
ー営業職員・代理店・FP・税理士の立場ごとの違いー
生命保険の世界で「利益相反」という言葉を使うと嫌がる人がいます。
保険営業はお客様のために働いているのだから利益相反などない、
という理屈です。
しかし私はそう簡単に割り切れるとは思いません。
なぜなら保険営業を経験し、その後は法人で保険を買う立場になって、
数え切れないほどの保険提案を受けてきたからです。
保険営業は基本的に契約が取れなければ収入になりません。
代理店もFPも税理士も同じです。
契約になれば収入になる。契約にならなければ一円にもならない。
この構造がある以上、利益相反は避けられません。
問題は利益相反があることではなく、利益相反がないような顔をすることです。
生命保険を買うとき、多くの人は「自分に合った保険を提案してもらえる」
と考えています。
もちろん保険営業も代理店もFPも税理士も、顧客の役に立とうとしています。
しかし生命保険の世界には、どうしても避けられない問題があります。
それが利益相反です。利益相反とは、顧客の利益と提案する側の利益が
一致しない可能性がある状態をいいます。
生命保険は形のない商品です。契約内容も複雑で、一般の人が一人で
比較検討することは簡単ではありません。
そのため、多くの場合は専門家のアドバイスを頼りに判断します。
ところが提案する側は、生命保険が契約になれば収入が発生します。
ここに保険販売特有の難しさがあります。
◆ 保険営業は利益相反を意識していない。

保険営業時代を振り返ると、利益相反など考えたことはありませんでした。
なぜなら数字に追われていたからです。
月末になると支部長から状況報告せよという催促電話がかかります。
あと一件、あと一件で目標達成、あと一件で賞与が変わる、厳しいときは
あと一件がなければ資格降格・退職ということまであります。
そんな状況で利益相反など考える余裕はありません。
だから営業は本気で「お客様のため」と思っています。
これは、経験的に言えますが、嘘ではありません。
ただしその提案が自分の成績にもなるという事実を忘れているだけです。
利益相反とは悪意ではなく構造の問題なのです。
■保険営業への転職、踏み出す前に、売る側と買う側を経験した私の結論。
◆ 保険販売で利益相反が生まれる理由。

生命保険は契約によってコミッションが発生します。
保険会社の営業職員も代理店も保険ショップもFP(ファイナンシャルプランナー)
も、程度の差はあっても生命保険の販売によって収入を得ています。
つまり、「顧客に最適な提案」と「自分の収入につながる提案」
が一致するとは限りません。
もちろん多くの募集人は真面目に仕事をしています。
しかし人間ですから、自分に有利な商品を無意識に選ぶことは十分にあり得ます。
これは生命保険に限った話ではありません。
不動産でも証券でも自動車販売でも同じです。
ただ生命保険は内容が複雑で比較が難しいため、この問題が見えにくいのです。
■保険代理店は本当に中立なのか?乗合代理店の利益相反を経験者が解説。
◆ 保険会社の営業職員は利益相反と言えるのか。

生命保険会社の営業職員は、自社商品しか販売できません。
そのため、本来の意味では利益相反とは少し異なります。
なぜなら比較対象を持っていないからです。
自社商品を提案することが仕事です。
トヨタの営業マンがトヨタ車を勧めるのと同じです。
しかし全く利益相反がないとも言えません。
同じ会社の商品でも、成績になりやすい商品や保障額の大きな契約を
優先したくなる心理はあります。
営業の世界では契約件数や保険料が評価に直結します。
成果報酬型ですから、給与も賞与も大きく変わります。
私自身も営業現場を経験していますが、
数字が迫ってくると精神的な圧力は相当なものです。
だからと言って悪意があるわけではありません。
むしろ本人は顧客のためだと思って提案していることが多いのです。
◆ 乗合代理店や保険ショップの利益相反。

一般の人が誤解しやすいのがここです。
保険ショップや乗合代理店は、複数の保険会社を扱っています。
そのため、「比較購買できるから公平」と思われがちです。
しかし実際はそれほど単純ではありません。
保険ショップへ行けば比較購買ができるというのは、
これは半分正解で半分間違いです。
私は買う側になってから、何度も保険ショップや代理店の提案を見ました。
確かに複数社の比較表は出てきます。
しかし本当に比較しているかと言えば、疑問が残ることがあります。
代理店には代理店の事情があります。
保険ショップや代理店の運営には経費がかかります。
それを保険のコミッションでまかなうに足りる販売実績が必要です。
保険会社との関係でいえば、代理店にとり保険会社は絞り込んだ方が
コミッション率が高くなるような仕組みがあります。
代理店の保険営業や保険ショップの販売員は、
まず会社の方針に沿ってコミッションがよい商品をすすめます。
比較購買という言葉を聞くと中立機関のような印象を受けますが、
実際は保険を販売する事業者です。この事実を忘れてはいけません。
複数の保険会社の商品を扱うと管理は非常に煩雑になります。
研修も必要です。事務処理も増えます。
さらに保険会社によってコミッション体系が異なります。
代理店としては取り扱いをある程度集中した方が効率的です。
保険会社側も販売実績によって代理店への評価を変えます。
こうした事情から、比較購買が必ずしも中立とは限らないのです。
もちろん良心的な代理店はたくさんあります。
ただ「比較できる=完全に公平」という考え方は少し単純すぎると言えます。
◆ 独立FPが利益相反で悩む理由。

利益相反が最も難しいのは独立系FPかもしれません。
FPは本来、顧客のライフプランを支援する専門家です。
ところが現実には、相談料だけで事業を成立させることは簡単ではありません。
そのため生命保険販売を収入源にするケースが少なくありません。
さらに共同募集という仕組みもあります。
FP自身が募集人資格を持っていなくても、
代理店と提携して保険契約を成立させることができます。
そうすると、「本当に保険が必要だから勧めているのか」
それとも「収入になるから勧めているのか」という問題が発生します。
もちろん本人は顧客のために提案しているつもりです。
しかし利益相反という言葉が出てくるのはこのためです。
実際に保険販売を避け、相談料だけで活動するFPもいます。
それほど悩ましい問題なのです。
◆ 税理士も生命保険では利益相反を抱える。

法人保険の世界では税理士が関与することがあります。
税務と生命保険は切り離せないからです。
しかし税理士もまた利益相反から自由ではありません。
税理士法人などでは、傘下に保険代理店を抱えていることもあります。
保険代理店との共同募集を行えば収入が発生します。
一方で税理士には適正な税務処理を行う責任があります。
税理士としての立場と保険販売による収入、
この二つの間で悩むケースがあります。
実際には生命保険の提案に積極的な先生もいれば、距離を置く先生もいます。
私が知る限り、法人保険に強い税理士は極めて少数です。
税務の専門家であることと、生命保険の専門家であることは別問題だからです。
保険契約に関与したくないという税理士も少なくありません。
逆に保険代理店に依存しすぎる税理士も見てきました。
税理士法人と提携している代理店だから安心とは限りません。
むしろ法人保険の提案力では疑問を感じることもありました。
税理士の立場から見ると、生命保険は意外に難しいテーマなのです。
■税理士も生命保険では利益相反に悩む|法人保険の現場で見てきた本音。
◆ 利益相反があるから保険営業は信用できないのか。

そういう話ではありません。
利益相反が存在することと、信用できないことは別問題です。
むしろ大切なのは、「利益相反が存在することを前提に考える」ことです。
生命保険は誰から買うかが重要です。
■保険の選び方は商品ではなく誰に入るか。保険営業は人で選ぶ不思議。
提案内容だけでなく、
・なぜその商品を勧めるのか
・他社商品と比較したのか
・デメリットは何か
・将来の見直しリスクはあるか
こうした説明を確認することが必要です。
どんな立場の募集人であっても、最終的に判断するのは契約者自身です。
◆ 保険販売の利益相反、まとめ。

生命保険の販売では、立場によって利益相反の形が異なります。
保険会社の営業職員は自社商品しか扱えません。
乗合代理店や保険ショップは複数の商品を扱えますが、
その分だけ別の利益相反を抱えます。
独立FPは理想と現実の間で悩みます。
税理士も保険販売に関われば、利益相反と無縁ではいられません。
私は保険業界に長く関わってきましたが、
完全に利益相反のない保険販売は存在しないと思っています。
だからこそ大切なのは、売る側の肩書きではありません。
営業職員か、代理店か、FPか、税理士かではなく、
その人がデメリットまで含めて説明してくれるかどうかです。
私は利益相反があるからと言って、保険営業を否定するつもりはありません。
私自身がその世界にいたからです。
しかし買う側になって痛感したことがあります。
それは、「利益相反のない保険提案を探すより、
利益相反があることを理解している営業を探した方が早い」ということです。
営業職員にも利益相反があります。代理店にもあります。
FPにもあります。税理士にもあります。
だから肩書きだけを信用してはいけません。
最終的に見るべきなのは、その人が都合の悪い話までしてくれるかどうかです。
そこに本当の専門家と営業トークの違いがあります。
生命保険は比較購買が難しい商品です。
最後は仕組みを理解し、自分自身で納得して決めることが一番大切だと思います。
■生命保険の加入判断を狂わせる事情を体系的に解説したページ
→生命保険はなぜわからなくなるのか|加入判断を狂わせる構造。
「保険販売における利益相反とは?立場ごとの違いを経験者が解説。」への3件のフィードバック