M&A税制による節税効果と事業規模拡大。
2021年度税制改正関連法には、中小企業のM&A (事業譲渡、買収)に対する税優遇が多数盛り込まれました。M&Aは増加しており取り扱う機関も多種多様です。M&Aをビジネスとする企業は活発な動きを見せています。
最近では、M&A市場は過熱気味で売り手市場になっているようです。おかげで怪しい仲介業者なども暗躍し、M&A詐欺などということが問題化しています。
M&A税制で事業を拡大し、なおかつ節税できれば言うことはありません。基本は課税の繰り延べになりますので、そこはやはり出口対策が必要です。M&Aは未知の企業を傘下に取込み利益につなげなくてはなりません。これは言うほど簡単なことではなく、一つ間違えば損失につながりかねません。そのリスクに対する保険的な意味で、株式取得価額の一部を一定期間費用化できるというものです。
M&Aを検討したが、踏み切れないでいるという企業は多いと思います。そういう企業の参考情報になれば幸甚です。
■経営力向上計画の即時償却と節税保険の出口対策を組合せ大胆節税。
◆ M&Aは後継者不足の切り札か。
日本の中小企業が抱える最大の問題は、事業承継ではないでしょうか。中でも後継者不足は、実際深刻なものがあります。
後継者不足の切り札として、M&Aはますます活用が広がると考えられます。M&Aと言えば、どうしても敵対的なイメージがあります。しかし多くのケースでは双方の合意と納得をもとに、売り手も買い手もメリットが享受できるM&Aが主力になってきています。
そんな中降ってわいたように、税制改正でM&A税制の優遇が出てきました。今回の優遇策は、特別に手厚くされました。国策の一環ですが、ポストコロナ時代の目玉として、中小企業の整理集約が進むのでしょうか。
◆ M&A税制で飛躍のチャンス。
節税保険が国税通達によって封じられてから、保険に変わる課税繰り延べの仕組みとしてオペレーティングリースや4割損金保険という限られた選択肢になりました。今回のM&A税制による節税効果は、それなりに期待できるのですが、節税するためにM&Aということはないと思います。ただM&Aという選択肢に、より有利な条件が付いたということになります。
節税保険が必要な企業というのは、継続的に利益が出て内部留保もしっかりしている会社が多いわけです。そういう企業は蓄えた利益をどのように有効に使うかを考えます。企業が成長するためには、売り上げを伸ばすことが必要です。これを飛躍的に達成する手法として、M&Aは効率的な戦略だと言えます。
今回のM&Aに関する改定は税制面で手厚い後押しになりますから、一気に事業を成長させることも可能です。しかし、議論の背景をみると生産性の低い中小企業を整理集約するためのM&Aということがありそうです。
ポストコロナを見据えて事業を飛躍させるチャンスと言える半面、長引くコロナ禍で経営状態が思わしくない中小企業には、今後の施策によっては、冷酷な決断を迫られることになるかもしれません。
■法人保険の目的の第一は事業保障という当たり前を噛み砕くと。
◆ M&Aで中小企業が節税できる理由。
■経営力向上計画の認定を受けると経営資源集約化税制が活用できます。
経営資源集約化税制は、中小企業のM&Aにおいて、将来の損失リスク発生の懸念を抱えながら、費用化出来なかった株式の取得価額が、一定の要件の下、株式購入直後に一部費用化出来るようになる制度です。
経営資源集約化税制は、端的に説明すれば、一定の要件を満たした場合に中小企業者が購入した株式の取得価額の一部を損金算入でき、5年経過後に損金計上分を5年間で均等に益金に算入する制度です。
以下引用です。
- 中小企業事業再編投資損失準備金の繰入れ
経営力向上計画(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る。)の認定を受けた中小企業者が、他の法人の株式等を購入(取得価額が10億円以下)し、かつ、取得事業年度終了の日まで引き続き有している場合において、株式等の取得価額の70%以下の金額を将来の株式価値の下落による損失(簿外債務、偶発債務等のリスク)に備えて「中小企業事業再編投資損失準備金」として積立てたときは、当該金額の損金算入が認められる。
- 中小企業事業再編投資損失準備金の取崩し
積み立てた準備金の金額は、その株式の全部又は一部を有しなくなった場合やその株式等の帳簿価額を減額した場合等に取り崩すほか、5年間の据置期間経過後、原則として5年間で均等額を取り崩して益金算入される。
- 買い手側の要件
買い手は青色申告をしている中小企業者とされている。ここでの中小企業者は中小企業等経営強化法の中小企業者等であり、租税特別措置法の中小企業者に該当するものをいう。詳細な要件は省略するが、イ年平均所得金額が15億円を超えない、ロ資本金の額又は出資金の額が1億円以下の、ハ青色申告をしている一定の法人(大規模法人の所有に属する法人を除く。)である。
- 適用時期
改正中小企業等経営強化法(以下、「改正強化法」)の施行の日(未定)から2024年(令和6年)3月31日までに経営力向上計画の認定を受けた株式等の取得に適用される。2027年3月31日まで延長された。
M&Aには見えざるリスクがありますから、認定企業のメリットとして、それに備える準備金を積み立ててもその損金処理を認めるという内容です。
認定を受けた中小企業は、その株式等の価格の低落による損失リスクに備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を「中小企業事業再編投資損失準備金」として積み立てることができます。これを損金で積み立ててもよいですよということです。ただし5年間保持した後には、さらに5年間の間に均等に益金として取り崩しなさいというルールです。
そのこと自体が節税になるのではありませんが、いきなり株式取得価額の7割を損金化できて5年先まで利益を繰り延べることができますから、中小企業にとってこれはありがたいのです。
その間に出口対策を設計すれば本当の節税になります。他にもM&Aの効果を高める設備投資減税、雇用確保ための賃金増加額に対する税額控除などの制度があります。
◆ M&A税制、まとめ。
経営資源集約化税制の狙いがどこにあったにせよ、M&Aに関する税制改正は利益の出ている企業にとってうまく使えば大幅な課税の繰り延べが可能になります。
その後の設備投資などと組み合わせれば、出口対策の設計ができるかもしれません。
法人保険で利益の繰り延べという選択肢がほぼなくなった今となっては、国策として進めているM&A税制は有力な選択肢であり、M&Aという少々ハードルが高い手法の活用が進むのではないかと思います。
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