節税保険、バレンタインショックの行く末!?

節税保険、バレンタインショックの行く末!?

全額損金処理できる法人契約の生命保険に対して、平成31年2月13日の夕方、国税庁が新たな方針を示し、生命保険会社各社は強硬な国税庁の圧力に対し、翌2月14日以降続々と販売自粛、あるいは販売停止を打ち出しました。

保険営業にとれば青天の霹靂(へきれき)というか、チョコレートどころではない生業(なりわい)に関わるバレンタインショックとも言うべき一大事です。

すぐにもパブリックコメント、通達となるような雰囲気でしたが1ヶ月以上過ぎても音沙汰がありません。

これでは保険会社も代理店も動きがとれません。通達の結果によってはさらに深刻な事態も想定されます。このようなことは過去に経験がありません。

これは保険業界だけでなく、中小企業の資金繰りや事業承継にも影響が少なからずあります。国家権力の横暴が招いたバレンタインショックの行く末を、保険契約に関わる現場から検証した報告です。

■節税保険、バレンタインショックまとめ。

◆ 駆け込み全損保険の結末は?

保険会社は、一斉に販売停止をしたわけではありません。各社各様に理屈をつけて、独自の締め切りを設けて顧客を追い込んできました。

多くの保険会社は申込みの締め切りを2月20日とし、診査と保険料は2月中に完了としていました。しかしさらにモグリの手法もありました。それは節税目的で2月に全損保険を契約し、3月の通達の結果を見てから保険料を振込むかどうかを判断するというような、都合のよい話です。

これはまったく国税庁が切れそうな駆け込み契約になりますが、2月中に申込みと診査が終われば2月契約となり、保険料は3月末まで猶予があります。

フツーの保険常識では、申込書と診査と保険料の振込みがそろった時点が契約成立となります。しかしN社とN社は申、込みと診査が終われば契約成立です。都合のよいことに、保険料は後でもよくなっています。これは利益の出ている企業にとれば、3月決算をにらみながら全額損金保険の既得権を手に入れる最後のビッグチャンスです。

この結果、バレンタインショックを逆手にとった、駆け込み販売が急増したようです。この事情は国税庁も把握しているようですから、なかなか通達が出ないところをみると、雲行きが怪しいところです。

◆ 保険代理店の苦境と保険業界の行き詰まりについて。

今回のバレンタインショックで一番先行きを案じているのは、保険代理店だと思います。

困ったことは今後の成り行きがわからず、売るべき保険商品が販売停止のままでは営業活動もでません。保険の営業をする立場では、開店休業になります。

実際3月に入ってから代理店からのアポ連絡は、ほとんど途絶えました。国税庁の通達が出るまでは、実際なすすべがないという深刻な事態です。

もちろん、国税庁の通達の内容によれば、さらに深刻なケースも想定されます。このままでは、保険代理店を廃業せざるを得ないようなことにもなりかねません。最後にどっさりと契約を取り込んだものの、下手をすれば最後のボーナスというような、笑えない苦境が見えてきます。

一方、久々の大ヒット商品だけでなく半損商品まで封じられた保険会社は、低金利時代にますます難しい舵取りを迫られることになります。

◆ バレンタインショックは中小企業の経営を圧迫。

中小企業の経営者にとって、節税保険という利益温存手段が失われるのは大きな損失です。

中小企業は、毎年安定的に利益が出るとは限りません。経営とは泥縄のようなもので、いつ何時(なんどき)ピンチに見舞われるか予測できないのです。経営のピンチを救う切札は、なんと言ってもキャッシュです。会社のキャッシュを無駄なく活用するためには、保険は限りなく有効なのです。

法人保険は、退職金を保険で積み立てることや損金効果を利用して自社株評価を下げることで、事業承継をスムーズにおこなうこともできます。また逓増定期の名義変更スキームでは後継者に経営資金を集中できます。これらすべての法人保険で得られるメリットが封じられたことになります。

◆ 金融庁の無責任と国税庁の横暴、縦割り行政の弊害。

保険商品は保険会社が設計し、金融庁の認可を受けます。その結果のあおりを受けるのが、国税庁ということになります。国の行政というのは縦割りになっていて、金融庁と国税庁はそれぞれの都合でものを言い、指導してきます。その結果振り回されるのが民間企業です。

たとえば金融庁幹部の発言を引用すると「死亡時の保障という本来の趣旨から外れており、脱税を助長するような商品」などと認可しておきながら問題点を指摘しています。国税庁に至っては「これまでのルールを当てはめると形式的には全額が経費扱いとなるが、実態と大きく乖離(かいり)する商品が開発されている。それが、『節税効果』を前面に出して販売されている。」と言うわけです。

今更何を言っているのでしょうか。その結果、法人契約できる全損商品だけでなく、半損処理ができる長期平準定期の解約返戻率まで問題視され、全面的な販売停止となりました。これでは保険会社も販売する代理店も保険営業も生活できなくなります。このような横暴で混乱を招く指導は、行政として許されるのでしょうか。

保険を買う側のhokenfpが興奮することではないのですが、企業の決算を狙って、法人保険を販売している方のやり場のない怒りはよく理解できます。

まるでGoogleの検索アルゴリズムのアップデートにより、これまで必死で築いてきた検索順位を圏外に飛ばされてしまったサイトのような、理不尽な苦渋を感じてしまいます。

◆ バレンタインショックの行く末に暗雲。

節税保険は加入より解約管理が重要です。ところが代理店が立ちゆかなければ、解約管理ができないことになり、5年後10年後には解約時期を誤る会社が続出し、本当の全損保険ショックになりかねません。

バレンタインショックの行く末は、さまざまな暗雲が漂っています。保険代理店の苦境、保険会社の経営悪化、中小企業のキャッシュフロー悪化などが想定されます。国家権力による無策と横暴の結果が、もたらす弊害は日本経済にとっても被害甚大です。

低金利時代で保険業界は青息吐息のなか、追い討ちの所業です。今後の生きる道は、ドル建て商品になるのでしょうか。新商品に期待が集まりますが、今度ばかりは認可する金融庁も保険会社も、慎重な開発姿勢になるでしょう。となれば養老保険でも売りつつ、ほとぼりが冷めるのを待つしかありません。

事業保障では法人保険の加入と見直しは一生で数度、決算毎に保険の検討をする意味がなくなり、他の損金手段にシフトせざるをえません。そうなれば、保険販売の間口(まぐち)は極端に狭くなることでしょう。

◆ バレンタインショックの行く末、まとめ。

保険会社各社は、バレンタインショック以降の保険販売には確認書に捺印を求めてきました。確認書とは要するに「通達が出て、全損でなくなっても責任は負いませんよ。」という念書です。うかつにハンコは押せない話ですが、責任回避とばかりも言えません。

3月末まで時間があるので、まだ保険料を振り込んでいないという中途半端な方も大勢いらっしゃるように聞きます。

しかし来週には、保険料を振り込む方も態度を決めなくてはなりません。通達が出る出ないにかかわらず、保険料を振り込んでおき、全額損金にできないとなれば、決算修正するしかありません。

今回ばかりは通達がでれば、一件落着とはいかないように思います。このままの締め付けが続けば、保険業界の先行きは真っ暗です。

逓増定期の名義変更スキームも解約返戻率の極端な差があってこそ成り立ちます。解約返戻率を高く設定できないとうま味がなくなり、立ち消えとなりそうです。法人の利益はオペレーティングリース等へ流れることになるのでしょうが、利益がでる法人では打つ手が限られます。

(追記:逓増定期の名義変更プラン、2022年3月のホワイトデーショックで道は絶たれました。)

節税保険で簿外に利益を貯金して、必要な時に解約して使うというメリットがなくなってしまいます。日本経済を支える中小企業の経営の選択肢を狭めてしまうことになり、経済全体の活力を奪うことにつながります。今となってはバレンタインショックが尾を引かないようにソフトランディングを願うのみです。

2019/3/20 追記

バレンタインショックは、国税庁としても想定外の騒ぎになり振り上げたこぶしの落としどころが見えなくなっているような感じです。保険会社としては死活問題ですから、相変わらず売りつづけているN生命もあるようです。いよいよ混沌としてきました。

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