保険の失効を失敗させる自動振替貸付の恐怖と具体的対応策。
利益の出ている法人では、期ごとの利益を調整したいことがよくあります。契約している保険では、解約返戻率がピークをむかえるが、今年度に解約すると雑収入が出すぎて具合が悪いという場合です。
保険契約を失効させておいて、解約返戻金の受け取りを繰り延べします。翌年度以降に費用と解約返戻金の雑収入が釣り合うことで、税金というコストが削減できます。
解約返戻率の最も高い時期に保険を解約する方法として、解約返戻率がピークのときに保険料を支払わずに先送りする「失効」というテクニックがあります。
しかし保険には自動的に解約返戻金を保険料に充当するという「自動振替貸付」という機能があります。
せっかく保険料の支払いをストップし、失効させようとしているのに自動的振替貸付をされたのでは、解約を先送りするという目的が達成できません。保険契約を失効させて解約を先送りするということは、普通のことではないので事務処理上で怖い落とし穴がいくつかあります。具体的に対応策を解説します。
・失効の詳しいリスクの解説と事例はこちらです。
■法人保険の失効は、思いがけずリスクが大きい理由を具体的に。
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◆ 口座振替から振込みに変更して保険料支払いをストップ。
一般的には、法人で契約する保険は年払いで口座振替とすることが多いようです。月払いより年払いの方が、保険料が安くなります。また経理処理などの事務手続きも年一回で済みますから、簡素化され管理がしやすくなります。
口座振替とは、銀行口座から時期が来たら自動的に保険料が引き落とされ、保険会社に入金される仕組みです。自動的に処理されますから、口座振替では失効させることはできません。
生命保険を失効させるための注意事項の第一番目として、「振込」に変更しておく必要があります。保険料を銀行の「口座振替」にしている場合は、勝手に引き落とされないよう払込方法を変更してください。
保険会社のサポートに申し出るか、代理店に依頼すれば変更の請求書をくれます。必要事項を記入し、捺印して提出すれば、口座振替から振込に変更できます。保険料の支払時期が来れば、保険会社から振込用紙が届きます。それを誤って振り込まなければ、失効させることができます。しかしそれだけでは失効できない場合があります。
■保険料には払込猶予期間があり、口座振替できなくても自動振替貸付。
◆ 保険会社の対応と自動振替貸付の恐怖。
法人保険の年払い契約では、保険料は毎年契約日のある月の月末ですが、支払いが遅れた場合の猶予期間(この間に保険料を支払えば失効しない期間)があり、契約日のある月の翌々月の契約応答日か月末までになります。
くわしくは生命保険文化センターのサイトをご参照ください。ざっくりいえば3月の契約なら5月の契約応当日までという感じです。細かいルールはありますが、保険業界共通で、支払月の翌々月まで、つまり2カ月ほどは支払を待ってくれるわけです。
■財団法人生命保険文化センター「保険料の払込猶予期間と失効」
ただ、失効期限をすぎると保険会社は契約を有効に継続させようと解約返戻金を保険料に当て込む自動振替貸付という制度に進みます。せっかく保険料の支払いをストップしようと振込に変更しても、自動振替貸付という落とし穴が口を開けています。
■保険料の払込は、猶予期間がどこまであるか知らないと責任問題に。
◆ 失効までの半端ないリスク、簡単なようで落とし穴。
法人保険、失効の落とし穴を、実体験からご案内します。
保険の管理者と経理担当者が別人ですと、せっかく振込に変更しても、保険会社から振込用紙が届けば、条件反射のように振り込もうとします。
メールで振込停止を連絡しておくくらいでは、止まらないのです。
そんなバカなとお思いでしょうが、目の前にある振込用紙には振込停止とは書いてないのです。保険管理者が知らないうちに開封されて経理に回っています。危ない経験があるから言えるのですが、誰も信用してはいけません。
もう一つリスクがあります。
期限までに保険料を支払わないと、保険会社から「保険料お払込みのお願い」という振込用紙付きの督促が届きます。ここでも振込用紙を無視して、振込を停止しなくてはいけません。それには、「お払込期限」として失効までの有効期限が記載されています。慌てて振り込んだりしないようストップをかけておかなくてはなりません。
それだけではありません。その「保険料お払込みのお願い」には小さな字で下記のような文言が記載されています。
ご注意◆払込期限までに保険料のお払込みがなかった場合ご契約には保険料自動振替貸付が適用されます。
※保険料自動振替貸付について約款の定めによりご契約の解約返戻金の範囲内で保険料を自動的に立て替え、年3.25%の利息がつきます。猶予期間内に保険料のお払込みがない場合でもご契約を有効にご継続いただけます。
保険料を振り込まずに失効させる計画の保険管理者にとっては、自動振替貸付などという勝手なことをされたのでは、それこそ真っ青です。それも小さな字で書いてありますから、経理担当者は間違いなく見落とします。
◆ 失効失敗のリスクはハンパない責任問題。
失効させる予定の契約を自動振替貸付されるとどうなるか、保険は失効せず解約返戻率は次のステップへ進みガタ落ちになります。さらに保険会社が勝手に解約返戻金を当て込みますから、銀行口座から落ちませんのでなかなか気がつきません。
その上、立て替えられた保険料には高い利息がついてくるのです。解約したときには、解約返戻金と相殺されてしまいます。うっかりすると責任問題です。
失効されるなら、ここだけはくれぐれもご注意ください。保険料の支払い方法を振込に変更すると同時に、保険会社のサポートか代理店に連絡して、自動振替貸付の停止を申し入れ必要な書類を期限までに提出して下さい。
ただあまり一般的な書類ではないので、サポートの窓口でも詳しい担当者がこちらの意図を確認します。はっきり失効を目的とするとお伝えください。そうすればわかります。
老婆心までに、生命保険文化センターの一文を引用しておきます。間違いには救済措置もありますが、そうならないことが大事です。
「自動振替貸付を希望しない場合には、自動振替貸付が行われた後でも、一定期間内に解約または延長(定期)保険・払済保険への変更手続きをすれば、自動振替貸付はなかったものとされます。」
失効させようとしているからには理由があります。保険契約には解約返戻率のピークがあり、そこで保険契約を凍結し解約返戻率が高いままに先送りするのが失効の目的です。そして都合の良い時期に解約し雑収入を有効に活用します。
保険によっては解約返戻率のピーク時を過ぎて、保険料を払ってしまうと解約返戻率がガタ落ちになるものがあります。解約返戻率の低下は、それまで支払った保険料全部にかかわってきますから、失効をミスった場合、損失も大きくなります。つまらない失敗をしないよう失効は慎重にと申し上げておきます。
◆ 失効と自動振替貸付のリスク、まとめ。
法人で解約している節税保険の失効と、それに絡む自動振替貸付のリスクについて解説してきました。仮に気づかずに自動振替貸付に進んで何年か経過後にどのような処理になるか、それは保険会社によって対応が異なる可能性があります。
危ない橋を渡るようなことは避けていただき、保険料を振込に変更すると同時に速やかに自動振替貸付の停止手続きをしてください。
節税保険の出口対策の調整テクニックとして、失効があります。保険料の支払いを停止して保険を失効させれば解約時期を先送りすることができます。たとえ1年で2年でも先送りできれば、課税の繰り延べにもなり、簿外資金を有効活用するチャンスに恵まれるかもしれません。
とくにバレンタインショックの前に駆け込んだ、大量の節税保険があると思います。契約している保険会社により、失効から復活できるまでの期間が短いことがあります。また復活できない保険は、解除して一方的に解約返戻金を振り込んでくる会社もあります。
代理店や保険営業では、正確な回答が得られないことがあります。カスタマーサポートの回答は確実ですから、念押しの確認をすることです。
ご案内したように失効といえば簡単そうに見えますが、自動振替貸付のようないくつか落とし穴があります。できれば失効などというテクニックを使わずに済む、出口対策を設計いただくことをおすすめしたいところです。
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