生保決算、コロナ禍で保険料等収入減と運用難の苦境。
※本記事は、バレンタインショック直後の生保決算をまとめたものです。同時にその時期はコロナ禍で保険業界の営業活動が制限され、保険料収入が減少するだけでなく、低金利の中で運用難が大きく重なっている時期です。
2020年度の生保各社の決算が出そろいました。各新聞とも、財務状況をまとめた記事が掲載されました。共通していることは、コロナ禍で保険料収入の減少、低金利による運用難から運用益の減収となったということです。また世界的低金利の中で、外貨建て保険商品の魅力が薄れ販売不振が拍車をかけました。
しかし一番注目すべき数字は、新契約年換算保険料の激しい落ち込みです。生命保険会社の財務は一般の企業とは異なりますから「基礎利益」や「ソルベンシーマージン比率」などの数字を聞いただけでは健全なのか、保険料の運用はうまくいっているのかどうか、見極めることは難しくなっています。
経営環境が一段と厳しくなっているのは、外食産業や観光産業だけではありません。保険会社も大事な保険料を預けて保障を買っているわけですから、契約者としてご自分の契約している生保の決算にもう少し踏み込んで関心をもたれてもよいのではないかと思います。
クリックできる目次
◆ コロナ禍、対面営業自粛で大幅減収。
コロナ禍は、あらゆる業種の営業活動に大きなダメージを与えてきました。とくに生保業界では面談による保険営業が制限されると、新規契約は取りにくくなります。対面営業を自粛してリモート営業に切り替えると言っても、保険販売では簡単なことではありません。生保販売は新規開拓が基本です。顧客と新しい関係を築きながら保険商品を提案し、リスクを理解していただき契約に持ち込みます。
それゆえに、リモート営業を推奨したとしても、そのまま面談営業に置き変わることはありません。コロナ禍で対面営業を自粛すれば、当然のごとく新契約の保険料は大幅に落ち込みます。
・ニッセイ決算の数字分析
ニッセイで新契約年換算保険料をみると2019年度は▲20.8%、2020年度は▲24.6%と連続の落ち込みです。2018年度からなんと40%以上の大きな落ち込みになります。保険料等収入で見ると、ニッセイに限らず大手4社は軒並み前年度を下回り、厳しい決算であったことがうかがわれます。これまでに保有している契約からの保険料ですから、落ち込みは目立ちません。保険料等収入だけでなく新契約年換算保険料で比較すると、各社が新規契約獲得の落ち込みに苦慮している様子が見えてきます。
保険料等収入の落ち込みが目立たないのは、既契約からはいる保険料収入の影響が大きいからなのです。一度契約すれば、毎年保険料は口座振替で確実に保険会社に入金されます。分母が大きいから保険料等収入だけでは、新規契約の落ち込みはわからないのです。コロナ禍で見るべき数字は、新契約年換算保険料です。
◆ 低金利時代の運用難の深刻度。
予定利率が市場最低水準、一時払終身保険が保険にならない低金利が続いています。生命保険会社の予定利率を決める数値として「標準利率」というものがあります。それを基準にして保険会社は各社それぞれに予定利率を決定し保険商品を設計します。予定利率は銀行の金利と同じではありませんが、世間の金利が下がれば予定利率も下がります。低金利時代に入って久しいですが、金融機関は融資や投資で収益を上げることがますます難しくなり運用難の深刻度は増すばかりです。
現在の生命保険会社は、顧客が満足できるような貯蓄性のある保険は設計できなくなり一時払終身保険などの販売停止が相次ぎました。せっかく集めた莫大な保険料も低金利時代の運用難であまり収益につながっていないのです。
◆ 保険会社の財務不透明は、契約者に不利。
保険会社は、株主に責任を負う株式会社と、契約者に責任がある相互会社に区別されます。どちらのタイプの会社でも、保険会社の経営状況は保険契約者に重大な影響があります。
通常の商品を売る会社であれば、売り切ればそれで終わりですが、保険契約は保険会社の経営状態により配当が増減しますし、破綻すれば長期契約ですから、契約者にも一定の責任が及びます。(責任準備金の9割まで生命保険契約者保護機構が保証)保険会社のディスクロージャー(情報公開)が叫ばれて久しいですが、出てくる数字だけでは、容易に理解できるものではありません。
一般の企業のように、売上(保険料収入)はありますが、仕入原価はありません。販管費にあたる予定事業費率はありますが、比較する意味がありません。それだけに保険会社の財務は公開されているにもかかわらず、よくわからないという特性があります。これは契約者にとり決して良い傾向ではないと思います。
◆ 生保決算、採算悪化のまとめ。
保険営業をユーザーと見るか、保険業界に関心のある一般人か?
生保各社の決算を見ると、バレンタインショックからコロナ禍による販売自粛まで、わずか2年ほどの間に、これまで経験したことがない波乱万丈、激動の保険業界となりました。
生活できない保険代理店、持続化給付金で食いつなぐ保険営業、これで保険会社の採算がどこまで維持できるのでしょうか。保険販売の現場では、生保の決算以上に苦境が広がっています。
持続化給付金を請求するな、営業活動は自粛せよと、保険会社は保険営業をがんじがらめに縛りあげました。そこまでやるなら保険営業の資格と収入を保障すべきですが、保険会社としてもいつまでも持ち出しを続けるわけにもいきません。
保険営業の生活保障で喜ぶのは、うだつの上がらないいつ辞めてもおかしくない数合わせの営業です。やり手の保険営業には、顧客を訪問できない苦渋の日々となっていると思います。生保の採算悪化はどこまで続くのでしょうか。
「生保決算、コロナ禍で保険料等収入減と運用難の苦境。」への3件のフィードバック