全額損金可能な30万までの少額契約の価値。

全額損金可能な30万までの少額契約の価値を考えると。

保険の代理店が「これは全額損金可能です!」と説明すると、買う側ではドキッとします。すでに昨年の6月28日に出された国税通達(法人税基本通達9-3-5の2)以来、最近では全額損金などという保険説明は聞いたことがありません。

これはひょっとして、国税庁の裏をかいた新商品か!という期待が高まります。利益が出ている企業は、期末になると損金という言葉に敏感になります。

買う側の立場で、全額損金可能な30万円までの少額保険商品の意味と価値を検証しました。

■節税保険、バレンタインショックまとめ。

◆ 国税庁の一網打尽通達の威力。

何度もご案内していることではありますが、簡単に振り返ると昨年のバレンタインショックからパブリックコメント、6月28日の国税庁からの節税保険一網打尽通達発遣、そして保険会社各社の新商品の発売がありました。

結果として、法人保険販売を主力としていた保険代理店や保険営業は節税保険が売れなくなりました。法人契約を得意としてきた、保険会社の未曽有の苦境を目の当たりにしてきました。

また通達の威力は破壊的に強力で、これまで節税保険の繰り延べに頼っていた中小企業も、リスクの高い金融商品やLED投資への切り替えなど、一括償却が可能な仕組みに走りました。

税金を払ってでも手元にキャッシュを残すべきであるという、お上ひも付きの税理士もいます。しかし利益の出る中小企業のオーナー経営者の立場であれば、全く見返りのない税金というコストは極力抑えたいと考えます。もちろん決算賞与などという、既得権につながりかねない最終手段もとりたくないので、いよいよ困るわけです。

◆ 国税通達の例外、全額損金可能な30万契約。

6月28日に発遣された国税専門用語で書かれた通達を難儀しながら読み解くと、年間保険料が30万円以下の保険契約は、全額損金算入を認めると言っています。とすれば社員をかき集めて被保険者の数をそろえば、そこそこの保険料まで積み上げることができます。

さらに「経過的取り扱い・・・改正通達の適用時期」の項目に書かれていることは令和元年7月8日以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料に適用するとあります。要するに過去の契約を通算ぜずに、新規契約として一人あたり30万まで全額損金を認めると言っているのです。

ところがそれほど甘い話ではなくて、付帯条件として最高解約返戻率が70%以下に限るとされました。これはどういう意味を持つのかは次項で解説します。

◆ 最高解約返戻率の縛りは実質返戻率103.5%

そもそも節税保険に頼る企業というのは、オーナー経営者が実権を握っている同族会社で、継続的に利益が出る体質の中小企業です。法人保険の節税効果を見る指標として、実質返戻率(代理店は日付なし作者なしの自作資料を提示しますが。)という判断基準があります。

実質返戻率というのは、税効果を考慮した見かけ上の解約返戻金の返戻率のことです。実質返戻率を算定するためには、その企業の実効法人税率を知る必要があります。実効法人税率は高く設定すると、実質返戻率が高くなり節税効果を感じることができます。

資本金1億円以下の企業とそれ以上の普通法人とは、実効法人税率が異なりますが、概ね30%前後になります。そうなると解約返戻率が70%なら実質返戻率は100%となり差し引き損得なしになります。保障が必要なら意味がありますが、そうでないなら保険会社と保険代理店に貢いだだけになります。

実効法人税率が30%以下なら下手をすると本当に損金になります。利益が大きく出ている、資本金が1億円以下の企業は実効法人税率が33.5%程度になりますから、解約返戻率が70%であれば実質返戻率は103.5%ということになります。

節税効果から見れば残念ながら、かなりしょぼいことになります。保険契約を進める動機としては弱くなると言えると思います。

◆ 全額損金可能な30万までの少額契約の価値。

中小企業のオーナー経営者にとり、税金を払ってB/Sをよく見せるか、利益を簿外に蓄えるかは微妙な心理が働きます。

自己資本比率も高く、手許キャッシュも潤沢であれば、利益は簿外に緊急予備資金として蓄えたい心理が働きます。支払った保険料はP/Lで費用として一旦落としてしまいますから、解約返戻金が現金になるまでは、財務的には消えてしまったことになります。

もし全額損金可能な30万までの少額契約を社員分だけ考えることがあるとすれば、簿外資金の蓄積ということ以外に、メリットになりそうな要素はありません。価値があるかどうかはその企業の財務状況と経営者の考え方によるでしょう。

◆ 全額損金可能な30万円までの保険、まとめ。

もし福利厚生として定期保険を考えるような場合、被保険者である社員の年齢はバラバラですから保険料も年齢や性別に応じてバラバラになります。保障額を揃えることはできても保険料を30万円に揃えることはできません。どうもすっきりしない保険になりそうです。

全額損金と言っても、それほどうまい話にはならないということが、お分かりいただけたかと思います。法人をターゲットとする法人保険の営業は、売り方の切り口を完全に切り替える必要があります。

保険を保険として売る、この当たり前の営業ができるかどうかです。もう菓子折り一つで、今期はいくら落とされますかという話法は通用しなくなりました。

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