贈与税改正、知らないと損する逃げ水贈与4つのポイント。
2023年度税制改正大綱の中で、とくに話題が先行していたのが、贈与税の見直しです。過去の税制改正大綱では、贈与税と相続税を一体化して生前贈与による相続税の節税を封じる可能性が言及されていました。
結果として110万円の贈与税の基礎控除と相続時精算課税制度は、なくなることはなく縮小もされませんでした。しかし暦年贈与を相続税にもち戻す期間が3年から7年に延長されることになりました。それも2027年から4年かけて順次7年に延長するというものでした。
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◆ 2023年(令和5年)度税制改正大綱、相続税・贈与税の見直しポイント。
税制改正の結果、あわてて駆け込み贈与をしなくてもじっくり対策を考える猶予はできました。しかし若くない資産家にとり、もち戻し期間7年は気が重くなり、見通しがきかない未来です。情報をわかりやすく整理し、今から何ができるのか考えてみました。
今回の贈与税の改正を簡単にまとめると、下記の4項目になります。
①暦年課税と相続時精算課税の選択制は引き続き維持。
②相続時精算課税に別途基礎控除110万円を新設。
③相続開始前の贈与の加算期間3年を7年に延長。
④延長した加算期間4年間に受けた贈与は、総額100万まで相続財産に不加算。
②について補足説明をします。もともと相続時精算課税制度を選択していると、暦年贈与は使えませんでした。相続前に贈与した分は、金額にかかわりなく相続時精算課税の贈与に合算され、相続発生時には相続税の対象として課税されることとなっていました。
それが今回の改正では、相続時精算課税制度を選択していても別途基礎控除の110万円の非課税枠が使えることになりました。これにより相続時精算課税が、かなり使いやすくなったと言えるかもしれません。
◆ もともとの制度として、年間110万円の生前贈与は非課税。
暦年課税は受贈者(もらう人)が1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた合計額から、基礎控除の110万円を差し引いた残りの贈与額に対して贈与税が課税されます。
暦年課税とは、生前の暦年贈与の裏返しのような言い方です。贈与税の立場からすると、毎年の贈与額に対して贈与税率を適用して課税されます。しかしその基礎控除として110万までは、贈与税が非課税となる制度です。贈与税が課税されない範囲の贈与であれば、申告も不要です。
生前贈与で複数の相続人に毎年110万円を贈与し続けると、かなりの金額を非課税で贈与でき、相続財産を減らす効果があります。相続財産が減れば相続税も減りますから節税になるわけです。
◆ 生前贈与の3年もち戻しが7年に、これって増税?
これまで生前贈与は、相続発生前の3年分は非課税贈与を認めず、相続税に合わせて課税するというルールでした。しかしこの3年のもち戻し(加算期間)が7年に延長されるということになりました。
猶予期間があるとはいえ、これは結構厄介な増税であることはご理解いただけると思います。2031年からは8年以上前の生前贈与だけが贈与税の非課税枠を有効に使えるということです。
そうなれば体調が悪くなってから、あるいはある程度の高齢になってからでは、生前贈与による節税という面で手遅れになる可能性があります。
やっかいなのは、どこから贈与税の非課税枠が有効になるのか、天国に召されるまでわからないということです。残念ながら贈与した被相続人は、生前贈与がどれだけ節税に貢献したか知るすべがないことになります。もらった人にとれば、後で相続税がかかってくるかもしれないわけですから、安易につかえないことになります。
7年もあれば非課税で770万も生前贈与できます。もらった子や孫に喜ばれるのですが、今回の改正はどうももやもやしたものが残ります。贈与された相続人も、実質手元にいくら残るのかがわからないわけです。
・もち戻しの期間の延長は、認知症注意。
ただ長生きするほうが、より多く非課税枠が確保でわけです。もち戻し3年より改正後の方が、認知症でも何でも長生きしてもらうために、親孝行をしてくれる可能性が高くなるかもしれません。
しかし認知症が進んでしまうと、贈与の意思表示ができません。贈与の意思表示ができなければ贈与は成立しません。そういう意味ではそこから7年は、贈与税の待機期間のようなものです。今回の贈与税の改正が、果たして逃げ水贈与か長生き贈与かは、まだしばらくわからないところです。
◆ どうする生前贈与、暦年贈与、今からできる対策は。
暦年贈与は、連年贈与などとも言われます。毎年110万までの保険料を贈与し、贈与者(親・被相続人)を被保険者として契約者を受贈者(子・相続人)にする契約がよく行われる生命保険のスキームとして有名です。
相続が発生し保険金を受取るとき、契約者は一時所得となり、お得な税率になります。贈与で受け取った保険料が過去7年分相続財産に加算されることになりますが、保険のスキームとしての有効性は残ります。
下の表をご覧ただければわかると思いますが、2024年の贈与から、暦年贈与がもち戻し枠に残り始めます。
赤い網伏せ部分が増税になるということになりますが、ズシリと重い感じがします。猶予期間の4年間に贈与した総額100万円までを相続財産に加算しないという緩和措置があります。おかげで余計ややこしくなりました。
節税対策としての効果は限定的ですが、それ以外にこまめに現金や物で渡すというような手も考えなくてはいけないかもしれません。ただ現金贈与を受けた相続人は、そのまま銀行に預けてはいけません。銀行預金の出入りは、課税当局の手の内です。贈与の証拠を残すようなものです。
◆ 逃げ水贈与か長生き贈与か、まとめ。
サラリーマンレベルの庶民では、そもそも贈与に税金がかかるなどとは思っていません。それでもマンション購入の頭金や車の購入資金、住んでいる家の改修費用など大がかりな資金は親から援助を受ける場合があります。
親に資金援助してもらう場合、110万円を越えると贈与税がかかるというのが税制の決まりです。
そうは言っても相続税がかからなければ、贈与の相続税へのもち戻しなど考える必要はないのかもしれません。ただ、気持ちの上でまとまったお金を援助するときは、頭の片隅を贈与税がかすめると思います。
今回の税制改正は、相続税がかかる資産家を狙い撃ちしています。2015年に相続税の基礎控除が下がってから、相続税の対象となる層の裾野が拡大しています。現金はそれほどなくても、都心近郊や駅に近い立地の自宅などがあると思いがけず評価が高くなっていることがあります。
・生前贈与は早めに、やり過ぎに注意。
そういう場合、相続税がかかるようなボーダーラインにいる方は、できるだけ早期から暦年贈与を最大限活用することが大事になってきます。お金でなくても不動産でも贈与は可能ですし、借金して贈与して相続時に清算するという手法も考えられます。
ただ安全な考え方は、ルールにしたがい目いっぱいの暦年贈与を行い、それでも残った遺産には相続税がかかってもそれは運として受け入れるという考え方もあります。
人間万事塞翁が馬とも言います。じたばたすると、地価が下がって相続税がかからなくなるというようなこともあり得ます。この世はすべてのことが因果でつながり、今を形成しています。考えてみれば、税制改正大綱も因果の一部です。