節税保険の混迷と出口を買う側で見ると。
日本経済新聞の2月14日の「節税保険」の販売停止という記事から始まった生命保険会社各社のドタバタ劇場は、まだ先が見通せないばかりか収束する気配がありません。
買う側にいると代理店や保険会社から続々と情報が入り概要が見えてきます。代理店によっても保険営業によっても言うことが異なります。
売らんがために適当な話をでっち上げる代理店まで出現しました。節税保険では過去に同様の事態がありましたが、今回は国税庁の姿勢が急激かつ強硬です。
買う側として気になるのは、果たして全額損金のまま駆け込むことができるのか、将来の税務調査で駆け込み契約が安全なのか、はたまたグレーな手法に乗るとヤバイのか、買う側にとってお得な選択肢を探ります。
◆ 生命保険会社各社の動きとドタバタ。
日経の記事が掲載された14日は、朝から大変でした。代理店や各社の保険営業から携帯やらメールで情報が入ってきます。当日アポの金融機関系保険代理店もありました。
保険会社各社ともに朝から会議で情報収集に追われていたようです。即日販売停止などと言われても相手がある話ですから売るべきか自粛すべきか判断できない状態です。すでに提案済みのもの、診査中のものなど状況はさまざまです。自粛と言われれば、新規の提案を自粛するということは可能ですが、実際は保険会社各社の判断に任せるほかないところです。
記事だけを読むと即日販売停止のようでもあり自粛のようでもあります。国内生保と外資系とは対応が分かれたようです。このドタバタは来週も続くと思います。話が急なだけに節税保険を検討されていた会社には、微妙な心理的変化が生まれたと言えるのではないかと思います。
◆ 代理店のリスク回避と念書の無意味。
代理店にすれば主力商品を封じられるわけですから存続に関わる一大事です。しかし売れるものなら駆け込みたいところです。怖いのは販売した後に網がかかって全額損金という経理処理が認められなくなるような事態です。全額損金を認めない通達が出るようなら責任問題になります。
買う側としてはそのときは代理店が責任を負い契約がなかったことにできる念書を書いてほしいところです。ところが代理店にすればリスク回避のため通達により取り扱いが変わっても責任は顧客にあるという念書を提示しようとします。
そのようなスタンスでは、買う側としては提案書を見るまでもなくお帰りいただくしかありません。かと言って取り扱いが変わる前に入らないと既得権は確保できないというジレンマがあります。
仕掛け人と噂される国内大手生保が全額損金商品の申込書を持参しましたが、急に仕立てた念書付きでしたのでお引き取りいただきました。
◆ 売り続ける外資系の太っ腹。
外資系はどうも情報がバラバラです。即日販売停止にした会社、売り続ける会社、提案書が出ているものは20日までの申し込みでOKとか、まさに各社さまざまな対応です。外資系にしても顧客が責任を負うような念書さえもらえれば売り続けることは問題にはならないでしょう。来週にはもう少し統一のとれた状況に落ち着くのではないかと思っています。
◆ 14日以降は販売停止をタテに強行売り込み。
なかには新聞記事を使い強行に本日限りで販売停止、最後のチャンスですと売り込む強引な代理店もありますが、話だけ聞いてお帰りいただきます。顧客もバカではないですから、ネットや保険会社のネットワークで情報は手に入ります。都合のよい話を仕立てて売り込んでもそうは問屋が卸しません。ご本人は嘘のつもりはないでしょうが、偽の情報は判断を誤らせますから信用は喪失します。
◆ 20日までは受付の保険会社、保険料は各社各様。
来週には状況が変わる可能性はありますが、総合的には20日までの申込書受付は念書付きでOKという感じです。
この手の保険は巨額でなければ告知扱いが多いのですが、診査告知まで済ませておいて保険料の振り込みだけを先送りします。保険料の支払リミットは各社各様です。なかには3月でも良い会社がありますから、申し込むだけ申し込んでおいて国税庁のスタンスが決まってから保険料を振り込むか、契約を流してしまうかを決める手もあります。それなら念書に印鑑を押しても問題はないわけです。
16日の日経新聞では5面に小さな記事ですが、「現時点では顧客への説明が難しい」という生命保険協会の稲垣精二(第一生命社長)氏のコメントが掲載されています。
普通に売り続けるのは怖い話です。国内生保の普通の営業職員にすれば手が震えるような申込書になります。それが決まらないのは明日が見えない不安です。この気持ちはよくわかります。
◆ パブリックコメントは月末、通達は来月の予測。
別のルートからの情報では各保険会社にアンケートを実施し、その結果を見てパブリックコメントに進むそうです。とすれば結論が出るのはもう少し先かもしれないですね。いずれにしても通達の内容は予測不能。過去の事例が参考になるかどうか、今回は難しい気がします。既契約をさかのぼって見直すようなことにはならないと思いますが、消費税増税前の神経質な国税庁がどこまで踏み込むか、買う側としてはもう少し様子を見ることになりそうです。
◆ 庶民感覚では許しがたき節税保険。
国税庁がむきになるのは法人税収減という理由だけではなく、租税負担の公平と言うこともあります。法人だけが節税保険で節税できるのは、給料から有無を言わさず源泉徴収として天引きされている庶民感覚では許しがたき脱税です。
また生命保険の本来の趣旨は相互扶助です。その精神はかけらもなく、死亡保障などまったく見ていません。解約したとき1%でも一円でも多く返ってくる保険を選びますから、形は保険でも節税を目的とした金融商品に他なりません。法人保険に関わる立場ではとても良い保険に見えますが、見方を変えると脱税の権化のように見えるわけです。
◆ 節税保険+グレーテクニック。
ネットで検索してもまだヒットしませんから、まだあまり広がっていないとおもいますが、節税保険+告知テクニックという裏ワザがあります。
どこの保険会社でもできるわけではありません。保険料は倍増し事務手数を加味すると単純返戻率は100%近くなります。おいしすぎるのですが、真面目な若手経営者だと加入をためらうこともあります。
ここではあまり触れません。お聞きになりたい方はお問い合わせにでもお問い合わせ下さい。
◆ 節税保険で節税はできない。
節税保険とは呼ばれていますが、契約した時点で節税できているわけではありません。利益を繰り延べているだけですから、よくよく考えれば節税保険という表現は適切ではありません。5年後か10年後の解約返戻率がピークの時に解約返戻金が雑収入となります。ほとんどの企業はとりあえずの利益の繰り延べでしょうから、いずれ繰り延べた利益にも税金がかかるときがきます。
そのとき資金需要があったり退職金を支払うなら利益の繰り延べ効果があったことになりますが、それは問題になることではないはずです。先の資金需要に備えて貯金しているわけですから企業防衛です。国税庁は目算が狂いますから、むきになるのは仕方がないと思いますが、国家権力の落としどころを間違わないで欲しいものです。
◆ まとめ
節税保険は脱税のように言いながら、最後には擁護しています。もちろん我ながら自己矛盾は承知しています。hokenfpとしては今は買う側にいますが、売る側の事情もよくわかりますから保険業界のドタバタは気になります。網がかかると当面保険営業は売る商品が限られ苦しくなりますが、今後も新手の保険商品が開発され同様の網掛けが繰り返されると思います。
節税保険は保険料を全額費用化します。企業にすれば、それでも赤字にならないからできるのです。赤字で節税保険に入る意味はありません。景気回復による中小企業の利益が回復していることの証左です。
簿外に蓄積された利益は企業の貯金ではありますが、ある意味では国税庁の簿外の貯金です。そのうち出口対策ができていない契約は、とりあえず繰り延べた利益が表に出てきます。いずれ税金を払う羽目になるのは、中小企業の知恵のないところです。国税庁としては中小企業あっての税金ですから、当面、税金が少なくても目くじら立てないでお待ちください。
「節税保険、自粛か、販売停止か、売り放題か。」への3件のフィードバック