生命保険の指定代理請求の落とし穴。

生命保険の指定代理請求の落とし穴。

被保険者は、死亡保険金の受取人になることはできません。自分が死亡した結果、死亡保険金が出るのですから受取れないわけです。しかし被保険者は、生前に給付される給付金を請求する権利があります。

指定代理請求人は、被保険者に特別な事情があり、自ら請求できないときに、給付金請求やリビング・ニーズ特約保険金などの請求を代行できます。

生命保険は金融商品ですが、人の生死に関わり大金が動きます。そのため特殊なルールがいくつもあります。たとえばリビング・ニーズ特約のように余命6ヶ月の宣告を受けると、生前に生命保険金が受け取れるという仕組みがあります。

実際死にゆく身の上では、お金などそれほど意味があろうはずはありません。しかし付き添う家族には、大きな意味があります。

リビング・ニーズ特約は本人が余命を自覚して、自分で請求する仕組みです。しかし、被保険者に特別な事情があり、自分で請求できないようなとき、代りに保険金などを請求できるのが指定代理請求人です。

■リビング・ニーズ特約とは、わかりそうでわからない不思議な無料特約。

◆ 生命保険の指定代理請求制度とは、わかりやすくコンパクトに。

指定代理請求制度とは、被保険者本人に特別な事情がある場合、指定代理請求人が保険金等を請求できる制度です。

保険契約者があらかじめ指定した代理人が、被保険者に代わって保険金等を請求することができます。契約者が指定代理請求人を指定する際には、被保険者の同意が必要になります。

契約するときに必要事項を記入すれば、自動付帯される場合もあります。しかし実際は、別枠で手続きを必要とする保険会社が多いようです。

指定代理請求できる保険金・給付金の種類は生命保険会社によって異なりますが、被保険者が受取人になる生前給付金に限られます。

たとえば入院給付金や手術給付金、高度障害保険金、特定疾病保険金、リビング・ニーズ特約保険金、介護保険金・介護年金などがあります。被保険者と受取人が同一人の場合の満期保険金や年金などを代理請求できる生命保険会社もあります。

ただし通常は、死亡保険金受取人と被保険者は一致しません。

そのため受取人が受け取れるはずの死亡保険金を被保険者が生前に受け取るリビング・ニーズ特約などは、利害が対立する可能性があります。受取人が指定代理請求人であれば、ほぼ利害関係の問題はなくなります。

指定代理請求人が指定できる範囲は、保険会社によって違いますが、結構広いです。しかしその範囲で誰でもよいわけではありません。適切な指定代理請求人を指定することで、トラブルを未然に防止することができます。

もっとも自然な指定代理請求人を選ぶ必要があります。契約者と被保険者が同じ場合、受取人を指定代理請求人に指定します。契約者と被保険者が異なる場合、契約者を指定代理請求人に指定します。

わかりやすく事例で説明すると、契約者=夫で、被保険者=夫という場合、受取人は配偶者ということが多いと思います。

この場合は、受取人である配偶者を指定代理請求人にします。また契約者=夫という契約で、被保険者=配偶者で受取人=夫という場合は、指定代理請求人は夫ということになります。

よくある契約形態で、親が保険料を負担する契約者で、かつ体を提供する被保険者というケースがあります。この場合契約者と被保険者が同一人ですので保険料払込免除についても、代理請求することができます。

保険会社によっては「指定代理請求特約」とか「指定代理人請求特則」とか言い方はいろいろありますが、ルールはほぼ同じです。

これは保険料が余分にかかるわけではないので、付帯しておけばよさそうなものです。しかし契約者の意思と保険契約の時期により、付帯していない場合があります。ご自分の契約を今一度確認されることをおすすめします。

◆ 指定代理請求の指定と範囲、誰が指定し誰がなれるのか。

指定代理請求人は、契約者が被保険者の同意を得たうえで、あらかじめ指定しておきます。指定代理請求人に指定できるのは下記のような身近な親族や肉親です。

・被保険者の配偶者(内縁関係は保管会社によります。)

・被保険者の直系血族(父母、子、孫、ひ孫、祖父母、曽祖父母)

・被保険者の兄弟姉妹

・被保険者と同居または生計を同じくしている3親等内の親族

契約時に指定代理請求特約(特則)を付加して、指定代理請求人を指定します。特約保険料は不要です。特約としてではなく、保険金受取人と併せて契約時に指定代理請求人を指定する保険会社もあります。

なお、契約途中でも被保険者の同意を得て、指定代理請求人の指定や変更ができます。

◆ 指定代理請求人は契約者の代理はできない。

指定代理請求人は被保険者の代理ができるのであって、契約者の権利を代理することはできません。たとえば契約者としての解約や減額、契約者貸付、払済、契約転換、名義変更などの権利は代行でません。

指定代理請求特約のほかに、保険契約者代理特約を取り扱っている生命保険会社もあります。この制度は、契約者に代わって手続きを行うことができる特約です。

契約者が契約に関する手続きの意思表示ができない場合などに、あらかじめ指定された契約者代理人が住所変更、解約など所定の手続きを行うことができます。

◆ 指定代理人請求が有効になる、特別な事情とは?

指定代理請求は傷害または疾病により重篤な場合で、被保険者の意思表示ができないようなケースが特別な事情に該当します。

たとえば認知症などでは、病状が進むと判断能力が低下し本人の意思決定能力が正常ではなくなることがあります。また、あるいは治療上の都合などにより本人に病名や余命を告知していない場合などに威力を発揮します。

特別な事情とは、下記のように定義されています。(生命保険文化センターから引用)

1)傷害または疾病により、保険金等を請求する意思表示ができないとき

2)治療上の都合により、傷病名または余命の告知を受けていないとき

3)その他(1)または(2)に準じた状態であるとき

◆ 指定代理人請求の落とし穴。

生命保険には指定代理請求という仕組みがありますが、落とし穴もあります。指定代理請求人は、被保険者の代理をします。したがって、リビング・ニーズ特約で保険金請求もできることになります。

■リビング・ニーズ特約とは、わかりそうでわからない不思議な無料特約。

この場合、リビング・ニーズ特約で保険金を生前に請求したということは、被保険者の余命が6カ月以内ということが条件です。告知していない被保険者が、リビング・ニーズ特約保険金請求を知ったなら、それは自分の余命を知ることにつながります。

そんなに簡単に契約者であり被保険者である本人に気づかれずに、保険金を請求できるものでしょうか。治癒の見込みがあれば告知し本人の意志で抗がん剤治療をすると思います。しかし進行性のがんなどでは、告知しないケースもあります。

意思表示ができない程度に病状が進んでいれば、わかることはないかもしれません。しかし告知していない場合などでは、被保険者本人の意思能力は健在していると思われます。

・保険会社の立場と矛盾。

保険会社は、契約者に内緒で保険金を受け取った場合、契約者からの問い合わせには回答せざるを得ないと回答しています。

生命保険会社は指定代理請求人により保険金を支払ったことを被保険者に連絡することはないと説明します。しかし多くの場合、契約者は被保険者です。言っていることは、よく考えれば矛盾だらけの話です。

気の毒にもあっさり亡くなれば、問題は発覚しません。しかし抗がん剤治療が効を奏して、小康状態になったときどうするのでしょうか。余命が延びたり、治ったりしても保険会社が保険金を返せとは言いませんが、本人にばれる機会がないとは言えないのです。保険会社は保険金を支払ったお知らせを送付するのでしょうか。この辺は事例を知りませんが、ある程度リスクを覚悟する必要があります。

第一生命保険株式会社引用

代理請求人に保険金などをお支払いした後、契約者または被保険者からのお問い合わせがあった場合、当社はその支払状況について事実にもとづいて回答せざるを得ませんので、ご承知おき願います。この場合、回答により万一不都合が生じても、当社は責任を負いかねますので、関係者で解決していただくことになります。

補足:法人契約では、給付金も保険金も法人受け取りですから指定代理請求人はありません。

◆ 指定代理人請求、まとめ。

指定代理人請求では、被保険者に内緒で保険金を請求するには相当の理由と勇気が必要です。生死が関わるととたんに難しくなる保険金請求です。

本人に告知していない場合は、ためらいがあると思います。ただ実際の場面では、かかわるのは肉親や家族です。それはお互いが理解を示すと考えるのが妥当かもしれません。

他人が請求するわけでなし、指定代理人請求は正当な保険金請求です。しかし被保険者たる本人にすれば、指定代理人請求で家族が保険金を請求していれば、自分が重篤な病気であることを知ることになります。

脳梗塞とかで意思表示ができないような場合は、後になって本人に知られても問題はありませんが、やはり告知していないがんなどの病気の場合はためらいが残ります。

最近はがんも告知する時代ですが、やはり言えないケースもあります。

契約者であり被保険者である本人が、家族の指定代理人請求で自分の本当の病気を知ったとしても、無理を承知で申し上げると、そこはショックを包み隠して知らぬふりをするのが配慮というものです。

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