改正民法2019|相続財産の所有権は登記優先。

改正民法2019|相続財産の所有権は遺言より第三者の登記優先。

DSCF1766相続財産の所有権を主張するためには登記が必要になりました、と言っても普通の相続ではあまり関係がありません。今のところではまだ相続で不動産を引き継いでも登記するかどうかは自由です。

何かの事情で第三者に対して相続した不動産の所有権を主張するためには登記をしておいた方が有利になりましたということです。財産の所有権を判断するうえで、登記や登録などの客観的事実が遺言書よりも優先することになりました。

ただ今後は、相続による不動産の所有権の移転は名義変更登記を求められるようになる可能性があります。少子高齢化と人口減少、都市部への人口集中は相続時の登記にまで影響が及ぶ時代になりました。

民法改正の主な項目をあげました。今回は「5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。」についてです。
1)配偶者の居住権を保護「配偶者居住権」の新設。
2)預貯金の仮払い制度の創設。
3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。
4)遺留分制度の見直し、金銭請求。
5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。
6)相続人以外の特別寄与分の請求権。

◆ 所有者不明土地問題が改正の発端。

所有者不明土地問題は、今回の民法改正と直接の関係はないのかもしれませんが、改正の発端というか要因の一つにはなったと思います。日経新聞によると東日本大震災後の復興事業で用地買収の妨げとなり、所有者不明の土地は全国で約410万ヘクタールにも上り、2040年には北海道本島に匹敵する約720万ヘクタールにおよぶというべらぼうさです。

損失額の推計でも約6兆円とか、机上の計算ではありますが、相続登記の先送りが大変な経済的損失を招いたというわけです。

それは相続人が登記を放置するから悪いと言う問題ではなく、不動産価値が都市部に集中し、土地活用ができない価値の低い地方が見捨てられた必然的結果です。国家的な仕組みを変える以外に方法はないと言うことだと思います。

ネット上の情報によると最後の登記から50年以上経過した土地は大都市で6.6%、中小都市などで26.6%などとなっています。実感から言えば、田舎の田畑ではもっと相続登記未了は多いかもしれません。

50年という歳月は人間の人生で考えると、相続も2回転する期間です。相続
人は散らばり子や孫、ひ孫にまで権利関係が及んでいることもあるでしょう。そう
なると縁遠い親族も多くなります。相続の手続きをお願いするときには一苦労も二苦労も予測されます。

民法改正による相続財産の所有権登記優先は、所有者不明土地問題の解決策の切り札ではありませんが、一抹の効果は期待できるかもしれません。

◆ 相続の時、登記を変更しない理由。

特別な事情がない限り相続の時に名義変更登記はしないのが一般的です。相続の時登記を変更しない理由は、登録免許税や司法書士などに登記を依頼すると結構なお金がかかることも理由の一つですが、当面放置しておいても、とりあえず何の問題も発生しないということがあります。

一次相続では、相続税がかからない場合は、相続が発生しても当座の葬式代などのお金が手元資金で足りれば、遺産分割協議書すら作る必要はありません。相続人同士の仲が良くないとか、争族がなければ、遺産分割協議書のように大げさなものがなくても金融機関が用意する書面に相続人が実印を押せば処理が済んでしまいます。不動産として評価が高い駅前の土地などは相続を機に売却したり、換金の必要性に迫られたりすることもありますから名義変更登記は必要になりますが、評価の低い田舎の土地や田畑、山林は名義変更登記をすれば、売れもしないのに固定資産税が毎年来ます。

それだけではなく放置すれば雑草が繁茂し近隣からクレームが来ます。固定資産税だけではなく、手入れや管理費用もばかにならないのです。相続人にすればかかわりたくない遺産なのです。

◆ 名義変更登記の重要性。

DSCF1892

しかし相続での名義変更登記は放置しておくと所有者不明土地問題になるよりも前に、二次相続で困ることがあります。一次相続で相続税がかからなければ、田舎に住む母親に遺産をすべて相続してもらい、不動産登記などは何もせずそのままに放置することが多いと思います。

そのまま二次相続を向かえると数次相続という問題が発生することがあります。相続人の一人がなくなっていたりすると、とてもややこしくなるのでここでは触れませんが、たとえ少々費用はかかっても一次相続で遺産分割協議をまとめて名義変更登記を済ませておく理由があります。これがさらに放置されると所有権不明土地問題につながります。

◆ 遺言書より登記の権利が優先に。

これまでは、有効な遺言書で相続人を指定してあれば第三者の登記に対しても一定の対抗ができたのですが、それが現実的な登記に記された権利の方が遺言書の指定より優先になったのです。やはり遺言書を書く前に、財産目録をエクセルで整理するときに不動産関係はすべて登記簿を上げて権利関係を精査しておくことが大事です。

考えてみれば、所有権不明土地問題に端を発した社会問題への対応の一環として、相続時の名義変更登記を促進する狙いがあるものと思われます。不動産の名義変更登記をすれば、役に立たない土地の固定資産税の支払いが相続人に回ってくるだけでなく、登録免許税や登記の手続き費用が発生しますから引き継ぐ相続人にすれば面白くない話ですが、登記を先送りすることはまたそれなりのリスクがあるということです。

◆ まとめ

DSCF1767

もともとは不動産を購入した際、不動産登記をしなければ他の者に対して、不動産の所有権を主張することができませんでした。

しかし、相続で不動産を譲り受けた場合は、登記をしなくても第三者に所有権を主張することができました。これまではそれで特に問題は発生しなかったので、相続での不動産登記は売買するような事情がなければ先送りして忘れてしまうケースが多かったわけです。

所有者不明土地問題は、経済発展を重視し地方と地方に暮らす国民の生活を軽視した政策の誤りです。これは今後さらに深刻になると予測される国家的な大問題です。相続を原因とした不動産の所有権移転登記の義務化で解決する問題(まだ義務化されていません。)ではないと思います。

確かに不動産は登記しないと売却できませんが、田舎の活用度の低い土地や放棄田、荒れ果てた畑は、所在確認もできないような原野になっていたりしますから登記する動機がありません。このような売却できない資産価値の低い土地を相続したいと思うはずもありません。

自分の子や孫の代に複雑な不動産登記手続きを残さないと言う理屈はよくわかりますが、現実はもっと深刻な事情があります。相続登記を義務化して罰則までもうけるという案もあるそうですが、それは現実を無視した無茶というものです。

本題からそれていますので軌道修正をすると「相続財産の所有権に登記や登録を重視する。」という改正が行われました。このことが直接、影響するケースがどれほどあるかということになると相続時の登記を先送りする理由から考えれば、あまりなさそうです。

相続時の登記を否定するものではなく、できれば登記をする方がよいに決まっ
ていますが、そうはできない事情があるから放置されるのです。水は高い方から低い方へしか流れません。もう少し知恵を絞った政策で、相続登記にインセンティブを与える工夫ができないものでしょうか。

Pocket

「改正民法2019|相続財産の所有権は登記優先。」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です