
売りたい保険と買いたい保険、生命保険には、この二つが必ず存在します。
保険営業はお客様のために保険を提案します。しかし同時に、自分の成績や
収入、会社の販売方針とも無関係ではいられません。
一方で契約する側は、自分や家族を守るために保険を選びます。
ところが生命保険は形がない商品です。自動車や家電のように比較しにくく、
どうしても売る側の説明に頼ることになります。
私は保険営業として保険を売る立場も経験し、
その後は法人契約者として保険を買う立場も経験しました。
その両方を知っているからこそ見えてくることがあります。
掛け捨て保険が悪いわけではありません。
むしろ生命保険の本質は、掛け捨てにあると言ってもよいでしょう。
しかし、なぜ保険会社は掛け捨て保険を主力商品にするのか。
なぜ保険営業は掛け捨て保険をすすめるのか。
そして掛け捨て保険が「損をする保険」のように語られるように
なったのはなぜなのか。
そこには保険会社の事情と営業現場の事情、
そして契約者の思惑が複雑に絡んでいます。
生命保険の販売現場を経験し、現在は買う側として保険提案を受ける立場から、
掛け捨て保険と保険営業の裏側にある事情を解説します。
■保険販売における利益相反とは?立場ごとの違いを経験者が解説。
◆ 掛け捨て保険が悪者になった理由。

掛け捨て保険という言葉には、どこか否定的な響きがあります。
保険の予定利率が高かりし頃、貯蓄性のない保険を揶揄(やゆ)する
意味すらありました。「掛け捨て」という言い方は、保険料を無駄に
捨てているというような意味合いがありそうです。
どうせ何もなければ保険料は戻らないとか、掛けたお金が無駄になる
と言うような、そんなイメージを持つ人も少なくありません。
保障を買っているのが保険ですから、決して捨てているわけではないのですが、
保険事故がないと保険料を損したような気になる心理です。
しかし本来、生命保険とは保障を買うものです。
火事にならなかったから、火災保険が無駄だったとは言いません。
事故を起こさなかったから、自動車保険が無意味だったとも言いません。
生命保険だけが「掛け捨てだから損だ」と言われるのは少し不思議な話です。
ではなぜ掛け捨て保険が悪者になったのでしょうか。
その背景には、かつての高予定利率時代があります。
私が保険営業をしていた頃でも、予定利率が高い時代の契約を持っている
お客様は珍しくありませんでした。
終身保険や養老保険に加入しているだけで、保険料以上に
解約返戻金が増えていくような契約です。
いわゆる「お宝保険」と呼ばれる契約です。
そういう時代を知っている人から見れば、今の保険は物足りなく映ります。
ところが今は事情がまったく違います。
低金利が長く続いた結果、保険会社は昔のような運用ができなくなりました。
貯蓄性の高い保険は設計しにくくなり、
保障性を重視した掛け捨て型の商品が主流になりました。
その結果、昔の保険は良かったとか今の保険は掛け捨てばかり
というような評価につながったのです。
掛け捨て保険が悪いというより、時代が変わったと言った方が正しいと思います。
◆ 保険会社が売りたい保険と契約者が買いたい保険。

保険会社は慈善事業ではありません。
相互会社であっても株式会社であっても、営利企業ですから
利益を出さなければなりません。
保険会社には保険会社の事情があります。
営業現場にいると、会社が販売を強化したい商品というものが見えてきます。
より儲かる保険のコミッション率を高くします。
保険会社が売らせたい生命保険が、保険営業の売りたい保険になる
事情がそこにあります。
キャンペーンが行われたり、表彰制度が用意されたり、
会議で繰り返し話題になったりします。
もちろん表向きは、お客様に役立つ商品だからという説明になります。
実際にそういう面もあります。
しかし現場に長くいると、それだけでは説明できないことも見えてきます。
保険会社が売りたい保険と、お客様が買いたい保険が
完全に一致するとは限らないのです。
営業は会社から評価されたい。
保険会社は販売を伸ばしたい。
契約者は自分に合った保険を選びたい。
それぞれ立場が違う以上、考え方にズレが生じるのは当然です。
問題は、そのズレを誰も口にしたがらないことです。
◆ 保険営業はなぜ掛け捨て保険をすすめるのか。

保険営業の世界は想像以上に厳しい世界です。
一般の人はトップ営業なら安泰だと思っています。
しかし実際は違います。
駆け出しの営業も優績者も、来月になればまたゼロからスタートです。
MDRT会員でも契約が取れなければ焦ります。
賞与が大きく変わることもあります。代理店なら維持基準があります。
営業職員なら昇格や降格があります。
保険会社によって制度は違いますが、
契約を取り続けなければならないという本質は変わりません。
だから営業は会社の方針に沿って保険を売ります。
生活がかかっているからです。
保険営業にとって、その保険期間の全期間にわたり、
責任を負うわけではありません。
突き詰めれば生命保険は保険会社と生命保険契約者との2者の契約です。
その間に保険営業や代理店が入るわけではありません。
それゆえ生命保険を販売する営業としては、責任を感じる部分がある反面、
仕事をやめてしまえばお終いという割り切りもあります。
売ることそのものを責める気はありません。
私自身、その世界にいた人間です。
ただ、「お客様のためだけに提案しています。」
という説明を聞くと、少し違和感があります。
人は誰でも自分の事情を抱えています。
保険営業だけが聖人君子であるはずがありません。
お客様の事情があり、同時に営業自身の事情もあります。
その両方を理解して初めて保険提案の本質が見えてくると思います。
◆ 掛け捨て保険と保険営業、まとめ。

掛け捨て保険が悪いわけではありません。
むしろ生命保険の本質に、最も近いのは掛け捨て保険だと思います。
必要な保障を必要な期間だけ買うという点では、考え方としては合理的です。
しかし保険は商品である前にビジネスでもあります。
保険会社には売りたい商品があります。
保険営業には売らなければならない事情があります。
私が現場にいた頃は、「重大月」と呼ばれる販売強化月間がありました。
月末や決算前になると、あと一件、あと一件という空気が支部全体に漂います。
「今月だけでもお願いします」「重大月なので何とか協力してください」
そんな言葉を聞いたことも一度や二度ではありません。
もちろん全ての営業がそうではありません。しかし契約件数が評価や収入に
直結する以上、追い込まれる営業が出てくるのも事実です。
その現実を知ったうえで保険を見ると、同じ提案でも違って見えることが
あります。保険選びで大事なのは、営業の話を鵜呑みにすることではありません。
なぜその商品をすすめるのか、他の選択肢はないのかなど
その保険で本当に自分の目的を達成できるのかを考えておく必要があります。
そこまで考えて初めて、売りたい保険ではなく買うべき保険が見えてくるのだと思います。
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