相続放棄連鎖の恐怖、突然の負動産相続人。
相続放棄は、口で言うより難しい問題があります。
本来の相続人が相続放棄をすることで、被相続人の親や兄弟姉妹、果ては甥姪にまで降ってわいたような相続人の責任というお鉢が回ってくることがあります。
相続人が相続放棄をするくらいですからそれなりの理由があるわけですが、よくわからないうちに相続放棄の期限である3カ月を過ごしてしまうと、とんでもないことになることがあります。
借金が財産を上回っていれば何も考えずに、3カ月の期限を待たずに相続放棄の手続きを家庭裁判所で行えば責任とリスクは回避できます。そころが、負の財産というものは見た目だけでは判断が難しいですし、素人では判断を誤ることが往々にしてあります。
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◆ 知らない間に相続人代表、固定資産税納税通知書が。
法定相続は民法で規定されていて、遺言書で指定がなければ法定相続に従うことになります。配偶者はいかなる場合でも相続人ですが、第一順位として子や孫やひ孫が相続人となります。子がなく孫やひ孫もいない場合は、被相続人の父母や祖父母が第二順位の相続人になります。父母も祖父母も亡くなっているような場合は、第三順位として被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人として登場することになります。
先順位(せんじゅんい)の相続人と言いますが、第一順位の相続人がだれもいない場合、もしくは相続放棄したような場合は第二順位の相続人が相続することになります。第二順位の相続人が亡くなっているか、相続放棄しているような場合は、思いがけず第三順位の兄弟姉妹や甥姪が相続人となることがあります。被相続人の兄弟姉妹や甥姪にとれば想定外というべき相続の権利です。
先順位の相続人が、相続放棄したことを知らなければ、後順位(こうじゅんい)の相続人は自分が相続人となっていることは知る由もないわけです。親族も疎遠になっていると連絡が取りづらいですし、そもそも相続放棄したら遠い親戚に迷惑をかけるかもしれないということを知らないということもあり得ます。
連絡できれば事情を説明し相続放棄をおすすめすることもできるのでしょうが、何もせずに先順位の相続人がそれを放置すると債権者や役所からの固定資産税通知書などにより知らされることになります。後順位の相続人にとっては寝耳に水、相続財産や負債の状況が分からないだけではなく、まともな不動産か負動産かの判断もできません。
相続放棄連鎖の恐怖と書きましたが、相続放棄は後順位の相続人に連鎖していきます。先順位の人が相続放棄するなら、それなりの理由があるからですから、そのことを知った日から3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の手続きをすることです。
◆ 田舎負動産、老朽化マンションは買い手なし。
築年数が古いマンションなどは言うに及ばす、田舎の田畑、山林、人が住まなくなった田舎の空き家などは固定資産税や管理費用が一人前以上にかかるにもかかわらず、売りに出してもほとんど買い手はつかないのです。
費用ばかりがかさんで、いつまでたっても処分できないという、まさに「負」の財産となり果てることがあります。そうすると相続したものの役立たずの負動産に泣かされるということが起こります。
素人には不動産が資産か負債かを判断することは誠にむつかしいと言わざるを得ません。価値がない負動産は、売れないだけでなく未来永劫に費用負担が発生し所有者を追い込みます。売れない、換金できない不動産は負債と考えるべきなのです。
負動産ですから、借金と同じです。利払いとして固定資産税や管理費用負担が発生します。ところが負動産と負債との違いは負動産には完済がないということです。
負動産の相続には、リスクがあることを理解していても、責任上相続人として負動産の責任を引き継ぐことがあります。その気持ちの裏にはいつか売れるかもしれないという期待があります。その期待が甘いことはやがて明らかになります。
また、負動産の管理には固定資産税だけでなく、家なら火災保険、定期的な修繕管理が必要になります。マンションなら住んでいなくても共益費や修繕積立金などの費用は免れません。田舎の田畑なら除草などの管理費用が発生します。所有することによる実入りは一銭もないのに、毎年結構な費用が発生しますが、これを免れるすべは売却するしかないのです。
交通の便がよろしくない田舎の家や築年数が過ぎた老朽化マンション、大型の耕作機械が入らない狭い田畑などは、相続してしまうともう本当にどうしようもありません。やっかいなのは、相続人が不動産を負動産と認識できるのはずっと後になってからという気の毒さなのです。お金に変わるかもしれないという期待をそう簡単に見切れるものではないのです。経済的によほど豊かであれば、先々のやっかいなことから身を引く判断もできるかもしれませんが、そうでなければ負動産のマイナス面を見抜くことはさらにむつかしいと思います。ここにえらい力を入れていますが、経験者です。一見土地持ちになったような裕福感がありますが、毎年毎年のコストに追われるとこれはまずいと売る算段を始めます。ところがいくら値下げしても、買い手の反応がないのです。そのまま時間だけが経過していきます。
近隣のスーパーマーケットとドラックストアは撤退し、小学校は隣町に集約され役場の支所は本庁に統一されます。バスが走らなくなり市町村がマイクロバスを走らすようになると寂れた感がますますつのります。信号待ちをしている車はもみじマークばかりになります。地方の市町村の人口減少と高齢化は不動産価値をどんどん引き下げます。そこに残るのは固定資産税と負動産だけとなります。
◆ 相続放棄に落とし穴、放棄できない管理責任。
相続放棄で注意すべき点がいくつかあります。負動産に注意するだけでなく、相続放棄を申し立てて家裁に認められるためには、「相続したとみなされる行為」に注意が必要です。
たとえば被相続人の預貯金をおろしたり解約したりしてはいけません。家賃などの滞納があっても相続放棄を盾に拒否してください。
遺産を相続したとみなされると、後に改めて相続放棄をすることは法律上認められていないので、誤解になるようなことは厳に慎むという感覚が大事です。
3カ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申立てを行い、受理されれば無関係となり相続問題から解放されます。相続放棄すれば知らぬ存ぜぬで押し通せばよいのですが、負動産ではそうはいかない場合があります。
相続放棄が認められれば、相続財産に含まれる不動産の固定資産税を支払う必要はありません。しかし困ったことに相続放棄が認められた場合であっても、不動産の管理義務が残ってしまう可能性があります。完全に負動産と縁が切れないということも起こりえるのです。
その辺は以下に詳しく書きました。
◆ 相続放棄連鎖の恐怖、負動産相続人、まとめ。
相続放棄をするということは、結構難しい判断になるということです。
特に、第二順位や第三順位の相続人にとっては想定外の相続となることが多く、被相続人の財産がどうなっているのか、負債がどれくらいあるのか、不動産の価値はどうなのかという情報が十分でないこともあり、さらに縁が薄いと相続情報が手に入らなかったり正確な情報が伝わらなかったりすることがあります。
明らかに負債が多い場合は、ためらわずに相続放棄の手続きを進めればよいのですが、不動産ばかりは価値があるのか、将来的な見込みなどを含めて財産的価値判断を誤る可能性が高くなります。
ただ、無価値どころか経費倒れの負動産を間違って相続してしまうと、結局処分に困り次の代まで禍根を残すことになりかねません。
不動産が負の財産であるという考えは、まだ定着していませんが法整備が進めばその辺のマイナス要因も見えてくるようになると思います。地方の不動産の実質的価値は下がり続けていると考えてよいと思います。いつか値上がりするとか、近くを道路が通れば言い値で売れるなどという夢物語をあきらめて手放せるときに手放すことが大事です。長年住んだ家や、幼いころの思い出が詰まったふるさとの屋敷や田畑を手放すことへの抵抗感はよく理解できます。
あわよくばテレワークの基地として田舎暮らしを考えているというなら別ですが、そうでなければ見切りは早い方がよろしいようです。まるで自分自身に言い聞かせているような記事になりました。