バレンタインショック後の意味不明な提案書と買う側の憤り。

バレンタインショック後の意味不明な提案書と買う側の憤り。

せっかくバレンタインショックのまとめ記事を書いて、次の展開を考えていたのですが、まだまだ話題提供は続いていくようです。しばらく保険代理店や保険会社の営業からアプローチが少ない状態が続いています。

保険業界も国税庁に無抵抗で牛耳られてしまいました。許認可責任を棚上げにして、国税庁の尻馬に乗った金融庁にまで、錦の御旗を振りかざされては立つ瀬がないところです。

保険募集人も個人事業主とは言え、一介の労働者です。生活の糧(かて)を得るためには保険を売らなくてはなりません。バレンタインショックから、空白の半年が重くのしかかってきます。

■節税保険、バレンタインショックまとめ。

◆ 国税庁のパブコメ回答と保険販売の涙雨。

梅雨まだ明けやらぬ7月半ばですが、保険販売に関わる営業の悲鳴が聞こえてきます。国税庁のパブコメ回答で販売合戦に突入するかと思いきや、各社弱気で音なしの構えです。

ぼつぼつ訪問してくる営業に聞くと、どこも同じでコンプライアンス研修ならぬ節税話法ご法度研修に取り込まれているとのこと。売るべき商品は半年近くも封じられ、この上わかりきった形だけの研修に、長時間手間をとられるのはつらいところだと思います。法人保険を買う側ではあるものの、保険営業の皆様の苦境には正直同情を禁じ得ません。

◆ 先駆けて新ルール対応の新製品をD社が発売。

その優等生であるD社は、各社に先駆けて新ルール適応保険商品を金融庁に認可されたそうです。同社はいわば国税庁のコバンザメのような立場がありますから、保険会社の中でも手本を示さなくてはならないところです。

ただ、どうも見えてこない新ルールの抜け道の中で、D社としてもやはり保険商品で先行するのは一抹の不安が残るところでしょう。

これまでの保険商品開発競争でも、やはり後出しジャンケンは強いところがありましたからね。

そのD社の保険の提案書の最初のページには、以下のように大きな太い文字で注意事項が記載されています。そして次のページには法人税のイメージ図なるものがあります。書いてある日本語はわかりますが、何を血迷っているのか意味不明です。

以下はD社提案書からの抜き書きです。

・法人向け保険商品のご検討に際してご留意いただきたいこと法人向け保険商品の加入にあたっては、以下の点を確認のうえ、申込みください。

税務の取扱い等については、令和元年6月28日付「課法2-13 課審6-10 査調5-3法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」等に基づき記載しています。今後、税務の取扱い等が変わる場合もあります。

■法人向け保険は、被保険者さまに万一のことがあった場合、(死亡)保険金等を事業保障資金等の財源として活用いただくための、「保障」等を目的とする商品です。

■「支払保険料」を損金算入しても「保険金」や「解約返戻金」等は益金に算入されます。課税タイミングが変わる課税の繰り延べに過ぎず、原則、節税効果はありません。

■保険本来の趣旨を逸脱する保険加入、例えば、「保険料の損金算入による法人税額の圧縮」のみを目的とする保険加入はお勧めしていません。

買う側の契約者の立場からものを申せば、「課税タイミングが変わる課税の繰り延べに過ぎず、原則、節税効果はありません。」というならなぜこれまで大騒ぎをして販売停止しているのか意味が分からなくなります。節税効果がないと言うなら販売しても問題はないはずです。

さらに出口で益金をどのように有効に使うかは、契約者の問題ですから保険会社や国税庁にとやかく言われる筋合いはないと言うべきです。

また『「保険料の損金算入による法人税額の圧縮」のみを目的とする保険加入はお勧めしていません。』とありますが、保険契約の目的をどこに置くかは契約者の意志と考えによります。

また保険会社が説明するのではなく、保険募集人が説明しますから規制できるものではありません。いくら節税話法ご法度研修をして実質返戻率を記載せず、極太の大きな字で御託(ごたく)をならべて頂いても意味がないと言うべきです。

法人保険販売の現場で、保険商品のメリットを説明しない営業はいません。

◆ 保険商品の落ち着くところは。

ただご提案いただいた解約返戻率ごとの提案書は、なかなか面白いと思いましたが、契約者にとっての最悪は、保険料が伸びないのです。解約返戻率が悪くなるのは、貯蓄部分が少なくなったと思えばよいのですが、保険料が伸びないのでは財務的な妙味が薄れてしまいました。

実質返戻率が100%を越えない中で保険料が伸びても仕方がないです。解約返戻金でキャッシュが戻らないなら、まさしく損金が損になるだけですから、本当の掛け捨てです。

ただ全額損金(解約返戻率が50%以下)の定期保険と、予定利率のよいドル建ての保険を組み合わせることは有りかもしれません。何年か先のキャッシュに変わるときの為替リスクはあります。

しかし円建ての終身保険も養老保険も、ここまで予定利率が悪くなると、いくら保険としての保障があるとは言え、選択肢にはなりにくいところです。

◆ 経理処理に対する保険会社の取組み。

D社にはピークリストなるものがあり、解約時期のタイトな保険商品では有益な仕組みです。他にもD社は経理処理の案内を送ってきます。

これまではゴミになるだけの書類でしたが、新ルールの煩雑な資産計上ルールでは役立つ可能性が高いと思います。

しかし新ルールには、まだどのように対応すればよいのか見えない部分もあります。

被保険者一人あたりの年換算保険料相当額が30万円以下であれば、一定の要件のもと全期間を通じて全額を損金算入できることが可能です、とありますが、被保険者一人あたりと言うことであれば、だれが通算して判断するのでしょうか。

少なくとも保険会社では、他社を含めた保険料の通算はできませんから、経理処理の案内でサポートすることもできません。運用する中でまだまだ調整が必要な新ルールだと思います。

◆中小企業の資金運用に痛手。

今回の国税庁の通達に対して、たびたび問題点を指摘している理由は、保険会社や保険募集人に対する理不尽な圧力に対してだけではありません。法人保険を買う側の中小企業の資金運用にとって、大きな痛手となると考えるからです。

日本経済の底辺を支える数多くの中小企業は、大企業のように資金が潤沢なわけではありません。また毎期予定通りの利益を計上できるものでもありません。

企業は環境適応業と言われるように、外的要因に大きく左右され利益を安定させることは、至難の業と言えるのではないかと思います。経営者にしてみれば、額に汗してコストを削減し、稼いだ利益を無駄にせず有効に投資する知恵が必要です。

ところが悲しいかな中小企業というものは、予算通りに経営できるものではなく、まさしく泥縄のようなものです。来月の利益も正確には、予測できないのです。

その結果、期末直前に利益が出過ぎたり、赤字が予測されたりとギリギリの判断が求められます。あわてて設備投資を考えても、当期で費用化できる金額は月割りのわずかな部分だけになります。

そのため急遽、社員旅行を海外にしたり、経費で落とせるような修繕費を集めたりします。経営力向上計画で認証を受け、一括償却可能な駆け込みできる設備投資を考えます。果ては決算賞与を期末ギリギリに決断するようなことまでして、税金という見返りのないコスト抑制に取り組みます。

◆ まとめと買う側の憤り。

経営者の本音で言えば、無理に無駄使いのような投資をせず、できればせっかくもうけた利益は保険料という形で費用化して、緊急予備資金として簿外に貯金したいと考えます。いつまでも貯金できるわけではありませんが、解約するときに出る雑収入の有効な使い道を考えれば、繰り延べた利益が役に立ちます。

損金で貯蓄できる法人保険は、中小企業の利益活用に猶予期間を与えてくれる価値ある選択肢だったのです。

中小企業はあの手この手で知恵をしぼり、課税当局を敵に回さないようギリギリのところを泳ぎながら会社を守っていくことが、課せられた宿命のようなものです。その貴重な利益を守る資金運用の選択肢を封じられてしまったことに、憤(いきどお)りを覚えるのはhokenfpだけでしょうか。つい興奮して3,000文字を越えてしまいました。長々と申し訳ございません。

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