相続人申告登記は登記にあらず、間に合わせと先送りの裏ワザ。
相続登記の義務化に伴い、「相続人申告登記」なる新たな制度が令和6年4月1日からスタートします。同日に始まる「相続登記の義務化」に対応できない場合の、仮登記のような制度です。
普通に考えれば間に合わせであり、相続登記の責任を先送りするだけの制度です。ところがこの制度はうまく使えば抜け穴があり、今まで通り相続登記をせずに済ませてしまうことができるかもしれません。
いろいろ検証してみると意外な視点が出てきます。士業の方はビジネスにしなくてはなりませんから、抜け穴を探す意味がありません。素人はその点、出費を抑えたいという姑息な発想があります。
ただ、法制度が新たに発足すると、今までに経験がない仕組みですから、いろんな矛盾や問題点が出てきます。それで、何度か見直しが加わり徐々に浸透させていくという手順があります。そういう意味では、抜け穴があったとしても、いずれふさがれるという可能性はあります。
お役に立つかどうかはそのときまでわかりませんし、責任を持つような話でもないので、その点はご了解願います。
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◆ 相続登記と相続人申告登記との違いは?
不動産登記法が改正され、相続登記が義務化されました。それに伴い指定の期限までに相続登記ができないときに、過料を免れるための仮の対応処置として相続人申告登記という仕組みが別に登場しました。相続人申告登記がなされれば、確かに社会問題となっている所有者不明土地にはなりません。
相続人申告登記は相続登記と異なり、シンプルな制度ですから、たぶん誰でも自分で行えると思います。費用もほとんどかかりません。
でも相続人申告登記では、相続登記をしたことにはりません。土地の処分を考えるのであれば、いずれ相続登記は必須になります。相続登記義務化には3年の猶予期間がありますから、とりあえず先送りしたいだけなら慌てることはありません。令和9年の4月までに相続人申告登記をしておけば、そっから先、相続した不動産の処分を考える時間は十分あります。
相続人申告登記の必要書類と手順、費用は?(令和6年4月1日~)
被相続人の相続関係を証明する連続した戸籍関係の書類は必要ありません。登録免許税や司法書士などへの費用もかからず、費用は関係書類を取得する費用と交通費くらいになります。考えられる必要書類は下記ですが、これは制度開始時点で確認が必要です。
・亡くなった方の除籍謄本(法務局では、相続が発生したことを知り得ません。)
・申出をする相続人の戸籍謄本(被相続人と相続人の関係がわかります。)
・申出をする相続人の住民票(もしくは本人確認ができる書類になると推測します。)
◆ 秘密にできない相続登記とは、そもそも何よ?
法務局で登記簿謄本をとれば、登記簿とは書いてありません。右肩に小さな字で「全部事項証明書」と書いてあります。それぞれ、呼び名と正式名称が異なるので紛らわしいのですね。若干乱暴な等式ですが、専門家でないので関係性がわかればよいと思います。経験から言えますが、初心者とは、こんな区別すらわからないということです。
・登記簿=登記簿謄本=全部事項証明書=登記事項証明書(全部事項証明書・現在事項証明書)
・戸籍謄本=全部事項証明書(戸籍全部事項証明書)
・戸籍抄本=個人事項証明書(戸籍個人事項証明書)
登記とはどういう意味があるのでしょうか?登記にはいろいろな種類がありますが、相続登記に関係がある不動産登記の場合は、その不動産の所有権を第三者に対して主張することができます。
不動産の登記簿は、法務局に行けば誰でも閲覧できます。その不動産の物理的状況と権利関係が記されています。当然その所有権を持つ人の住所・氏名は公開されています。「公示」といいますが、読んで字のごとく「公衆が知ることのできる状態に置くこと」を意味します。
そうでなければ、不動産売買などの取引や境界確認などができませんからね。登記制度により管理されていますから、不動産の所有を秘密にすることはできないのです。
◆ 相続人申告登記のメリットとデメリットは?
相続人申告登記は、自分だけできる仮登記と言えます。戸籍謄本取得代や雑費はかかりますが、相続登記のように登録免許税や司法書士などに払う費用はかかりません。
ただし、相続人申告登記は登記にあらずです。かならずいつか登記が必要となります。相続人申告登記は令和6年4月1日から始まりますが、猶予期間がありますので使うなら3年後でもよいことになります。
でも相続登記を放置している層は多いと思いますから、駆け込みがかなりあるのではないかと予測できます。なるべく早めが安全かもしれません。もし3年以内の期限までに相続登記をする可能性があるのであれば、相続人申告登記は二度手間になります。
・固定資産税は課税されているが、相続登記が未了の土地(所有者不明土地予備軍)
これまでに相続して、固定資産税を払っているけれど相続登記をしていない場合→さっさと相続登記を済ませることが得策です。
話し合いがまとまらないか、誰が相続するか決めずに放置している場合→遺産分割協議をして相続登記することがよいと思います。
相続人申告登記での注意点があります。相続登記すれば、所有権を保持している人の住所・氏名は公開されます。相続人申告登記しても、申し出た相続人の住所・氏名は公開されます。不動産の所有に関しては、一般にはなじみがない感覚ですが、デメリットとしてプライバシーはないのです。
基本的には相続人申告登記のメリットは、一時的に過料を免れることです。どこかで期限が来て相続登記は避けられないと考えてください。
◆ 相続人申告登記は登記にあらず、まとめ。
すべての人には親が最低2人あり、必ず相続が2回あります。親の代から生涯賃貸暮らしでもない限り、不動産所有の可能性があると思います。
相続登記の義務は令和6年4月1日から3年以内となっています。令和6年4月1日以後の場合は、相続発生から3年以内となります。いきなり過料とはならないので、法務局から督促が来たらとりあえず相続人申告登記をして先送りする手があります。
相続人申告登記は、まったく新しい制度です。一見二度手間になるデメリットもありますが、使い方によっては相続登記の義務化に対する抜け穴になる可能性があります。うまく使えば、かかるコストを最も先送りするテクニックになるかもしれません。
士業の方にとっては相続人申告登記では仕事になりませんから、相続登記をすすめるのは当然です。相続登記の義務化で価値のない田舎の土地にお金をかけたくないなら、とりあえずの必殺技ともいうべき相続人申告登記は、使える裏ワザの可能性があるように思います。
相続登記をしていなくても相続人代表と思しき方には、固定資産税納税通知が届くようになっています。固定資産税は逃れようもないので仕方がないですが、登録免許税と登記関係の諸費用は、とりあえず相続人申告登記をしておけば、今までと同じように先送りすることができそうです。改正不動産登記法の原文を読んでみても、相続人申告登記には、有効期限が記載されていません。
・改正不動産登記法(令和5年4月施行)
相続人申告登記をした者は、その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
とだけ書かれています。遺産分割協議がまとまらなければ、所有権の移転登記はできませんから、実質無期限ともとれます。ただし相続後10年以内に遺産分割協議をまとめないと特別受益や寄与分が認められないというルールも一方であります。
ただし遺産分割協議を相続発生後10年以内にまとめないといけないというわけではありません。その点はご注意願います。相続登記を先送りするような相続に、特別受益とか寄与分というような話はそもそもないような気がします。特別受益や寄与分なんて関係ないと言うなら、期限は今のところないことになります。
でも、ここはお上の方針に従い相続登記を行い、固定資産税を支払うことが国民としてのつとめです。そうしているうちに、買い手がつくかもしれませんから。
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