配偶者居住権のデメリット、不仲の子が障害に!
最近の世知辛い世の中では核家族化がすすみ、さらには夫婦二人暮らしがやがては独り暮らしになります。そして家としての流れは、次第に絶えていきます。
それを見据えたわけではないと思いますが、2019年の民法改正で「配偶者居住権」という耳慣れない制度がスタートしました。
これまで相続では優遇されてきた配偶者ですが、その生活を安定化させ、住む家を確保する目的で創設されました。親と子の関係が良好でない配偶者のための制度です。
争族防止だけでなく、節税などのいろいろな目的に使えることがわかってきました。しかし同時に別のデメリットや問題も明らかになってきました。
■子がないと被相続人の兄弟に相続権、遺言書がないと嫁の悲劇。
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◆ 配偶者居住権の施行と狙い。
夫に先立たれた妻が遺産分割で財産を分けた後も、長年住み慣れた自宅に住み続けられることを保障する仕組みが配偶者居住権です。
たとえば住んでいる家とわずかばかりの現金が相続財産という場合に、配偶者居住権が威力を発揮することがあります。
関係が良くない子や金に困っている子が、相続の権利とはいえ無情にも財産の分与を求めてくることがあります。そうすると住んでる家を手放して、換金して分けるしかないということも起こります。
しかしそれでは、夫に先立たれた妻は困ります。住み慣れた自宅を出て、家賃のかかる賃貸に入るしかなくなります。老いてからは辛い話です。
それを「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分けて相続できるようにしたわけです。
残された妻は、配偶者居住権を相続し自宅に住み続けます。関係のよくない子には、負担付き所有権を相続させることができます。それにより配偶者が家を手放したり、老後の生活資金を失ったりすることがないようにするための制度です。
・具体的事例。
相続財産が配偶者の住んでいる家3,000万相当と現金が2,000万あったとします。金に困っている子が一人相続人の場合、遺言書がなければ法定相続となります。遺産総額の5,000万を2,500万ずつに分けなくてはなりません。
家は分けられませんから売却して現金で分けるか、借金でもして500万の現金を代償支給するかということになります。どちらにしても残された配偶者には、いばらの道になります。
それを配偶者居住権として考えると、配偶者居住権を1,000万、負担付き所有権を2,000万、そして現金が2,000万をどう分けるかということになります。
配偶者の相続分は家と配偶者居住権1,000万と現金1,500万、子の相続分は負担付き所有権2,000万と現金500万となり、うまい具合に半分ずつになります。
配偶者にとれば居住権を確保したうえで、キャッシュが1,500万となります。住む家は確保でき、年金暮らしでどうにかやりくりするという細い道が見えてきます。
現金が500万となった子は、面白くないかもしれませんが、負担付き所有権2,000万で手を打つほかありません。
・負担付所有権で配偶者の住居を確保。
【遺産総額】
家 3,000万、現金 2,000万=合計 5,000万
【法定相続の場合】
配偶者 2,500万
相続人(子) 2,500万
【配偶者が家を相続した場合】
配偶者 家 3,000万
相続人(子) 現金 2,000万+配偶者から代償金500万
500万の代償金を支払うために家を売却するか、借金をするほかありません。これでは、老後資金がなくなり大変です。
ところが、配偶者居住権を行使できると、法定相続の1/2ずつですが配偶者には居住権と現金1,500万が残ります。
【配偶者】
配偶者居住権 家 1,000万
現金 1,500万
合計 2,500万
【相続人(子)】
負担付き所有権 家 2,000万
現金 500万
合計 2,500万
金が必要な相続人にとれば、権利を制限されただけで、少しも公平ではないと感じると思います。こうなると納得できないのが仲の悪い子とか、先妻の血がつながっていない子です。
今すぐにも金が要るのに、負担付き所有権などもらってもやっかいなだけになります。その上、あてにしていた相続キャッシュ2,500万は、500万にやせ細ります。
・納得できない相続人の拒否。
納得できない子が相続人として遺産分割協議で配偶者居住権を拒否したらどうなるのでしょうか。配偶者居住権を登記するためには、相続人同士が遺産分割協議をまとめる必要があります。
それが同意できず困難であれば、家庭裁判所の裁定を仰ぐしかなくなります。無情な話ですが、我が子とそこまで争うくらいなら、家を売って賃貸で暮らすことも考えるかもしれません。
権利であっても行使できるとは限らないのが、配偶者居住権のデメリットです。そもそも仲が悪ければ、配偶者居住権ができても相続は相変わらず争族というわけです。
配偶者居住権の評価額は、平均余命などをもとに算出されるので配偶者が高齢であればあるほど低くなるように設定されます。相続人である子は負担付きで自宅の所有権を相続するので、遺留分の問題は発生しないことになります。
配偶者は、配偶者居住権を相続するので、子どもが自宅を相続しても住み続けることができます。配偶者居住権により自宅の所有権はなくても、その代わり現金を相続できるので老後の生活が安心できます。
◆ 配偶者居住権のデメリットと節税メリット。
この制度は、二次相続で相続税がかかるような場合には、配偶者がなくなると配偶者居住権が消滅するのでその分相続財産が減少し、二次相続の相続税を節税することができます。
二次相続で相続税がかかるということは、老後に困ることがない程度の、それなりの資産があるわけです。ですから配偶者居住権を主張することもないかもしれませんが、相続税の節税としてメリットは残ります。
単純な事例で説明すると、たとえば1億円の自宅を相続するケースで、配偶者は5,000万の配偶者居住権を得て子は5,000万の負担付き所有権を相続したとします。すると配偶者(母親)がなくなり配偶者所有権が消滅すると、結果として子は1億円の不動産を5,000万円で相続したことになりますから、相続税の節税効果があるわけです。
配偶者(母親)が亡くなった場合の二次相続で小規模宅地の等の特例で、自宅の評価を80%減額できる場合は、配偶者居住権による節税とどちらが得になるか検証が必要になることがあります。これは税理士などの専門家に試算をお願いしてください。
・配偶者居住権のデメリット
デメリットとしは、自宅の所有権を相続した子が、深刻な不仲の場合、あるいは金に困っていると土地を第三者に売却することがあり得ます。また配偶者居住権を登記するにも、子の協力がないと登記できないという問題もあります。
金に困っている子にすれば、配偶者(母親)は介護施設に入居させ、自宅を売り払って換金したいところです。コロナ禍で事業に行き詰って、金に追いつめられると人間は鬼にも蛇にもなるとしたものです。
まして円満でない家庭であれば、親思いの仮面をかぶった情け容赦ない争族になります。デメリットの視点で見ると、権利でありながら権利として保護されない可能性もあるという、どうも軟弱な配偶者居住権だと思います。
◆ 配偶者居住権制度は登記必須。
配偶者居住権は、短期(90日)の場合は無条件ですが、長期の配偶者居住権は遺言書がなければ、遺産分割協議による相続人全員の合意が必要です。
どうしても金が必要な子が、同意しなければ成立しない話です。この辺が意外な落とし穴であり、デメリットと言えるのではないかと思います。
子が遺産分割協議で配偶者居住権を認めない場合、家庭裁判所に申し立てて調整を依頼すれば、負ける話ではないでしょう。しかし実際の場面では、親子仲が悪くてもそこまでやる前に家の売却を考えるかもしれません。
配偶者居住権は、遺産分割協議で承認されればそれでよいのですが、将来にわたって何があるかわかりません。相続人が生活に困って負担付き所有権を手放すことも考えておかなくてなりません。
少々お金はかかりますが、やはり長期の配偶者居住権を設定したあとは、できるだけ早く登記をすることです。
登記していれば、家を手に入れた第三者に対して配偶者居住権を主張できますから、法的には追い出されるようなことにはなりません。
登録免許税は、「建物の固定資産税評価額×0.2%」、ご自分で登記するのはそれほど難しくないですが、不安であれば司法書士の報酬は数万円程度が相場となります。
それもこれも配偶者居住権が遺産分割協議などで合意できれば、の話です。合意できる親子関係であれば、そもそも配偶者居住権など必要ではないのかもしれませんが。
◆ 配偶者居住権のデメリット、まとめ。
相続人としての子の協力が得られないと、行き詰る配偶者居住権について書いてきました。多くの相続では配偶者居住権など考えなくても、親の生活が立ちゆくように子は配慮するものです。
古臭いことを言うようですが、老いた親の面倒を見るというのも子のつとめだと思うのです。
しかし世の中はそうとばかりは限りません。配偶者居住権が登記されていれば、問題なく安心して配偶者が居住を続けることができます。
・配偶者居住権と負担付き所有権の分割評価額を算出。
・相続人による遺産分割協議、配偶者居住権の承認。
・配偶者居住権を法務局で登記。
民法が改正されたからと言って配偶者居住権は、自然発生するものではありません。権利を取得するかどうかは、当事者である配偶者や相続人の判断になります。
相続税がかからないような方は、そもそも配偶者居住権があることを知るすべも機会もないかもしれません。
相続人として自宅の負担付き所有権を得た人が、その後の経済的事情により所有権を売らなければならない状況になることもあります。
配偶者居住権の登記を行っていない場合、新しい所有者は配偶者に対して立ち退きを要求する可能性が出てきます。登記をしないままだと根拠がなくなり、第三者に対しては手放した自宅に無償で住んでいるという状態になります。
配偶者居住権を設定すると、建物の維持にかかる費用は配偶者、敷地の固定資産税は、負担付き所有権を得た相続人の責任となると思います。
固定資産税は毎年通知が送られてきます。仲が悪い子にとっては、自分が住んでもいない家の敷地の固定資産税ですから、面白かろうはずがありません。
それやこれやを考えると、配偶者居住権もメリットだけでなく結構デメリットもあるということですので、専門家にご相談の上慎重にと申し上げておきます。
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