保険の間違いやすい経理処理、注意点まとめ。

保険の間違いやすい経理処理と注意点をまとめました。

※令和元年6月末に国税庁の法人契約保険に関する法人税基本通達が発遣されました。それにより新規契約の経理処理は大きく変わりました。本稿はそれ以前の保険契約に関する経理処理をまとめています。

CIMG3480 法人で保険を契約すると支払った保険料の経理処理に迷うことがあります。

損金処理(費用として落とす)ことができるのか、保険積立金(資産として税金を払う)として計上すべきなのか保険証券を見ただけでわかる人は少ないのではないかと思います。

また解約返戻金や保険金を受け取ったときも保険積立金が一致せず苦労することがあります。法人保険では課税庁の通達などの指導により同じ保険でも時期により取扱いが変わることがあります。

それに加え未経過保険料なるものが返金されたり、配当金があったりするとさらにややこしくなります。法人で契約する生命保険の経理処理についてわかりやすく、押さえるべきポイントを整理しました。とくに、間違いやすい経理処理の注意点について重点的に解説しました。少しでもお役にたてば幸甚です。

法人保険の経理処理は間違いの落とし穴、解約管理が必須な理由。

 ◆保険の種類による経理処理の違い。

生命保険にはいろいろな種類があります。保障性の高いもの、いわゆる「掛け捨て」と呼ばれるタイプと資産性の高いものがあります。契約する目的により生命保険の種類は使い分けるようになっています。

保障性の高いものは保険料が費用化できますので損金として利益から落とすことができます。一方資産性の高いものは、払った保険料が費用にならず保険積立金として資産に計上します。保険商品も開発が進み保険の種類を見ただけでは経理処理が判断しにくくなっています。

わかりやすくするため基本的なことを箇条書きにします。

 1)終身保険は全額資産計上します。

被保険者が死亡すると保険金が出ます。期間の定めがなく一生涯の保障があります。解約しない限り保険金が必ず受けとれますから、実質的には保険料を積み立てているようなものです。よって全額を資産計上します。

 2)養老保険は基本的に資産計上しますが、福利厚生の条件により半分を費用化できます。

期間の定めがあり、満期になると満期保険金が受け取れます。保険期間中に被保険者が死亡すると満期保険金と同額の死亡保険金が受けとれます。どちらの場合も保険金が必ず受け取れますから実質的保険料を積み立てているようなものです。よって養老保険は全額を資産計上します。

例外として福利厚生目的で全従業員を被保険者として養老保険を契約すると保険料の半分を費用化することが認められています。ハーフタックスと呼ばれますが、死亡保険金は従業員の遺族受取り、満期保険金は会社受取りとなります。

 3)定期保険は基本的に損金処理しますが、長期の定期保険は前払い保険料を一部資産計上します。

年齢によりますが、期間の短い定期保険は全額を費用化できます。ところが長期の定期保険は前払い保険料が資産化するので一定の期間、保険料のうち損金化できる割合が制限されます。いわゆる二分の一損金の長期平準定期保険などがこれに該当します。

基本は定期保険ですから、前期で資産化した前払い保険料も最終的にはすべて費用化することが建前です。(長期平準定期保険の場合、実際は途中解約して解約返戻金を受取ります。)

 4)医療保険は基本的に損金処理しますが、一部の貯蓄性の高いものは資産計上します。

医療保険にはがん保険を始めとして、いろいろ種類がありますが基本的に保険料は費用化できます。ところが一部のがん保険などで前払い保険料が資産化する法人向けの特殊な医療保険があり、費用化に制限がかかりました。貯蓄性の高いがん保険などでは二分の一を資産計上するルールが示されています。

 5)年金保険は全額資産計上します。

一定期間保険料を積み立て、年金として受け取ります。保険料は年金の原資として積み立てているので、全額を資産計上します。

保険の分類にはいろいろな考え方がありますが、本質的な区分でいえば上記の5種類です。これに特約が加わったり、終身保険と定期保険が組み合わされたり、あるいは終身保険に医療保険が特約として付加されたりします。ややこしいですが、組み合わされた保険はそれぞれのパーツごとに保険料を分解して経理処理を判断する必要があります。

逓増定期保険、経理処理の変遷が複雑怪奇。

◆契約時期と通達による経理処理の違い。

保険の経理処理を複雑にしている原因のひとつが契約時期による経理処理の違いでしょCIMG3481う。こればっかりは保険にかかわっていても正確に答えることは難しいものです。知らなければ経理処理としては、まったくどうしようもないところです。

同じ保険でも通達が出ると経理処理の取り扱いが変わります。多くの場合既契約には及びませんが、同じ逓増定期保険やがん保険でも全額損金処理でよい契約と二分の一損金で処理しなければならない契約が混在することがおこります。

保険証券を見ても経理処理までは書いてありませんから知識や情報として引き継いでいくしかありません。経理の人が変わるとこの引き継ぎまではできないとしたもので、経理処理の間違いの原因となります。

・注意すべき事例をあげておきます。逓増定期保険の経理処理は通期でみれば複雑なルールがありますが、ここでは触れません。全損にできない通常の逓増定期保険としてお考え下さい。

 1)逓増定期保険

平成20年2月27日までの逓増定期保険契約については全額損金が可能。

平成20年2月28日以後に契約した逓増定期保険は二分の一損金。

 2)法人契約のがん保険

平成24年4月27日までの法人契約のがん保険については全額損金が可能。

平成24年4月28日以後に契約した法人契約のがん保険は二分の一損金。

 3)長期傷害保険

長期傷害保険(終身保障タイプ)は医療保険として全額損金で販売されましたが、

平成18年4月28日付け国税庁の「長期傷害保険(終身保障タイプ)に関する税務上の取扱いについて」と題する文書回答により既契約を含め四分の三資産計上。

長期傷害保険は、既得権すら認められず契約を継続する意味がなくなり多くの企業で解約されたと思います。

保険積立金はなかなか複雑、さてどう処理するか。

 ◆保険会社の社名変更によるミスが多発。

よく見かける経理処理の誤りは、保険会社の社名変更が原因になっていることが多いように思います。生命保険会社はよく買収や提携などにより社名が変更になります。

そうすると経理担当者は区別がつかなくなり、別の保険契約として処理してしまう場合があります。とくに外資系の保険会社はよく社名が変わります。保険契約は長期的に管理するものですから、社名変更は経理担当者にとり全く迷惑な話です。

 ■生命保険協会の生命保険会社変遷図(4シートに分かれています。)

いくつか混乱の事例をあげると、AIGスター生命とエジソン生命がジブラルタ生命と合併したことがありましたが、逓増定期の契約はAIGスター生命で解約返戻金を払うのはジブラルタ生命というようなことがおこります。保険証券はもちろんAIGスター生命のままですから事情を知らなければ訳がわからなくなります。

アイエヌジー生命は合併もしていないのに勝手にエヌエヌ生命に社名変更しました。こんなことをされたのでは保険積立金が帳簿上つながりません。

メットライフ生命に至ってはアリコジャパンからメットライフアリコ、そして今ではメットライフ生命と社名が変遷しています。アリコジャパンで入ったガン保険はメットライフ生命で解約することになります。

経理担当者としては、知識がなければ別々の会社として保険契約を区別してしまいます。数年もすれば流れを追うことすら困難になります。

社名変更は保険契約者たる顧客にとれば迷惑千万以外の何ものでもありません。保険会社はもう少しユーザー目線で判断いただきたいものです。そうかと言ってどこかの損保系の生命保険会社のように旧社名を全部つなぎ合わせるようなことも知恵が回るとも言えません。サラリーマンにすれば、年末調整の枠に書き切れなくて困ってしまいます。

法人保険の失効と自動振替貸付にまつわる恐い落とし穴。

 ◆未経過保険料返還による経理処理。

CIMG3482もう一つのややこしい問題として未経過保険料という問題があります。未経過保険料とは読んで字のごとく先払いしている保険料でまだ保険期間が経過していない分の保険料です。

たとえば年払いの保険料は一年分を先払いします。保険料を支払って一ヶ月目に解約すると、まだ保障に充当されていない11ヶ月分の保険料が残るはずです。

これを未経過保険料といいますが、元々は毎年の解約返戻金は最初から決まっており未経過の保険料は返還されないとうことが基本でした。ですから事務処理としては解約返戻金が正確に計算できるのでわかりやすかったのです。

ところが未経過保険料を返還しないのはおかしいと言うことになり平成22年4月から保険法が変わり年払いの生命保険でも解約時期に応じて未経過保険料を返却することになりました。そのため解約した場合の入金額の予測は保険会社に照会をかけないと正確な金額が把握できなくなりました。

未経過保険料の返還には例外があり、話をややこしくしています。その一つ目は平成22年4月以前の契約は未経過保険料を返還しなくてよいのです。とすればがん保険などは社員の入社時期により契約はばらつきますから解約するときは、未経過保険料が返還される契約とそうでない契約が混在しさらにややこしくなります。

また、最近はやりの初期低解約返戻金型の保険の一部も未経過保険料が返還されないものがあります。保険の性格上未経過保険料を返還すると低解約返戻金という部分との整合性がとれなくなるので例外扱いになっているのですね。当然、無解約返戻金型という解約返戻金がないものも未経過保険料を返還できない理由は、保険の数理がわからなくてもなんとなく理解できます。

未経過保険料は保険料の戻りと解釈できますが、保険料を損金で落としていれば、解約返戻金と同じ雑収入で受けることになります。実務では解約返戻金も未経過保険料もひとまとめにして解約返戻金として雑収入とするところが妥当な処理かと思います。この辺の処理精度はお知り合いの税理士さんにお尋ね下さい。

未経過保険料の補足として逓増定期保険のときは注意が必要です。名義変更一時所得のスキームで逓増定期保険を解約するとき、保険料を払い込んですぐに解約するより、未経過保険料が充当されるのを待ってから解約した方が解約返戻金が多くなる場合があります。未経過保険料を返還してもらうより、解約を先送りした方が受取額が増えるのです。いろいろあるものです。

 ◆配当などの経理処理。

最近では解約返戻率をよく見せるため無配当の保険商品が多いですからわかりやすいのCIMG3483ですが、まだ配当が出る会社も少なからずあります。生命保険の配当は多くの場合少額です。

経理処理をされるかたは、配当などの通知が保険会社から来ると処理に困られるようです。通知に従い配当金積立金として資産計上するのが正しい処理だとは思いますが、現金で入るわけでなく、保険会社で積み立てとしての記録になります。

その都度配当が処理できていなくても、保険金や解約返戻金に含まれて支払が発生しますから、最後に雑収入で計上すれば問題はないと言えるのではないかと思います。

ただし厳密に言うと受け取るときには保険金(または解約返戻金)+配当金+配当利息となります。配当金とそれについた利息には消費税は課税されません。この辺は経理の専門家ではないので、配当金の正しい経理処理ではなく実務的な視点で取り扱いについて申し上げました。

生命保険の残高証明は出せるわけがない。

 ◆まとめ

生命保険の間違いやすい経理処理について、実務の現場から注意点をまとめれば法人の経理担当者や保険担当者のお役に立つのではないかと思い、少々踏み込んで書きましたが、なにやら愚痴が間(あいだ)に挟まってしまいました。なかには「そうそう!」と膝を打って共感いただける方もいらっしゃるのではないかと思っています。

保険は法人向けでも個人向けでも開発が進み複雑化しすぎました。保険の主契約という核の部分が見えなくなる特約デコレーションのオンパレードです。この結果、保険の内容を正しく理解できる契約者が少なくなり、経理処理の誤りも多発します。

特に経理担当者が変われば、もはや所期の保険の目的を理解することはできなくなるように思います。とくに解約時期がタイトな契約は判断を誤るとハンパでない損失が発生します。

窓口となった保険代理店や保険営業に保険の契約管理を任せることは、人の人生ですから所詮無理があります。hokenfpとしては売りっぱなしではない顧客サービスを徹底すべきだと考えています。保険の契約管理(解約管理)や経理処理に対して、保険会社が責任を負う仕組みを構築することを提言したいところです。

生命保険はタイミングが肝(きも)、保険営業の選択はスリリング。

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