遺言書を法務局に預けると失敗する理由。
遺言書を法務局に預けると、必ず失敗すると言うわけではありません。おすすめしている自筆証書遺言書の法務局保管制度に、注意すべき点があります。改めて本記事で補足しておきたいと思います。
自分で書いて自分で保管する「自筆証書遺言」と公証人役場で証人を立てて公証人によって作成される「公正証書遺言」があります。
自筆証書遺言書は、誰にも見せずにこっそりと気軽に作れます。金庫やタンスの奥、仏壇の底などに保管しておけば秘密にできます。
隠しすぎると永遠に発見されないようなことになります。旅立つ前には遺言書のありかを信頼できる誰かに伝える必要があります。誰も信頼できないなら、貸金庫に預けておくか、法務局保管制度を利用するかという選択になります。一番確実なのは、自筆証書遺言はやめて、費用はかかりますが公正証書遺言にすることです。
遺言書の法務局保管制度についてはこちらをご覧ください。
■遺言書の法務局保管制度は自筆証書遺言書が検認不要、費用激安。
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◆ 自筆証書遺言書、法務局保管制度のネックは?
自筆証書遺言書の気軽さがそのまま弱点になり、法務局保管制度のネックになってしまいます。
「遺言書」は「遺書」と違い法律文書ですので、決められたルールや形式要件があります。
別に難しい決まりではなく、自署、捺印、正しい日付、遺言書独特の言い回しがあります。誤字脱字はご法度などという、文書としては当り前のことです。しかし慣れていない素人の方には、見落としが出やすいかもしれません。
もう一つの弱点は、遺言者本人がご自分の意志で書いたかどうかを証明できないという点です。遺言者本人が、免許証などを提示して法務局に遺言を預けるという点では遺言書の真正性は担保されます。しかし認知症などにより遺言書を書く意志能力が欠如していたかどうかは、確認されないのです。
法務局は遺言書を保管する上での形式要件は確認しますが、中身には関与しません。
「遺言書保管所においては,遺言の内容についての質問・相談には応じることができません。」
とつれなく一言、目立つように赤字で書いてあります。
◆ 法務局保管制度は遺言書の法的効力を担保しない理由。
法務局では遺言者が、認知症ではなく遺言能力があるかどうかは、関知しません。本人確認と形式要件は確認してくれますが、相談に応じることはありません。さらには遺言書の内容には踏み込みません。
遺言書で物件が特定できていなくても、文字が間違っていて無効の場合でもちゃんと保管してくれます。言ってみれば、法務局の遺言書保管制度は、お知らせ機能付きの貸金庫だと考えてください。
法務局の立場からすれば、正しい形式の自筆証書遺言を作成する責任は、遺言者にあるというスタンスです。ご自分で書いた内容に自信がない場合は、やはり安全を期して専門家に相談されるのがよろしいかと思います。
事務仕事がお得意な方はネットで検索して、財産目録の書き方や自筆証書遺言の形式要件や物件の特定の仕方を勉強されれば、決して自分で書けないことはないと思います。
法務局の自筆証書遺言書保管制度は、遺言者の意思能力をめぐって争いになるようなときには不向きかもしれません。遺言の法的効力を担保しないというデメリットが出てきます。そうでない場合は、本当に便利でお得な仕組みです。
ただ、現在のところどこの法務局でも対応できるわけではなく、法務局の出張所では対応できないところがあります。また予約は必要ですので、お出かけ前に法務局のサイトで対応可能かどうか確認して、予約をされるとよろしいかと思います。
◆ 遺言書を法務局に保管すると・・、まとめ。
遺言書を法務局に預けると失敗する理由と見栄を切っていますが、法務局保管制度の利用に反対しているわけではありません。
むしろこの制度により自筆証書遺言書の手軽さと有効性が発揮できるなら、誠に結構なことだと言えると思います。
自筆証書遺言書の弱点が、法務局保管制度によりすべて補強されるわけではないということを申し上げたかったわけです。
少なくとも自筆証書遺言書の弱点である保管責任、改ざん、隠匿、破棄というリスクは完全に回避されます。また一度法務局に預けると、相続人に対して、公平に遺言情報を提供するという点でも安心感があります。
自筆証書遺言であれば、少しの知識と専門家のアドバイスがあれば有効な遺言書を残すことが可能です。何度でも書き直すこともできます。法務局保管制度にかかる費用は、あっと驚く3,900円です。
この制度の弱点は遺言書の法的拘束力を担保しないことを押さえておけば、有効に利用できると思います。
法務局では遺言書の存在と真正性は担保してくれますが、遺言者の意思能力は確認しません。
ですので、認知症が疑われる前にご自分の意志で自筆証書遺言を書き、専門家に見てもらってください。そしてご自身で身分証明をもって法務局に出かけて手続きをして下さい。
・そこまで言っても遺言書が書けない本音。
そこまで申し上げても、遺言書の作成に手が付けられない資産家がいます。自分のエンディングを確定させるような気がして、その気になれないそうです。
よく考えてみれば、遺言者にとればご自分が書いた遺言書が、相続発生後どうなったかを知るすべはありません。それは仕方がないことですが、後のことを考えれば、自筆証書遺言の法務局保管制度が始まったのを機に、そろそろ腰を上げる潮時かもしれません。
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