相続税が高いという誤解による過度な節税対策に落とし穴。
相続税の勘違いの最たるものに、相続税は5割超と思い込む、税率の勘違いがあります。
相続税対策セミナーで、節税対策のカモになるのがこのタイプです。自分の相続税額をきちんと計算しないで相続税が増税になった、さあ大変というわけです。
昔からカモはネギと鍋を背負ってくると言いますが、思い込みによる誤解は大きな損失につながります。
自分の財産をざっと値踏みして、相続税は5割超と思いこむと誰でも慌ててしまいます。
セミナーの講師も相続税の節税策一本槍ですから、相続税の税率表を大伸ばしして高率を強調します。決して誤解を解こうとはしません。
その結果、普通なら払える相続税が節税対策のしすぎで、支払うキャッシュが足りないような羽目になります。借金して賃貸マンションを建てれば、節税にはなるでしょうが、素人芸ではうまくいくとも思えません。
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◆相続税が高いと思い込む要因は二つ。
一つは超過累進課税になっている、相続税の税率表に原因があります。
超過累進課税とは税率のバーを越えた部分にだけ上の税率を適用するということです。
それ以下の部分には低い税率が適用されます。そのために低率部分の税額控除があります。1億円なら1億円まるまるに30%の税金がかかるわけではないのです。
【平成27年1月1日以後の場合】相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
・相続税が高いと思い込む要因。
相続税が高いと思い込むもう一つの要因は、相続財産ひとまとめに税率を考えてしまう勘違いです。それぞれの相続人ごとに法定相続したものとして、分散した金額で相続税を計算して総額を求める仕組みになっています。
分散すれば相続人ごとの相続税額が下がり、低い税率が適用できることが理解されていないことにあります。
計算では1億円の相続財産は法定相続人に割れますから、相続人が2人なら5,000万ずつの相続税を計算します。3人なら1/3ずつの金額で相続税を計算します。計算の分母が小さくなるので、それぞれの税率が低くなります。
その結果、相続税の安い税率になり、それを合算すると思いのほか低い税率になるのです。
実際のケースでは3億の資産があり相続人は配偶者を含めて3名とすると
(基礎控除3,000万、600万×3名、
生命保険控除500万×3名=合計で6,300万の控除、
残り23,700万が課税対象)
一次相続の相続税の税率を(1/2を配偶者が非課税で相続)計算すると財産総額に対し実質税率は8.66%と思いがけない低率になります。二次相続時に同様の計算をすると15%程度の税率になります。
この税率を高いと思うか、安いと思うかは人それぞれです。
◆ 相続税の税率計算が先決、その上で節税対策。
この世の仕組みは、お金が動けば税金がかかるのです。
相続税の税率は、税率表だけ見ていると高く感じますが、所得税や消費税に比べて、決して高いとばかりは言えない率なのです。
この相続税の税率なら、むやみな節税対策をするより納税したほうが将来的なリスクが下がります。相続人の手元にキャッシュとより安心が残るのではないかと思います。
相続対策は早めから対応しなければなりませんが、やりすぎ相続税対策は決して相続人のためにはならないのです。相続ビジネスの挑発に乗らないで、冷静に自分の財産を評価しリストを作成してください。
基礎控除や生命保険非課税枠、小規模宅地の評価減等を考慮し実際の自分の相続税額を一次相続と二次相続に分けて計算してください。
納税額が計算できれば、手持ちのキャッシュあるいは換金性の高い金融商品で納税資金がまかなえるかどうかを判断してください。
◆ 相続税が高いという誤解、まとめ。
相続税の税率表は、最高税率が55%にもなっています。これは世界で最も高い相続税率です。世界には相続税がない国もありますから、日本の税率がいかに高いかわかります。
相続税が高いのは高いのですが、個別の相続案件について控除額などを含めて計算してみると、それほど高いというわけではないことが理解いただけると思います。
相続税の納税はキャッシュが原則です。賃貸マンションなどの不動産事業を行うと大幅に評価減になり相続税が節税できます。しかし手許キャッシュは、土地や建物に変わり流動性がなくなります。やり過ぎて納税資金がなくなると言うことも珍しくはないのです。
相続税対策を考えるのであれば、より安全確実な暦年贈与と生命保険です。納税資金を確保したそのうえで、余剰資金があるなら不動産投資による節税です。ただ不動産投資は、損失が発生するリスクがあることを押えたうえで取り組まれることがよろしいようです。
一言付け加えるなら、後を継ぐ相続人にとれば不動産投資は重荷になることが多く、決して喜ばれるとは言えないのです。不動産事業を引き継ぐことは、結構大変な手間もかかります。相続人の本音では、相続税がかかってもよいのでキャッシュで残してもらった方が百倍うれしかったというようなこともあります。
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