役員退職金否認、最新判例。

役員退職金否認、最新判例。

中小企業オーナー経営者の退職金に関して、否認の最新判例があります。役員退職金は、本来費用として計上できるはずのものです。しかし形だけの引退で、実質的な経営の実権を握ったままということがあります。

このような場合、役員退職金を支給しても、課税当局は損金算入を認めないという判断をする可能性があります。

どのようなケースで、役員退職金が否認されるのでしょうか。ワンマンで経営してきたオーナー経営者によくみられる形だけの引退は、役員退職金支給において否認されるリスクがあります。最新判例から、そのリスクを読み解きたいと思います。

■役員退職金の功績倍率は課税当局が決める。

◆ 審判所が実質的に退職しているかが焦点となった裁決を初公表。

国税不服審判所 とは、国税庁の機関です。国税通則法に基づき国税に関する処分の不服申立を審判する組織です。裁決事例を公表することがあります。

その中で役員退職金の支給に関して、実質的に退職しているかどうかを問われた裁決の事例です。

週間税務通信No.3501(平成30年4月2日発行)を参考にしました。

《ポイント》

本件のポイントは、分掌変更後に役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったと認められるか否です。形式的に報酬が激減したという事実があったとしても、実質的に退職していたと同様の事情がない場合には、その支給した臨時的な給与を退職給与として損金算入できないこととになります。

引用[9-2-32]

(役員の分掌変更等の場合の退職給与)

9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。

(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。

(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)
になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

・国税OB税理士の見解。

この裁決が出た事例を見ても、どこにでもありそうな光景です。役員報酬を半額以下にして代表権も外します。さらに連帯保証人の地位からも離脱し、権限を後継者に委譲したとしてもまだ甘いということでしょうか。

これから役員退職金を受け取るオーナー経営者にとれば、厳しい裁決だと考えなくてはなりません。親しい国税OB税理士によると「課税当局はこの裁決を元に税務調査を進めてくると考えなくてはなりません。」とのことです。

◆ 中小企業オーナー経営者の引退の実態。

中小企業のオーナー経営者が後継者に会社の経営権を譲り退職するということは、一般人が想像するよりはるかに大変なことです。

口では引退を宣言し、形式的に退職としても、なかなか周囲が納得するような引退はできないものです。

課税当局の視点からすれば、肩書だけは会長や相談役になっていても毎日会社に出社しているようなケースは問題になりやすいと言えます。幹部社員にあれこれ指示を出し、後継社長そこのけで決裁権を握っているようなケースは、めずらしくありません。

偽装引退ともいえるような場合は、税務署として、役員退職金の損金算入を認めることはできないというのも、ある意味で当然です。

退職金を受け取ったオーナー経営者にとれば、偽装引退のつもりはないけれど引退するとすることがないから会社に来るというわけです。終日家におられても困るのは、引退した経営者の奥様ですから快く送り出されることでしょう。

会社に来たら来たで、後継社長や社員は気を使います。ワシがワシがの唯我独尊は継続されています。経営会議や会計報告会などの社内の主要会議にも、オブザーバーと言いながら堂々と出席します。そして社長そこのけで、昔話と指示命令の独演会になってしまいます。

さらには、支払いは請求書をすべてチェックします。決済印は手放さず、自分が押すなど、実権は手放そうとはしません。

■経営権移譲の難しさ、アドバイスと口出しの違いがわからない経営者。

◆ 課税当局は実質的に引退しているかどうか確認。

ところが税務署は形式要件だけでなく、実質をみるのです。OB税理士によっても言うことは多少異なります。でも多くの場合、実質的に引退して経営の実権を手放しているかどうかを問われます。

形式だけの退職はみとめられないという点を、押さえる必要があります。経営側と課税当局の認識の差、見解の相違は大きな隔たりがあります。自分に都合の良い理屈は通用しないと考えるべきです。それは役員退職金損金算入の否認リスクにつながります。

■役員退職金を否認されない、あたりまえの極意。

◆ 役員退職金否認、最新判例、まとめ。

オーナー経営者にとれば、会社は自分と一心同体ともいうべき存在です。すんなり引退するというのは、病気にでもならないと難しいのではないかというのが実感です。

せっかく長年にわたり法人契約で生命保険を活用し、簿外に退職金用の資金を積み立ててきた方も多いと思います。しっかり溜め込んだ解約返戻金をここぞと活用して役員退職金を支給します。しかし損金参入を否認されれば、長年の苦労が水の泡です。それこそ勝手解釈は、ドツボにはまります。

■役員退職金は保険で準備すると節税できる理由。

くどいようですが、オーナー経営者にとって実質的に引退することはハードルが高いのです。役員退職金が過大というなら、まだ過大な部分に過少申告加算税で済むかもしれません。しかし最新判例のように、役員退職金そのものの損金参入を否認されると、被害額も甚大です。

この際とやかく言われないためには、きっぱりと退職し会社の業務から身を引くことです。さらに言うなら、引退などとできもしないことを言い出さないことです。

もらうべきものは死亡退職金にして、堂々と居座り続けるというのも選択肢ではあります。ただ昔の結核(老害)のように忌み嫌われることは覚悟しなくてはなりません。

死亡退職金が所得税なしでも有利だとは言えない理由。

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