逓増定期保険の名義変更に網がかかるか、不穏な噂。
追記2021/6/25:
国税庁により逓増定期保険の名義変更にかかる保険契約の権利評価の見直しが行われました。2021年6月25日、資産計上額で評価するという通達(所得税基本通達36-37)が発遣されました。さらには2019年7月8日までの契約に遡及し、逓増定期の名義変更スキームは完全に封じられました。
※過去の記事ですので、これまでの経緯として参考程度にお読みください。
国税庁から昨年の6月28日に出されたトドメ通達で、保険料の損金算入ルールは法人保険業界を震撼させました。多くの法人保険を扱う保険営業、保険代理店、その他税理士や法人保険得意の方々には開店休業のような厳しい一年となりました。いまだに道が見いだせないなか、2年目のホワイトデーを迎えようとしています。
そんな中で国税庁の網からすり抜けたように生き残ったスキームが、逓増定期の名義変更です。今のところ逓増定期の名義変更を扱う保険代理店のみ、気を吐いています。その唯一残るウルトラスキームにかかる不穏な噂があります。これまでも同様の噂がなかったわけではありませんでしたが、これまでといくばくか状況が異なります。
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◆ 逓増定期保険の名義変更とは。
逓増定期保険とは、死亡保障が短期で逓増する定期保険です。おおむね前期期間の5倍程度の保障額になることが多いようです。定期保険ですから後期期間の保険料を含めて平準化(全期間保険料が同じ)していますら、保険料には保障額が大きくなる後期保険料の前払い部分が、多く含まれることになります。このため早期に解約すると、前払い部分の保険料が解約返戻金として戻ってくることになります。
この仕組みを利用して法人で逓増定期保険を契約し、前期期間の解約返戻率の低い時期に経営者などに名義変更します。低い解約返戻金で譲渡を受けた経営者は、解約返戻率が急増するタイミングで保険料を1回払った後に解約して、多額の資金を手にすることができます。
それも、もうけた部分の解約返戻金は一時所得になり、所得税が大幅に安くなります。この逓増定期の名義変更スキームで、法人の利益を経営者や後継者などに付け替えることができるのです。事業承継設計には、非常に有効なスキームと言えると思います。
◆ 逓増定期保険のこれまでの経緯。
逓増定期保険は、全額損金で処理できる時代がありました。細かいルールがありますが、割愛して端的に申し上げれば平成20年2月27日までは全額損金が主流でしたが、同年28日以降は半分を資産計上する取扱いに変わりました。それでも逓増定期の名義変更は、美味しいスキームとして生き残っています。
そして、昨年の6月28日に出されたトドメ通達では、最高契約返戻率による損金算入割合が規制されました。名義変更に使う逓増定期などは、最高解約返戻率が高いことが前提ですから、保険料の損金算入メリットは完全になくなりました。しかしそれでも逓増定期保険の名義変更は、損金の発生時期こそコントロールが難しくなりました。しかし法人から個人への資金移動の手段としては、しぶとく生き残ったという経緯があります。
◆ 逓増定期の名義変更はバレンタインショックの生き残り。
ほとんどすべての損金算入率を売り物にする節税保険に網がかかり、売るべき保険商品を見失った保険業界ですが、そうでない代理店もあります。一部の逓増定期の名義変更を得意とする代理店だけが、バレンタインショックをしり目に逓増定期保険を売りまくっているという実態があります。
そうなると保険販売で食えなくなっている他の代理店や税理士なども、最後の強力スキームに集中せざるをえなくなります。それが過剰に拡大すると、またまた国税庁が権力をふるうことにつながりかねないのです。
◆ 逓増定期の名変にかかる噂を分析。
実は前項で書いたような、逓増定期の名義変更が拡大しつつあるのを感じています。これまで保険をすすめることをよしとしない税理士法人まで、逓増定期の名義変更とオペレーティングリースをすすめてくるのです。
これまでのリスク感覚はこの際ご破算にして、売りの一手でアプローチしてきます。銀行系の代理店も背に腹は代えられないとばかり、逓増定期の名義変更を提案するようになりました。
こうなるとまた同じことの繰り返しです。そんな中、不穏な噂の信ぴょう性が高くなってきます。
◆ 逓増定期の名義変更は節税が目的ではない。
気の毒なのは、保険会社所属の保険営業です。自社の保険商品に有利な条件の逓増定期保険がなければどうしようもありません。せいぜい生き残りをかけて、ハーフタックス養老保険かドル建ての返戻率のよい保険をすすめるぐらいしが手がないのです。
切り口を変えた説明をされても、買う側からすれば目の前の今期の利益をどうするかに応えきれていないのです。
そういう点では逓増定期保険の名義変更は、節税保険と目的が違います。目先の節税ができなくても、出口ではそれなりの損金が発生します。利益が出る体質の企業にとれば、数年後の損金発生をうまく組み合わせれば使えるのです。
しかし何より美味しい仕組みは、役員報酬でなく、役員賞与でなく、配当でもない手法で個人資産を増加させることができます。それも一時所得という美味しい税制で。
◆ 逓増定期の名義変更に係る不穏な噂、まとめ。
ここでは不穏な噂をまとめなければいけないのですが、逆に逓増定期の名義変更をおすすめしてしまいました。
今回はそういう意図ではありません。それなりのルートの情報によると、逓増定期の名義変更はけしからんという話が聞こえてきます。ここは用心しつつ損得を考えるときだと申し上げたいのです。
結論から申し上げると、名義変更をする場合の譲渡金額に関して、通達で解約返戻金相当額から保険積立相当額とされれば万事休すです。ところがこれはそれほど簡単なことではないので「所得税法基本通達36-37」で規定されていることとの矛盾をどう説明するかということがあります。
そこは詭弁の国税庁、いざとなったら何とでも言いつくろうでしょうから、絶対的な安全はないということかと思います。また既得権云々ではなく名義変更時の評価額の問題ですから、既契約も一網打尽になるものと推測されます。ただ逓増定期保険は資産計上さえ通達に従い正しく処理しておけば、単なる逓増定期保険でしかありません。ダメになったらピーク時に会社で解約すれば、それで何も起こりませんしお咎めもありません。もちろん保険料の多くは資産計上していますから、出口としての雑収入もほとんど発生しないでしょう。
しかしよく考えてみれば名義変更の価値がなくなった時点で、逓増定期保険の価値もなくなっています。不要な保障を短期で上乗せして税金を払いつつ、保険会社と保険代理店に貢いでいるだけになります。
それなら何もしないで税金を払った方がましになります。そういう見方もありますから、逓増定期の商品を選ぶときは最高解約返戻率が少しでも高いものを選んでおけば、まだ網がかかっても救われるというものです。それはどこの保険会社かいう問いは各自お調べください。
※逓増定期の名義変更スキームは、ホワイトデーショック以後意味がなくなりました。過去の記事ですので、これまでの経緯として参考としてください。
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