国税庁、網がかかるか節税保険。

国税庁、網がかかるか節税保険。

(2021/6/5追記、全額損金で節税できる保険は、国税庁の通達でなくなりました。バレンタインショック以前(2018.7.8)の記録としてお読みください。)

節税保険の売り込みが、頻繁にあります。これまで縁のない代理店や金融機関が、節税保険お提案という切り口でアポを取りに来ます。法人保険の窓口を担当している実感としては、国内生保と外資系合わせて10社近くが入り乱れています。

これまで経験のない、まさに節税保険の新発売ラッシュです。あちこちの金融機関が、保険代理店に早変わりして販売合戦を繰り広げています。これはやはり異常な状況ですから、国税庁が黙って見ているとも思えません。この先、節税保険のやり過ぎに網がかかるかもしれません。

■節税保険、バレンタインショックまとめ。

◆ 法人保険の狙いと節税効果。

法人保険は、会社が契約者となり経営者や役員、社員を被保険者として生命保険を契約します。従って契約者である会社が、保険料を負担します。

法人で契約する生命保険の保険料は、保険の種類によって費用にできないものや、費用として経理処理できるものがあります。

法人保険を契約する目的は大きく二つあります。一つは企業として万が一に備える事業保障です。もうひとつは、利益を費用化して将来に受け取れる解約返戻金を有効に活用する、利益繰り延べという目的です。

保険料を費用化して、損金で落としていくと、ピーク時に受け取る解約返戻金は雑収入として利益になります。その使い道が有効な費用であれば、利益を繰り延べることができ、節税効果が大きくなります。

そのためには、保険料を全額費用化できて、なおかつ解約返戻率の高い保険商品が求められます。一方では課税逃れや利益調整との批判もあります。これまで何度も損金効果の高い保険商品が発売され、網がかかってきた法人保険の歴史があります。

◆ 全損保険の新発売ラッシュ。

一時期、法人契約の全額損金できる保険商品は、ガン保険も長期障害保険も、逓増定期保険まで網がかかりました。その結果、保険料が損金処理できなくなっていました。解約返戻率が低く魅力がないだけではありません。返戻率のよい被保険者の年齢幅が狭くて、使い物にならない保険がほとんどでした。

ところが2017年から生命保険会社各社が、法人契約をターゲットにした新商品を発売してきました。保険料は全額損金で解約返戻率のよい生命保険です。各社ともに解約返戻率の競争になり、後になるほどよい商品が出てくる、いわゆる後出しジャンケンの様相を呈していました。利益の出ている2018年の3月期の決算企業は、かなりの額の生命保険契約をされたと思います。

◆ 法人保険の全損・半損に価値。

全損とは、保険料を全額費用化できる全額損金のことです。半損とは、保険料の半分を費用化できますが、残りの半分は保険積立金として計上する必要があります。保険積立金は、利益になりますから税金がかかります。

法人保険は事業保障を考える場合は、長期平準定期保険などの半損商品を選ぶべきです。全損保険ほどのうまみはありませんが、長期にわたりじっくりと利益の繰り延べができると同時に、解約時期を気にせずに事業保障を継続することができるところが魅力です。

できれば、その中でも解約返戻率のよいもので格付けの高い保険会社、信用できる保険営業を選ぶことが大事です。

しかしながら、事業保障を確保した上にさらに利益が出てしまうようなことも往々にしてあります。そういうときにこそ解約返戻率のよい全損保険を検討することが有効です。

ただ解約返戻率のよい全損保険は、契約が集中すると網がかかるリスクがあります。もちろんこれまでのケースでは、既契約の経理処理に言及するような通達はあまりなく、既得権としての全損契約は維持できるものと考えられます。

◆ 金融庁と国税庁の思惑違い。

生命保険の新商品を認可するのは金融庁です。生命保険会社が勝手に解約返戻率のよい新商品を作って売るということはできません。ところが生命保険の新商品の認可で、大きな影響を受けるのは国税庁です。

今回のような損金効果が高い新商品が大量に出回ると、法人税の税収に影響するというわけです。ただですら法人税の引き下げ傾向がある中で、税収を確保するためには、節税保険は認められないということになりかねません。

どうもこのところの情報を総合すると、国税庁が出張ってきていよいよ網がかかるという、節税保険に関する怪しい噂があります。真偽のほどは不明ですが、過去の経緯からすれば、今回新発売されたタイプの全損保険の全損経理処理を認めず、というような通達が出ないとも限りません。

仮に既契約に遡及されないとするならば、考えられるのは、期限までの駆け込み販売競争です。

間の抜けた情報もあります。M社はとても解約返戻率のよい保険商品を開発して金融庁に申請していたのが、今頃(2018年6月)認可になったそうで、そうなると発売と同時に網がかかるかもしれないのです。

外資系の社長は短期成果を求められますから、解約返戻率がよすぎるとこういうこともあるのですね。でも、うまく滑り込めれば、これはねらい目かもしれません。

◆ 網がかかるか節税保険、まとめ。

保険会社の駆け込み販売競争は、利益の出ている企業にとり最後のチャンスに映ることだと思います。なぜなら全損処理ができて解約返戻率のよい商品が既得権として契約を継続できるなら、長期的にもずいぶんメリットがあるからです。

きちんと中長期の事業計画を立てて、安定的に利益が出るような場合には誠にうまい話になります。

節税保険管理で大事な点は2点ありあります。

・自己責任で解約管理。

解約返戻率のよい商品というのは、おしなべて解約返戻率のよい時期が極めてタイトです。そこを外して解約しても利益を繰り延べたことにならずに単に損をしただけになります。

人任せにしないで、自己責任で解約時期を厳しく管理する必要があります。保険代理店も保険営業も、売るとき解約時期の案内は当然のように言いますが、それを信用してはいけません。

次の売込みにつながらない限り、誰も解約時期のお知らせなどしている暇はないと考えるべきです。

・早めに出口対策の設計。

またほとんどのケースで、とりあえずの利益の繰り延べですから、中途半端な時期に解約することになりがちです。そのため雑収入の出口対策などは絵が描けていないと思います。

と言うより経営はその日暮らしの出たとこ勝負、泥縄の中小企業に中長期計画と言っても仕方がないところです。

解約する時期に合わせて、生産性が向上する設備投資を組み経営力向上計画の承認を得れば、巨額の設備投資を証明書次第で一括償却する制度もあります。出口対策としてうまい組み合わせになると思います。

もちろん退職金に充てられれば、解約返戻金で出た雑収入を費用化できますから誠に都合がよいことになります。しかし実際はそんなうまい具合に時期を合わせたり、組めるものではありません。解約返戻金は減額や失効などである程度発生時期をコントロールできますが、若干高度なテクニックになりますので専門的知識が必要です。

企業にとれば、税金は見返りのないコストです。たとえ優良申告法人であろうとも、にらまれたくないから税務署にはよい顔をしているだけで、本音で税金を多く払いたいと思っている経営者はいないでしょう。

これから決算をむかえる中小企業にとれば、網がかかる前に全損商品の既得権を確保することは美味しい話です。しかし、効果が高い節税保険ほど解約時期の管理は自己責任、解約返戻金の出口対策は万全にと申し上げておきます。

Pocket

「国税庁、網がかかるか節税保険。」への10件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です