フツーに利用できない生命保険契約照会制度。

フツーに利用できない生命保険契約照会制度。

2021年(令和3年)7月1日より、一般社団法人生命保険協会で生命保険契約の有無を照会できる「生命保険契約照会制度」が始まっています。

もともとは「災害地域生保契約照会制度」と呼ばれ、東日本大震災で被災され生命保険の契約に関する手掛かりを失ってしまった方のためにできた制度です。時代とともに高齢化と核家族化がすすみ、生命保険契約の存在を把握することがますます難しくなってきました。そんな中で新たに改善されルールが整備され、生命保険契約照会制度としてスタートしています。

せっかくスタートした生命保険契約者照会制度ですが、実際には気軽に利用できる仕組みではないのです。

名前を見ただけでは、一瞬とても便利な仕組みができたという気がしますが、必ずしもそうではないのです。

利用のためのハードルが意外と高い理由と、どのようなケースで利用することが有効なのかをまとめました。

■生命保険契約照会制度のご案内(生命保険協会)

◆ 前提として、契約者が伝えなければ、受取人にはわからない生命保険契約。

生命保険金は受取人が請求して保険金を受取ります。契約者が死亡しても、被保険者が生存していれば生命保険契約はみなし相続財産として相続人に引き継がれます。

被保険者も受取人も保険料を負担している当事者ではありません。そのため契約者が伝えなければ、生命保険契約の詳細を知ることはできません。

ご自身や家族の生命保険契約を正確に把握されている方は、あまりいらっしゃらないと思います。とくに親や祖父母の生命保険契約については知る機会も少ないと思います。また別居していれば、全くわからないということもありそうです。

生命保険では、医療に関する給付金などは被保険者が生前に受け取ります。しかし、死亡保険金は契約で指定された受取人に権利があり、受取人が手続きを行います。

契約者=被保険者 受取人は相続人

自分が契約者で、自分に保険をかけて、保険料も自分で払っている場合です。契約者は被保険者でもありますから、死後に自分の死亡保険金は受け取ることができません。自分以外で指定した受取人が、保険金を受け取ることになります。

受取人は、通常相続人になると考えられます。受取人は契約者と違い保険料を負担していません。その保険に関する情報は、契約者が伝えなければ、受取人にはわからないということになります。

相続が発生した場合、受取人は相続人として契約内容を確認し、保険会社に保険金請求することになります。

契約者≠被保険者 受取人は契約者

受取人が契約者である場合は、被保険者死亡場合でも契約者が自らを保険金受取人として存命している訳です。当然、契約の存在は把握できているはずです。

たとえば夫が自分を受取人にして、妻に保険をかけているような場合です。またこのケースでは契約者が死亡しても、被保険者は生存していますから保険金は支払われません。しかし生命保険契約は、みなし相続財産として相続人に引き継がれることになります。

どちらのケースでも災害や認知症などで生命保険契約の存在が見落とされたり、忘れ去られたりする可能性があります。そいう場合には手間はかかりますが、生命保険契約照会制度が役に立つというわけです。

◆ フツーには利用できない最後の手段、生命保険契約照会制度。

災害や認知症でなくても、自分の親がどのような生命保険に加入していたか知らない方が多いと思います。そういう方がこれは便利だと思われるかもしれません。しかしいきなり生命保険契約照会制度を利用するというような、手軽な仕組みではなさそうです。

長年別居していていくら探しても手掛かりがない。本人はあの世でいまさら聞くこともできないとか、認知症が進んで人の顔も見わけがつかないなど、深刻なケースが対象になるようです。

生命保険契約照会制度は、内容をよく読み込んでみると適用条件が厳格に規定されています。災害のとき照会対象者が死亡、もしくは行方不明になっていれば、無料で関係書類なしでも電話で対応してくれるそうですが、今回拡大された照会制度の範囲は特殊なケースに属すると思います。

災害でなく普通の死亡では、死亡診断書や相続関係を証明する書類、本人確認書類などが必要になり3,000円の費用がかかります。

照会対象者が認知症で、生命保険契約照会制度を利用しようとすれば、生命保険協会所定の診断書に医師の証明が必要になります。もちろん照会にかかる費用も、診断書を依頼する費用も発生します。請求できる方の範囲にも細かい規定があります。

他にも細かい規定や相続手続き並みの書類が必要な場合があり、回答を得るまでに2週間は要するようです。そこまで手間暇かけて手に入る情報は、照会対象者の生命保険契約の有無だけです。そのため詳細は各保険会社に問い合わせを行う必要があります。その上で保険金請求という手順になります。

今までは災害時に保険証券を紛失した場合にのみ、照会が可能でした。一般の方でも契約者の死亡や、認知判断能力の低下など一定の条件の場合にも使えるようになりましたとは言うものの、そもそも気楽に照会するというような制度ではありません。関係書類をそろえるだけでも、かなりの時間と費用がかかり一仕事分あります。

◆ 生命保険契約照会制度を利用する前にすべきこと。

契約している保険会社さえ分かっていれば、その会社のサポート窓口に電話すれば契約は調べることができます。証券番号がわからないケースとして、本人確認がありますから契約者の氏名、生年月日、住所、契約時の電話番号を問われます。これらが電話ですらすら答えられたら、本人でなくても保険契約があるかどうかは確認できます。

普通の家庭であれば、保険証券とか契約内容のお知らせなどはどこかに残しているものです。また保険料を今も払い続けているなら、生命保険料控除証明書が残っていたり銀行の口座から保険料が引き落とされていたりします。それを手がかりに、保険会社のサポートに問合せを入れれば詳細が判明します。

・保険証券を発行しない会社、ネット契約の保険に注意。

注意すべき点としてあげれば、保険証券を発行しない保険会社があったり、保険料の支払いが満了(終了)して保障だけが残っていたりする場合があります。その場合、口座から保険料の引き落としはありません。

また契約内容のお知らせはどこの保険会社も定期的に送ってきます。しかしすぐに捨ててしまう方や保険会社に住所変更の手続きをぜずに転居している場合は困ります。必要な情報が届かなくなっていることもあり得ます。

国内生保などでは、何かと社名の入った小物をプレゼントしますから、それが手掛かりになる場合もあります。しかし契約がなくてもアプローチしてきますから、決定的な手掛かりにはならないと思います。

いろいろな情報のヒントから契約していた可能性のある生命保険会社があれば、その会社の支社に問い合わせを入れます。必要書類を持参して、契約者の氏名と生年月日で契約があるかどうか照会をすることができます。サポートに電話確認するよりはスムーズに事が運ぶかもしれません。

◆ 保険金請求権の時効が3年、でも時効の援用は?

生命保険金請求で気を付けなければいけないことは、以下の記事にまとめています。

建前論になりますが、保険金請求には3年という時効が保険法第95条に定められています。しかし保険会社が時効の援用を行わなければ、時効は成立しません。自動的に3年経過したから保険金請求の権利が消滅するわけではないのです。

固い表現ですが、時効は時効が成立する事によって利益を受けられる者(保険会社)が利益を失う者(契約者)に利益を受ける旨の意思表示をすることを時効の援用と言います。保険会社は基本的に時効の援用を主張したりしません。

死亡保険金や満期金の請求では普通、時効の援用はありません。悪質な場合、たとえば自死や保険金詐欺の疑いがあれば時効の援用ということもあるかもしれません。しかし通常契約者が不利になるようなことはしないものです。

◆ 生命保険契約照会制度の使いにくさ、まとめ。

生命保険契約照会制度とは、実に便利な仕組みができたものだと調べてみたところ、フツーに素人が気軽に使える代物ではありませんでした。特殊なケースで、しかも相続手続きのプロである士業の先生が利用されるイメージです。

しかし、その特殊なケースがないとは言えませんから災害や、相続発生時、認知症発症などのときには検討する価値はありそうです。

しかし多くのケースでは、手許に残された情報を調べればほとんどが判明するものと思います。保険証券があれば話は簡単ですが、毎年送られてくる契約内容のお知らせの最新版は捨てずに残しておくと間違いは少なくなります。

マイナンバーカードも普及してきたことですから、生命保険協会はもう少し契約内容を契約者が気軽に確認できる保険業界横断的なシステムの構築をお願いしたいところです。

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です