役員退職金が否認される理由を課税当局の立場から解説します。
貴重な話を聞く機会がありました。何事も専門家、しかし本当の専門家はわずかしかいません。
なかでもOB税理士は知識がかたよってはいますが、課税当局の内情や判断基準、税務調査の勘所などは本当の専門家です。
法人保険を売る側から買う側にまわったhokenfpが保険を売る側の事情が分かるのと同じように、OB税理士は調査する側の事情やねらいは手に取るようにわかります。
たとえは悪いですが、警察官が泥棒になればやすやすとは捕まらないと思います。OB税理士も平たくいえばあばく側からごまかす側に回るわけですから、詳しいのはあたりまえと言えなくもないわけです。
クリックできる目次
◆ 役員退職金の支給基準をOB税理士に聞きました。
OB税理士といっても経歴はさまざまです。法人税をあつかってきた方と資産税をあつかってきた方では知識の範囲が違います。中には酒税出身のOB税理士もいます。法人保険の仕組みに明るくないのと営業力のなさは共通しているようです。
なかにはコンサルにきているのかに調査きているのかわからないような方もいらっしゃいますから、性格もいろいろです。しかし課税当局の考え方という点では共通した知識と経験をお持ちです。説明の仕方はそれぞれ違いますが、役員退職金の支給基準については「最終報酬月額×功績倍率」という点で同じです。
◆ 最終報酬月額と功績倍率の考え方。
一般の考え方と違うのはこの役員退職金の支給基準「最終報酬月額×功績倍率」という計算式に融通がきかないのです。
まず役員退職金支給規定があっても関係がありません。会社によっては功績倍率を役職で規定していたり、中には最終報酬月額ではなく最高報酬月額を規定したりしていますが、判断の基準になることはありません。
こうなると困ったことは会長や相談役に退いて報酬を減額すると役員退職金も少なくなります。それまでの加重平均という考え方も通用しないのです。ちょっと納得できないところですが、課税当局の基本的な考え方です。
よって功労金加算という考え方もありませんから退職金の算定には見解の相違が出ます。ところが功績倍率は4倍から5倍ならOKで、6倍から8倍となると問題化するそうなのです。とにかく課税当局の基本的な基準は最終報酬月額、これなら安全なのです。とすれば会長や相談役に退いても役員報酬を下げることができなくなります。
◆ 役員退職金に関する税務相談の効果。
過去に役員値職金を否認されない極意を下記のページにまとめましたが、それほど
①役員退職金支給に至る手順は手を抜かないこと
②自分の都合のいいように考えないで税務署に事前相談に行くこと
③実質的に引退すること
3つのポイントの②に関しては、これで安心とも言えないという話です。確かに税務署に事前に相談に行くと記録が残りますので、それはそれで意味があります。
しかし税務署の中でもいろいろな見解がありますから、たまたま相談窓口の担当者が概ね了解のアドバイスでもそれは個人の見解であり署の見解ではないという公務員組織とも思えない理屈があるそうです。
税務調査でも調査官の意見は署の見解ではないということもあります。民間企業ではあり得ないと対応だと思いますが、親方日の丸の権力はあなどれないのです。
結果として役員退職金を否認されようものなら、法人で損金参入が否認され個人で有利な退職金課税が通常の所得税あつかいになり住民税まで大幅に増加します。それどころか延滞税までかかるかも知れませんから、こうなると全く踏んだり蹴ったりと言わざるを得ません。
◆ 偽装引退は狙われる。
引退した経営者にとれば誰も偽装するつもりはないのですが、後継社長に任せておけない危なっかしさ、自分の経営手法に対する自負があります。
仕事人間できたオーナー経営者にすれば、いまさら家庭に居場所がないのでついつい出社します。
経営のサポートのつもりが口出しをしてワンマンショーになってしまいます。もうこうなれば課税当局に偽装引退と言われても抗弁のしようがなくなります。
実質的に引退することは、なかなかに難しいものなのです。
OB税理士に言わせれば偽装引退が狙われるポイントだそうです。
実質的引退は有利な退職金税制を利用するための必須条件です。普通の感覚では退職金をもらえば会社との縁が切れ、毎日出社することなどあり得ないところです。退職金支給の引退の条件としては給料が1/2以下で代表権がなくなり、偽装と言われないためには退職の実態が必要です。
◆ 何ごとも説明がつく経済合理性が必要。
OB税理士の方は敵か味方かわからないようなスタンスでも、よくよく話し込むとご自身の立場はおわかりのようです。少々グレーゾーンの処理では課税当局がどういう見方をするかは、きちんと説明されます。
それによると説明がつく経済合理性が必要ということになります。これこれこういう理由でこういう処理をしました、という説明が理路整然としている必要があります。
もちろん本音と建て前はありますから使い分けてということです。本当は利益が出すぎたので節税目的で法人保険に加入しても、建前は企業規模拡大に伴う事業保障の確保です。
新株予約権付き社債を発行して自社株評価を下げても、建前は新工場建設の資金確保です。
狐と狸の化かし合いのようなことではありますが、中小企業を守り継続するためには経営者は狐にも狸にもならなくてはいけないのです。
◆ まとめ
専門家のアドバイスといえども鵜呑みにはできないということはどの分野でもおこります。専門家や士業の中でもさらに専門家がいます。そこまでたどり着くのは大変ですが、手にする情報の質が違います。
たまたまOB税理士を事例に役員退職金の支給要件の勘所をまとめましたが、立場が変われば見解が大きく異なるということをご理解いただけたでしょうか。手前勝手な理屈では税務署に通じませんが、そこそこのストーリーがあることで経済合理性が説明できます。
事前相談でほぼ問題なしと回答をもらっていても税務調査で否認されることもあり得ます。結局、人と人の立場の違いが結果の違いを生みます。経営というものは「用心!用心!火の用心!?」なのです。
「役員退職金が否認される理由。」への1件のフィードバック