改正民法2019|相続時、預貯金の仮払い制度。

改正民法2019|預貯金の仮払い制度の創設。

DSCF1881生命保険を扱う立場の方は売る側でも買う側でも相続に関する基本的な知識が有益です。相続に関する決まりごとは民法に規定されています。

その民法が2018年7月に40年ぶりに改正されることになりました。前回から改正民法のポイントを順に、実務話を交えながら解説しています。

hokenfpは保険を買う側であり税理士や弁護士、司法書士のような士業でもありませんので、手続きを売り込んで金にしようという立場ではありません。検索していると解説しながらも実は売込みのビジネスサイトがほとんどです。情報を入手するためにはよいのですが、実際は手間のかかるそんなことまでしなくてもクリアできることも多いのが本当のところです。

民法改正の主な項目をあげました。今回は「2)の預貯金の仮払い制度の創設。」についてです。

1)配偶者の居住権を保護「配偶者居住権」の新設。
2)預貯金の仮払い制度の創設。
3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。
4)遺留分制度の見直し、金銭請求。
5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。
6)相続人以外の特別寄与分の請求権。

◆ 葬式代は早めに下ろしておくこと。

突然の事故や急病による死亡では、事前の準備ができていないと思いますが、通常は病気をされ入院されておれば病状は把握できているものです。医師の判断を聞きながら、早めに必要な額のお金を手元に置いておくことが安心です。

金融機関は立場上相続が発生したことを知れば被相続人の口座を凍結せざるを得ません。相続税がかからなくても相続財産は相続人に権利がありますから、相続人が勝手に引き出したのでは公平性を欠くことになります。固いことを言えばそうなりますが、相続人となった兄弟姉妹で、相互不信がない限り誰かに任せて信用するのが普通の家族です。

金融機関はこちらから通知しないと相続発生を知ることはありません。役所からも葬儀屋からも通知したりしません。ただ新聞に訃報が掲載されたり、地域のケーブルテレビなどで訃報を流したりするような地方では知ることができる可能性はあります。

普通、金融機関は相続発生を家族から知らせないとわかりませんから、相続が発生してもキャッシュカード(金融機関により限度額はありますが。)で下ろせばよいのです。田舎のJAやゆうちょ銀行なら家族が代理人となり印鑑と通帳持参で下ろしに行けば委任状がなくても顔パスで手続きしてくれるところもあります。

注意すべきことは、平成28年の最高裁の判決で預貯金債権が遺産分割の対象となる判例から金融機関は融通を利かしにくくなってきています。もともと相続人は、法定相続分に応じた払戻しを請求する権利があり、配偶者や子は相続人として当面の生活費や葬儀費用の払戻しをすることができると考えられていました。しかし最高裁決定において、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとされたため相続人全員の同意が証明できなくては払い戻すことが認められないとされたのです。

裁判所は実情を知らないので無茶な判断をします。結局、配偶者や子の相続人が当面の生活費や葬儀費用に充てるため当座のお金を下ろすことが難しくなったわけです。

その穴埋め制度として仮払い制度ができたわけですが、よくよく考えると葬式代を残しただけの貧乏家族には役にたたないなまくら制度です。たぶん実際の場面では新しくできた預貯金の仮払い制度を活用するケースはそれほど多くないのではないかと推測します。

結論から先に申し上げますが、金融機関に気づかれないうちにさっさと必要額を下ろして用意することです。

◆ 預貯金の仮払い制度の内容と手続き。

DSCF1886仮払い制度以外に、家庭裁判所に仮払いの申請をすることができますが、相続人全員で審判や調停の申し立てを行わねばならず実際に使える仕組みではありません。

ただ預貯金の仮払い制度と言っても金額の制限もありますし、法定相続情報をそろえる必要があり通常の相続で金融機関に提出するのと同じだけの手間がかかります。比較的シンプルな家計でも相続情報をそろえるためには相続人全員の戸籍謄本と履歴をさかのぼった原戸籍を被相続人の親元の役場まで取りに行く必要があります。

込み入った家系だと時間も手間もはるかにかかります。金融機関にも平日に2度3度行かなくては処理が終わりません。会社勤めに方には相当な時間的負担になりますし、こんなに手間がかかったのでは葬式代の支払いが間に合いません。

仮払いの限度額は金融機関ごとに150万となっていますが、これは余裕の預貯金があっての話です。計算では預金残高が900万以上ないと150万が下ろせないのです。

計算式は預金残高三分の一が対象額となりそのうちから相続人の法定相続分に限られます。子が2人なら半分ということになります。預金残高が900万で、対象額が300万、その法定相続分は半分で150万というわけです。

預金残高×1/3×法定相続分=上限額(相続人一人あたり)

家族葬が多くなったとはいえ葬式代はなかなか150万におさまりませんし生活費も必要です。残高が葬式代という方は、例えば300万残高があったとしても50万しか下ろせないことになります。長年老後生活をして病気をすると家屋敷があってもキャッシュはそれほどない家庭がほとんどでしょう。年金生活でお金がたまるわけではありませんからね。

考えてみれば、多くの老後貧乏所帯には役に立たない制度というより下手をすれば足かせになりかねません。聞くところによると金融機関は仮払い制度導入に合わせて従来の「便宜払い」を見直すところもあるそうです。庶民の実態を知らない制度改革は悲劇です。

◆ 金融機関は相続発生を知りません。

そういうわけですから、せっかくの民法改正で預貯金の仮払い制度がスタートすることになりましたが、実務的には金融機関を含めて対応はこれからになると思います。

相続はいつ発生するか予測できませんが、近々にご予定がある方は預貯金の仮払い制度に期待せず金融機関の残高を確認しながら早めの引き出しをされることが大事かと思います。

何度も申しあげますが、金融機関は相続発生を知り得ません。暗証番号は必要ですが、キャッシュカードなら下ろせます。ただ一日の利用限度額が最大で50万だとすると何日かにわけて下ろす必要がありますのでご注意を。

また老婆心ながら申し上げておきますが、士業の方に相談するとビジネスですからあらゆるリスクを並べたてます。お金を必要額下ろすだけなら士業の先生に相談することもありません。

金融機関などの相続の手続きは手間がかかりますから、時間がない方は自分の時間をお金で買うつもりで士業の先生を利用されることは否定しません。

◆ 介護費用も葬儀費用も領収書をきちんと残す。

念のために申し上げておきますが、下ろしたお金を何に使ったかきちんと領収書を残しておくことです。領収書がない場合でも別紙に出金記録を必ず残します。介護費用も葬儀費用もわかりやすく整理しておくことが大事です。もめる家庭も、もめない自信がある家庭もお金の出入りを明確にすることが円満の秘訣ですね。

◆ それでももめそうな家庭は預貯金の仮払い制度を活用。

下ろしたお金の管理がきちんとされていてももめるときはあります。預貯金の仮払い制度は必要な情報さえそろえば相続人一人で手続きできます。(相続人の戸籍謄本を依頼するので目的は明かす必要があります。)たとえ一人で自分の権利だけを仮払い制度を利用するにしても他の相続人に連絡して了解を取っておくことが大事です。

葬式やその後の法事で顔を合わせるでしょうから、預貯金の仮払い制度で下ろしたお金の使い道まで説明しておくと安全ですね。

◆ 預貯金仮払い制度の使い勝手、まとめ。

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預貯金の仮払い制度は新しく始まりますから、金融機関も対応に追われているところでしょう。実務的には使い勝手が必ずしも良いとは思えません。当座の葬式代と生活費があれば使わずに済ませたいところです。

金融機関がどのような対応をするのか今のところ見えていません。例えば「便宜払い」をやめてしゃくし定規に口座凍結をして遺産分割協議書を求めてくるのか、預貯金仮払い制度を前面に立てて融通を利かさなくなるのかわかりません。

金融機関によっても手続きの手順や手間が変わりますから、それにも影響を与えると思います。圧倒的に手間がかかるのがゆうちょ銀行、JAは組合員相手には丁寧に対応します。一般の銀行も似たようなものですが、預貯金仮払い制度で必要になる相続情報は、仕事を持つ身の上では有休を2日~3日ぐらい取らなくては進みません。相続が発生すればそんなことをやっている時間はなく支払いが来ます。

ゆえに手元資金が心もとない時は、早めの引き出しで必要額を工面することが大事であるとアドバイス申し上げます。

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