法人保険の間違いやすい経理処理、注意点まとめ。
※令和元年6月末に、国税庁の法人契約保険に関する法人税基本通達(9-3-5の2)が発遣されました。それにより新規契約の経理処理は大きく変わりました。本稿は通達以前の、法人で契約している生命保険の既契約に関する経理処理をまとめています。
法人で保険を契約すると、支払った保険料の経理処理に迷うことがあります。損金処理(費用として落とす)ことができるのか、保険積立金(資産として税金を払う)として計上すべきなのか、保険証券を見ただけでわかる人は少ないのではないかと思います。
また解約返戻金や保険金を受け取ったときも、保険積立金が一致せず苦労することがあります。
法人保険では課税庁の通達などの指導により、同じ保険でも時期により取扱いが変わることがありとてやっかいです。
それに加え未経過保険料なるものが返金されたり、配当金があったりするとさらにややこしくなります。
法人で契約している生命保険の既契約の経理処理について、わかりやすく押さえるべきポイントを整理しました。とくに間違いやすい注意点について、重点的に解説しています。法人保険の経理実務を担当されている方や、経営者の方に少しでもお役にたてば幸いです。
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◆ 保険の種類による経理処理の違い。
生命保険にはいろいろな種類があります。保障性の高いもの、いわゆる「掛け捨て」と呼ばれるタイプと資産性の高いものがあります。契約する目的により、生命保険の種類は使い分けるようになっています。
法人で生命保険を契約する場合、保障性の高いものは保険料が費用化できますので損金として利益から落とすことができます。一方資産性の高いものは、払った保険料が費用にならず、保険積立金として資産に計上します。
資産に計上するということは、利益として税金がかかるということです。保険商品も開発が進み、保険の種類を見ただけでは経理処理が判断しにくくなっています。
わかりやすくするため、まず基本的なことを箇条書きにします。
1)終身保険は全額資産計上します。
すると保険金が出ます。期間の定めがなく一生涯の保障があります。解約すれば解約返戻金があり、解約しない限り最後には保険金が必ず受けとれます。実質的には保険料を積み立てているようなものです。よって全額を資産計上します。
2)養老保険は基本的に資産計上しますが、福利厚生の条件により半分を費用化できます。
期間の定めがあり、満期になると満期保険金が受け取れます。保険期間中に被保険者が死亡すると、満期保険金と同額の死亡保険金が受け取れます。どちらの場合も保険金が必ず受け取れますから、実質的には保険料を積み立てているようなものです。よって養老保険は全額を資産計上します。
例外として、福利厚生目的で全従業員を被保険者として養老保険を契約すると、保険料の半分を費用化することが認められています。ハーフタックスと呼ばれますが、死亡保険金は従業員の遺族受取り、満期保険金は会社受け取りとなります。
3)定期保険は基本的に損金処理しますが、長期の定期保険は前払い保険料を一部資産計上します。
年齢によりますが、期間の短い定期保険は全額を費用化できます。ところが長期の定期保険は、前払い保険料が資産化するので一定の期間、保険料のうち損金化できる割合が制限されます。いわゆる二分の一損金の長期平準定期保険などがこれに該当します。
基本は定期保険ですから、前期で資産化した前払い保険料も最終的にはすべて費用化することになります。(長期平準定期保険の場合、実際は途中解約して解約返戻金を受け取ります。)
※令和元年の国税庁の法人税基本通達(9-3-5の2)により、費用化できるルールが厳しくなりました。最最高解約返戻率に応じ、損金算入割合が規制されました。二分の一損金処理ができた長期平準定期はなくなり、新たな契約は新ルールに従うことになりました。ただし既契約には遡及されませんでしたので、解約しない限り半分損金処理できる権利は存続しています。
4)医療保険は基本的に損金処理しますが、一部の貯蓄性の高いものは資産計上します。
医療保険にはがん保険を始めとして、いろいろ種類がありますが基本的に保険料は費用化できます。ところが一部のがん保険などで前払い保険料が資産化する法人向けの特殊な医療保険があり、費用化に制限がかかりました。貯蓄性の高いがん保険などでは、二分の一を資産計上するルールが示されています。
※第三分野の医療保険も、令和元年の国税庁の法人税基本通達(9-3-5の2)に従います。貯蓄性の高いがん保険なども、損金割合が最高解約返戻率に応じて規制の対象になりました。ただし既契約への遡及は見送られましたので、それまでの権利は存続します。
5)年金保険は全額資産計上します。
一定期間保険料を積み立て、年金として受け取ります。保険料は年金の原資として積み立てているので、全額を資産計上します。
保険の分類にはいろいろな考え方がありますが、本質的な区分でいえば上記の5種類です。これに特約が加わったり、終身保険と定期保険が組み合わされたり、あるいは終身保険に医療保険が特約として付加されたりします。ややこしいですが、組み合わされた保険はそれぞれのパーツごとに保険料を分解して、経理処理を判断する必要があります。
◆契約時期と通達による経理処理の違い。
保険の経理処理を複雑にしている原因のひとつが、契約時期による経理処理の違いでしょう。こればっかりは保険にかかわっていても、正確に答えることは難しいものです。知らなければ経理処理としては、まったくどうしようもないところです。
同じ保険でも、通達が出ると経理処理の取り扱いが変わります。多くの場合既契約には及びません。しかし同じ逓増定期保険やがん保険でも、全額損金処理でよい契約と、二分の一損金で処理しなければならない契約が混在することがおこります。
保険証券を見ても、経理処理までは書いてありません。知識や情報として引き継いでいくしかありません。経理の人が変わるとこの引き継ぎまではできないとしたもので、経理処理の間違いの原因となります。
・経理処理で注意すべき事例の変遷をあげておきます。
逓増定期保険の経理処理は通期でみれば、複雑なルールがありますが、ここでは触れません。全損にできない、通常の逓増定期保険としてお考え下さい。
1)逓増定期保険は、契約時期により全損から二分の一損金へ。
平成20年2月27日までの逓増定期保険契約については、全額損金が可能。
平成20年2月28日以後に契約した逓増定期保険は二分の一損金。
2)法人契約のがん保険は、全損から二分の一損金へ。
平成24年4月27日までの法人契約のがん保険については、全額損金が可能。
平成24年4月28日以後に契約した、法人契約のがん保険は二分の一損金。
3)長期傷害保険は既契約に遡及。
長期傷害保険(終身保障タイプ)は、医療保険として全額損金で販売されましたが、平成18年4月28日付け国税庁の「長期傷害保険(終身保障タイプ)に関する税務上の取扱いについて」と題する文書回答により既契約を含め四分の三資産計上。
長期傷害保険は、既得権すら認められず契約を継続する意味がなくなり多くの企業で解約されたと思います。
4)バレンタインショックで損金算入ルールの規制。
令和元年7月8日以降の契約では、法人税基本通達9-3-5の2に従い最高解約返戻率により損金算入割合が規制されました。これはすべての新契約保険に適用されるルールとなっていますので、損金算入による節税効果はほぼなくなりました。
5)ホワイトデーショックで名義変更時の評価見直し。
令和3年7月1以降の保険契約の名義変更に関して、所得税基本通達36-37が適用されます。逓増定期保険の名義変更では、保険契約の譲渡金額が、解約返戻金相当額から、資産計上額に変更されました。名義変更スキームのメリットはなくなりました。
同時に、法人契約の医療保険も資産計上のルールが見直され、解約返戻金相当額での個人への譲渡はできなくなりました。資産計上額での譲渡は、メリットが見込めないため医療保険の名義変更スキームも道連れになりました。
◆ 保険会社の社名変更によるミスが多発。
よく見かける経理処理の誤りは、保険会社の社名変更が原因になっていることが多いように思います。生命保険会社は、よく買収や提携などにより社名が変更になります。
そうすると経理担当者は区別がつかなくなり、別の保険契約として処理してしまう場合があります。とくに外資系の保険会社はよく社名が変わります。保険契約は長期的に管理するものですから、社名変更は経理担当者にとり全く迷惑な話です。
■生命保険協会の生命保険会社変遷図(4シートに分かれています。)
いくつか混乱の事例をあげると、AIGスター生命とエジソン生命が合併しジブラルタ生命なったことがありました、逓増定期の契約はAIGスター生命で、解約返戻金を払うのはジブラルタ生命というようなことがおこります。保険証券はもちろんAIGスター生命のままですから、事情を知らなければ訳がわからなくなります。
アイエヌジー生命は合併もしていないのに、勝手にエヌエヌ生命に社名変更しました。こんなことをされたのでは保険積立金が帳簿上つながりません。
メットライフ生命に至っては、アリコジャパンからメットライフアリコ、そして今ではメットライフ生命と社名が変遷しています。アリコジャパンで入ったガン保険は、メットライフ生命で解約することになります。
経理担当者としては、知識がなければ別々の会社として保険契約を区別してしまいます。数年もすれば流れを追うことすら困難になります。
社名変更は保険契約者たる顧客にとれば、迷惑千万以外の何ものでもありません。保険会社はもう少しユーザー目線で判断いただきたいものです。そうかと言って、どこかの損保系の生命保険会社のように旧社名を全部つなぎ合わせるようなことも、知恵が回るとも言えません。サラリーマンにすれば、年末調整の枠に書き切れなくて困ってしまいます。
◆ 未経過保険料返還による経理処理。
■未経過保険料の返還が、法人保険の経理処理を混乱させる理由。
もう一つのややこしい問題として、未経過保険料という問題があります。未経過保険料とは読んで字のごとく、先払いしている保険料で、まだ保険期間が経過していない分の保険料です。
たとえば年払いの保険料は一年分を先払いします。保険料を支払って一ヶ月目に解約すると、まだ保障に充当されていない11ヶ月分の保険料が残るはずです。
これを未経過保険料といいますが、元々は毎年の解約返戻金は最初から決まっており、未経過の保険料は返還されないとうことが基本でした。ですから事務処理としては解約返戻金が、正確に計算できるのでわかりやすかったのです。
ところが、未経過保険料を返還しないのはおかしいと言うことになりました。平成22年4月から保険法が変わり、年払いや半年払いの生命保険は解約時期に応じて、未経過保険料を返却することになりました。そのため解約した場合の入金額の予測は、保険会社に照会をかけないと正確な金額が把握できなくなりました。
未経過保険料の返還には例外があり、さらに話をややこしくしています。その一つ目は平成22年4月以前の契約は、未経過保険料を返還しなくてよいのです。とすればがん保険などは社員の入社時期により契約はばらつきますから、解約するときは未経過保険料が返還される契約と、そうでない契約が混在しさらにややこしくなります。
また、最近はやりの初期低解約返戻金型の保険の一部も、未経過保険料が返還されないものがあります。保険の性格上未経過保険料を返還すると低解約返戻金という部分との整合性がとれなくなるので、例外扱いになっているのですね。当然、無解約返戻金型という解約返戻金がないものも未経過保険料を返還できない理由は、保険の数理がわからなくてもなんとなく理解できます。
未経過保険料は保険料の戻りと解釈できますが、保険料を損金で落としていれば、解約返戻金と同じ雑収入で受けることになります。実務では解約返戻金も未経過保険料もひとまとめにして、解約返戻金として雑収入とするところが妥当な処理かと思います。この辺の処理精度は、お知り合いの税理士さんにお尋ね下さい。
未経過保険料の補足として逓増定期保険のときは注意が必要です。
ホワイトデーショックでなくなってしまいましたが、名義変更一時所得のスキームで逓増定期保険を解約するときの話です。保険料を払い込んですぐに解約するより、未経過保険料が充当されるのを待ってから解約した方が解約返戻金が多くなる場合があります。
未経過保険料を返還してもらうより、解約を先送りした方が受取額が増えるのです。いろいろあるものです。
◆ 配当などの経理処理。
最近では解約返戻率をよく見せるため、無配当の保険商品が多いですからわかりやすくなりました。しかしまだ配当が出る会社も少なからずあります。生命保険の配当は多くの場合、バカにできない程度の少額です。
経理処理をされるかたは、配当などの通知が保険会社から来ると処理に困られるようです。通知に従い配当金積立金として資産計上するのが正しい処理だとは思いますが、現金で入るわけでなく、保険会社で積み立てとしての記録になります。
その都度配当が処理できていなくても、保険金や解約返戻金に含まれて支払が発生しますから、最後に雑収入で計上すれば問題はないと言えるのではないかと思います。
ただし厳密に言うと受け取るときには保険金(または解約返戻金)+配当金+配当利息となります。配当金とそれについた利息には消費税は課税されません。この辺は経理の専門家ではありませんので、配当金の正しい経理処理ではなく、実務的な視点で取り扱いについて申し上げました。
◆ 法人保険の間違いやすい経理処理、まとめ。
生命保険の間違いやすい経理処理について、実務の現場から注意点をまとめました。法人の経理担当者や保険担当者のお役に立つのではないかと思い、少々踏み込んで書きました。なかには「そうそう!」と膝を打って共感いただける方もいらっしゃるのではないかと思っています。
保険は法人向けでも個人向けでも商品開発が進み、複雑化しすぎました。保険の主契約という核の部分が見えなくなる、特約デコレーションのオンパレードです。この結果、保険の内容を正しく理解できる契約者が少なくなり、経理処理の誤りも多発します。
特に経理担当者が変われば、もはや所期の保険の目的を理解することはできなくなるように思います。とくに解約時期がタイトな契約は、判断を誤るとハンパでない損失が発生します。
窓口となった保険代理店や保険営業に保険の契約管理を任せることは、長期にわたる生命保険では、人の人生ですから所詮無理があります。しかしhokenfpとしては売りっぱなしではない、顧客サービスを徹底すべきだと考えています。保険の契約管理(解約管理)や経理処理に対して、保険会社が責任を負う仕組みを構築することを提言したいところです
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