死亡退職金には所得税がかからなくても、かならずしも有利だとは言えない理由があります。
中小企業のオーナー経営者にとって経営の一線から引退するということは口で言うほどたやすくはありません。
退職慰労金用に法人保険を設計する場合、引退時期に合わせて解約返戻金の返戻率のピークをもってきます。
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この引退時期がずれると保険代理店は喜びますが買う側の保険設計者としては困るわけです。
保険商品によってはピークがマッターホルンの様に一点一時期に集中しているケースもあります。これをずらすには二段式とかいろいろテクニックはありますが、保険に入り直すことで戻りのキャッシュが目減りするのです。
ところが経営者はいずこも同じで引退後のことを考えたり後継者の能力を言い訳にして、様々な理屈をつけて社長の椅子を譲ろうとはせず一度ならず二度三度引退時期を延期します。
果ては「死亡退職金は所得税がかからへんから有利やと聞いたので調べてくれんか。」ときます。思わず「いつ死亡退職金を受取られる予定ですか?」とあほな質問を繰り出します。聞かずにはおれない話です。
10年後か20年後かもっと先か、全く未確定の退職慰労金支給時期に合わせて何ができると言うのでしょうか。
それよりそんな未来に今の会社が健全に存続しているかどうかすらわかりません。せっかく既得権の全損で簿外にため込んできた法人保険の解約返戻金も解約時期がわからないでは、どうにもしようがないというものです。
保険の種類によって数年は返戻率が落ちないもののありますが、被保険者の年齢や性別によってはピークを過ぎて解約返戻金のカーブがお辞儀を始めるものもあります。解約返戻金の返戻率は落ちだすと早いものが結構あります。
だいぶ愚痴を書いてしまいましたが、確かに計算してみるまでもなく
死亡退職金は所得税や住民税から見るとかなり有利になります。
わかりやすく言えば生存退職金には所得税と住民税がかかりその上相続税が課税されるW課税です。ところが死亡退職金には故人に所得税は課せられないですから所得税も住民税もなしでいきなり相続税だけが課せられます。
とすれば経営者にとれば渡りに船です。税金が安くなるから死亡退職金にすると言えばとりあえず引退は形だけにすることもできるのです。ただ形だけの引退にしても役員報酬を減額すれば退職慰労金の支給額にも影響してきます。
とはいえ死亡退職金と言えば退職金でありながら経営者が自ら受取り自由に使うことはもはやできない相談です。後継者に資金を残してやると言う親ごころと思うほかありません。
堂々巡りのような話ですが中小企業のオーナー経営者にとれば会社のお金は自分のお金とイコールです。自分のお金は会社のためにあるようなものです。要するに会社と経営者は一蓮托生ですから早い話が(少しも早くはないですが。)相続税の納税資金さえ準備できていれば退職慰労金を受け取る意味はないということにもなります。
会社に置いとけば後継者が役立ててくれるということです。
いくらお金があっても三途の川には一円たりとも持っては行けません。お金はこの世においてのみ意味のある随伴する属性にすぎません。美味しいものも人の2倍は食べられません。美味しい酒も飲みすぎれば体を壊します。金に飽かせた酒池肉林も身を滅ぼすだけです。
なんか妙な人生訓になりました。確かに死亡退職金は税金の計算だけでは有利です。しかし原資の都合や後継者の経営権そして本人の人生という視点から見れば必ずしも有利とは言えない事情が垣間見えるのです。