逓増定期の名義変更プラン不適切販売、金融庁検査マッチポンプの怪。

逓増定期の名義変更プラン不適切販売、金融庁検査マッチポンプの怪。

またまたバレンタインショック、2022年2月14日に金融庁の検査です。やり玉に挙げられているのはマニュライフ生命で、ネットでその話題が駆け巡っています。名変プランの問題と聞いてドキリとした経営者もいらっしゃるのではないかと思います。

金融庁が目をつけるのは、保険の契約者ではなく保険会社です。金融庁は保険会社という金融機関に対して監督責任がありますから、伝家の宝刀を抜くのです。したがって契約者にいちゃもん(あれこれ文句をつけること。)をつけてくるのは税務署ですから、今回の件は基本的に保険の契約者には関係がありません。

名変(名義変更)プランは、ホワイトデーショックと呼ばれる国税の通達により「名義変更時の評価額は資産計上額とする。」ということでお達しがでています。しかし知恵を絞った保険会社が、通達の網をすり抜ける新手の名義変更を提案しています。その類似名変プランに対して、不適切販売があったということでの異例のバレンタイン検査となりました。

■逓増定期保険の名義変更、ホワイトデーショックまとめ。

◆ 金融庁検査とは、強制権を持つ黒崎検査官の恐怖。

金融庁検査とは、たとえてみれば金融関係会社に対する税務調査と同じようなものです。

建前論では、金融機関の業務の健全かつ適切な運営を確保するため、法令等遵守態勢、各種リスク管理態勢等を検証したり、問題点に対する認識を確認したりするそうです。でも実際の検査は、立入検査権や資料提出請求権を付与された、行政権限の行使として実施されるそうです。

さすがにこれはテレビ番組の中でしか経験がありませんが、検査される方は戦々恐々となると思います。まして脛に傷もつ保険会社では、いよいよ来たかということでしょう。せっかくのバレンタインデーにチョコレートではなく、強制権を持つ黒崎検査官が来るとは、誠にお気の毒なことです。

◆ 認可した金融庁がマッチポンプの怪。

保険会社は、金融庁が管轄する金融機関です。金融庁には保険商品の販売に関する許認可権限があります。そもそも名変プランに利用できる保険は、すべて金融庁の認可を受けたお墨付きであるはずです。

そういう売り方しかできない保険を認可したのは金融庁です。まさかそんな売り方をするとは想定外などという言い訳は、この期に及んで通じるとは思えません。

金融庁が自分で火をつけて、自分で検査して、火消しに躍起になっているというわけです。これまでは金融庁が認可したものの売れすぎて、一般化すると国税庁が規制をかけるという構図がありました。今回の検査は、金融庁自らおさえに回っているということです。まさにマッチポンプの様相で、あほらしくも不可解な話です。

保険はこれまで吹けば飛ぶような中小企業の利益の調整弁や事業承継において、要な役割を果たしてきました。節税保険とは言いますが、あくまで課税の繰り延べであり、節税とは脱税とは根本的に違うものです。繰り延べたとしてもどこかで雑収入として利益が出れば、それは課税対象になります。

また名変プランは、節税的な意味と資金移動に効果的な仕組みとしての役割もありました。

何もかも締め付けすぎると、企業は息ができなくなります。コロナ禍で税金がたくさん必要なことは理解できますが、規制もほどほどでないと経済は活性化しません。日本経済の土台を占める中小企業が生き残れないということになります。

税金を払わないというのではなく、税金というコストは適切な額に収めたいと考えるのが本音です。税金を多めに払うよりは、利益を繰り延べて投資に回す方が経済効果は直接的で高くなるはずです。

◆ 名変プランの盛衰、生まれ変わりと生き残り。

逓増定期の名義変更プランは、逓増定期保険が全額損金算入できる頃からあるスキームです。当初は取り扱う保険会社が限られており、節税効果の方が目立っていました。また解約返戻金で手にした一時所得は申告不要という時期もありました。それは判決が確定し、一時所得として申告すれば問題になることはありませんでした。

その後、逓増定期保険の損金算入ルールが変わり、2008年から1/2損金になっても、名義変更プランは資金移動の有効な手段として認知されていました。その後さらに多くの保険会社が参入して、販売競争が激しくなりました。

その結果、ご承知のように2019年のバレンタインショックで、最高解約返戻率で損金算入割合が制限されました。国税通達(法人税基本通達9-3-5の2)が発遣され、節税保険が一網打尽になりました。しかし、逓増定期保険の名義変更プランは、目的とするところが個人所得ですのでしぶとく生き残りました。

しかしそれも国税は問題として2021年にホワイトデーショックに至りました。名義変更時の保険の評価額は、解約返戻金相当額から資産計上相当額になりました。もはや名変プランもおしまいかと思われたのです。しかし複数の保険会社から、工夫を凝らした網をすりぬける名変プランがいくつか出てきたという経緯です。

その一つは変額保険を利用した名義変更、また個人年金保険での名変プランなどが出ていました。一度名変プランを売ることで、高収入を得て生活水準が上がった保険代理店や保険営業は、優績者としての地位と高額報酬が身についています。生活のステイタスを維持するためには、今さら普通の保険を売り込こむとはできなくなっているという事情があります。

逓増定期の名変プランで提案する商品は、同じ保険のように思われるかもしれません。しかし営業してみるとわかりますが、顧客の食いつきが違うのです。目に見えないリスクを説明し保障を売ることは、ハードルが高いですしチャンスも少なくなります。ところが名変プランには目に見える個人的利益が、正確な金額として提示されます。そのため話が早く、チャンスは何度でもあります。また保険料が大きくなりやすいという特性があります。

◆ 経営者の節税意識と名変プランの意味。

名義変更プランは、説明が難しく管理も手間がかかります。資料なしで説明して、理解できるほど単純なスキームではありません。名義変更プランの保険に保障を買うと思って入ることはありません。

期間限定の保障も、おまけでついてくる程度の認識です。保障を目的としない保険ですから、契約者に目的をきちんと説明しないと売れる保険ではありません。

利益の繰り延べや資金移動を目的とした金融商品であり、それが保険という形になっているだけです。肝心の部分を説明せずに売ることこそ、顧客に対して不適切販売です。

経営者が節税を意識するのは、ある意味で本能のようなものです。財務的な健全性を維持する経営の要諦は「入を量り出ずるを制す」であることは自明の理です。そこが甘いと利益が漏れ出し、経営がいつの間にか左前になるのです。無駄なコストを垂れ流すより、名変プランははるかに意味があります。

◆ 名変プランに見る法人保険の役割とメリット。

今や法人保険は4割損金時代です。その4割損金でも一定の節税効果はあります。他にも節税手段は、すべてふさがれたわけではありません。国税庁としても方針がぶれますが、節税保険を悪としているわけではありません。

経営者は、自分から保険に入りたいとは思わないものです。それを保険に節税効果を持たせることで、事業保障としての保険に加入するインセンティブが働く仕組みです。元気なうちに経営者が法人保険に加入すれば、動機は別にしても経営リスクや破綻リスクの軽減や事業承継の助けになるはずです。

何ごともやり過ぎは体に良くないですが、適切な節税と事業保障の確保は、万が一の資金繰りの助けや役員退職金の原資となります。そこに法人保険の役割とメリットがあります。

儲かっている会社は、まるっきり増えもしない当座にキャッシュを寝かせています。当座では何年置いても収益は0円です。せめて生命保険に投資すれば保障だけでなく、税効果を考えれば100%近くのキャッシュが戻ります。大事なことは、保険には事業保障(経営者の死亡保険金)もついているということです。

◆ 名変プラン不適切販売、まとめ。

経営者というものは、自分が不死身だと思っています。また資金リスクには敏感なくせに、保険は信用していないのです。そういうワンマン中企業の経営者が保険に入る動機は、少しでも節税したいという欲得根性です。その結果、中小企業のリスクヘッジが進み、事業承継が円滑になることが、法人保険の損金効果なのです。

健康な若き経営者にリスクの説明をしても、簡単に実感してくれることはありません。しかし保険は元気なとき、できれば若いときに契約することが大きなメリットになります。本音を言えば、経営者にとってリスク説明より、いくら儲かるか、いくら課税の繰り延べができるかが興味のありどころです。

不適切販売と言われる所以は、愚かにも証拠を残すから問題になるのです。需要と供給を結びつける情報を適切に提供し、その結果保険を販売し、成果を上げるのが保険営業の仕事です。言われるような闇でも何でもありません。

不適切だと叫んでいるのは、同様の保険商品がない保険会社とメンツがある金融庁だけです。そもそも顧客にとっては不適切でもなければ、何の迷惑もかかっていません。誤解なきよう付け足しておきますが、M社を擁護しているわけではなく、保険会社としてのある程度の自制心が必要であるということは申し上げておきます。

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