遺言書の効力がものを言う、絶対必要な7つのケース。

遺言書の効力がものを言う、絶対必要な7つのケース。

効力とは、言い換えれば有効性ということになります。「遺言書」は「遺書」とは違い、法的な効力をもった民法に定められた法律文書です。被相続人の思いを伝えるだけではなく、相続財産の分割を法的に指定するものです。

遺言書を書くか書かないかは、あの世へ旅立つ被相続人の自由です。

しかし遺言書があればそれがもつ効力により、法定相続より優先されます。遺言書がなくても、円満におさまることもあると思います。しかし多くの場合、後に残された相続人にとれば、財産の分け前を決める遺産分割協議とは、心穏やかではないのです。

被相続人である自分の親が、遺言書を書いておけばあきらめがつきます。親の意思なら、渋々ながらも納得せざるを得ないのです。しかし遺言書がないと、禍根を残す骨肉の争いに発展しかねません。

これは相続税がかかっても、かからなくても同じことです。財産が少ないほど遺言書を書かれる方は少なくなりますが、そのため争いが熾烈になるケースは、事例に事欠きません。

相続財産の多い少ないにかかわらず、どうしても、有無を言わさない効力をもつ遺言書が必要なケースがあります。くどいようですが相続税がかからなくても、遺言書が絶対必要なケースがあります。その7つのケースを具体的に整理しました。

◆ その1)子どもがいないお二人様夫婦は遺言書が絶対必要。

子どもに恵まれなかったご夫婦の相続上の諸注意を「おふたりさま相続」として以下の記事にまとめてあります。

■おひとりさま相続とおふたりさま相続。

子はかすがいと言いますが、夫婦円満でも子に恵まれないのは仕方がないことです。しかし相続となると厄介なことが持ち上がります。

知らなかったでは済まない、遺言書が絶対必要なケースの一番目にあげられるでしょう。

遺言書がないと法定相続に従うことは、民法に定められています。その場合、子供がいないと配偶者のほかに、亡くなった夫の両親や兄弟姉妹が相続人として登場してきます。これが嫌で養子縁組する事例があるくらいです。

養子縁組すれば相続人として子がいますから、親や兄弟姉妹の出る幕はないのです。

子がいないお二人様相続では遺言書がないと、亡き夫の兄弟姉妹と相続協議をしなくてはなりません。具体的には住んでいる自宅やマンションの名義変更、銀行の口座変更ですら、新参相続人の実印と印鑑証明をもらわなくてはなりません。

田舎では、菓子折り一つでこれを済ませる慣わしでしたが、いまどきでは、そう簡単に事が収まるとは思えません。相続の権利を主張されると、自宅を売るよりなくなる場合もあり得るのです。

かりに日ごろ仲良く付き合っていても、お金がからむ話し合いは楽ではないと思います。少しでももらえるものがあれば、老後資金としたいのが本音です。結局、残された配偶者に、多大な心労と負担がかかる場合があるのです。被相続人の兄弟姉妹には、遺留分がありませんが、親には遺留分があります。遺言書があれば遺留分という問題は残りますが、まずは一安心です。

ゆえに子どもがいないお二人様夫婦は、有無を言わさぬ効力がある遺言書が、絶対必要なのです。

◆ その2)内縁の妻や愛人に遺贈するには遺言書が絶対必要。

内縁の妻のことは、事実婚のカップルというそうです。要するに戸籍上の配偶者ではないが、事実上夫婦として暮らしているカップルを指します。

民法はしゃくし定規ですから事実婚など認めません。籍が入っていなければ、他人として婚姻関係もないし、相続人にもなれないのです。内縁の妻に住む家や財産を残したいのであれば、遺言書で遺贈する必要があります。

遺言書がないと最悪の場合は、被相続人と一緒に住んでいた自宅のマンションまで奪われてしまうことになります。

知らなかったでは済まない、遺言書が絶対必要なケースの二番目にあげられるでしょう。

籍を入れておけばそれでよいのですが、そこは先妻への遠慮や子らに対する配慮もあるでしょう。それなら世話になった事実上の妻に財産が残せるように、責任をもって遺言書を書くことです。

愛人などの相続人ではない人が、遺産をもらう場合「遺贈」といいます。もらう人を「受遺者」とよび相続人とは区別されます。遺贈に関しての落とし穴は、隠れた負債があるような場合です。財産の割合(全財産の三分の一など)を指定して遺贈する「包括遺贈」ではなく、財産を具体的に指定する「特定遺贈」にしてください。そうすれば受遺者は相続人のように負債の義務を引き継ぐことはありません。

ゆえに内縁の妻や愛人に遺贈するには、有無を言わさぬ効力がある遺言書が絶対必要なのです。

◆ その3)妻にすべての財産を渡したいなら遺言書が絶対必要。

財産が有り余るほどもなく、遺産を分割すると配偶者の今後の生活が立ち行かなくなるようなケースもあります。そういう場合はその他の相続人の遺留分に配慮しつつ、妻にすべての財産を渡すという遺言書をお書きください。

子どもらが親孝行であれば、いらぬ心配かもしれませんが、知らなかったでは済まない、遺言書が絶対必要なケースの三番目にあげられるでしょう。

何があるかわからないのが相続です。配偶者以外の相続人によっては、資金繰りに行き詰ったり、ギャンブルにはまりマンションのローンが払えないようなケースだったり、離婚騒動で慰謝料が必要なケースがあります。背に腹は変えられないとばかりに、想定外の事態が穏やかな相続人を別人に変えてしまいます。

遺言書がなければ、強いもの勝ちが相続です。遺留分はありますが、「配偶者にすべてを相続させる。」という遺言書があればかなり変わります。相続人が子2人の場合、遺言書がなければ配偶者の相続分は法定相続となり1/2となります。「配偶者にすべての財産を相続させる。」という遺言書があれば、遺留分に配慮しても、3/4になり、法定相続よりかなり有利になります。住む家を手放さなくて済むかもしれません。

配偶者の老後の生活を守るためには、くれぐれも用心してください。

ゆえに妻にすべての財産を渡したいなら、 有無を言わさぬ効力がある遺言書が絶対必要なのです。

◆ その4)分けられない不動産があれば遺言書は絶対必要。

多くの相続では、遺産に占める不動産の割合はとても大きくなります。相続税対策で不動産投資をすれば、さらにその比率は高くなります。

不動産は現金や預金、生命保険のように分けることが難しい財産です。

実際住んでいる家を3等分することはできません。売ってしまって現金を分けるか、共有という選択肢もありますが、住む家がなくなったり、後々のもめ事の原因となったりしますのでおすすめできません。

不動産の処分を遺言で指定すれば、遺産分割のもめ事を防ぐことができます。

知らなかったでは済まない、遺言書が絶対必要なケースの四番目にあげられるでしょう。

とくに被相続人と一緒に住んでいた配偶者に相続させたい場合は、その旨を遺言書にしっかり書き残しておくことです。現物分割ができない不動産の場合、対策を考えておくことが大事です。できれば、配偶者受取りの生命保険を契約しておき、保険金で代償分割(不動産を相続する代わり他の相続人に金銭を支払う)ということも考えておく必要があります。遺言書に指定があれば他の相続人も、心情として納得しやすくなるものと思います。

ゆえに分けられない不動産があれば、有無を言わさぬ効力がある遺言書は、絶対必要なのです。

◆ その5)自社株を後継者に引き継ぐなら遺言書は絶対必要。

中小企業の事業承継は、今や大きな社会問題化しています。日本の中小企業を守るためには納税猶予制度なども利用しやすくなってきましたが、相続で失敗したのでは意味がなくなります。

一番よくないことは、相続で自社株を分散させることです。経営権が分散してしまうと経営判断の迅速さが損なわれ、争いの元になります。自社株は市場価値がないにも関わらず高額になり、相続財産のほとんどを占めるようになります。これをうまく後継者一人に集中して、相続させることがなにより大事です。

知らなかったでは済まない、遺言書が絶対必要なケースの五番目にあげられるでしょう。

遺言書で後継者に自社株だけでなく、資産を明確に集中することが、経営の安定につながります。遺留分への配慮は必要ですが、会社経営をしている以上、経営者としての責任において相続財産を公平に分けることは許されません。

会社の存続と安定を第一に考えた相続設計と、自社株の分散を防ぐ遺言書がオーナー経営者の責務と言えるでしょう。

ゆえに自社株を後継者に引き継ぐなら、有無を言わさぬ効力がある遺言書は絶対必要なのです。

◆ その6)生命保険の受取人を指定するなら遺言書は絶対必要。

生命保険の受取人変更は、以下に詳しく書きました。

■生命保険の受取人変更12の実務ポイントをどこよりも詳説。

生命保険の受取人は、遺言書でも指定可能です。被相続人が被保険者である生命保険は、相続発生時に指定された受取人(相続人)が死亡保険金を固有の財産として受け取ることができます。この受取人も遺言書で変更することができます。でもできれば保険会社に申し出て、生前に受取人変更を行って下さい。その方が安全確実に処理されます。

知らなかったでは済まない、遺言書が絶対必要なケースの六番目にあげました。

もう一つの事例として、遺言書に記載する必要がある生命保険契約について説明します。契約者は被相続人(遺言者)ですが、被保険者が相続人というようなケースです。遺言者の相続発生時に生命保険金が出るわけではなく、生命保険契約を相続財産として相続することになります。

契約者=被相続人

被保険者=相続人

これは遺言書で生命保険会社、証券記号番号等を明確に指定して、生命保険契約を引き継ぐ相続人を指定してください。遺言書で被保険者と新契約者が一致するように指定しないとモラルリスクが発生します。保険契約を相続した相続人は、自分が被保険者の契約ですから、受取人はご自分の配偶者か子にして下さい。この保険がお金に変わるのは、まだまだ先です。

ゆえに生命保険の相続人を指定するなら、有無を言わさぬ効力がある遺言書は絶対必要なのです。

◆ その7)おひとり様が友人に遺贈、寄付したいなら遺言書は絶対必要。

身寄りのないお一人様の相続に関しては以下に詳しく書きました。

■相続420億国庫へ┃お一人様相続の行く末。

身寄りがない場合、何もしないと相続財産は最終的には国庫に入ります。それではいやだとお考えになるお一人様は、遺言を書けば友人や知人に遺贈することができます。

知らなかったでは済まない、遺言書が絶対必要なケースの七番目にあげました。

遺産が国のものになるのも悪くはないと思うのですが、あげたい友人や世話になった知人もいないとなると、自治体や慈善団体、宗教団体に遺言で寄付することが可能です。

ただ友人や知人、自治体などは相続人ではないので遺言書には「相続させる。」ではなく「遺贈する。」と書いて下さい。いずれの場合もふるさと納税のような返礼品は期待できないです。場合によっては断られることもありますから、生前に確認してから遺言書に記載してください。

ゆえにおひとり様が友人に遺贈、寄付したいなら、有無を言わさぬ効力がある遺言書は絶対必要なのです。

◆ 遺言書の効力と絶対必要なケース、まとめ。

遺言書が絶対必要になるケースをまとめましたが、他にもいろいろあるでしょう。

欲深いバカ息子がいる場合とか、強欲な長男の嫁が後ろで糸を引いている場合とか、事業に失敗した次男がいる場合などはとくに要注意です。

有無を言わさぬ効力がある遺言書であっても、もちろん相続人には法律で認められた遺留分という権利があります。この点はとくに遺言書の内容に配慮が必要です。「遺留分>遺言書」という不等号が成り立ちますので、いかにできの悪い放蕩息子でも、嫁にやった娘でも、遺留分の権利は侵害できません。

思うようにはならないものですが、要件を満たした遺言書があれば、その効力がものを言い、身内の醜い争いを未然に、かつ最小限にすることは可能になります。

被相続人となるすべての人が遺言書を書くことで、家庭円満が維持されるということになります。

自分は遺言書など無関係と高をくくっていた被相続人の方々の気持ちが、少しでも遺言書を書くほうに揺らぐなら、筆者としても本記事を書いた甲斐があるというものです。

遺言書は書くべき? もちろん!! それが申し上げたい結論です。

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