役員退職金否認、最新判例。

中小企業オーナー経営者の退職金、否認の最新判例。

DSC00494中小企業のオーナー経営者が後継者に会社の経営権を譲り退職するということは一般人が想像するよりはるかに大変なことです。

口では引退を宣言し、形式的に退職としても、なかなか周囲が納得するような引退はできないものです。

ましてや課税当局の視点からすれば、肩書だけは会長や相談役になっていても毎日会社に出社して幹部社員にあれこれ指示を出し、後継社長そこのけで決裁権を握っているようなケースは、役員退職金の損金算入を認めることはできないというのもある意味で当然です。

◆ 中小企業オーナー経営者の引退の実態

退職金を受け取ったオーナー経営者にとれば、偽装引退のつもりはないけれど引退するとすることがないから会社に来るというわけです。終日家におられても困るのは引退した経営者の奥様ですから快く送り出されることでしょう。

会社に来たら来たで後継社長や社員は気を使います。ワシがワシがの唯我独尊は継続されて、経営会議や会計報告会などの社内の主要会議にもオブザーバーと言いながら堂々と出席し昔話と指示命令の独演会になってしまいます。

さらには、支払いは請求書をすべてチェックするし、決済印は手放さず自分が押すなど実権は手放そうとはしません。

◆ 課税当局は実質的に引退しているかどうか確認

ところが税務署は形式要件だけでなく実質をみるのです。OB税理士によっても言うことは多少異なりますが、実質的に引退して経営の実権を手放しているかどうかを問われます。

形式だけの退職はみとめられないという点を押さえる必要があります。経営側と課税当局の認識の差、見解の相違は大きな隔たりがあります。自分に都合の良い理屈は通用しないだけでなく役員退職金の損金算入の否認リスクにつながります。

◆ 審判所が実質的に退職しているかが焦点となった裁決を初公表。

週間税務通信No.3501(平成30年4月2日発行)を参考。

役員退職金裁決2018.4.2

《ポイント》

本件のポイントは、分掌変更後に役員としての地位又は職務の内容が激変し、実
質的に退職したと同様の事情にあったと認められるか否でです。形式的に報酬が
激減したという事実があったとしても、実質的に退職していたと同様の事情がな
い場合には、その支給した臨時的な給与を退職給与として損金算入できないこと
とになります。(法基本通達9-3-2)

引用[9-2-32]
(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退
職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事
実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての
地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められ
ることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。

(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有す
る者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めている
と認められる者を除く。)になったこと。

(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地
位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使
用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)
になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法
人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(お
おむね50%以上の減少)したこと。

(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金
等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

この裁決が出た事例を見ても、どこにでもありそうな光景です。役員報酬を半額以下にし代表権も外し、連帯保証人の地位からも離脱し権限を後継者に委譲したとしてもまだ甘いということでしょうか。これから役員退職金を受け取るオーナー経営者にとれば、厳しい裁決だと考えなくてはなりません。親しいOB税理士によると、課税当局はこの裁決を元に税務調査を進めてくると考えなくてはなりませんとのことです。

役員退職金の損金限度は平均功績倍率のなんと1.5倍。

◆ まとめ

オーナー経営者にとれば会社は自分と一心同体ともいうべき存在です。すんなり引退するというのは病気にでもならないと難しいのではないかというのが、実感です。せっかく長年にわたり法人契約生命保険を活用し簿外に退職金用の資金を積み立ててきてた方も多いと思います。しっかり溜め込んだ解約返戻金をここぞと活用して役員退職金を支給しても損金参入を否認されれば長年の苦労が水の泡、それこそ勝手解釈はドツボにはまります。

くどいようですがオーナー経営者にとって実質的に引退することはハードルが高いのです。役員退職金が過大というならまだ過大な部分に過少申告加算税でしょうが、役員退職金そのものの損金参入を否認されると被害額も甚大です。

この際とやかく言われないためには、きっぱりと退職し会社の業務から身を引くか、引退などとできもしないことを言い出さずに、もらうべきものは死亡退職金にして堂々と居座り続けるというのも選択肢ではあります。ただ昔の結核(老害)のように忌み嫌われることは覚悟しなくてはなりません。

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