改正民法2019|相続財産の所有権は登記優先。

改正民法2019|相続財産の所有権は遺言より第三者の登記優先。

DSCF1766相続財産の所有権を主張するためには登記が必要になりました、と言っても普通の相続ではあまり関係がありません。今のところではまだ相続で不動産を引き継いでも登記するかどうかは自由です。

何かの事情で第三者に対して相続した不動産の所有権を主張するためには登記をしておいた方が有利になりましたということです。財産の所有権を判断するうえで、登記や登録などの客観的事実が遺言書よりも優先することになりました。

ただ今後は、相続による不動産の所有権の移転は名義変更登記を求められるようになる可能性があります。少子高齢化と人口減少、都市部への人口集中は相続時の登記にまで影響が及ぶ時代になりました。

民法改正の主な項目をあげました。今回は「5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。」についてです。
1)配偶者の居住権を保護「配偶者居住権」の新設。
2)預貯金の仮払い制度の創設。
3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。
4)遺留分制度の見直し、金銭請求。
5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。
6)相続人以外の特別寄与分の請求権。

◆ 所有者不明土地問題が改正の発端。

所有者不明土地問題は、今回の民法改正と直接の関係はないのかもしれませんが、改正の発端というか要因の一つにはなったと思います。日経新聞によると東日本大震災後の復興事業で用地買収の妨げとなり、所有者不明の土地は全国で約410万ヘクタールにも上り、2040年には北海道本島に匹敵する約720万ヘクタールにおよぶというべらぼうさです。

損失額の推計でも約6兆円とか、机上の計算ではありますが、相続登記の先送りが大変な経済的損失を招いたというわけです。

それは相続人が登記を放置するから悪いと言う問題ではなく、不動産価値が都市部に集中し、土地活用ができない価値の低い地方が見捨てられた必然的結果です。国家的な仕組みを変える以外に方法はないと言うことだと思います。

ネット上の情報によると最後の登記から50年以上経過した土地は大都市で6.6%、中小都市などで26.6%などとなっています。実感から言えば、田舎の田畑ではもっと相続登記未了は多いかもしれません。

■不動産登記簿における相続登記未了土地調査について(法務省)

50年という歳月は人間の人生で考えると、相続も2回転する期間です。相続
人は散らばり子や孫、ひ孫にまで権利関係が及んでいることもあるでしょう。そう
なると縁遠い親族も多くなります。相続の手続きをお願いするときには一苦労も二苦労も予測されます。

民法改正による相続財産の所有権登記優先は、所有者不明土地問題の解決策の切り札ではありませんが、一抹の効果は期待できるかもしれません。

◆ 相続の時、登記を変更しない理由。

特別な事情がない限り相続の時に名義変更登記はしないのが一般的です。相続の時登記を変更しない理由は、登録免許税や司法書士などに登記を依頼すると結構なお金がかかることも理由の一つですが、当面放置しておいても、とりあえず何の問題も発生しないということがあります。

一次相続では、相続税がかからない場合は、相続が発生しても当座の葬式代などのお金が手元資金で足りれば、遺産分割協議書すら作る必要はありません。相続人同士の仲が良くないとか、争族がなければ、遺産分割協議書のように大げさなものがなくても金融機関が用意する書面に相続人が実印を押せば処理が済んでしまいます。不動産として評価が高い駅前の土地などは相続を機に売却したり、換金の必要性に迫られたりすることもありますから名義変更登記は必要になりますが、評価の低い田舎の土地や田畑、山林は名義変更登記をすれば、売れもしないのに固定資産税が毎年来ます。

それだけではなく放置すれば雑草が繁茂し近隣からクレームが来ます。固定資産税だけではなく、手入れや管理費用もばかにならないのです。相続人にすればかかわりたくない遺産なのです。

◆ 名義変更登記の重要性。

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しかし相続での名義変更登記は放置しておくと所有者不明土地問題になるよりも前に、二次相続で困ることがあります。一次相続で相続税がかからなければ、田舎に住む母親に遺産をすべて相続してもらい、不動産登記などは何もせずそのままに放置することが多いと思います。

そのまま二次相続を向かえると数次相続という問題が発生することがあります。相続人の一人がなくなっていたりすると、とてもややこしくなるのでここでは触れませんが、たとえ少々費用はかかっても一次相続で遺産分割協議をまとめて名義変更登記を済ませておく理由があります。これがさらに放置されると所有権不明土地問題につながります。

◆ 遺言書より登記の権利が優先に。

これまでは、有効な遺言書で相続人を指定してあれば第三者の登記に対しても一定の対抗ができたのですが、それが現実的な登記に記された権利の方が遺言書の指定より優先になったのです。やはり遺言書を書く前に、財産目録をエクセルで整理するときに不動産関係はすべて登記簿を上げて権利関係を精査しておくことが大事です。

考えてみれば、所有権不明土地問題に端を発した社会問題への対応の一環として、相続時の名義変更登記を促進する狙いがあるものと思われます。不動産の名義変更登記をすれば、役に立たない土地の固定資産税の支払いが相続人に回ってくるだけでなく、登録免許税や登記の手続き費用が発生しますから引き継ぐ相続人にすれば面白くない話ですが、登記を先送りすることはまたそれなりのリスクがあるということです。

◆ まとめ

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もともとは不動産を購入した際、不動産登記をしなければ他の者に対して、不動産の所有権を主張することができませんでした。

しかし、相続で不動産を譲り受けた場合は、登記をしなくても第三者に所有権を主張することができました。これまではそれで特に問題は発生しなかったので、相続での不動産登記は売買するような事情がなければ先送りして忘れてしまうケースが多かったわけです。

所有者不明土地問題は、経済発展を重視し地方と地方に暮らす国民の生活を軽視した政策の誤りです。これは今後さらに深刻になると予測される国家的な大問題です。相続を原因とした不動産の所有権移転登記の義務化で解決する問題(まだ義務化されていません。)ではないと思います。

確かに不動産は登記しないと売却できませんが、田舎の活用度の低い土地や放棄田、荒れ果てた畑は、所在確認もできないような原野になっていたりしますから登記する動機がありません。このような売却できない資産価値の低い土地を相続したいと思うはずもありません。

自分の子や孫の代に複雑な不動産登記手続きを残さないと言う理屈はよくわかりますが、現実はもっと深刻な事情があります。相続登記を義務化して罰則までもうけるという案もあるそうですが、それは現実を無視した無茶というものです。

本題からそれていますので軌道修正をすると「相続財産の所有権に登記や登録を重視する。」という改正が行われました。このことが直接、影響するケースがどれほどあるかということになると相続時の登記を先送りする理由から考えれば、あまりなさそうです。

相続時の登記を否定するものではなく、できれば登記をする方がよいに決まっ
ていますが、そうはできない事情があるから放置されるのです。水は高い方から低い方へしか流れません。もう少し知恵を絞った政策で、相続登記にインセンティブを与える工夫ができないものでしょうか。

改正民法2019|遺留分の現金支払と特別受益もち戻しの時効。

改正民法2019|遺留分の現金支払と特別受益もち戻しの時効。

DSCF1917相続税の法律の中でもややこしいのが遺留分です。せっかく苦労して遺言書を書き上げても相続人の遺留分を侵害していると遺留分減殺請求に発展する可能性があります。

民法では遺留分は遺言に優先することが法律上でもはっきり示されています。

遺言書で被相続人が遺産分割割合を決定する権利を認めている一方で、その但し書きにおいて「ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。」と明示されています。相反することですが、遺留分は遺言書に優先するので争族の原因になることが多いのです。

遺留分を甘く見てはいけません。その遺留分に関してこれまでの縛りから一歩進んで金銭請求ができるようになりました。生命保険で遺留分支払いをするような対策をすすめることもります。今後さらに遺留分減殺請求が想定される相続人は支払いの原資として生命保険を活用することも考えなくてはいけません。

民法改正の主な項目をあげました。今回は「4)遺留分制度の見直し、金銭請求。」についてです。

1)配偶者の居住権を保護「配偶者居住権」の新設。
2)預貯金の仮払い制度の創設。
3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。
4)遺留分制度の見直し、金銭請求。
5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。
6)相続人以外の特別寄与分の請求権。

遺留分に関しては減殺請求する方もされる方も遺留分の権利について知識が必要です。知らなければ遺言書が優先されて、それで終わりです。遺留分減殺請求にも期限と時効がありますから、注意が必要です。

遺留分権利者が、相続の開始を知った時から1年間権利を行使しないときは時効となり、また相続開始の時から10年を経過したときも時効となります。

◆ 遺留分減殺請求は弁護士の出番、遺留分侵害額請求。

一般には「遺留分」とは聞きなれない言葉です。相続の時にだけ出てくる専門用語と言えるでしょう。法定相続人には遺言で財産分けを指定されたとしても、最低限の遺産の取り分が規定されています。通常の法定相続枠の半分と覚えておけばよいと思います。二分の一が法定相続なら四分の一、三分の一が法定相続なら六分の一という具合です。

遺留分減殺請求は他の相続人に対して行います。現在では言い方が変わり「遺留分侵害額請求」というそうです。こちらの方がわかりやすい言い方ですがなじみがないですね。

遺言書の指定に従い多く遺産を引き継いだ相続人に対して自分の遺留分を主張して侵害している分をすんなり返してくれれば問題は起こりませんが、大抵の場合は込み入った話し合いが必要になります。利害がからむ当事者同士では話がまとまらないことも多くあります。その場合遺留分減殺請求調停や訴訟に進むことも珍しくありません。

そうなると話し合いは素人ではまとめられなくなり、弁護士などの士業の先生の出番になります。遺留分の割合が決まっていれば、それに従いおとなしく渡せばもめることもなさそうに思います。

しかしそうはいかないのは財産が金銭ばかりではなく、不動産のように評価が分かれるものがあり、また特別受益のもち戻し(後述)という厄介な問題があるからなのです。また遺留分減殺請求を申し立てると遺産の分割が成立していないことになり、すべての財産が相続人全員の共有状態になってしまいます。

◆  遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求)とは争族のなれの果て。

遺留分減殺請求は遺留分侵害額請求と言い方は変わりましたが、相続人間の話し合いで決着できれば遺留分侵害額請求は必要がないわけです。それができないから遺留分侵害額請求を内容証明郵便で送達することになるわけですから、もらった相続人にしても気分のよいものではありません。

一般の相続の素人が遺留分侵害額請求の知識を持ち、正確に手続きをできるとは限りませんから、やはり弁護士などに依頼することになります。そういう時は相続人同士の争族が激化することがあります。片方の相続人が弁護士に依頼をすると、もう片方の相続人も弁護士に依頼せざるを得なくなります。そうすると弁護士は依頼者の利益の最大化を目指すのが仕事ですから、双方の主張が衝突し、争族が激化することもあります。

その方が弁護士は収入が増えるため、中には辛辣な内容の書面を作成する弁護士もいます。言ってみれば遺留分侵害額請求に進むということは円満相続とは縁遠い、やはり争族のなれの果てと言えなくもありません。

◆ 弁護士は正義の味方ではなく依頼人の味方。

弁護士の利益を最大化するためには成功報酬を大きくすることです。依頼人の利益を最大化することが自身の利益に直結します。弁護士もビジネスですから決して公平なジャッジをする立場ではありません。

また弁護士は法律には明るくても不動産鑑定の専門家ではありません。不動産の鑑定評価は不動産鑑定士により評価額が変わるものです。それだけではなく不動産鑑定には評価額を下げる裏技もあります。相手方が提出してきた不動産鑑定書をそのまま公式書類のように、うのみにする必要はありません。

遺留分減殺請求に弁護士が絡んできたからといって弁護士の主張に巻き込まれてはいけないのです。物事には常に別の見方や意見もあるということを押さえておく必要があります。

◆  遺留分の金銭請求と現金支払いが可能に。

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一般的な感覚ではピンとこないのですが、遺留分を請求者に渡すルールは現物返還が基本的なルールだったのです。

遺産が家屋敷ならその持ち分を共有することになります。自社株だったら自社株の現物を渡すことになります。

遺留分の金銭での支払いは例外だったのです。これはもめ事を先送りしているようなものです。遺留分権利者にしても現物支給では厄介な荷物を抱えることになりかねません。売れない不動産を引き継げば逆に固定資産税などの負担が増加してしまいます。

今回の改正で「遺留分侵害額請求」と呼称がリニューアルされましたが、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いのみを請求することができるようになりました。これまでのような現物返還は一切認めないということなので、支払うべき現金がないと逆に困ることも起こります。

遺留分権利者から遺留分侵害請求を受けた相続人はキャッシュで支払うことができない場合、支払いを猶予してもらうほかないです。これは裁判所に請求して認めてもらうことができます。こういうことがあり得るからこそ生命保険でキャッシュを用意する必要があるのですね。

契約する生命保険は基本的に終身保険でよいのですが、被相続人が契約者でかつ被保険者、受取人指定は遺留分侵害請求を受ける可能性のある相続人にしておきます。被相続人が自分の書いた遺言書で後に残る相続人が遺留分侵害額請求を受けて困るようなことを避けるには、生命名保険で対策をされるのがベストです。

◆  遺留分の特別受益もち戻しの時効。

遺留分の計算というのはそれまでの家族の清算でもあります。遺留分の算定の基礎になる特別受益のもち戻しは時期や金額にかかわらず、すべてもち戻しに算入されていました。嫁入り道具からローンの頭金、海外留学の費用まで含まれます。当然、事業承継のために贈与した自社株も含まれます。もち戻しで自社株は現在の時価評価になります。自社株を安い時期に後継者に贈与していても、遺留分を侵害してもち戻し評価になると、自社株はとんでもない額になっているはずです。

相続における特別受益の恐怖については以下の記事をご参照ください。

■特別受益と遺留分減殺請求は経営者の落とし穴。

■特別受益の泥沼相続。

■相続┃特別受益持ち戻しの恐怖。

今回の改正では遺留分に算入される特別受益(生前贈与)のもち戻しの範囲が相続開始前10年間に限って遺留分の対象財産とするとされました。ということは10年以上前なら特別受益にあたる生前贈与は遺留分算定に関して時効となるということです。この10年が長いか短いかはわかりませんが、自社株贈与をするなら早いうちが良いわけです、それも相続発生の10年以上前がベターというわけです。

死期は自分で選べませんから、生命保険の加入と自社株贈与はできるだけ早い時期にされると後々の憂いが少なくなるというものです。

◆ まとめ

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遺留分制度の見直しに関する改正民法は、2019年7月1日より施行されています。

遺留分の現金支払いは一見、使い勝手のよい改正に思えます。しかしよく考えれば、換金が難しい家屋敷のような不動産を相続した相続人にとれば、遺留分権利者に遺留分を請求されると手許キャッシュが足りないときは困ったことになります。

やむを得ず不動産を売却すれば、譲渡所得税までかぶることになります。仮に相続した不動産を売却して換金することで遺留分侵害額請求に応じるとしても、不動産の売買は買い手も必要ですし、売買には時間もかかれば、こちらの希望価格で売却できるわけでもありません。足元をみられて買いたたかれるのがオチです。

特に相続する財産が家屋敷だけの場合、今回の改正は、相続した人にとっては逆に苦しくなるかもしれません。やはり法改正後も遺留分侵害額請求という事態を念頭におきながら遺言書を書くこと、そして生命保険で対策をしておくことが重要です。

改正民法2019|遺言書の法務局保管、PC作成。

改正民法2019|自筆証書遺言の法務局保管・財産目録PC作成。

DSCF1887民法の中の相続に関する規定が改正され、相続のための手続きが簡素化されたり便利になったりしています。

中でも自筆証書遺言の法務局保管という新しい遺言管理制度と遺言の中の財産目録をPC作成可能に変更されたことは大きな改正と言えると思います。

民法改正の主な項目をあげました。今回は「3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。」についてです。

1)配偶者の居住権を保護「配偶者居住権」の新設。
2)預貯金の仮払い制度の創設。
3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。
4)遺留分制度の見直し、金銭請求。
5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。
6)相続人以外の特別寄与分の請求権。

遺言作成で手間がかかるのが財産目録ですが、財産は時間が経過すれば変化します。その都度全文を書き直すのは骨が折れます。PC作成なら変わった部分のデータだけを修正しプリントアウトすれば簡単です。

自筆証書遺言の法務局保管制度と財産目録のPC作成により遺言書を作成する人が増えることが期待できます。まだ施行されていない制度もありますが、できるだけわかりやすくまとめてみました。

◆ 遺言書が一般的でない理由。

被相続人の意思は遺産分割協議より重いので、被相続人の意志を明文化した遺言書には相応の法的な拘束力があります。形式要件が揃って家庭裁判所の検認を受けた遺言書があれば遺産の名義変更などはスムーズに進みます。

しかし遺言書は思っているほど一般的ではありません。55歳以上を対象とした遺言書に関するアンケートでも85%の人が遺言書を作成したことがなく、60%以上の方が作成する気もないという結果が出ています。実際に有効な遺言書を作成される割合は2割もないのかもしれません。

この結果は意外というより普通なのではないかと思います。なぜならhokenfpは相続税がかからなくても、今すぐ遺言書を書くように言い続けてきましたが、自問すると作成する気もない60%に入るのかもしれません。全く矛盾しますが、遺言書が一般的でない理由の本質があります。

被相続人にすれば遺言書を書くことは結構ハードルが高いというだけでなく、自分の家族だけは争族にはならないという楽観があり、さらには自分の死後のことですから真剣になれないと言うこともあるように思います。

◆ 遺言書のまとめ記事はこちら。

■遺言書の誤解、遺書の無力まとめ。

遺言書に関してずいぶん記事を書き貯めました。でもまだ自分の遺言は書いたことがないのですが、書き方のポイントはわかりました。

相続人にすれば遺言書は判決文書のようなもので、親が自分のことをどう評価していたかはっきりわかります。

遺言書を書くべき経営者が遺言書を先送りする理由もわかるようになりました。親は相続人やその孫に対して判決など下せないのです。そこに悩みが深まる理由があります。揺れ動く被相続人の気持ち、遺言書の重要性、遺言書を書けない理由が記事にはまとめてあります。書けそうで書けない遺言書、せめて財産目録だけでも整理すれば気持ちの整理もつくというものです。

◆ 自筆証書遺言のリスクを軽減する法務局保管制度。

公正証書遺言は安全確実ですが、証人2人が必要ですし費用が財産額に応じてそれなりにかかります。また遺言の内容を修正するときにも同様の手間と費用がかかります。よほど莫大な財産があるか、もめそうな家庭でもない限り簡単には使いにくい制度です。使いにくい理由の本質は意外と自分の財産を証人や公証人に知られたくないという人間不信に根差していることがあるような気がしています。

公正証書遺言の費用と証人(遺言書に書く財産の合計額)

手数料
1,000万円まで 17,000円
3,000万円まで 23,000円
5,000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円

総財産が1,000万の方が1,7000円払って証人を2人も頼んで公正証書遺言を残そうとするでしょうか。財産が仮に1000万としても財産の内訳には家屋敷もあるでしょうから手持ちのキャッシュはそれほど余裕があるとも思えません。やはり公正証書遺言は事業承継などがからむ資産家向けの制度としては有効だと思います。

今回の改正により自筆証書遺言の弱点が補われることになります。単に保管するだけでなく自筆証書遺言の弱点である形式要件を確認してくれます。

また法務局が受け付ける段階で作成者の本人確認や形式要件の確認を行うため家庭裁判所の検認は不要になります。もちろん紛失や偽造、破棄などの心配をする必要がなくなります。

まだ始まっていない制度ですので、運用手順の詳細はわかりませんが、これは遺言書を書こうとされている方には朗報です。いまから財産目録を整理し遺言書をかいて準備しておくとちょうどよいのではないかと思います。

自筆証書遺言の法務局による保管制度は、作成した遺言書とエクセルで作成した目録に自筆で日付と署名・押印したものを封筒に入れ、封をせずに法務局に持っていけば相続開始まで保管してくれます。法務局では原本を保管するだけではなく画像データとしても保管してくれます。また相続が開始すれば相続人の申請によって写しを送ったりデータを公開したりすることになっています。

誰か一人の相続人が申請を行ったら他の相続人にも通知されます。抜け駆けはできないようになっています。費用面ではまだ明らかでないところもありますが、公正証書遺言よりははるかに安価であると予想できます。また保管された遺言書の内容は相続が開始しない限り相続人が申請しても公開されません。

◆ 財産目録のPC作成は超便利。

DSCF1890遺言書の一部をPCで作成することができるようになりました。

財産目録のPC作成とは、財産のリストをエクセルで作成すると言い換えてもよいと思います。

財産というものは毎年変化していくものです。正確な遺言書にするためには見直し・修正が必要になりますが、財産目録のリストを手書きで作成していると書き直しの手間が半端ではありません。

財産目録をエクセルで作成するときれいに作成できますし、内容の修正や追加が容易です。遺言書の本文は被相続人本人の自筆でないと認められませんが、財産目録をエクセルで作成し、添付できるので、財産内容が変わればエクセルを修正してプリントアウトすればOKです。

これだけでも価値ある改正です。遺言書作成のハードルを下げる効果があると思います。

遺言書を書く気のない方でも財産目録は一度整理しておく必要があります。所有する財産をエクセルのシートにまとめると頭がすっきりします。精度をあげるためには所有する不動産などの登記簿をあげて確認するとよいと思います。また生命保険なども「契約内容のお知らせ」が毎年届いていると思いますから、保険証券と照らし合わせて証券番号ごとに整理すると生命保険の見直しが必要になったり、問題点が見えてきたりすることもあります。

田舎などでは耕作放棄田や山林がありどこにどれだけの不動産があるが把握できていないこともあると思いますが、一気に整理がすすみます。できれば若干お金はかかりますが、公図もあげて位置を把握しておくとよろしいかと思います。

遺言書を書くのがベストですが、仮に遺言書は書かなくても財産の整理ができていると遺産分割協議がスムーズに進みます。

hokenfpも遺言書を書くような資産家ではないですし、争族になるような家庭でもないのですが、自分と家内と合わせた田舎の不動産を整理し固定資産税納税通知書をたよりに登記簿を上げて確認しました。整理ができるとそのことは頭の中の引っ掛かりがとれてすっきりします。エクセルのリストと登記簿、公図を残しておけば、一旦忘れても差し支えなくなります。

従いまして、相続財産が多ければ多いほどありがたい改正です。財産目録のエクセル作成は超便利と申し上げておきます。

ところが、資産家ほど秘密主義でPC苦手で、エクセルが使えなかったりします。財産リストは人任せにできないが(相続人に見せたくないという心理があります。)、自分で作成するほどのPCスキルがないという場合は一刻も早くパソコン教室に通ってください。エクセルで財産目録を作成できるという改正はそれだけの価値があります。

◆ 遺言書の法務局保管と財産目録のPC作成、まとめ

DSCF1889

財産目録のPC作成に関する改正施行時期は2019年1月13日ですから、以後の遺言書作成には有効です。

エクセルのフォームや書き方、項目などは他のサイトに譲りますが、きれいに枠を作成する必要はありません。

財産としてその物件が確実に特定できることが重要です。生命保険でしたら保険証券番号、不動産なら地番が一番大事な項目になります。

作成した財産目録を相続人に見られるのが嫌な場合は、PCかエクセルファイルにパスワードをかけておいてくださいね。パスワードは付箋に書いてモニターに貼り付けたりせずに、忘れないようにご自分の手帳にメモしておいてください。

自筆証書遺言の法務局保管制度はまだ施行されていません。予定では2020年7月10日から施行されることになっています。それまではお書きになった自筆証書遺言は金庫にしまっておいて健康に気を付けて下さい。

この制度が有効に機能するのであれば、わざわざ高いお金を払って公正証書遺言にする必要がなくなります。公正証書遺言は変更手続の手間が大変です。よほどの財産家で、もめ事が予測される場合とか、事業承継に関係する内容が記載されているような場合に限定されるのではないかと推測しています。

また法務局で遺言書の管理が完結しますので、家庭裁判所の検認が不要になれば相続手続きがスムーズにすすむものと思います。

改正民法2019|相続時、預貯金の仮払い制度。

改正民法2019|預貯金の仮払い制度の創設。

DSCF1881生命保険を扱う立場の方は売る側でも買う側でも相続に関する基本的な知識が有益です。相続に関する決まりごとは民法に規定されています。

その民法が2018年7月に40年ぶりに改正されることになりました。前回から改正民法のポイントを順に、実務話を交えながら解説しています。

hokenfpは保険を買う側であり税理士や弁護士、司法書士のような士業でもありませんので、手続きを売り込んで金にしようという立場ではありません。検索していると解説しながらも実は売込みのビジネスサイトがほとんどです。情報を入手するためにはよいのですが、実際は手間のかかるそんなことまでしなくてもクリアできることも多いのが本当のところです。

民法改正の主な項目をあげました。今回は「2)の預貯金の仮払い制度の創設。」についてです。

1)配偶者の居住権を保護「配偶者居住権」の新設。
2)預貯金の仮払い制度の創設。
3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。
4)遺留分制度の見直し、金銭請求。
5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。
6)相続人以外の特別寄与分の請求権。

◆ 葬式代は早めに下ろしておくこと。

突然の事故や急病による死亡では、事前の準備ができていないと思いますが、通常は病気をされ入院されておれば病状は把握できているものです。医師の判断を聞きながら、早めに必要な額のお金を手元に置いておくことが安心です。

金融機関は立場上相続が発生したことを知れば被相続人の口座を凍結せざるを得ません。相続税がかからなくても相続財産は相続人に権利がありますから、相続人が勝手に引き出したのでは公平性を欠くことになります。固いことを言えばそうなりますが、相続人となった兄弟姉妹で、相互不信がない限り誰かに任せて信用するのが普通の家族です。

金融機関はこちらから通知しないと相続発生を知ることはありません。役所からも葬儀屋からも通知したりしません。ただ新聞に訃報が掲載されたり、地域のケーブルテレビなどで訃報を流したりするような地方では知ることができる可能性はあります。

普通、金融機関は相続発生を家族から知らせないとわかりませんから、相続が発生してもキャッシュカード(金融機関により限度額はありますが。)で下ろせばよいのです。田舎のJAやゆうちょ銀行なら家族が代理人となり印鑑と通帳持参で下ろしに行けば委任状がなくても顔パスで手続きしてくれるところもあります。

注意すべきことは、平成28年の最高裁の判決で預貯金債権が遺産分割の対象となる判例から金融機関は融通を利かしにくくなってきています。もともと相続人は、法定相続分に応じた払戻しを請求する権利があり、配偶者や子は相続人として当面の生活費や葬儀費用の払戻しをすることができると考えられていました。しかし最高裁決定において、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとされたため相続人全員の同意が証明できなくては払い戻すことが認められないとされたのです。

裁判所は実情を知らないので無茶な判断をします。結局、配偶者や子の相続人が当面の生活費や葬儀費用に充てるため当座のお金を下ろすことが難しくなったわけです。

その穴埋め制度として仮払い制度ができたわけですが、よくよく考えると葬式代を残しただけの貧乏家族には役にたたないなまくら制度です。たぶん実際の場面では新しくできた預貯金の仮払い制度を活用するケースはそれほど多くないのではないかと推測します。

結論から先に申し上げますが、金融機関に気づかれないうちにさっさと必要額を下ろして用意することです。

◆ 預貯金の仮払い制度の内容と手続き。

DSCF1886仮払い制度以外に、家庭裁判所に仮払いの申請をすることができますが、相続人全員で審判や調停の申し立てを行わねばならず実際に使える仕組みではありません。

ただ預貯金の仮払い制度と言っても金額の制限もありますし、法定相続情報をそろえる必要があり通常の相続で金融機関に提出するのと同じだけの手間がかかります。比較的シンプルな家計でも相続情報をそろえるためには相続人全員の戸籍謄本と履歴をさかのぼった原戸籍を被相続人の親元の役場まで取りに行く必要があります。

込み入った家系だと時間も手間もはるかにかかります。金融機関にも平日に2度3度行かなくては処理が終わりません。会社勤めに方には相当な時間的負担になりますし、こんなに手間がかかったのでは葬式代の支払いが間に合いません。

仮払いの限度額は金融機関ごとに150万となっていますが、これは余裕の預貯金があっての話です。計算では預金残高が900万以上ないと150万が下ろせないのです。

計算式は預金残高三分の一が対象額となりそのうちから相続人の法定相続分に限られます。子が2人なら半分ということになります。預金残高が900万で、対象額が300万、その法定相続分は半分で150万というわけです。

預金残高×1/3×法定相続分=上限額(相続人一人あたり)

家族葬が多くなったとはいえ葬式代はなかなか150万におさまりませんし生活費も必要です。残高が葬式代という方は、例えば300万残高があったとしても50万しか下ろせないことになります。長年老後生活をして病気をすると家屋敷があってもキャッシュはそれほどない家庭がほとんどでしょう。年金生活でお金がたまるわけではありませんからね。

考えてみれば、多くの老後貧乏所帯には役に立たない制度というより下手をすれば足かせになりかねません。聞くところによると金融機関は仮払い制度導入に合わせて従来の「便宜払い」を見直すところもあるそうです。庶民の実態を知らない制度改革は悲劇です。

◆ 金融機関は相続発生を知りません。

そういうわけですから、せっかくの民法改正で預貯金の仮払い制度がスタートすることになりましたが、実務的には金融機関を含めて対応はこれからになると思います。

相続はいつ発生するか予測できませんが、近々にご予定がある方は預貯金の仮払い制度に期待せず金融機関の残高を確認しながら早めの引き出しをされることが大事かと思います。

何度も申しあげますが、金融機関は相続発生を知り得ません。暗証番号は必要ですが、キャッシュカードなら下ろせます。ただ一日の利用限度額が最大で50万だとすると何日かにわけて下ろす必要がありますのでご注意を。

また老婆心ながら申し上げておきますが、士業の方に相談するとビジネスですからあらゆるリスクを並べたてます。お金を必要額下ろすだけなら士業の先生に相談することもありません。

金融機関などの相続の手続きは手間がかかりますから、時間がない方は自分の時間をお金で買うつもりで士業の先生を利用されることは否定しません。

◆ 介護費用も葬儀費用も領収書をきちんと残す。

念のために申し上げておきますが、下ろしたお金を何に使ったかきちんと領収書を残しておくことです。領収書がない場合でも別紙に出金記録を必ず残します。介護費用も葬儀費用もわかりやすく整理しておくことが大事です。もめる家庭も、もめない自信がある家庭もお金の出入りを明確にすることが円満の秘訣ですね。

◆ それでももめそうな家庭は預貯金の仮払い制度を活用。

下ろしたお金の管理がきちんとされていてももめるときはあります。預貯金の仮払い制度は必要な情報さえそろえば相続人一人で手続きできます。(相続人の戸籍謄本を依頼するので目的は明かす必要があります。)たとえ一人で自分の権利だけを仮払い制度を利用するにしても他の相続人に連絡して了解を取っておくことが大事です。

葬式やその後の法事で顔を合わせるでしょうから、預貯金の仮払い制度で下ろしたお金の使い道まで説明しておくと安全ですね。

◆ 預貯金仮払い制度の使い勝手、まとめ。

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預貯金の仮払い制度は新しく始まりますから、金融機関も対応に追われているところでしょう。実務的には使い勝手が必ずしも良いとは思えません。当座の葬式代と生活費があれば使わずに済ませたいところです。

金融機関がどのような対応をするのか今のところ見えていません。例えば「便宜払い」をやめてしゃくし定規に口座凍結をして遺産分割協議書を求めてくるのか、預貯金仮払い制度を前面に立てて融通を利かさなくなるのかわかりません。

金融機関によっても手続きの手順や手間が変わりますから、それにも影響を与えると思います。圧倒的に手間がかかるのがゆうちょ銀行、JAは組合員相手には丁寧に対応します。一般の銀行も似たようなものですが、預貯金仮払い制度で必要になる相続情報は、仕事を持つ身の上では有休を2日~3日ぐらい取らなくては進みません。相続が発生すればそんなことをやっている時間はなく支払いが来ます。

ゆえに手元資金が心もとない時は、早めの引き出しで必要額を工面することが大事であるとアドバイス申し上げます。