遺言書を破棄したら罪になるかを事例で説明。
保険から閑話休題ですが、遺言書を長男が破棄した事例がありました。会社の金庫に仕舞ってあった自筆証書遺言をいち早く長男が破棄したのです。遺言書の内容は知らされていなかったのですが、次男坊の方が出来がよくて社員に人望があるので、後継者を次男にすべく自社株を遺言書で相続するように指定している可能性があるわけです。
◆破棄とは遺言書を物理的に無効にすること。
先代の遺言書を内緒で破棄したとあっては、会社の経営権に関わることですから双方譲ることはできません。
家族は金庫に遺言書があることを知っていましたから、知らぬ存ぜぬの長男と当然争いになります。
もし自分に不利な遺言書の破棄が事実なら長男は相続欠格者となり、遺留分も含めてなにも相続できません。民法には「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿したものは相続人となることができない。」と規定されています。
でも長男本人は否認していて証拠がありません。身内の争いなので警察に捜査をお願いする筋のことでもありませんしね。話し合いで決着がつかなければ、双方の主張は裁判で決着するよりありません。
結局、法定相続となり会社は次男が承継し、長男は別会社を起こしました。お互い競合になりますから、どちらの会社も長期低迷しています。
まさか遺言書を破棄されるとは、被相続人も他のだれも思いつかなかったのでしょう。しかし目の前に自分に不利な遺言書を見つければ、刑事事件になるとも思わず破棄してしまう可能性もあります。
◆ 遺言書の破棄は私文書毀棄罪で5年以下の懲役。
そういうわけですから、破棄した方もされた方も双方に遺恨が残ります。もめそうな遺言書は、勝手なことが許されない公正証書遺言に限るわけです。最近では自筆証書遺言書の法務局保管ができるようになりましたので、この方法であれば破棄も改ざんもできません。すこぶる安全で、低コストです。
後継者候補が兄弟で争っているケースは、決して珍しくありません。親というか現経営者は兄か弟かどちらかを選ばなければなりません。ここを間違えると泥沼のお菓子会社の様になります。遺言書はそれを防ぐ有効な手立てではありますが、あらゆるケースを想定し、念には念を入れて準備しておくものです。
そういうアドバイスを側近が繰り返しても、実際の経営者は遺言に取り掛かるのは誠に腰が重いと言わざるを得ません。どちらもわが子である限り、そう簡単に決められないようです。
遺言とは自分の死と向かい合うことでもあり、この世での自分の生きてきた足跡を整理することでもあります。そこまで悩み苦しみ書き上げた遺言書を、あっさり破棄されたのでは死ぬに死にきれません。(遺言書を開封するとき書いた本人はこの世にはいませんが。)
遺言書に関してはわが子、嫁と言えども信用してはならないと言う悲しい現実を申し上げたいのではなく、例えお金がかかっても遺言信託にするとかせめて公正証書遺言にすれば罪を作らずに大岡裁きができるというものです。さらには、自筆証書遺言書法務局保管制度がおすすめです。
今では、法務局で保管してくれる制度ができましたので、うまくご利用いただければ争いの種は摘んでおくことができそうです。
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