所有者不明土地の原因と無責任を問えない3つの理由。
全国に所有者がわからない土地が410万haあると言われています。九州の面積(367万ha)より広い土地が宙に浮いているわけです。土地や建物は不動産登記法という法律によって、所有者が登記簿に登記される決まりになっています。
なぜそれなのに所有者不明土地がここまで拡大してしまったのでしょうか。本来、不動産とは価値ある資産のはずなのですが、なぜ所有権を明確にする登記で所有者が確認できないのでしょうか。
ここ数年で数々の法改正や新たな仕組みが登場して、令和6年4月から相続登記の義務化が始まります。今までのように、知らなくてもどうにかなる時代ではなくなりました。士業のビジネス目線ではなく、素人目線で複雑怪奇な所有者不明土地に迫ってみました。
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◆所有者不明土地の原因と問題点。
所有者不明土地の定義:
不動産登記簿で所有者がわからない、所有者に連絡がつかない土地、多数の共有者の特定が困難な土地。
相続が発生したとき、その土地を相続する人が法務局できちんと相続を原因とした所有権移転登記を行えば、所有者が不明になることはありません。しかし、相続登記には、登録免許税や登記にかかる費用が発生します。それで相続登記が義務化される前は、相続が発生しても登記はせず、放置しておく例が多かったのです。
そもそも相続税がかからなければ遺産分割協議などしませんから、相続した土地を売る話でもなければ、相続登記をしようという動機が働きません。その結果、子供たちは都会に独立して家庭を持ち、さらに代が変わっていくと相続による所有権が分散し収拾がつかなくなります。
他にも、引っ越しをするなどして住所が変わっても、登記簿の住所変更までは手が回らないというか、普通は気がつきません。それも所有者不明土地が発生する原因になっています。田舎には、共有墓地や入会山(いりあいやま)など村落で共有して利用してきた土地などがあます。これも多数の共有者があり、代が変わり所有者の特定が難しくなる原因の一つです。
所有者不明土地は、不動産としての価値が低く見捨てられた土地と言うことができます。しかし土地を放置すれば、雑草が繁茂し、中には木が茂り密林のようなところもあります。ゴミ等の不法投棄、粗大ゴミや動かなくなった農機が放置されていることもあります。
そこに古い家でも建っていれば倒壊リスク、火災リスク、害虫の発生、災害要因になります。また土地の有効利用や災害時の再建時にも所有者不明土地は、障害となります。
その結果、大きな社会的な問題として対策が取られるようになってきたというわけです。
◆ 売れない土地の売れない苦労は徒労か。
田舎の土地を売ろうとすれば、隣接している土地の所有者全員に連絡して境界確認の立ち合いをお願いしなくてはなりません。
一つの土地には四方に所有者が異なる隣接する土地があります。公衆道路などの場合は、市町村や県などが所有していますから
連絡は取りやすいのですが、それ以外の隣地は法務局でとってきた登記簿を見ても所有者がわからないことがあります。
登記簿上の所有者はすでに亡くなっており、相続人は遠方に住んでいるような場合は、探し出すのも骨が折れます。住所も連絡先もわからないと、元の所有者が住んでいたご近所に聞いて回るしかありません。
売買できるような土地でも、隣地の所有者を探すのは手間がかかります。まして田舎では到底売れそうにない、問題が多い土地がわんさかとあります。売れない田舎の土地は、そもそも価値がないので誰も欲しがりません。売れない土地の売れない苦労は、徒労になることが多いのです。
道沿いの農地であればまだ売買のチャンスはありますが、少し奥まったところにある農地など誰も欲しがりませんし借り手もありません。今どき採算が取れない稲作をする奇特な人もいません。運よく借りてくれる人があり、野菜でも作ってくれれば、除草の手間が省けて儲けものというくらいです。
相続すると費用がかかるだけでなく、将来的な管理責任や固定資産税の負担が発生します。実は耕作可能な農地でも、相続すると除草などの管理責任と固定資産税が発生します。農業をやる気がないからといって、手放そうにも農地にはいろいろな制約があり簡単ではないのです。
◆ 遺産分割協議の無期限が招く無責任。
相続税の申告は10カ月という期限がありますから、遺産分割協議でもめていると間に合わなくなるリスクがあります。また相続税で配偶者の税額軽減や小規模宅地等の評価減を受けようとすると期限までに申告する必要があります。
ところが相続税がかからないとなると、申告期限を意識する必要がありません。それゆえ遺産分割協議そのものが開かれないことすら往々にしてあります。とくに評価価値の低い地方の家屋敷や田畑は分けることも難しいですが、そもそも欲しがる相続人がいませんから分ける価値がありません。
その結果、田舎の土地や屋敷はどんどん疲弊していき、都市部だけが高騰し、密集化します。遺産分割協議の無期限が招く無責任などと申し上げましたが、遺産分割協議など関係ない老人比率の高い田舎の貧困層は、無責任と言われようが実際なすすべがありません。
・遺産分割の期間制限が10年に。
遺産分割協議を無期限にしておくと、所有者不明土地の原因ともなりますから、遺産分割の期間が10年と定められました。10年を過ぎると法定相続の割合で分けることになります。10年を過ぎても、別に相続人が相談して法定相続以外で分けてもよいのですが、相続での寄与分の主張や特別受益の持ち戻しの主張などが使えなくなります。
◆ 相続登記未了の無責任を問えない3つの理由。
相続登記ができていないのは、それでも特に支障がなかったからと言えそうです。相続登記の未了が、所有者不明土地の発生する大きな要因であることは間違いありません。
相続した土地が売れるような物件であれば、金に変わるわけですから争族に発展することもあるかもれません。少なくとも土地の売買には所有権移転登記は必須になります。価値ある土地を相続した相続人は、所有権を確定するために義務化されなくても進んで相続登記をするでしょう。
相続登記を先送りして、放置してしまう原因は、その土地に価値がないだけでなく、固定資産税や管理責任を伴うことにあります。相続登記をしていなくても固定資産税や管理責任は免れませんが、それ以外に登録免許税や登記に必要な費用まで負担する気になれない気持ちもわかります。
理由その1) 売れない土地は誰も相続したくないので、相続登記は先送り。
理由その2) 手間と費用がかかるので、相続登記は先送り。
理由その3) 遺産分割協議の話がまとまるまで、相続登記は先送り。
相続登記を先送りする理由はいろいろありますが、売れない土地や家は相続登記のインセンティブ(動機付け)が働かないというわけです。一見無責任に見える相続登記未了は、考えてみれば自然な流れなので、必ずしも無責任とは言えないと思います。
その結果、所有者不明土地法に始まる一連の民事法制の改正になり、不動産登記法の改正による相続登記に義務化につながっています。
◆ 所有者不明土地にしない具体策は、登記簿と公図が強い武器。
令和6年4月1日から相続登記が義務化されることが決まっています。
ここまで、暗い話になりましたが、放置せずに責任もって相続登記をしたり、管理したりするためには、相続した所有不動産の把握が必要です。
この辺の管理は生命保険と同じでエクセルで管理すると一目瞭然になります。
そのためには固定資産税課税明細書の通知をたよりに、登記簿と公図を法務局で入手することです。そして休日に田舎に帰り、境界を確認し写真に収めてくることが大事です。カメラと公図を片手に不審者よろしく、田舎道を歩きまわると徐々に実態が見えてきます。
今や負の遺産になりつつある田舎の土地屋敷は、ますます増加しさらに大きな社会問題になります。今回の相続登記の義務化を契機に、背を向けることなく正しい情報を入手してください。自分にできることを確認することで、わずかながらも光明が見えてくるものです。
相続登記をしなくても、相続放棄でもしない限り、固定資産税は免れることはできません。また相続人には、除草などの管理責任もあります。これまでのように、適当なことはできなくなりました。元気なうちに相続する土地を現認し、境界を確認しておくことは、この先特に重要になってきます。
◆ 所有者不明土地の無責任、まとめ。
今後の方向性としては、相続登記の先送りができなくなり家屋敷・土地所有の責任を明確化することになりそうです。相続で不動産を取得し登記すれば、いかに価値がない不動産でも登録免許税などの費用が発生します。
ここでは相続人同士の責任のなすりつけ合いという、譲り合いの争族が発生することすらあります。親の生命保険は次男・次女がもらうが、田舎の家屋敷は長男・長女が引き継ぐという構図です。
また、縁遠い子なしの伯父さんや伯母さんがなくなると、自分は相続に関係がないと思っていた甥姪あたりにも、代襲相続人として相続登記義務化のお鉢が回ってくる可能性があります。
所有者不明土地問題に端を発した相続登記の義務化は、地方の土地活用の大きな流れを生み出すでしょうか。今回の一連の法改正は、所有者不明土地法だけでなく、民事法制全般に及ぶ大改正となっています。自分は関係ないと考えている相続人のほとんどに影響があります。もはや知らんふりはできない相続登記の義務化と言えそうです。
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