生前贈与し過ぎると厳しい老後。
相続税の節税対策で生前贈与を考えておられる方向けに本音の話を書きました。生前贈与をすすめておきながら、生前贈与のリスクを並べるのは若干自己矛盾ではありますが、生前贈与の注意事項をわかりやすくまとめました。
お若い方には理解しにくいところがあるかもしれませんが、ある程度の年齢になると見えてくるものがあります。やりすぎの生前贈与が招く人間模様、老後資金が破綻することがないような後悔しない生前贈与とはどうすればよいのか、お考えいただく機会にでもなれば幸いです。
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◆ 相続税の節税の王道、生前贈与とは。
相続税の基礎控除が下げられてから相続税の納税者層のすそ野が広がりました。その結果、相続税の節税対策として生前贈与があちこちでブームになっているようです。確かに言えることは相続税の節税対策で不動産投資をするよりはるかに安全確実な節税になります。節税対策として不動産投資をすることはてっとり早く効果も大きいので景気がよく地価が上り調子のときにはよいのですが、不動産バブルはいつかはじけるとしたものです。
ましてや世間は、今やコロナ・ショックの真っただ中、終息も見えなければ景気落ち込みの予測がつきません。そのようなリスクの高い不動産投資で相続税の節税をするより、長期的に時間はかかりますが暦年贈与を基本とした生命保険の活用で生前贈与対策をする方が失敗が少ないと言うものです。
◆ 贈与税と相続税の関係を一から説明。
一般には実感が伴いませんが、贈与には税金がかります。親子間でも夫婦間でも日常の扶養の範囲を越えた贈与はお金であろうと物であろうと贈与税が課税されます。贈与税というのは相続税と補完関係にあります。相続税逃れで生前に贈与することに一定の網をかけることで課税漏れがないようにする仕組みです。
日常生活では贈与税を意識することはないのでいきなり贈与税と言われてもしっくりこないと思いますが、マンション購入の頭金を親に出してもらえば贈与税の対象です。マンションローンの残債を嫁の親に肩代わりしてもらっても贈与になります。不動産を相場より安く譲ってもらってもやはり贈与です。
贈与税には基礎控除という非課税範囲があり年間110万円以内なら贈与税の課税対象にはなりません。110万円を一つのラインとして贈与を毎年繰り返すと結構な金額になります。贈与税はもらう人単位ですから、子や孫が多ければ相当な金額を贈与することができます。あげる人はいくら贈与しても贈与税を払うわけではないので子や孫の数が多いと多いなりに贈与をすればよいわけです。
贈与税の納税はもらう人単位ですから、父親から110万円もらえば非課税ですが同じ人がそれ以上に母親から100万円もらったら110万円をこえる部分には全額に贈与税がかかります。
◆ 度重なる贈与は貧乏の元。
祖父母や親は子や孫が喜ぶとついつい贈与したくなります。帰省のたびにお小遣いを渡したくなります。何かとお祝いや援助をしたくなります。頭の中では、生前贈与で相続税の節税などと考えていると生前贈与の額も大きくなりがちです。子や孫も生前贈与を当てにしだすと贈与をやめることが難しくなり、この生前贈与が度重なると巨額になることがあります。
何ごとも「過ぎたるは及ばざるがごとし」といいます。まだ最初から計画した生命保険の保険料のような金額が固定している贈与は安全ですが、思いつきの生前贈与は老後貧乏の元になります。くれぐれも生前贈与は慎重にと申し上げる理由は次項に詳しく書きました。
◆ 生前贈与の怖さはもらうのが当たり前化。
贈与とは棚ぼたの不労所得である相続財産の前渡しです。そもそも期待していなかった贈与はもらった子や孫にすれば年末ジャンボ宝くじの3等に当たったようなものです。宝くじに当たった人は柳の下にドジョウが2匹とばかり必ずまた宝くじを買います。
人間とはわがままにできていますから、一度もらってうれしければそれで満足することはなく余計に、二度目三度目の贈与に期待が膨らむのです。
贈与を当てにされると悲しいことですが不仲の原因となります。期待を裏切ると不機嫌になり寄り付かなくなるのが怖いので孫の顔見たさに贈与を繰り返してしまいます。こうなるともらうのが当たり前化して果ては請求してきます。家を直すとか、車を買うとか理由をつけて援助を求めてきます。
請求金額もエスカレートし、もらう金額が少なくなると不満を言うようになります。生前贈与の怖さはもらうのが当たり前化することです。こうなったら相続税の節税どころではありません。老後資金の枯渇につながります。挙句の果てが親子でも金の切れ目は縁の切れ目、とまでは申しませんが、安易に生前贈与などしたばっかりに不仲になったり、子や孫から疎(うと)まれたりすることにもなりかねません。
よく考えれば、相続税はあげる側の被相続人が払うものではありません。払うのは相続人ですから節税など考えなくてもよいのです。あげなきゃよかった生前贈与などとならないよう慎重にすべきなのです。
ある資産家の奥さんに二次相続対策をおすすめしたことがありますが、老後資金は減らしたくないし自分が相続税を払うわけではないので節税は考えていませんと言われたことがあります。子や孫には宅配のピザ代は払ってくれますが、まとまった金はあげない主義です。実に賢明な方だと思いました。
◆資金需要が見えない老後。
何があるかわからないという教訓は今回のコロナ・ショックでもよくわかりました。人生には不慮の事故、思いがけない病気、想定外の支出、そして新型コロナウイルスのような誰にも予測不能な未知のリスクがあります。気がつけば相続税の節税どころではないピンチが待ち受けています。
その先には老後資金枯渇という恐怖が口を大きく開けているのです。コロナ・ショックで景気対策にお金を使いすぎたツケは最後の砦ともいうべき年金に降りかかってくるでしょう。その結果、虎の子の年金は逃げ水のように先送りされ老後の資金計画が狂いだします。
さすがに贈与してしまったものは返せとは言えないのです。医学が進んだ結果、いやな言い方になりますが不慮の長生きということもあります。老いてからの資金計画の狂いは修正ができません。それだけに生前贈与は慎重にと申し上げたいのです。
◆ まとめと親の老後資金を無心する子の心理。
まとめになるかどうかわかりませんが、親の老後資金を無心する子の心理ということもあります。親はある程度財産があると無意識に秘密主義になります。
正確な財産を子に伝えないのは、当てにされたくないという心理が働くからです。その結果、子は親の財産を過大評価してしまいがちなのです。
そうなると兄弟姉妹間で早い者勝ちの無心合戦が始まります。親にすれば公平にとは言いながら子を区別します。もらう側の子にすれば、自分がもらったことは忘れて他の兄弟姉妹に贈与されると心底穏やかではなくなります。親に生前贈与を無心する子の心理は子の配偶者を巻き込んで業(ごう)と欲(よく)が渦巻きます。いかに冷静な人格者でも顔には出しませんが、こればっかりは逃れることができない性(さが)です。
生前贈与は相続税対策の王道です。しかし生前贈与のやりすぎに陥らないよう十分注意されることが肝要です。決して生前贈与は子や孫のためにはなりません。それどころかご自身の老後資金計画に狂いが生じます。親心も目先だけでは子のためになりません。たとえ生前贈与をせずに嫌われても一時のことです。財産があれば、そして財産を手放さなければそのうち寄り付いてきます。
そういう意味での結論は、生前贈与は暦年贈与で保険料を贈与する生命保険がベストです。今すぐ使いえない贈与をもらってもあまり喜ばれないという特性はありますが、生前贈与の当たり前化にはつながらないので安心です。あげるなら10万以内、それも不定期で、もらうことが思いがけないほどもらう方はうれしさが増加するからですね。
「やりすぎ生前贈与が老後破綻を招く。」への2件のフィードバック