逓増定期保険の間違いやすい経理処理を時系列でわかりやすく。

逓増定期保険の間違いやすい経理処理を時系列でわかりやすく。

逓増定期保険とは、保険期間の経過により、保険金額が5倍までの範囲で増加する定期保険です。保険料は平準保険料として、毎年同じ額となり、保険期間の一定時期まで前払い保険料が含まれます。

そのため途中解約の場合、解約返戻率が高率となる場合があります。

逓増定期保険の保険料を支払った場合、どのような経理処理が正しいかは、保険の専門家でも即答できないややこしさがあります。

逓増定期保険は、基本的には定期保険ですので保険料は損金に落とすことができます。ただ前払い分の保険料がありますので、契約時期によってまた契約内容によって損金で落とせる範囲に制限があります。

さらに幾度かの国税庁の通達により、規制の網がかかり損金割合は縮小してきた経緯があります。

複雑化した逓増定期保険ですが、規制は既契約に遡及しないとされているために契約時期によって経理処理のルールが異なり、契約内容が混在しわかりにくくなっています。

■逓増定期保険の名義変更、ホワイトデーショックまとめ。

◆ 逓増定期の契約時期と契約内容により損金割合の推移。

できるだけ、契約時期と契約内容により正しい経理処理を確認いただけるよう、順に並べて整理しました。

いろんなサイトで説明されていますが、わかりにくい原因は国税庁の言い回しをそのまま引用するからです。契約者側の立場で、理解しやすいように言い換えてみました。

1)契約日が平成8年9月1日(1996年)より以前の契約は、定期保険として全期間において全額損金可能。

2)契約日が平成8年9月1日以降の契約~平成20年2月27日(2008年)までの逓増期保険契約の税務では、条件付きで全額損金可能。

契約年齢が60歳未満あるいは、契約年齢+保険期間の2倍が90歳以下の場合、条件の範囲であれば全額損金が可能です。契約年齢が60歳超であれば、下記例外条件で1/2損金にすることが多いと思います。

詳しく説明すると、例外の条件として、条件①保険期間満了時の被保険者年齢が60歳超、かつ条件②被保険者の契約年齢+保険期間の2倍が90歳超から105歳までの範囲は1/2損金となります。

例:契約年齢50歳、保険期間20年で逓増定期保険を契約するとどうなるかという事例で説明します。

保険期間満了時の被保険者年齢は、50歳+保険期間20年=70歳→条件①に該当します。

しかし、

契約年齢50歳+40(保険期間20年の2倍)=90歳(90歳以下)→条件②非該当です。

事例では、条件①に該当しますが、条件②は90歳以下で該当しないので全額損金扱いとなります。

保険設計では、できるだけ全額損金となるよう保険期間を調整します。ただし被保険者の年齢が高い場合や保険期間を長くとる必要がある場合は、1/2損金で設計していると思います。全額損金の逓増定期保険はとっくに解約されいないと一大事です。継続していることはないと思いますが、1/2損金の逓増定期保険はまだ継続している可能性があります。この辺は経理処理の落とし穴かもしれません。

3)平成20年2月28日(2008年)以降~令和元年7月7日(201年)までに契約した逓増定期保険契約の税務では、

条件①保険期間満了時の被保険者年齢が45歳超70歳以下かつ条件②契約年齢+保険期間の2倍が95歳以下の範囲まで1/2損金となります。

契約年齢が、45歳以下の場合は全額損金可能です。45歳以上であれば、条件付きですが、ほぼ1/2損金時代です。

例:契約年齢50歳、保険期間20年で逓増定期保険を契約するとどうなるか事例で説明します。

保険期間満了時の被保険者年齢は50歳+保険期間20年=70歳(70歳以下)→条件①に該当します。

契約年齢50歳+40(保険期間20年の2倍)=90歳(95歳以下)→条件②該当します。

事例では、条件①条件②ともに該当するので、1/2損金扱いとなります。ほぼこの形の契約になっているかと思います。

経理処理の条件が、厳しくなりまりた。全額損金がほぼ設計できなくなりました。1/2損金で設計できる範囲での提案が中心となっています。

4)令和元年7月8日以降に契約した逓増定期保険契約の税務は、法人税基本通達9-3-5の2に従います。

バレンタインショック後の国税庁の通達により、最高解約返戻率による損金算入割合の制限規制がかけられました。

最高解約返戻率が85%超の場合、資産計上ルールが厳しくなり、9割資産計上、1割損金が限界となりました。全額損金でかけられる新規の逓増定期保険は完全になくなりました。

5)平成31年7月8日(2019年) 以後に契約した逓増定期保険は、法人税基本通達9-3-5の2(バレンタインショック通達)に従います。対象となったのは、定期保険と第三分野の保険です。

解約返戻率が50%以上となる商品についての課税方法を見直し、最高解約返戻金の比率によって損金割合が4区分になりました。

保険の支払保険料について、損金割合の仕方を4区分をシンプルに書くと、

最高解約返戻率      損金割合

①50%以下        全額損金

②50%超~70%以下    6割損金

③70%超~85%以下    4割損金

④85%超         1割損金(保険期間開始から10年は9割)以降は3割損金

ただし、年間の保険料が30万円以下の場合は、従来通り全額損金、養老保険についてはバレンタインショックの税制改正の対象外となりました。

◆ 逓増定期保険の保険料、全額損金条件整理。

前項の説明文でわからないという方のために、できるだけシンプルに箇条書きに期間と損金処理の条件をまとめました。契約時期がいつなのか、契約時の被保険者年齢と保険期間を確認した上で下記のどれにあてはまるか確認してください。

<契約時期>H8.9.1以前まで:定期保険として全額損金時代

<契約時期>H27.2.27まで:ほぼ全損時代

全額損金の条件:下記の①または②のどちらかの条件を満たすこと

①保険期間満了時の被保険者年齢が60歳以下

②被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が90歳以下

1/2損金の条件:下記の③および④の両方を満たすこと

③保険期間満了時の被保険者年齢が60歳超から70歳以下

④被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が105歳以下

1/3損金の条件:下記の5⑤および⑥の両方を満たすこと

⑤保険期間満了時の被保険者年齢が70歳超から80歳以下

⑥被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が120歳以下

1/4損金の条件:下記の5⑦および⑧の両方を満たすこと

⑦保険期間満了時の被保険者年齢が70歳超から80歳超

⑧被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が120歳超

<契約時期>H27.2.28以降:ほぼ1/2損金時代

全額損金の条件:下記⑨の条件を満たすこと

⑨保険期間満了時の被保険者年齢が45歳以下

1/2損金の条件:下記の⑩および⑪の両方を満たすこと

⑩保険期間満了時の被保険者年齢が45歳超から70歳以下

⑪被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が95歳以下

1/3損金の条件:下記の⑫および⑬の両方を満たすこと

⑫保険期間満了時の被保険者年齢が70歳長から80歳以下

⑬被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が120歳以下

1/4損金の条件:下記の⑭および⑮の両方を満たすこと

⑭保険期間満了時の被保険者年齢が80歳超

⑮被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が120歳超

<契約時期>H31.7.8以降:損金割合が大きく縮小、節税効果制限

最高解約返戻率        損金割合

①50%以下          全額損金

②50%超~70%以下      6割損金

③70%超~85%以下      4割損金

④85%超           1割損金

※過去の逓増定期保険に係る損金割合制限の遷移をまとめています。

◆ 経理処理の複雑化が間違いの原因。

逓増定期保険は契約時期と契約内容(被保険者の契約時年齢・保険期間)で損金算入割合が変わります。また、前期期間が終わると損金算入割合が変わり保険積立金の取り崩しが始まります。ここを押さえておくことが正しい経理処理につながります。

ただ、逓増定期保険は解約返戻率がピークのときに解約することを前提としています。ピークを過ぎているにもかかわらず、同じ経理処理をしてはいけません。さらにはピークを過ぎても解約していないなら、大きな見落としがあるかもしれません。

これで困るのは逓増定期保険を契約する時期によって、経理処理が異なるというようなことになりました。わかっている人は当たり前なのですが、保険に明るくない経理担当や税理士さんは混乱します。

以前に法人契約のガン保険でも同様の取り扱いの変更があり、全損と半損が混在する経理処理を区別しなくてはならなくなりました。あちらこちらで経理処理の間違いがあったように聞きます。

◆ 逓増定期保険は役員退職金準備がメインの役割。

もともとこの逓増定期保険はイメージ的に、退職前のそこそこのお年の経営者が短期的に役員退職金を簿外に蓄積するという目的があります。逓増定期保険の特色は保険料が伸びる、多額の損金が可能というところに魅力がありましたから、若い被保険者では保険料が伸びないのであまり使わないという傾向がありました。

◆ それでも逓増定期保険は自己責任。

注意すべきは、逓増定期保険の特色として、解約返戻金のピークを過ぎると解約返戻率は急降下します。それゆえ解約を忘れたり、出口対策を怠ると一大事になります。この辺は短期勝負の逓増定期保険ですから、法人保険としてもリスクがあるところです。

解約時期を忘れて損をしても、誰も責任は取ってくれませんし、売り込んだ銀行の担当者は、転勤していることがあります。このサイトでは至る所で申し上げておりますが、逓増定期保険はとにかく自己責任であることをご理解いただく必要があります。

◆ 逓増定期保険の間違いやすい経理処理、まとめ。

実際に逓増定期保険の経理処理を間違えていたケースがありました。ピーク時期を過ぎても同じ経理処理を続けるという二重の間違いです。一つは逓増定期は解約返戻率が最も高い時期に解約するか、失効させて適切な時期に解約しなければいけません。

そのピーク時を見逃し、解約返戻率が下がり始めて2年目に誤りに気が付いています。また。保険期間の6割が過ぎていれば、保険料は全額損金に代わり、さらにこれまでの保険積立金を取り崩、し残りの4割の期間で均等に取り崩すことになります。

誰も責任を負わないとこのような事態になり、二重の誤りにもかかわらず、何が問題なのかすらわかっていなのです。

幸いにして契約日が平成18年4月であり、被保険者年齢は60歳、保険期間は22年でした。

1/2損金の条件:下記の③および④の両方を満たすこと

③保険期間満了時の被保険者年齢が60歳超から70歳以下

④被保険者の契約時年齢+保険期間の2倍が105歳以下

60歳+22年×2倍=104歳

上記条件で1/2損金処理の逓増定期保険です。ピーク時期が比較的なだらかで解約返戻率の低下が2%程度でしたのでまだ大きな傷になりませんでした。さらにその間違いに気が付いた年は利益が予想より出ており、経理処理の訂正(全額損金と保険積立金取り崩し2年分)が費用化して利益を圧縮する効果が高くなりました。ケガの功名のような節税効果ですが、すぐさま口座振替を振込に変更して失効させました。

この先、3年以内に復活させるか、解約して雑収入を受取る必要があります。2年間分は全額損金で処理していますから、雑収入が増加しています。貴重な経験ですが、解約時期を忘れるリスクはとても大きいのです。解約返戻金が1億なら2%の損は200万にもなります。誠に責任重大なのです。

解約時期を誤るとどうなるか、一番複雑なケースで紹介しました。参考になれば幸甚です。たぶん上記の事例のリスクについて、意味が分かる方は少ないのではないかと思います。とにかく経理処理は専門家にきちんと確認し、さらに裏を取り、間違いないように適切な時期に妥当な手法で処理しないと半端でない損失を被ることになりかねないという警鐘です。

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