バレンタインショック後遺症に苦しむ保険業界の再編。

バレンタインショック後遺症に苦しむ保険業界の再編。

DSCF1878保険契約は個人と保険会社が契約する場合と法人(会社)が契約者となって保険契約する場合があります。後者を法人保険あるいは経営者保険とか役員保険とか言うこともあります。

今回、国税庁の通達により経理処理ルールが変わり販売が厳しくなったのは法人保険です。個人で契約する保険には影響はありません。

保険の営業というのは地道に顧客との関係を築き上げながら信頼を構築し、顧客自身のリスクに気づいていただくことで契約へつないでいきます。このため個人契約で一気に大きな契約をとることはできません。また保険契約というものは契約のタイミングがそう度々あることはなく人生の節目で責任の大きさに合わせて見直すことが普通です。

ところが法人保険の目的は大きく二つあり、ひとつは事業保障として経営者や役員などの重責を担う方の万が一により、会社の経営が一時的に厳しくなるとき保険金というキャッシュで信用を維持する目的でかけられます。

もう一つは利益の繰り延べによる節税効果を目的とした保険があります。保険契約全体からすれば節税保険は一部なのかもしれませんが、ここに集まる保険料が半端ではありません。個人契約と比べると国税庁が黙って見過ごすことができない大きさがあり、保険料の桁が二桁違う感じです。その上毎期決算前に契約のチャンスが巡ってきます。それゆえ法人の節税保険を得意とした保険会社、保険代理店がこれまで大きな成果を上げてきました。

節税保険の実質返戻率から見える保険業界の末路。

 ◆ 法人保険、開店休業状態の半年間。

これまでの時系列を整理しました。この間、なすすべがない保険代理店のなかには、どうせ商売にならないのだからというわけで、バレンタインボーナスで海外旅行に出かけた優雅な人もありました。しかしながら心底穏やかでない旅だったと思いますね。

2/13 国税庁の招集

2/14 バレンタインショック 節税保険全面販売休止

2/28 駆け込み契約急増

4/10 パブリックコメント募集

5/10 パブリックコメント募集締切(既契約訴求なし)

6/28 国税庁通達発遣(短期払医療保険を10/7まで延命)

2月末の駆け込みを最後に、節税保険を売り込む保険会社はなくなりました。国税庁や金融庁に歯向かう保険会社はなかったようです。国家権力といえども一度認可した商品に対して、今の時代に無謀なことをするものです。

国税庁のトドメ通達で節税保険ついに全滅か。

 ◆ 保険代理店の苦境、保険会社の行き詰まり。

保険代理店は売れ筋保険商品を失いました。保険会社も法人を主体としていた会社は完全な行き詰まり状態です。2月半ばから約7カ月以上手詰り状態の保険業界です。やり手の保険代理店は一発逆転・一括千金のような成果は残せなくなりました。

細々と個人でも法人でも保障性をメインにした保険を売り続けるしかありません。自分の努力次第で、サラリーマンではできない大きな夢が実現した保険業界も、先行きが見通せなくなりました。

バレンタイン定期は節税メリット無し。

  ◆ 売るものがない、ドル建て商品。

やり手の保険代理店がしばらくぶりに提案してきたのは養老保険でした。それもドル建てのハーフタックスです。養老保険は社員全員に付保し死亡保険金の受け取りを遺族にすれば半分を損金にできます。手続きさえすれば事務手数料と消費税が割引になります。

いまどき貯蓄性の高い養老保険は円建てではメリットなしですからドル建てで提案するしかないところです。代理店によると爆発的に売れているそうです。(はったりでしょうがね。)ドル建てではやはり為替リスクがあります。

下手をして入り口で円安になり出口で円高になれば為替のダブルパンチリスクがあります。うかつに手を出せないところです。実際のところ代理店にしても売るものがなくて10年の短期払い医療保険とハーフタックスの養老保険だけしかないとのことです。事情は分かりますが、選挙の最終日のように最後のお願いに来られてもそうそうお付き合いはできないものです。

節税保険、バレンタインショックまとめ。

 ◆ 個人契約終身保険だけでは生活できないコンスタントな契約。

どの代理店も保険営業も自分の苦境は口にしません。今回の国税庁の締め付け通達の影響を聞くと「個人契約が多いので影響はあまりありません。」と決まり文句を言います。営業としては自分が不利な立場に追い込まれたことの自覚があると、お客様の信用を失わないようにうまく説明して切り抜けようとします。

これまで節税保険しか提案したことがない代理店が同じことを言います。提案するものがない苦境は手に取るようにわかります。

保険代理店に中小企業法人保険専門の某社はどうですかと話をむけると「あそこは大変です。毎週のように代理店営業担当から電話がありますが、無視しています。」これはよく考えれば、自分の苦境を白状しているようなものですが、そこは武士は食わねど高楊枝です。

個人契約にしても法人契約でも保障性の保険は毎年あるわけではありません。一度契約すればよほど環境が変わらない限り見直しはしません。節税保険のように毎年チャンスがあるわけではありません。損保のように毎年コミッションがあるわけでもありません。

個人や法人で終身保険を契約頂けたとしても、それだけではコンスタントな契約にはなりません。生活するだけなら何とかなるかもしれませんが、身に付いたステータスや贅沢はそう簡単にやめられませんから苦しくなります。

 ◆ バレンタインボーナスが退職金に。

法人の節税保険をメインに扱っていたら今回ばかりは、廃業を考えるなら早い方がよDSCF1879いかもしれません。もう一括千金の法人保険はないと言えそうです。少しばかり嫌な言い方になり申し訳ないですがバレンタインボーナスが退職金になりそうな厳しさです。

買う側で新しく開発された保険の説明を聞いていても残念ながら財務的なメリットが少なすぎます。

保険会社もあの手この手で知恵を働かせた新保険商品を出してくるかと思いきや、はっきり申し上げて金融庁に媚(こび)を使うばかりで、音なしのかまえです。保険営業や保険代理店の行き詰まりは、そもそも保険会社の行き詰まりに他なりません。

全く酷い話ですが、すでに一部の保険会社では整理と合従連衡が始まっていると聞きます。その結果、被害を受けるのは保険営業と顧客です。(保険会社の合併・統合は破たんではありませんので契約条件は引き継がれます。破綻した場合も生命保険契約者保護機構が機能し責任準備金の9割が保証されます。)

節税保険、自粛か、販売停止か、売り放題か。

 ◆ まとめ

これで打ち切りにしようと考えていましたが、保険業界ではまだまだ尾を引きそうです。買う側の中小企業でも正直困っているところです。あまり手を出したくない航空機や船舶、果ては足場まで検討せざるを得なくなりました。オペレーティングリースは保険に比べれば使い勝手がすこぶる悪いのです。

かといって税金を払うほど馬鹿らしいコストもないので、冗談抜きで社員旅行を海外へ、そして決算賞与まで考えることになります。社員は大盤振る舞いに喜ぶでしょうが、しょせん一時的なものです。それで売り上げが伸長したり利益が出たりするものではありません。できることは虎の子の既契約を大事に守ることぐらいになりました。バレンタインショックの被害者は保険業界だけではないということです。

全損節税保険の駆け込みラストチャンス。

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