保険金が相続税の対象、解約返戻金は贈与税の対象
有償(譲渡):受取保険金又は解約返戻金は一時所得の対象
有償(譲渡):受取保険金又は解約返戻金は一時所得の対象
親が被保険者の場合を考えてみると、親から子へ名義変更していても、相続発生時点では相続税がかからなければ過去の贈与も知られていないわけですからおとがめなしとなるように思います。すでに親から名義変更をしてしまった人は解約などせずにそっと持っておくことが大事です。親が亡くなり親からもらった生命保険の保険金を手にした時に課税関係が発生しますから相続税がかからないなら贈与税の問題は晴れてクリアできたことになそうです。
しかし相続税がかかる人はそうはいきません。相続税の税務調査で過去の贈与と相続税の申告漏れが発覚することになります。これまでの保険料負担者が誰なのかは銀行のお金の流れを追えば隠しようがないのです。生命保険の契約者は確かに子ではありますが、とやかく言わずその時は贈与税ではなく相続税をきちんと払い精算すればよいのです。
■被保険者が子(相続人)の場合
契約パターン② | 契約者 | 被保険者 | 受取人 | 説明 |
変更前 | 親 | 子 | 親 | 解約返戻金相当額が相続税の対象 |
変更後 | 子 | 子 | 孫 | 無償(贈与):相続税がかからなければ発覚せず、解約返戻金は贈与税の対象 有償(譲渡):子の相続時に孫が相続税 |
子が被保険者の生命保険契約は親が被保険者の場合と異なります。名義変更しても親の相続時に生命保険がお金に代わるわけではないからです。わかりやすく言うと親の相続時点では契約者たる地位に基づいて保険金を受け取ったわけではないですから相続税がかからなければ何も起こりません。子が被保険者である生命保険がお金に代わるのは何十年も先の子の死亡時に孫が保険金を受け取る時になります。理屈から言えばその時に課税関係が発生するわけですから放置しておけば孫の代に引き継がれます。
でも相続税がかかるレベルの人は、そこまで当局が納税を猶予してくれるとも思えません。税務署は相続税の調査をするときは家族の銀行口座のお金の動きを過去にさかのぼって把握してきますから、それまでの保険料の支払いは保険会社からの支払調書が行かなくても完全に把握可能というわけです。なるほど、もしそうだとすれば保険契約の相続はやはり解約返戻金相当額に課税してくると考えるのが妥当です。
その2)法人⇒個人
名義変更は法人から個人へも可能ですから会社でかけていたお宝保険を退職慰労金として個人へ現物支給することはよくやります。解約返戻金相当額で支給することになりますから保険金との差額が儲けとなり相続税の対象となります。
後継者に資金的余裕があれば後継者に有償で譲渡し、新たな契約者および受取人とすると保険金受取時の課税関係は相続税から一時所得に変わります。親がお金を融通してもよいから親が被保険者の保険契約は後継者が買い取るべきです。それぐらい相続税と一時所得では税率が違うのです。普通の場合は相続税より一時所得のほうがかなり有利になります。
その3)法人⇔個人
経営者は会社で医療保険を契約します。保険料は会社で負担し損金で落とします。人間ドックで精密検査を指摘されたら個人名義に変更します。検査の結果、異常無しなら法人契約に名義変更し会社で保険料を払い続けます。ガン保険でも同じことですのでうまくコントロールすれば個人で無駄な保険料を支払うこともありません。
医療保険やがん保険の中には解約返戻金がな無いものもあります。名義変更しても所得にも贈与にもならないけれどしっかり保障が確保されるわけですから、とてもうまいキャッチボールになります。医療保険といえども下手に法人で保険金を受け取ると雑収入として課税対象になりますが、個人で医療保険の保険金を受け取ると非課税です。
名義変更はとても簡単ですので、こまめにご利用ください。
③ 非課税になる保険金もあります。
誤解があるといけませんので、補足説明になりますが、生存給付型の保険金で入院給付金や診断給付金などの医療保険の給付金は基本的に被保険者が受取りますが税金は非課税です。
生存給付金がある場合でも通常それまでの払込保険料を生存給付金が上回る事はないと思いますから申告は発生しないとしたものです。
医療保険以外でも生命保険の解約返戻金は通常払込保険料を上回る事はありませんから一時所得にもならないのですが、新たな契約者として保険料を負担していないのに解約返戻金を受け取るというと、そこはやはり贈与という課税関係が発生します。
④ 支払調書を保険会社が提出すると。
普通支払調書といえば個人事業主が一年分の支払いを証明してもらい確定申告に使用する書類ですが、ここでいう支払調書とは所得税法で規定されている「生命保険契約等の一時金の支払調書」のことです。
実にシンプルな書類で保険契約の名義変更など記載する枠すらありません。それじゃわからないだろうと思っても残念ながらそういうものでもないのです。税務署が疑念を持ち契約内容と経緯を照会すれば保険会社は洗いざらい報告しますから隠しようはないのです。本人の収入に見合わない過大なお金が保険会社から支払われていれば、疑って当然なのです。
かっては個人が受け取った保険金や解約返戻金が支払保険料を100万円以上上回らなければ支配調書は発行されないという説明もまかり通っていましたが、国税庁のサイトを見る限り支払保険料の累計額にかかわらず、100万円以上支払いがあれば支払調書は税務署に提出されると思われます。
とすれば逓増定期保険の名義変更で個人名義に変更後解約すればすべて課税当局には支払調書が提出されていることになりますから、やはり一時所得の申告は放置できないところです。
⑤ 生命保険の名義変更にたいする課税庁のスタンス
単に契約者を手続き上変更しただけでは贈与税の対象にはならないという国税庁の回答があります。契約者として保険契約を解約し解約返戻金を取得した場合には贈与として課税するという立場です。
保険契約がお金に代わる時初めて課税関係が発生する。
すなわち贈与の始まりであり贈与の時効の開始となるわけです。誰に名義変更をしてもお好きなように、解約返戻金をうけとったり相続税の調査の時にお相手しますという、どうもしっくりこない理屈ですがね。
⑥無申告加算税、重加算税の厳しさについて。
追徴課税というのは過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税、の4つのパターンに延滞税がオンされます。本税に上乗せして課税されるのでサラ金真っ青の厳しさなのです。
私は払ったことがないので実感はわいてきませんが加算税率は半端ではありません。完全なペナルティ税率ですね。参考までに以下に税率表を作成しました。
贈与税の時効を待つ身には脅かし以外の何物でもないです。贈与税でいうと過少申告加算税か無申告加算税ぐらいでしょうか。贈与税の追徴だけでもありがたくないのに加算税とは、とほほです。税務署から「お尋ね」があれば放置せずに自主的に修正申告することが傷口を広げないことになります。
項目 | 説明 | 加算税率 | 備考 |
過少申告加算税 | 自主的修正申告 | 加算なし | 正当な理由があると認められる場合も同様。 |
期限内申告、修正・更生 | 10% | 50万円までの部分 | |
15% | 50万円を越える部分 | ||
無申告加算税 | 自主的期限後申告 | 5% | 正当な理由があると認められる場合も同様。 |
期限後申告 | 15% | 50万円までの部分 | |
20% | 50万円を越える部分 | ||
重加算税 | 仮装・隠ぺい事実 | 35% | 期限内申告の場合 |
40% | 期限後申告の場合 | ||
延滞税 | 法定期限までに完納しない場合 | 7.3%~14.6% | 最初の2か月間は7.3%、それ以降は14.6% |
⑦ ここでも贈与税の時効について。
贈与税の時効いに関しては下記のページで詳しく書いています。
◆贈与税の時効を気に病む人へこれで安心、秘策公開!
生命保険の名義変更をすればまぎれもない贈与であることはご案内の通りです。有償で譲渡すれば売買となり贈与ではなくなりますが実際は親子間で誰もそんなことはしません。
保険代理店の言うままに名義変更して放置するのが普通のパターンです。そのときこれは贈与になるかもしれないと気が付く人のほうが少ないのではないでしょいうか。あとになってじわじわ気になるのが贈与税の時効です。
数年たつと延滞税などが気になりだします。時間がたてばたつほど修正申告はできにくくなります。生命保険契約がお金に変わることなく相続に突入すれば贈与税は相続税に代わります。途中解約したり満期金があると課税当局の知るところとなりそうはいかなくなります。この辺が見極めどころかもしれません。
⑧生命保険の名義変更にかかるリスクまとめ。
生命保険の名義変更には確かに贈与税という問題が隠れています。多くの勘違いは相続税がかからなければ贈与税も関係ないであろうという勝手な思いこみ、生命保険の契約者を変更することが資産の移転であるという認識の欠如、贈与税と言う一般庶民には日常的になじみのない税制、確定申告の手間や税理士への相談などがハードルになりついつい放置されてしまいます。
日本中いたるところで生命保険の名義変更は行われていて、その多くはいまだ露見せずということかと思います。時々満期保険金を受け取ったり解約返戻金を受け取ると税務署の知るところになり「行政指導」としての「お尋ね」がとどき、慌てふためいて修正申告をする羽目になります。
生命保険の名義変更をしてはいけないと申し上げているわけでもなく、正直にその都度贈与税の申告をせよと申し上げているわけでもありません。どうなった時に税務署が贈与の事実を知りえるのか、最悪の場合はどうなるのか、注意点は何かをお伝えしたいと思ったことが執筆のきっかけです。さんざん検索をしましたが断片的情報ばかりで自分の場合どうなるかがわからないのです。
結構詳しいつもりの自分の場合が、果たしてどうなるか見えてこなかったのが動機とも言えるでしょう。誰しも申告していない隠れ贈与はあります。一筋縄ではいかないけれど保険契約がお金に代わる時がポイントであるとは言えると思います。
「生命保険の名義変更で無申告加算税が!」への2件のフィードバック