法人保険の失効と自動振替貸付にまつわる恐い落とし穴。

法人保険の失効と自動振替貸付にまつわる恐い落とし穴。

利益の出ている法人では、期ごとの利益を調整したいことがよくあります。契約している保険では、解約返戻率がピークをむかえるが、今年度に解約すると雑収入が出すぎて具合が悪いという場合です。

保険契約を失効させておいて解約返戻金の受け取りを繰り延べすると、翌年度以降に費用と解約返戻金の雑収入が釣り合うことで税金というコストが削減できます。失効するわけですから保障はなくなりますが、節税目的の保険ではそもそも保障を期待しているわけではないので、解約時期のコントロールはとても重要です。

解約返戻率の最も高い時期に保険を解約する方法として、解約返戻率がピークのときに保険料を支払わずに先送りする「失効」というテクニックがあります。しかし保険契約を失効させて解約を先送りするということは、普通のことではないので事務処理上で怖い落とし穴がいくつかあります。

◆ 法人財務で生命保険契約を失効させる意味。

生命保険契約の失効を活用する具体的なケースでは、費用がかかる年度に解約を延期するというような場合として様々なケースが想定されます。来期に工場建設を予定したり、役員の退職慰労金支給したりする予定があるような場合です。また解約時期が近づいてきても出口対策ができていない、あるいは予定が狂って出口対策が先送りされるようなケースもあります。

節税保険を一網打尽にした国税通達以来、代りに解約返戻金の雑収入を受ける損金タイプの保険はもはや期待できなくなりました。そういう手詰りになったときに、解約返戻金で生まれる雑収入を合法的に繰り延べする手段として保険契約の「失効」を考えます。

◆ 失効の定義と復活の条件。

失効とは、読んで字のごとく保険としての保障の効力を失うことです。普通の失効は保険料が払えなくなり、やむなき仕儀として失効するのですが、意図的に払込猶予期間に保険料の支払いをせず、自動振替貸付制度も停止して契約の効力を失わせることを言います。

失効となると保険契約の効力がなくなり、保険金を受け取ることができなくなります。ただし、保険契約が失効した場合でも、3年以内であれば「復活」によって契約を元に戻すことも可能です。

あまりないですが、財務的な理由で失効させたものの事情が変わって復活をする場合には、失効していた間の保険料と利息の支払いが必要になりますし、健康状態についての告知や診査も必要です。

解約予定で失効させていたが、被保険者の体調がよろしくないので復活しようと考えても、その場合は告知と診査が壁となるでしょう。

◆ いつまでに解約するか、雑収入の出口対策。

失効させた後、いつまで先送りできるかという問題があります。復活できる期限とされる3年までは先送りできる理屈ですからその間に出口対策を考えなくはなりません。

微妙な問題があるのですが、顧問税理士の見解によると失効の時点では、解約返戻金を認識して雑収入を差益として処理する必要はないそうですが、復活手続きをとらないまま復活可能期間を経過した場合には、保険契約に戻る道が閉ざされているので解約返戻金を受領したものとしてそれに含まれる雑収入は計上すべきものと言うことでした。

この件は解約返戻金の消滅時効という問題も含まれています。下記をご参考に。

消滅時効にかかる解約返戻金の請求権の真実に迫る。

◆ 口座振替から振込みに変更して保険料支払いをストップ。

一般的には、法人で契約する保険は年払いで口座振替とすることが多いようです。月払いより年払いの方が、保険料が安くなりますし、経理処理などの事務手続きも年一回で済みますから簡素化され管理がしやすくなります。

口座振替とは、銀行口座から時期が来たら自動的に保険料が引き落とされ、保険会社に入金される仕組みです。自動的に処理されますから、口座振替では失効させることはできません。生命保険を失効させるための注意事項の第一番目として、保険料を銀行の「口座振替」にしている場合は、勝手に引き落とされないよう払込方法を「振込」に変更しておく必要があります。

 

生命保険を失効させたければ口座振替はやめなさい。

保険会社のサポートに申し出るか、代理店に依頼すれば変更の請求書をくれますから、必要事項を記入し、捺印して提出すれば口座振替から振込に変更できます。保険料の支払時期が来れば、保険会社から振込用紙が届きます。それを誤って振り込まなければ、失効させることができます。

◆ 保険会社の対応と自動振替貸付の恐怖。

法人保険の年払い契約では、保険料は毎年契約日のある月の月末ですが、支払いが遅れた場合の猶予期間(この間に保険料を支払えば失効しない期間)があり、契約日のある月の翌々月の契約応答日か月末までになります。

くわしくは生命保険文化センターのサイトをご参照ください。ざっくりいえば3月の契約なら5月までという感じです。細かいルールはありますが、保険業界共通で、支払月の翌々月まで、つまり2カ月ほどは支払を待ってくれるわけです。

■財団法人生命保険文化センター「保険料の払込猶予期間と失効」

ただ、失効期限をすぎると保険会社は契約を有効に継続させようと解約返戻金を保険料に当て込む自動振替貸付という制度に進みます。せっかく保険料の支払いをストップしようと振込に変更しても、自動振替貸付という落とし穴が口を開けています。

◆ 失効までの半端ないリスク、簡単なようで落とし穴。

法人保険、失効の落とし穴を、実体験からご案内します。

保険の管理者と経理担当者が別人ですと、せっかく振込に変更しても、保険会社から振込用紙が届けば、条件反射のように振り込もうとします。メールで振込停止を連絡しておくくらいでは、止まらないのです。そんなバカなとお思いでしょうが、目の前にある振込用紙には振込停止とは書いてないのです。保険管理者が知らないうちに開封されて経理に回っています。危ない経験があるから言えるのですが、誰も信用してはいけません。

もう一つリスクがあります。

期限までに保険料を支払わないと、保険会社から「保険料お払込みのお願い」という振込用紙付きの督促が届きます。ここでも振込用紙を無視して振込を停止しなくてはいけません。それには、「お払込期限」として失効までの有効期限が記載されています。慌てて振り込んだりしないようストップをかけておかなくてはなりません。

それだけではありません。その「保険料お払込みのお願い」には小さな字で下記のような文言が記載されています。

ご注意◆払込期限までに保険料のお払込みがなかった場合ご契約には保険料自動振替貸付が適用されます。

※保険料自動振替貸付について約款の定めによりご契約の解約返戻金の範囲内で保険料を自動的に立て替え、年3.25%の利息がつきます。猶予期間内に保険料のお払込みがない場合でもご契約を有効にご継続いただけます。

保険料を振り込まずに失効させる計画の保険管理者にとっては、自動振替貸付などという勝手なことをされたのでは、それこそ真っ青です。それも小さな字で書いてありますから、経理担当者は間違いなく見落とします。

失効させる予定の契約を自動振替貸付されるとどうなるか、保険は失効せず解約返戻率は次のステップへ進みガタ落ちになります。さらに保険会社が勝手に解約返戻金を当て込みますから、銀行口座から落ちませんのでなかなか気がつきません。

その上、立て替えられた保険料には高い利息がついてくるのです。解約したときには、解約返戻金と相殺されてしまいます。うっかりすると責任問題です。

失効されるなら、ここだけはくれぐれもご注意ください。保険料の督促が来たなら、すぐに保険会社のサポートか代理店に連絡して、自動振替貸付の停止を申し入れ必要な書類を期限までに提出して下さい。ただあまり一般的な書類ではないので、サポートの窓口でも詳しい担当者がこちらの意図を確認します。はっきり失効を目的とするとお伝えください。そうすればわかります。

老婆心までに、生命保険文化センターの一文を引用しておきます。間違いには救済措置もありますが、そうならないことが大事です。

「自動振替貸付を希望しない場合には、自動振替貸付が行われた後でも、一定期間内に解約または延長(定期)保険・払済保険への変更手続きをすれば、自動振替貸付はなかったものとされます。」

失効させようとしているからには理由があります。保険契約には解約返戻率のピークがあり、そこで保険契約を凍結し解約返戻率が高いままに先送りするのが失効の目的です。そして都合の良い時期に解約し雑収入を有効に活用します。

保険によっては解約返戻率のピーク時を過ぎて、保険料を払ってしまうと解約返戻率がガタ落ちになるものがあります。解約返戻率の低下は、それまで支払った保険料全部にかかわってきますから、失効をミスった場合、損失も大きくなります。つまらない失敗をしないよう失効は慎重にと申し上げておきます。

保険の間違いやすい経理処理、注意点まとめ。

◆ 失効と自動振替貸付のリスク、まとめ。

損金効果を利用して簿外に緊急予備資金を蓄積することは、経営にとって重要なことです。コロナ禍を見るまでもなく、中小企業の経営では何が起こるか誰にも先のことはわかりません。そのときに助けになるのが簿外に蓄積した緊急予備資金です。

国税通達により節税がほぼできなくなり、保険積立という見える形で残すしかなくなりました。というか保険を利用した課税繰り延べ策が封じられてしまいましたので、保障が必要でない限り新たな保険を契約することがなくなったということです。しかし、これまでに契約している損金効果を活用した保険は既契約として大事に継続されていると思います。損金に落としつつもしっかりと解約返戻金が戻ってくる契約は、出口対策を考えておかなくてはなりません。

ほとんどの節税保険の契約では、出口対策まで考えが及びませんからとりあえず、保険という形で資金を保険会社に預けています。出口対策がかみ合わなくても、簿外資金は緊急事態に対するリスクヘッジとして大きな意味と価値があるのですが、設備投資や費用にタイミングよく組み合わせて解約時の雑収入を相殺できれば、節税対策だけ出なく一石二鳥にも一石三鳥にもなろうというものです。

その出口対策の調整テクニックとして失効があります。保険料の支払いを停止して保険を失効させれば解約時期を先送りすることができます。たとえ1年で2年でも先送りできれば、課税の繰り延べにもなり、簿外資金を有効活用するチャンスに恵まれるかもしれません。

ところが、先にご案内したように失効といえば簡単そうに見えますが、いくつか落とし穴があります。できれば失効などというテクニックを使わずに済む出口対策を設計いただくことをおすすめしたいところです。

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