自社株贈与が特別受益になると時価で持ち戻しの恐怖。

自社株贈与が特別受益になると時価で持ち戻しの恐怖。

相続対策には、万全はありません。あの手この手で対策をしても、家族や後継者の思いと必ずしも一致しているとは限らないからです。

相続税の対策でも、課税当局との見解の相違ということがあります。とくに相続税に限らず相続や事業承継対策では、抜けや落とし穴があります。

相続発生時点では、対策の責任者である被相続人はすでに他界しており責任の取りようがありませんし、やり直しもできません。できることは生前により慎重に対策し、結果は運を天に任すほかないのです。

よく見られる相続対策の落とし穴について、経験をもとに解説します。

■特別受益の持ち戻しが争族の火種になると大炎上。

◆ 自社株の生前贈与に特別受益のリスク。

優良な中小企業は、毎年利益が出ます。ところが事業承継では、この利益の蓄積が足かせになることがあります。

もうければもうけるほど、自社株評価はうなぎ登りとなります。その結果、後継者に自社株を贈与しようにも、贈与税という大きな壁が立ちはだかります。

何の対策もせずに相続が発生すれば、莫大な相続税となり後継者が納税キャッシュに困ることになります。そして事業承継が行き詰りかねません。

賢明なオーナー経営者は、いち早く事業承継対策に取り組んでいると思います。自社株評価を下げる工夫をして、自社株を後継者に生前に贈与しようと考えます。

しかし自社株贈与には、ひとつ間違うと特別受益という落とし穴があります。

詳しく言えば、自社株の生前贈与は、特別受益と見なされる可能性が残っています。贈与時の評価ではなく、現在の時価で相続財産に持ち戻しとなるリスクをはらんでいます。

■相続で遺留分の放棄をさせることはできるか、その意味と手続き。

◆ 経営者の相続対策に万全はない。

事業承継と相続設計に早くから取り組み、後継者に着々と自社株を贈与されることは、事業承継の王道でもあります。また相続時にもめることがないよう、他の兄弟には相応のものを生前贈与されている慎重な経営者がいらっしゃいます。

そういう経営者は、もちろん相続税対策の生命保険も万全に備えておられます。金融機関や税理士法人などが開催するセミナーにも足繁く通って、資産同様に知識も豊富です。

しかしながら相続対策には、思いがけない落とし穴があります。

必ずしも絵に描いたように、計画通りにことが運ぶとは限らないのです。相続対策で、あなどれないリスクがあるポイントをいくつか申し上げます。

それは「遺留分」「特別受益」「寄与分」そして「心変わり」です。ここを押さえておかないと、せっかくの相続対策が台無しになることがあります。

◆わかっていても「遺留分」に注意。

遺留分は残された家族への、相続の最低限保障です。法定相続の半分が、民法で遺留分として規定されています。遺言書で遺産分割を指定しても遺留分に配慮しないと、不満のある相続人から遺留分侵害額請求を起こされてしまいます。

事業承継では後継者に自社株や資金を集中すると、他の相続人の遺留分を侵害することがあります。

対策を講じ自社株評価を下げて、後継者に時間をかけ贈与します。贈与税の納税も終わり、遺留分に配慮しているから大丈夫とお考えの経営者がいらっしゃいます。

しかし遺留分の計算は、相続発生時の財産だけではないのです。では相続発生前の3年間の贈与を持ち戻せばよいか(民法の改正で持ち戻し期間は順次7年まで延長)、それだけでもないのです。

◆ 自社株の評価が変わる「特別受益」の持ち戻しの恐怖。

注意すべき点を申し上げると、遺留分の計算は相続発生時の財産だけでなく、特別受益と呼ばれる生前贈与も加算対象になります。

たとえば家を建ててもらったり、結婚資金をもらったり、海外留学資金なども特別受益とみなされる場合があります。

でも特別受益とみなされたとき一番怖いのは、後継者に贈与した自社株です。

いろいろな対策で自社株評価を大幅に下げて、後継者に生前に贈与されていると思います。しかし自社株における遺留分の算定は、贈与時の価格ではなく相続発生時の自社株評価で持ち戻しになるのです。

これは特別受益持ち戻しの恐怖と言えると思います。何倍にもなった自社株評価で持ち戻しになると遺留分も大きくなり、遺留分の侵害と言う問題が持ち上がってきます。仮に遺言書で分割を指定していても、遺留分が優先されるというのが民法の規定です。

かといって生前に、相続人に対して遺留分放棄させるというのも実はハードルが高いのです。

■相続で遺留分の放棄をさせることはできるか、その意味と手続き。

念のため追記すると、生命保険の保険金が特別受益に当たるかどうかは微妙な問題があります。生命保険金は受取人固有の財産というのが判例により定着してきていますが、特別受益かどうかは他の相続人との関係によります。

■生命保険の受取人変更手続きを具体的にわかりやすく。

◆ お金を前にすれば心変わりはやむなし。

現実の相続を見れば、一番怖いのは特別受益の持ち戻しよりも「心変わり」かもしれません。

財産があってもなくても、お金を前にすると人は別人になります。

長男に会社を継がせるため、相当の財産と自社株を生前に贈与します。そして他の兄弟には孫の教育資金やら家の頭金を贈与し、それなりに遺留分に配慮をしたつもりという場合があります。

後継者以外の兄弟姉妹は、生前は親の意向に従っています。しかしいざ相続が発生すると、背に腹は変えられないとばかりに、自己主張をしてこないとも限らないのです。

誰でも財産というお金は、いくらあっても困りません。お金を前にすると、人の心変わりはやむなしともいえるでしょう。

人の心とは、そういうものだと思って対策をすることです。できることは遺留分に配慮した有効な遺言書をきちんと書くこと、そしてその中で「特別受益もち戻しの免除を意思表示」することです。

意思表示すれば書面でなくてよいとされていますが、あの世からは言った言わないに反論できません。遺言書になかに、きちんと特別受益もち戻しの免除を記載してください。

■遺言書の効力がものを言う、絶対必要な7つのケース。

◆自社株贈与が特別受益に、まとめ。

事業承継に配慮し苦心の末、自社株贈与を終えたオーナー経営者には、事業継続すら危うくする「特別受益」と「遺留分」は落とし穴になる可能性があります。

後継者がもうければもうけるほど、特別受益が膨らみ事態は深刻になります。また経営者でなくても、争族の原因となる特別受益には注意が必要です。

自社株の計画的な贈与が、相続では特別受益とみなされるリスクがあります。そうなると自社株は時価で持ち戻しになり、遺留分侵害額請求に発展する可能性が出てきます。

遺言書に「特別受益もち戻しの免除を意思表示」をしておくことの重要性を案内しました。

後継者が、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けて困ることがないよう、遺言書にも細心の配慮が大切です。

ちゃんと言ってあるから大丈夫は、相続では通用しないと言うことも申し上げました。相続対策がうまくいくかどうかは人の気持ちをどう読むか、どう考えて配慮するかに尽きるように思います。もちろん相続税がかかるか、かからないかにかかわらず言えることです。

本稿では遺留分に対する配慮、特別受益もち戻しの恐怖、心変わりは前提条件として織り込んだ相続対策を申し上げました。

ある程度相続対策をしてこられた、オーナー経営者を想定しております。筆足らずで実務的なことは割愛しております。詳細なサイトは山のようにありますのでそちらをご参照ください。

相続争いはお金の奪い合い、生前から争族とは悲しい現実。

相続争いは譲れない、欲得をさらけ出す深い理由。

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