法人保険の失効は、思いがけずリスクが大きい理由を具体的に。
バレンタインショック前の駆け込み節税保険のピークが、数年後に迫っています。一気に雑収入が出ないよう、解約を先送りできる「失効」というテクニックをお考えの方もあるかと思います。
しかし失効には、簡単でないリスクがあります。具体的な事例を交えて、失効までの手順にどのような落とし穴があるか、案内させていただきました。
実務的には、法人の保険担当者様には理解できると思いますが、かなり専門的になりますので、その点はご容赦願います。
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◆ 節税保険は「失効」でさらに繰り延べ可能。
法人が契約する節税保険は、利益の繰り延べを主な目的としています。解約返戻率がピークに達したとき解約し、解約返戻金の雑収入を設備投資などに充てる計画です。
設備投資が遅れて、出口のタイミングが合わないようなときは、解約を先送りしたいと考えます。
そのときに使うテクニックに、保険契約の「失効」があります。利益の繰り延べを目的として節税保険の契約をしているわけです。うまく失効という手を使って、さらに繰り延べできればメリットがあります。
バレンタインショック以前の、大量の節税保険の出口対策にお困りの方がおられると思います。虎の子の簿外資金を有効に使うために、「失効」は有効な手段となります。しかし「失効」には思いがけないリスクがあります。間違いが起こらないよう、情報収集が重要です。
◆ 保険契約の失効期間は3年とは限らない。復活できなければ解除。
保険料を支払わずに猶予期間を過ぎれば、保険は失効します。失効すれば契約の効力がなくなりますので、保障がなくなります。しかし解約返戻金は、そのままの返戻率で継続されます。
■保険料の払込は、猶予期間をがどこまであるか知らないと責任問題に。
一般的に失効の状態で維持できる期限は3年ですので、さらなる繰り延べが可能になります。失効期間中は、その間の保険料を払えば保険を復活することが可能です。失効の期限が過ぎれば、復活することはできません。
その失効期間中に出口対策を組み合わせて、解約時雑収入の使い道を設計できれば、納税額を抑制できるというわけです。
ただし、保険会社により失効から復活できる期限は、異なる場合があります。契約時点で確認するようなことはないと思いますので、当然3年と思っていると後でトラブルになることもあり得ます。
失効予定がある場合は、早めに保険会社か代理店を通じて確認を入れるようにしてください。
・失効猶予3年は通用しないケースに注意。
ただ最近では、金融庁の指導が強くなってきました。失効後、復活期限を過ぎた保険を放置しておくと、保険契約を解除して強制的に解約返戻金を振り込んでくる会社があります。また復活期限を過ぎると振出証書なるものを発行し、解約返戻金を振り込んだのと同じ処理を強制する保険会社もあるそうです。
普通は、何度も解約の依頼が来る程度ですが、復活できない保険契約を解約せずに保持することは、税理士的に言えば経済合理性がないということなります。課税当局からは、利益調整ととられかねないリスクがあります。
また、失効は失敗することもあります。どういったケースが危ないのか、失効を失敗した理由、そういう場合どういった手があるのか、以下の記事で具体例を検証します。
■法人保険の目的の第一は事業保障という当たり前を噛み砕くと。
◆ 法人契約の節税保険は失効と出口対策が重要。
失効させる前に、そうまでして利益を繰り延べる意味がどこまであるかを理解しておかなくてはなりません。
税理士の先生のなかには節税保険は、利益の繰り延べに過ぎないと言われることがあります。
確かに出口対策ができていないと、出口で課税されることになりますから節税できていないということになるかもしれません。しかし繰り延べに過ぎないと言う方は、経営ということが理解できていないと言わざるを得ません。
コロナ禍やウクライナ危機による景気悪化、燃料高騰、為替の極端な円安など先行きは常に不透明なのです。まったく何があるかわからない経営環境だからこそ、繰り延べは経営資金の保険として重要な意味があるのです。
もちろん出口対策ができれば、それに越したことはありません。しかし中小企業にとれば税金の支払いを繰り延べて、簿外に資金を蓄積しておくことはそれだけで十分価値があるというわけです。
ゆえに失効というテクニックは、リスクを押さえても究極の利益繰り延べ手段として、有効に活用する価値があります。
◆ 法人保険の失効に失敗した理由と具体例。
今回の事例は、エヌエヌ生命の低解約返戻金型逓増定期保険です。またこのケースは団体事務手数料3%とその消費税が、保険料から割り引かれているという少々ややこしいケースです。
多数の保険契約の中の一件だけが解約返戻率のピークを迎えており、解約する必要があるのですが、当面雑収入は先送りしたいという事情がある場合です。
失効させるためには口座振替を振込に変更し、保険料の支払いをストップしなければなりません。ところが今回の場合は多数の契約の内一件だけを失効させたいわけですから、団体取扱いから切り離さなくてはならないという問題があります。契約全体を口座振替から振込に変更することはできるのですが、団体契約からの切り離し失効という手順は簡単ではありません。
さらに一般的には口座振替の場合、契約応当月の月末が多いのですが、例外的にエヌエヌ生命の口座振替のタイミングは契約応当月の1日振替となっています。そのため「団体扱等保険料お払込のご案内」が、契約応当日の1カ月半以上前に届きます。
・収納会社と銀行の壁。
その案内で事務手数料とその消費税を割引いた口座振替の金額を指定しています。そのとき口座振替を取り扱う収納会社に振替データが送られてしまっているので、元に戻せないのです。では銀行で支払いをストップすればよさそうなものですが、これがまた困難があります。まず団体取扱い契約ですから、保険料の一部だけを停止するということができません。
さらに口座振替を扱う収納会社は、同時に他の契約の口座振替がある可能性があります。銀行に口座振替収納代行会社を指定して支払い停止することもできますが、問題があります。これはほかの口座振替に影響を与える可能性があり、やはりリスクがあるので止めることはためらいがあります。
エヌエヌ生命に限らず、口座振替の案内が保険会社から来た段階で口座振替を銀行で止めることは、むつかしいと考えなくてはなりません。銀行に明細を確認して、口座振替を停止できないか確認したことがありますが、それは無理との回答でした。
◆ 保険契約、失効失敗の損失関係を考察。
エヌエヌ生命の低解約返戻金型逓増定期保険の解約返戻率の一部ですが、
5年目90.78%
6年目88.68%
となっています。5年目のピークを逃すとその差2.1%減となります。わかりやすく保険料を仮に1,000万とすれば5年で5,000万支払っています。その解約返戻率が2.1%下がると解約返戻金は105万の損失になります。
しかし、6年目の保険料1,000万が損金となり実効法人税率が35%であれば350万の納税が繰り延べられます。結論的に申し上げると、失効失敗の損得勘定は経営判断に関係します。というのは、その後の出口対策で損得勘定が決まるからなのです。
解約返戻率は若干低くなりますが、6回目の保険料を払ってから失効させて出口対策に合わせるようなことが可能であれば、最もお得になるわけです。5年目の出口対策ができていないと言うのであれば、2.1%分の損失を覚悟してその後失効させて解約時期を繰り延べるか、即時解約するかという判断が求められます。
契約応当日までに解約の一件書類が提出できれば、保険料が振替えられていても解約はできます。もちろん払い過ぎた保険料は返金されます。
・失効失敗ながら補足説明。
通常は、もう少し余裕があるはずですが、たまたま口座振替と団体扱い、さらには振替日が契約応当月の1日という特殊な部類に属する事例でした。
口座振替の明細が届いた段階で、気が付いたケースで検討します。その時点で失効させることはできずに、選択肢は解約返戻率ピーク時の5年目に解約してしまうか、解約返戻率が下がるのを覚悟して6回目の保険料を振替えさせたうえで、失効させるなどの方法で解約を先送りするかの選択になります。
今回のケースでは、解約返戻率のピーク時に失効させるという選択肢を失っている点で失効は失敗になります。
失効できない場合、解約も選択肢です。エヌエヌ生命のサポートによれば、契約応答日の前日の午前中に解約請求書および一件書類が揃えば、口座振替された保険料は翌営業日の午後には返金されるそうです。
うまく利用すれば解約返戻金及び保険料の返金は翌期に先送りすることができるかと考えましたが、さすがに迅速すぎてそれはできませんでした。
事務手数料の割引は返金されないはずなので、返金額は保険料満額とはならず、戻るのは払った分だけとなります、と思ったら他の契約もあるため満額返金となるそうです。どうもしっくりこない話で経理処理がややこしくなります。
エヌエヌ生命のような事例もありますので、失効させる契約があればせめて3カ月前までに口座振替から振込に変更するという用心深さが必要であったということです。
■保険料には払込猶予期間があり、口座振替できなくても自動振替貸付。
◆ 法人保険の失効に失敗しないためには、まとめ。
バレンタインショックで、多数の駆け込み全損保険が契約されました。その解約返戻率のピークが、あと数年でやってきます。多くの業績の良い会社は、とりあえず利益の繰り延べはできたと思います。しかしそれに見合う出口対策ができているとは思えません。
巨額の雑収入になると思いますから、減額したり失効させたりして雑収入を分散させると同時に、きるだけ解約時期を先送りしたいところだと思います。
その際に失効をうまく利用することは有効な手法なのですが、結構、いろいろな落とし穴が待ち受けていて、あわてることになそうです。今回の記事は、実務的にかなり細かいところを紹介していますから、保険の経理事務を扱う担当者でないとわかりにくいかもしれません。
若干手間はかかりますが、口座振替はやめて早めに振込に変更することが安全策です。またあてにしていても代理店の営業は人が入れ替わります。その結果、自分が取り扱った契約でないものには無責任になるということがあります。失効などというリスクが高い手順は、代理店などをあてにしてはいけません。ただ売り込むだけの無責任な代理店には、ご注意をと申し上げておきます。
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