事業承継、特別受益の泥沼相続。

特別受益にこだわると泥沼相続に。

CIMG3350 優良な中小企業は毎年利益が出ます。ところが事業承継ではこの利益の蓄積が足かせになることがあります。もうければもうけるほど自社株評価はうなぎ登りとなり後継者に自社株を贈与しようにも贈与税という大きな壁が立ちはだかります。

しかし何の対策もせずに相続が発生すれば莫大な相続税となり後継者が納税キャッシュに困ることになります。

賢明なオーナー経営者はいち早く事業承継対策に取り組み自社株評価を下げる工夫をして自社株を贈与しようと考えます。

せっかく贈与税に大枚はたいて自社株贈与を終えたと思ったら中小企業者の納税猶予制度です。最初は使い物にならない縛りがありましたが、緩和修正され中小企業の事業承継に役立つ仕組みとなりました。

その結果、用心深く先手で手を打った贈与が裏目に出てしまったようなものです。税制改正というものは後手に回るとしたものですが、もはや後戻りもできません。結果的には自社株の贈与による事業承継は納税猶予制度の出現で見込み違いになりました。でも自社株贈与の問題はそれだけではありません。

自社株の生前贈与は特別受益と見なされ贈与時の評価ではなく現在の時価で持ち戻しとなるリスクをはらんでいます。特別受益を言い出すと相続協議は泥沼にはまります。特別受益の泥沼相続は抜け出せるのか、オーナー経営者のもくろみが外れるとどのような問題が噴出するのか、順に見ていくことにします。

■相続┃特別受益持ち戻しの恐怖。

◆ 特別受益の範囲。

特別受益とは聞き慣れない言葉です。「トクベツジュエキ?何それ、お肌にいいの?」日常では意味が通じません。言ってみれば生前贈与ですが、それが扶養の範囲なのか遺産の前渡しなのかは相続人の立場の違いにより難しい判断になります。

親にすれば子はすべて平等に育てたつもりでも、兄弟姉妹で差がつくのが普通です。昔は嫁にやる娘には花嫁道具一式にお金をかけて相続の時は放棄するという暗黙の合意がありました。言ってみればこれも特別受益です。

マンションのローンの頭金を出してもらっても同じく特別受益です。今どき大学までの学資は扶養の範囲ですが、他の兄弟が高卒で就職していれば、その差は特別受益と見なされるかもしれません。相続税に関係なく相続には特別受益問題がからみついてきます。

民法上、特別受益の対象となるのは以下の3つですが立場上4.項目目を追加しました。

1.遺贈

2.結婚または養子縁組のための贈与

3.生計の資本として受けた贈与

4.自社株贈与

実は5番目に生命保険金を入れるかどうか迷うところです。生命保険契約による保険金の受取人は相続財産とは一線を画し、受取人の固有財産として遺産相続協議にかかわらず保険金を受け取る権利があります。しかし特別受益と言えないことはないのです。やはり安全なのは、受け取り生命保険金の持ち戻しの免除を明記することです。

被相続人が特別受益の持ち戻し免除の意思表示をせずに亡くなると、特別受益の対象となる遺贈または贈与を受けた相続人は原則として特別受益の持戻しをする必要があります。

被相続人にすれば会社を守るためにせっかく生前に計画的に争いが起きないよう生前贈与を行ってきたにもかかわらず、持ち戻しの免除の意思表示を忘れるとすべてご破算になってしまうのです。

こうなると争いの種をまき散らしたようなもので、収まりのつかない特別受益の泥沼相続に突入するかもしれないのです。

親の借金は相続放棄しても受け取れる保険金の有り難さ。

 ◆ 特別受益の持ち戻し免除の意思表示。

生前に苦慮を重ねて相続税や贈与税の節税と財産分与に知恵をしぼってきた方にとれば、特別受益であっさりひっくり返されたので死にきれません。これまでの財産を築いた親の思いと意思が、相続には反映されることが本来の姿です。死にきれませんとは申し上げました、そのときには被相続人はこの世の相続に意見することはできません。

それゆえ遺言書で特別受益の持ち戻しを免除する意思表示(わかりやすく言えば、遺言者が生前贈与などを遺産に加えないことを指示する。)それだけに最後に抜かることなく遺言書に一言「遺言者は、これまで長男○○○○、にした生前贈与による特別受益持ち戻しについては、これをすべて免除する。」書き加えてください。  老婆心までに申し上げておきますが、遺留分に配慮し、相続人にはよくよく言い含めておくことが大切です。

遺留分放棄を後継者ではない子にさせることは違法か。

 ◆ まとめ

資産税専門の税理士や相続案件の多い税理士にとり円満相続を目指すことは、業務上のメリットがあります。相続人が権利の主張ばかりになるとまとまる話がまとまらなくなります。事業承継に配慮し苦心の末、自社株贈与を終えたオーナー経営者には、事業継続すら危うくする「特別受益」と「遺留分」は落とし穴になる可能性があります。後継者がもうければもうけるほど特別受益が膨らみ事態は深刻になります。また経営者でなくても争族の原因となる特別受益には注意が必要です。

恨みはないですが、相続に関しては弁護士がからむとやっかいです。食えない弁護士が相続に口出しすると収まりがつかなくなるのです。この話はよく聞きますが、OB税理士も同意見でした。税理士は話をまとめることで業務が円滑に進みますが、弁護士は一相続人の利益を最大にすることで自分の収益も大きくなりますから、もめればもめるほど金になります。皆さんがそうだとは申しませんが、相続人の知り合いの弁護士がからんでくると特別受益だ遺留分だという話になり、親が必死で考えた相続設計をひっくりかえしてしまいます。

繰り返しになりますが、遺言書は被相続人の生前の意思です。そうなると唯一の武器が特別受益の持ち戻しの免除を明記した遺言書になります。経営者の多くはうちでは、そのようなことは起こらない。ちゃんと言い聞かせてあるとおっしゃいます。そうはいかない人間の性(さが)が誰にも潜んでいるからこれだけ争族が多いのです。我が子といえどもこの件に関しては信用してはいけないということです。ここを外されないようお願いしておきます。

事業承継と生命保険の危機!

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