
※相続セミナーを批判したいわけではありません。当サイトは、相続税ビジネス
や顧客獲得を目的に情報発信している立場ではありません。
「何が本当に必要な対策なのか」が見えにくい庶民相続に対し、売る側ではなく
参加者側の視点から、相続セミナーや節税提案の見方を整理しています。
相続税の基礎控除が引き下げられ、相続税の対象者が一気に増加した結果、
相続税対策セミナーがあちこちで花盛りになりました。
相続セミナーは銀行、保険会社、不動産会社、証券会社、税理士法人など、
実にさまざまなところが開催しています。
本来セミナーとは知識や情報を学ぶ場ですが、無料セミナーともなれば、
現実には「見込み客との接点づくり」という意味合いも強くなります。
もちろん有益な情報もあります。しかし問題は、「誰が主催しているか」で、
出口が変わってしまうことです。
これまでも相続税対策のやり過ぎで、土地活用に乗せられ、
借入負担に苦しんだケースは珍しくありません。
「やらなきゃよかった相続税対策」にならないためには、
相続セミナーの構造そのものを理解しておく必要があります。
■相続税は本当に高いのか|税率表だけでは見えない実効税率の現実。
◆ 相続セミナーが増えた背景。

平成27年1月1日の税制改正で、相続税の基礎控除は大きく縮小されました。
改正前は、・5,000万円+1,000万円×法定相続人
でしたが、改正後は、・3,000万円+600万円×法定相続人
へ変更されています。
たとえば配偶者と子ども2人なら、改正前:8,000万円、改正後:4,800万円
まで一気に下がりました。
しかし、地価高騰がすすむ都市部では、普通の家庭でも
自宅と多少の金融資産があるだけで、基礎控除を超えるケースもあります。
「うちは資産家ではないと思っていたのに、相続税がかかるかもしれない。」
こうした不安の広がりとともに、相続セミナー市場も急拡大しました。
とくに相続税がかかるかどうかの境界線にいる層は、不安が大きくなります。
不動産価格や株価で評価額が変動するため、
将来どれくらいの相続税になるのか見えにくいからです。
その結果、相続税はいくらかかるのか、何から始めればいいのか、
誰に相談すればいいのかが分からず、とりあえずセミナーに参加する流れになります。
ここに、相続ビジネスの入口があります。
◆ 無料セミナーが無料で終わらない理由。

無料セミナーは、慈善事業ではありません。
会場費、人件費、広告費をかけて開催する以上、主催者には必ず目的があります。
多くの場合、個別相談、不動産提案、保険提案、生前贈与対策、
資産運用提案などへの導線になっています。
もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
問題は、「相続全体の設計」よりも、「販売したい商品」が先に来るケースがあることです。
相続税の不安を強調されると、人は冷静な判断が難しくなります。
昔から「カモはネギと鍋を背負ってくる」と言いますが、相続の世界では、
「相続税が55%になるらしい。」「今すぐ節税しないと大変。」
という思い込みが、過剰な対策につながることがあります。
無料セミナーのあとに個別相談へ誘導され、
そのまま不動産購入や保険加入まで進む流れは珍しくありません。
相続は金額が大きいので、一件成立すればビジネスとして非常に大きいのです。
◆ 主催者で出口が変わる。

相続セミナーは、主催者によって話の方向性がかなり変わります。
・不動産会社系セミナー
不動産投資や賃貸マンション経営など、相続税評価の圧縮を中心に
話が進みやすくなります。
土地活用・借入による評価減などがテーマになりやすいです。
確かに相続税評価は下がります。
しかし評価が下がるということは、裏返せば流動性も下がるということです。
借金と空室リスクまで抱えることになれば、相続人にとって重荷になる場合もあります。
・保険代理店系セミナー
生命保険の非課税枠や納税資金対策が中心になります。
生命保険は比較的安全性が高く、納税資金確保にも向いています。
ただし必要以上の契約や、高齢期に不向きな商品提案には注意が必要です。
・証券会社・銀行系セミナー
資産運用や金融商品の組み替え提案につながるケースがあります。
相続対策というより、資産移転ビジネスの側面もあります。
・士業系セミナー
税理士、弁護士、司法書士、行政書士、FPなどが主催するものです。
比較的中立的な内容も多いですが、当然ながら業務受任につながる面はあります。
士業だから完全中立というわけでもありません。
ただ少なくとも、特定商品販売より、制度説明中心になりやすい傾向はあります。
どの立場でもビジネスである以上、「自分の専門領域に話が寄る」のは自然なことです。その前提で聞くことが大切です。
◆ 「相続税は大変です」が先に来る危険。

相続セミナーで最も注意したいのは、「まず不安ありき」で話が進むケースです。
相続税の税率表を見ると、最高税率は55%です。
しかし実際には、基礎控除、配偶者の税額軽減、生命保険の非課税枠、
小規模宅地等の特例などがあり、実効税率はかなり下がることも珍しくありません。
にもかかわらず、「相続税は半分持っていかれる。」
という印象だけが先行すると、人は極端な節税策に走りやすくなります。
税率表だけを大きく見せて不安をあおる説明には注意が必要です。
相続税対策は、本来、実際の財産評価、納税資金、遺産分割、
家族関係、将来の管理負担まで含めて考える必要があります。
ところが節税商品から入ると、本来の目的を見失いやすくなります。
◆ 相続対策と相続税対策は別物。

相続対策というと、相続税ばかり注目されがちです。
しかし現実には、遺産分割でもめる、認知症で手続き不能、
空き家管理、地方不動産の処分困難、納税資金不足
など、税金以外の問題の方が深刻なことも少なくありません。
相続税がゼロでも、「争族」になるケースはいくらでもあります。
逆に、相続税を減らせても、家族関係が壊れれば本末転倒です。
また不動産を増やしすぎると、次の世代が管理に困ることもあります。
相続税対策はあくまで相続対策の一部分でしかありません。
◆ 節税商品から入ると失敗しやすい。

相続税の節税では、不動産投資による評価減が有名です。
銀行から借入して賃貸アパートを建てれば、相続税評価は確かに下がります。
しかし、空室・修繕・金利上昇・人口減少・家賃下落
といった経営リスクも背負います。
節税できても、キャッシュが減り、流動性がなくなれば、相続人は苦労します。
「節税できた」ことと、「相続人が幸せになる」ことは別問題なのです。
実際には、納税資金を確保する、分けやすい財産を残す、
管理しやすい形に整理する方が重要なケースも多いです。
節税効果は、不動産ほど大きくありませんが、
生命保険金の非課税枠500万をまずお考えいただくことをおすすめします。
その上で、相続税を納税しつつ、キャシュが残るように考えれば、
相続人は助かりますから、大いに感謝されることになります。
ポイントは納税資金を確保したうえで、余裕資金があれば対策するくらいが
現実的かつ安全な考え方だと思います。
◆ 相続セミナーとの付き合い方。

相続セミナーは、情報収集の入口としては有効です。
ただし、セミナーの話をそのまま鵜呑みにしないことです。
とくに注意したいのは、その場で契約を急がせる、
不安を過度にあおる、「今やらないと危険」と強調する、
一つの商品だけを万能視するようなケースです。
まず必要なのは、財産の全体把握、相続税の試算、納税資金確認、
家族構成整理、遺産分割の方向性確認、そして生命保険の受取人
見直しです。商品提案は、その後でよいのです。
相続は長期戦です。セミナー会場の勢いだけで決める話ではありません。
◆ 相続セミナーの落とし穴、まとめ。

相続セミナーは、有益な知識を得られる場でもあります。
しかし同時に、相続ビジネスの入口でもあります。
相続税への不安が大きいほど、人は冷静さを失います。
その結果、借入過多・過剰な不動産投資・不必要な金融商品・
流動性不足など、別の問題を抱えることがあります。
相続税対策は、「税金を減らすこと」だけが目的ではありません。
相続人が管理しやすく、納税でき、揉めにくい形を作ることの方が、
現実には重要です。
相続セミナーは、話半分くらいで聞く慎重さがちょうどよいのかもしれません。
失敗しても、主催者にとっては次の案件ですが、
相続人にとっては人生単位の問題だからです。
■相続対策と相続税対策を体系的に解説したページ
→相続対策と相続税対策はまったく別物|勘違いが悲劇を生む構造。
「相続セミナーの落とし穴|不安商法と節税ビジネスの構造。」への5件のフィードバック