相続時精算課税制度の人気がない理由。

相続時精算課税制度の人気がない理由。

[2022.12.14追記]23年度税制改正大綱の方向性がほぼ決まりました。。

①暦年課税と相続時精算課税の選択制は引き続き維持。
②相続時精算課税に別途基礎控除110万円を新設。
③相続開始前贈与の加算期間3年を7年に延長。
④延長した加算期間4年間に受けた贈与は総額100万まで相続財産に不加算。

令和5年度の税制改正大綱が、12月15日にも公表されます。その中でも注目されているのが贈与税の基礎控除110万枠の見直しと相続発生前3年の贈与の相続財産へのもち戻し期間延長の話題です。

その話題に付随するように、相続時精算課税制度の見直しが見え隠れしています。贈与税の見直しは少なからず相続時精算課税制度に影響が出ると考えられます。鳴り物入りで世代間の資産移転の切り札としてスタートしましたが、その不人気はご承知の通りです。

◆ 相続時精算課税制度は中立的税制?

贈与税の基礎控除である110万の非課税枠は、相続税対策の王道として資産家の財産移転に大きな役割を果たしてきました。

つまり庶民ではなく資産家に有利な贈与税の基礎控除というわけです。それを見直して資産移転の時期の選択に中立的な税制にするということが見直しの趣旨です。資産移転の時期の選択に中立的な税制とは、資産の移転方法やその金額にかかわらず、移転資産の総額に係る税負担が一定となる税制という意味です。贈与税の基礎控除のように節税対策により差が出るような仕組みではなく、税負担が公平となる制度と言えると思います。

引用(資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税のあり方について/日本税理士会連合会税制審議会)

現行の贈与税に関しては、財産の分割贈与や連年贈与を行うことで税負担の回避が可能になるという構造上の問題が指摘されている。こうした問題に対処するため、相続税と贈与税の一体化を行うことにより、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築が必要であるとされている。近年の政府与党も同様の認識を有しており、与党の上記の「税制改正大綱」は、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点を踏まえながら、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」

資産移転の時期の選択に中立的な税制と言えば、相続時精算課税制度になります。相続時精査課税制度には、仕組みの本質的な部分では相続税の節税効果はありません。贈与税を相続税にまとめて課税できれば、税制としての公平性と一体化が図れるという考え方から、相続時精算課税制度が俄然クローズアップされてきたということかと思います。

◆相続時精算課税制度の人気がない理由。

国税庁の報道発表によると令和3年分の贈与税の申告状況では、暦年課税申告48万8千人、相続時精算課税申告4万4千人となっています。

暦年課税で申告するような方は、そこそこの資産家で贈与税を納税してまで贈与の証拠を残そうとする方ですから、実際の暦年贈与の裾野ははるかに広いと思います。

そういうことから判断すれば、相続時精算課税制度は誠に不人気と言わざるを得ません。相続時精算課税制度を利用して自社株を贈与したケースを知っていますが、その後の贈与の管理が細かくなり、ややこしくなりました。なぜ人気がないのかを簡単に整理してみました。

①相続時精算制度に直接的な節税効果がない。
②相続時精算制度を選択すると変更ができない、暦年贈与に戻れない。
③相続時精算課税制度選択以後の贈与申告が煩雑になる。
④相続時精算課税制度選択届出書と戸籍情報の提出が必要になる。
⑤贈与税還付の場合も相続税申告が必要となる。

相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻すことはできませんし、翌年以降にその贈与者からの贈与を受けた場合は、金額にかかわらず必ず申告が必要になり、2,500万の特別控除枠を超えると贈与税2割の納税をしなければなりません。相続時精算課税制度を選択した以後は清算する相続時まで、過去の贈与を少額でもすべてを集計し、毎年申告しなくてはなりませんから、これはさすがに手間です。

相続税に関係がないレベルの庶民が、親からのマンションローンの一括贈与などに相続時精算課税制度を使う例があります。相続時精算課税制度の適用を受けた方で、相続税がかからない方でも相続時に贈与税の還付を受けるためには、相続税の申告書を提出しなければなりません。

利用者が少ないということは、資産移転には不十分な制度ということになりそうです。がんじがらめの複雑な仕組みが得意な国税庁ですから、税制調査会の相続・贈与税の専門家会議で話をまとめたとしても制度設計において骨抜きになることもありそうです。

■相続時精算課税制度がとことん悩ましい本当の理由。

◆ 相続時精算課税制度の不人気、まとめ。

贈与税はもらう人単位、あげるのは何人でもいくらでも自由、ということです。より多くの人に贈与すれば相続財産を減らすことができます。

かといってむやみやたらに相続財産を生前にばらまくのは、決して好ましいこととも思えません。

つつましく暮らしている相続人にとれば、何と言っても棚ぼたの不労所得ですから、勤労意欲を失う可能性も考えておかなくてはなりません。どんなに勤勉でまじめな方でもお金を手にすると人間変わるものです。

国産の小型車に乗っていた人が高級外車に乗り換え、無理して家族で海外旅行に出かけます。腕時計やスーツもブランド物になり、スーパーの半額の刺身を買っていた人が回る寿司ではなく、目の前で握ってくれるすし屋に行くようになります。分不相応な身につかない贅沢は身を亡ぼすもとになります。貧乏人のひがみのように聞こえるかもしれませんが、その辺は割り引いて読み進めてください。

もし、もち戻し期間が来年から7年になるということなら、年内に相続税の税率を下回る程度キャッシュを目いっぱい贈与し、暦年贈与を継続しつつ、来年からはタイミングを見て相続時精算課税制度の活用を考えることになりそうです。将来値上がりが予想される資産を一気に贈与してしまいます。例えば解約返戻率がよい外貨建ての一時払終身保険なども有効な方法だと思います。劇的な効果を期待できるものは、もはやあまりありませんが、組み合わせて使うことかと思います。

財産がそれなりにあるとそれなりに苦労もあるということです。悟りきれない身の上では、相変わらずこの世だけの方便であるお金に拘泥している自分を「これでいいのだ!」と慰めています。

Pocket

「相続時精算課税制度の人気がない理由。」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です