予備的遺言の効果、相続人死亡の場合遺言が無効に。

予備的遺言の効果、相続人死亡の場合遺言が無効に。

普通は、遺言者が先に亡くなるのですが、そうでないことも起こり得ます。その場合、遺言書を書き直せばよいのですが、そのときに、遺言者に遺言書を書き直す気力が残っているかということがあります。あるいは認知症を患って遺言書を書けないということも考えられます。

そういう意味で予備的遺言は、細心の用心として意味があると思います。

■遺言書の効力がものを言う、絶対必要な7つのケース。

◆ 相続人死亡の場合、遺言の内容が無効に。

まず、言葉の定義をしておきます。相続人=受遺者としているサイトもありますが、ここでは、下記のように区別します。

遺言者=遺言を残す人=被相続人=配偶者もしくは親=死後に相続財産を残す人

相続人=予定相続人=配偶者や子などの相続の権利がある人=相続財産をもらう人

受遺者=相続人ではないが、遺言者から遺贈を受ける人=遺言により相続財産をもらう人

代襲相続=被相続人の死亡以前に、子である相続人死亡により、孫に発生する相続権

正しく規定通り作成された遺言書は、法律文書として効力をもちます。しかし、書かれている内容だけを担保するので、遺言書の内容は代襲相続されないという問題があります。

遺言書で指定された相続人が、遺言者より先に死亡するようなことがあれば、遺言書のその部分は無効(それ以外の遺言は有効です。)になります。わかりやすく言えば、死亡した相続人の子が遺言書の内容を引き継いで代襲相続できるわけではないのです。

相続人死亡で宙に浮いた相続財産は、遺言書を離れて遺産分割協議となります。話がまとまらなければ、法定相続へと進みます。法定相続に進めば、死亡した相続人の子に代襲相続権が発生しますが、さらに分割されることになりますので、取り分は大幅に減ります。

このような事態を避けるため、遺言書に「相続人Aが遺言者より先に、または同時に死亡した場合は、相続人Aの子に相続させる。」と書き足しておくことを予備的遺言と言います。

■簡単に廃除できる!?できの悪い息子に相続させない方法。

◆ 予備的遺言とは、聞きなれない言葉。

予備的遺言という言葉だけでは意味が分からないと思います。聞きなれない言葉ですので、同じ遺言書を2通書いて紛失に備えると勘違いしそうですが、そうではありません。

予備的遺言とは、遺言書で遺産を相続させると指定された相続人が、被相続人(遺言者)よりも先に死亡した場合、受取りを指定した相続人がいないわけですから、その部分の遺言は宙に浮きます。

要するに遺言として効力を生じないので、そういうケースに備えて万が一に備えて受け皿相続人を指定しておくことを予備的遺言と言います。

とくに、相続人でない人に遺贈する場合は、相続人ではなく受遺者と呼ばれることになります。この場合、受遺者では予備的遺言で次の受遺者を受遺者の子というように指定しておかないと、受遺者が遺言者より先に亡くなると、権利がなくなってしまうことになります。

遺贈により相続財産を取得する受遺者が先に亡くなった場合は、代襲相続は発生せず遺言のその部分が無効となります。受遺者が受ける予定の遺産は、他の相続人の遺産分割協議で配分が決定されます。

■遺言書優先の原則と遺産分割協議の矛盾について。

◆ 予備的遺言とは究極の老婆心。

世の中何があるかわかりません。人生には「まさか」も「どんでん返し」もあります。老いたものから順に旅立つとは限りません。遺言書を書いた被相続人より相続人や受遺者が先に亡くなることもあり得ます。

相続人が亡くなれば、その子(孫)が代襲相続ということもありますが、受遺者(相続人以外に遺贈を受ける人)が先になくなると代襲相続はありませんから、受遺者が相続するはずだった遺産は相続人共有の財産となり、遺産分割協議で分け方を決めなくてはなりません。結局、争族の原因がひとつ生まれるわけです。

被相続人(遺言者)より相続人や受遺者が先に亡くなることを想定して、その場合はさらに誰それに渡すという念を入れた指定をしておくことを予備的遺言と言います。

すべての不測の事態に備えることはできませんが、できる限り先のリスクを考慮した予備的遺言を作成することで、万が一の不安が少しでも抑えられるというものです。

とくに、相続人間の仲がよろしくない場合や受遺者が愛人などという場合は注意が必要です。争いごとの火種になる要素を予備的遺言で消しておくことは、円滑な相続につながると思います。

また、予備的遺言を書いておけば、被相続人の認知症などで遺言書を書き直すことができなくなった場合に備えることが可能になります。

どこまで気配りができるか、どうすれば争いを未然に防げるか、老婆心にさいなまれながら、予備的遺言を書き上げることも、ここまでくると結構死にきれなくなります。

■遺言書のメリット、とことん書けない本当の理由を行動分析で。

◆ 予備的遺言を残すか遺言書を書き替えるか、遺言との抵触等とは。

遺言書は、書き直したり複数発見されたりすると遺言書の日付の新しいものが有効になります。

こういう言い方があるかどうかは知りませんが「後遺言優先の原則」と言えそうです。ただ遺言書の内容がかぶらないのであれば、前の遺言も後の遺言も有効であるということになります。

前の遺言の内容を打ち消すような遺言は、遺言が抵触したと言って後の遺言が優先されることになります。

前の遺言の追加の遺言なのか、前の遺言を撤回したのかというややこしいことにしないためには遺言書は一通だけにすることです。前の遺言は破棄する方が明快で、よろしいかと思います。今から予備的遺言を残したければ、遺言書の書き直しをして、古い遺言書は跡形もなく始末してください。

お堅い法律文書では下記のように書かれています。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)

第1023条

  1. 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
  2. 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

遺言書の書き方はシンプルに、財産目録はエクセルで超簡単見本。

◆ 遺言書の老婆心、予備的遺言、まとめ。

遺言書の書き損じや書き直しの手間を最小限にするために、よりシンプルな遺言を目指して記事を書いてきました。しかし予備的遺言という仕組みは一考の価値があります。

予備的条項として遺言書の書き足しをすると、遺言執行者の万が一の後任まで気がかりになります。

普通は順番ですから、めったなことはないと思いますが、用心には用心という予備的遺言です。

遺言書の権利は、民法960条以降に規定されています。遺言書には有効期限がなく時効もありませんので、仮に古い遺言書が見つかれば遺言書が優先されますから、遺産分割協議は遺言書に従うことになります。

被相続人ご自身は、自分の意志に従わない争族や遺産分割協議をされても、知ることもできなければ声を上げることもできません。予備的遺言まで配慮するのであれば、遺言書の効力を担保するために遺言執行者を指定し、法務局保管制度を利用することが手堅いやり方になります。

遺言書を破棄したら罪になるかを事例で説明。

遺言書の効力が相続争いを防ぐ理由と検認の意味。

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