改正民法2019|配偶者の生活を守る配偶者居住権を新設。
生命保険にかかわることは人の生死にかかわることでもあります。そのため人が死亡することで保険金が支払われたり、生命保険契約そのものが相続財産になったりと、生命保険と相続は切っても切れない関係があります。
生命保険を扱うものは保険の知識だけではなく、相続の知識も深めておかなくてはなりません。その相続を規定する民法が2018年7月、40年ぶりに改正されることが決まりました。改正の内容によって施行開始は、2019年1月から順次適用が進み、2020年(令和2年)7月にはすべての制度が改正民法に移行することになります。
保険の話も交えながら、改正民法のポイントをチェックします。この改正によって今後の相続はどのように変わるのでしょうか。報道などからなんとなくわかっているつもりの内容を、いざというときに困ることがないようできるだけコンパクトにまとめてみました。
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◆ 民法改正の主な内容は以下のようになっています。
1)配偶者の居住権を保護「配偶者居住権」の新設。
2)預貯金の仮払い制度の創設。
3)自筆証書遺言の法務局保管制度の新設。財産目録のPC作成。
4)遺留分制度の見直し、金銭請求。
5)相続財産の所有権に登記や登録を重視。
6)相続人以外の特別寄与分の請求権。
今回から、項目ごとに順次記事をアップする予定です。専門家というわけではないので、詳細な内容は他のサイトに譲り、コンパクトかつ実務的な内容を心がけました。参考になれば幸甚です。
◆ 配偶者居住権とは。
配偶者の生活を守るために新たに配偶者居住権が創設されました。居住権とは住み続ける権利であり、所有権とは異なります。平たく言えば家賃がいらない生涯借家権のようなものでしょうか。この制度では相続に不公平が出ないよう配偶者が得るのはあくまでも居住権だけで、不動産としての家の所有権は別個の資産として分割して相続できます。
ただ所有しているからと言って売り飛ばして現金化することはできないわけです。相続したのは不動産の負担付所有権ということになります。
相続税がかからない方々のほうに影響が大きい配偶者居住権と言えると思います。相続税を払うほどの資産家であれば、遺産分割で残された配偶者が住む家を取り上げられるようなことになりません。住む家以外に分けるものが少ない相続で、現金や生命保険などの代わりに渡すものがない時に配偶者居住権がものを言います。
ただこの制度は内縁の妻など法的な配偶者でない人には適用されませんから、そういう場合は先立つ被相続人が、連れ添った内縁の妻や愛人に配慮した遺言書を残す必要があります。
◆ 配偶者居住権がない相続では。
配偶者居住権がないからと言って母親を追い出すような相続人はそんなにいないとは思いますが、後妻だったり、仲が悪かったりすると家を売らざるを得ないとか、家に住み続ける代わりに生活に必要な資金をそっくり渡さざるを得ないとかいうことが起こります。相続人の中には金に困っている子もいるかもしれません。事業に失敗して急場の資金が必要な子もいるかもしれません。マンションのローンの残債に苦しんでいる子もいるかもしれません。
背に腹は代えられない骨肉の争いも相続では発生します。家裁の調停まで行く事例が多いことでもよくわかりますが、配偶者居住権がない相続では、もめることが多かったため創設されたと言うことができるのではないかと思います。
◆ 他の相続人は負担付所有権を相続。
他の相続人は法定相続に従い相続すれば負担付所有権を相続することになります。
金に困っていなければ一旦配偶者(母親)に相続しておき二次相続の時に売却すれば問題は起こらないのですが、相続人にすれば、それができない金銭的事情があるから相続の権利を主張するわけでしょう。
そういう相続で配偶者居住権を主張されたら負担付所有権というのは、借家と同じで価値がずいぶん低くなりそうです。
金に困っている相続人は負担付所有権を担保にお金を借りることはできるのでしょうか。居住権を相続した配偶者がなくなれば権利は喪失すると考えられますが、借家権のように権利の期限が明記されていればいいですが、配偶者居住権は半永久的、配偶者が存命している限り続きますからお金が借りられるとしても担保価値は下がるでしょうね。
◆ 配偶者のもち戻しの優遇条件。
相続には相続人間の公平を図るため「特別受益のもち戻し」という怖い制度があります。特別受益とは生前に被相続人から贈与を受けた分も相続財産に持ち戻して公平に再分割しなさいという制度です。誰にも覚えがあると思いますが、親からローンの援助をうけたり、家の頭金を出してもらったり、海外留学の費用を負担してもらったりというような費用はもち戻しの対象になります。
しかし被相続人がなんだかの方法でもち戻しを免除するという意思表示があればもち戻しは不要になります。これを拡大解釈して生前に配偶者に対し居住用の不動産が贈与されていた場合に、被相続人がこのもち戻しの意思表示をしないで亡くなった場合でも配偶者だけは婚姻期間20年以上であれば居住用不動産のもち戻しが適用されないという優遇条件が加わりました。
メモでも口頭でも贈与契約書でもよいので一言「もち戻しを免除する。」と被相続人としての意思表示をしておけば、もともと問題になることはありません。
◆ 配偶者居住権のまとめ。
今回は改正民法の項目の中から配偶者居住権について書きました。こういう制度は施行後、実際の場面ではいろいろ未設定の問題がでてきます。
しゃくし定規にいかなかったり抜け道があったりすることがよくあります。今後の高齢化社会に向けて必要な法整備が一歩進んだといえるのではないでしょうか。
補足として申し上げることがあります。遺言書や遺産分割協議の結果、もし住居に関して配偶者の相続分がなくなったとしても「短期居住権」が与えられることになりました。これは最低6か月間、それまでの住居に継続的に住まいする権利を保証するものです。この権利は相続財産として評価されません。
6か月後の後はどうするのか、いらざる心配をしていますが、今回の改正で配偶者の老後の住居には一定の保証が加わりました。
これにより家族関係が円滑でないような家庭で相続が発生した場合、配偶者が突然住むところを失い路頭に迷うことはとりあえず防げるようになりました。ここは過去形で書いてはいけませんでした。この制度は2020年4月1日までの施行が予定されていますので「防げるようになる予定です。」と書くべきです。ただ相続発生時期は配偶者に選ぶことはできませんから雲行きが怪しくなる前に遺言書を書いてもらうことが重要ですね。
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