ドル建て終身保険の名義変更、究極のメリットとリスク。

ドル建て終身保険の名義変更、究極のメリットとリスク。

法人契約の逓増定期保険を個人に名義変更することで、資金移動ができる逓増定期の名義変更スキームは、ホワイトデーショックで道が閉ざされたことはご存じの通りです。

このままでは、名義変更スキームをメインにしていた保険代理店はコロナショックどころではなく息が継げない存続にかかわる事態です。ぎりぎりの知恵比べというべき執念であの手この手で抜け道を探します。

その中で、これまでの国税通達に準拠しながら、名義変更で法人から個人へ資産を移行する仕組みが提案されています。二度にわたる国税通達に抜け穴はないように見えましたが、その上を行く名義変更スキームを中小企業のオーナーの立場で検証してみました。決しておすすめしているわけではなく、事業承継を円滑にするための選択肢として、ありうる可能性を提示しているとお考え下さい。

■逓増定期保険の名義変更、ホワイトデーショックまとめ。

◆ 解約返戻率に差ができれば名義変更できる訳。

名義変更スキームは解約返戻率に十分な差があれば、解約返戻率の差額分が譲渡を受けた個人にプラスになる仕組みです。法人で保険料を資産計上していても、名義変更によって派生する法人の損失は節税になっていますし、解約返戻金で得た一時所得は個人の資産となりました。それがホワイトデーショックでできなくなった結果、新しい名義変更ウルトラCスキームが登場したというわけです。

米国ドル建終身保険(初期低解約返戻金型)10年短期払いをたとえばG社で設計すると、11年目に解約返戻率が大きく変化します。終身保険は全額資産計上、損金額がありませんからそもそも通達の規制の枠外にあります。予定利率の高いドル建で、初期低解約返戻金型の保険を設計するとどこかで解約返戻率が高くなる時期が来ます。

このドル建て終身保険を10年の短期払いで設計すると、払込が終わるときドル建て運用益がたまりますから、解約返戻率が必然的によくなります。(被保険者の性別と年齢によります。)

◆ 終身保険の名義変更が国税通達に準拠している根拠。

バレンタインショックで国税庁から発遣された通達は「法人税基本通達9-3-5の2」です。これは最高解約返戻率に応じて4パターンの損金率が規定され、保険料の損金算入による利益の繰り延べ効果がほぼなくなりました。

しかしこの通達内容をよく見ると、対象となる保険は「法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの親族を含む。)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険(以下9-3-5の2において定期保険等という。」とされています。どこにも終身保険を対象とするとは書かれていません。

またホワイトデーショックで発遣された通達には、保険契約等に関する権利の評価として、個人への名義変更時の「支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利(法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限る。)を支給した場合には、当該支給時資産計上額により評価する。」とされています。

解約返戻金が資産計上額の70%以上であれば、何の問題もないことになります。今回検証しているG生命の終身保険は、解約返戻率がわずかに70%に届いていませんが、規制対象外の終身保険ですから解約返戻金相当額で譲渡することは妥当であると言えます。根拠法は下記をご参照ください。

所得税法36-37名義変更時点での解約返戻金相当額

支給時解約返戻金の額が、支給時資産計上額の70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利(法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限る。)を支給した場合には、当該支給時資産計上額により評価する。

終身保険であること、または名義変更時の解約返戻金が資産計上額の70%超であれば適法であることが示されているわけです。その後の解約返戻金が100%超であっても問題にはならないことになります。

◆ 終身保険の名義変更に係るリスクとデメリットから検証。

・初期(10年間)低解約返戻金リスク 70%

初期低解約返戻率の保険商品は、解約返戻金が多く場合において本来あるはずの金額の7割ほどに減額されています。その分を先送りして、初期低解約期間を終えたころ解約返戻率が一気に上がります。ドル建てですと運用がよくなりますから100%を越えて30年後には140%超にもなります。

資産運用の金融商品としても魅力があります。しかし、一番のデメリットは早期に解約しなければならなくなったときの損失が大きくなるということです。たとえば10年間、保険料を継続して払い続ける自信がなければ手出しはできません。

・10年間保険積立として税の先払いリスク。

前項と同じ内容ですが、途中解約は大きな損失につながりますから急な資金需要には対応できません。継続的に10年以上保険料を払い続けその間、保険積立として税金を払う覚悟が必要になります。これまで損金保険でメリットを享受してきた経営者にはとって、終身保険は理解できないかもしれません。

・為替リスク→円安、円高

ドル建てですから、円貨との関係で為替リスクがあります。為替リスクは10年というスパンで見ると、大きく様変わりする可能性があります。保険料を支払うときは円高で解約返戻金や保険金を受け取るとき円安になれば、手にした一時所得のメリットはさらに大きくなります。

しかしその逆の場合も十分起こりえます。11年目に名義変更して解約返戻金を受け取るときに円高に振れていれば、一時所得は大きく目減りすることもあり得ます。余裕があればドルのまま寝かせておくということもありですが・・

・逓増定期より資金移動効率が劣る、保険料過大化

名義変更による資金移動の効率という点では、逓増定期保険に劣るようです。払込保険料累計の3割超が一時所得となりますから、大きく資金移動をするばあい保険料は結構過大化します。ということは保険積立金として寝かせるキャッシュが大きくなるということです。これは当座のキャッシュフローがよほど潤沢な企業でないと、保険料支払いが維持できなくなる可能性があります。

・税制変更リスク

バレンタインショックやホワイトデーショックのように、通達で税制変更ということもあり得ます。ただ、ドル建終身保険の名義変更が拡大しない限り、問題はないと思いますが、国税に目をつけられれば、通達ひとつでメリットはなくなる可能性が残ります。税制変更リスクは、抜け穴を探してメリットを受けようとすると常についてまわるリスクです。

・買取資金管理リスク→11年目の担当

10年以上の長丁場で、解約する日を楽しみにしながら保険料を会社で払い続ける商品です。名義変更、一時所得を目指すのであれば、この保険の真の目的を知った人か、もしくはご自身がその間管理をされないといけません。

とくにこの名義変更のスキームでは、11年目に保険を買い取る資金にポイントがありますので、わかった管理者が必要という点はデメリットになるかもしれません。

しかしこの保険は終身保険ですから、逓増定期保険のようにピークを過ぎれば解約返戻率が大きく下がるようなことはありません。10年で払込満了として保険契約を会社で持ち続けても損失は発生しません。解約して経営資金に充てることも可能ですし、いつの日か死亡保険金を会社が受け取ることもあります。

◆ 米国ドル建て終身保険の名義変更、それでも魅力のメリットについて。

・個人に名義変更し資金移動が可能→差額一時所扱い

ドル建て終身保険の名義変更の一番のメリットは、法人の資金を役員報酬や賞与でもなく配当でもない方法で個人に付け替えることができることです。また手にした一時所得は、50万の特別控除を引いた残りの半額に対して所得税が課税されます。言ってみれば一時所得は、半額が非課税となるわけですからすこぶる美味しいのです

・名義変更時の雑損失で節税が可能(節税保険出口対策)

ドル建て終身保険も初期低解約返戻型ですと、低解約期間の名義変更になります。保険積立をしている保険料累計より、解約返戻金は大きく下回ります。その差額は、名義変更時に会社の雑損失になります。利益の出ている企業では、この雑損失に使い道があります。そもそも雑損失は、資金の流出ではなく節税になっています。

・終身保険として死亡保障を10年確保

資金移動を目的としていますが、終身保険の機能も併せ持ちますから解約するまでの10年間は大きな死亡保障があります。本来なら別途保険料を支払って事業保障を確保すべきですが、この保険では一挙両得になっています。

・名義変更なしでも米国ドル建てで11年目以降の高資金運用効率

米国ドル建てですから、資金運用効率は円貨と比べてはるかに良くなります。10年目までは初期低解約返戻率型ですから解約返戻金は増えませんが、11年目からは契約返戻率が下がることなくぐんぐん伸びていきます。これは円建てでは考えられない伸びとなります。

◆ 米国ドル建終身保険の名義変更、ポイントと老婆心まとめ。

ポイントを整理しました。なかなかむつかしい面がありますから、逓増定期の名義変更のようにすぐに飛びつくということはないかもしれません。慎重な判断の上、資金繰りに余裕がある中小企業だけが、選択肢として考えることができそうです。

・経営者の自己責任で管理

・長期保険管理の視点が必要

・中期的な余剰資金が必要

米国ドル建て終身保険の名義変更という、新しいスキームについて検証してきました。メリットも大きいですがデメリットやリスクも侮れません。それでも普通の経営をしていては、事業承継において資金移動は容易ではありません。ひとつの選択肢として、逓増定期保険に代わる新しいスキームを検討する価値はあります。

大事な事は10年以上の長期スパンで管理する必要があります。任せる人がいなければ、経営者自身で管理するより方法がありません。まさに自己責任と言うことです。もう一つの点では中期的な余剰資金が必要となります。経営資金がギリギリであれば到底使えるスキームではありません。

過去のオプションの歴史を見れば、為替リスクも小さくないことが理解されると思います。また通達というのは勝って解釈すると、そんなはずではなかったという国税解釈が後から出てくることがあります。

ただ米国ドル建て終身保険のメリットが、大きいことはよくわかります。逓増定期の名義変更と違う点は、忘れるリスクが思いのほか小さいのです。10年保険料を払って名義変更を忘れた場合、有効な終身保険として払込保険料以上の解約返戻金と大きな死亡保障が終身で確保できます。

追記:円建てで5年目までは低解約返戻率(70%)その後100%超の終身保険の提案があります。これは適法で為替リスクがなく名義変更して5年で勝負がつきます。

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