
住宅ローンは早く返した方がよい。これは半分正解ですが、半分は間違いです。
私は保険営業をしていた頃、退職金が入ったら住宅ローンを一気に返済したいと
いう相談を何度も受けました。気持ちはよくわかります。
住宅ローンは目に見えない重荷です。
毎月返済日が来ますし、残高を見るたびに気分が重くなります。
できることなら一日でも早く返済してしまいたい。
しかし相続税がかかる可能性がある家庭では話が変わります。
繰り上げ返済によって手元資金を減らしてしまうと、後になって相続人が困るケースがあるのです。
今回は住宅ローンの繰り上げ返済と相続税の関係について考えてみたいと
思います。
◆ 相続対策で本当に重要なのは節税より納税資金。

相続対策というと節税ばかりが注目されます。
しかし実際に相続で苦労する原因は、節税不足よりも納税資金不足であることが少なくありません。
相続税は現金で納付します。しかも期限は相続開始から10か月です。
ところが財産の中身を見ると、自宅、実家の土地、賃貸不動産
など換金しにくい不動産ばかりということがあります。
財産はあるのに現金がないとは、相続ではよくある話です。
とくに都市部では自宅の土地だけで評価額が高くなり、思いがけず相続税の対象
になることがあります。
例えば小規模宅地等の特例などを適用しても相続税が発生するケースがあります。
被相続人本人は、うちは金持ちじゃないと思っていても、相続税の計算をすると税額が発生するケースは珍しくありません。
◆ 退職金で住宅ローンを返済すると何が起こるか。

退職金が入ると繰り上げ返済を考える方が多くなります。
確かにローン残高が減れば利息負担は軽くなります。
精神的にも楽になります。
しかし相続税がかかる可能性があるなら、一度立ち止まって考えるべきです。
例えば退職金2,000万円を使って住宅ローンを返済したとします。
本人にとっては借金がなくなり安心です。
ところが数年後に相続が発生すると、
相続税を払う現金がない、という事態になることがあります。
住宅ローンを返済したお金は戻ってきません。
相続財産そのものが大きく減るわけではありません。
しかし現金が住宅という換金しにくい資産に変わるため、納税資金を確保しにくくなることがあります。
一方で相続税は待ってくれません。
納税のために土地を売却したり、相続人が慌てて資金調達をしたりというケースもあります。
◆ 私が見てきた相続で本当に困るケース。

保険営業をしていると、相続税そのものよりも納税資金で困るケースを
何度も見ます。
例えば、相続財産の大半が不動産であり預金はわずかという場合です。
相続人は、住んでいる自宅を売りたくないと思います。
それでも税金は払わなければならない。
こうなると選択肢は限られます。
不動産を売るとか相続人が自分で資金を用意するしかありません。
それができなければ延納や物納を検討することになります。
■カンタンにはできない相続税の物納、納税資金がないと一大事。
しかしどれも簡単ではありません。
だから私は、節税よりも先に納税資金を考えてくださいとお伝えしてきました。
相続税は税額の問題ではなく、キャッシュフローの問題なのです。
◆ 生命保険は納税資金対策として優秀。

そこで力を発揮するのが生命保険です。
生命保険金は受取人に直接支払われます。
不動産のように売却する必要もありません。
相続発生後、比較的早く保険金を受け取ることができます。
相続税の納税資金としては非常に優秀です。
私は法人保険を扱うことが多かったのですが、個人の相続でも生命保険が役立つ
場面を数多く見てきました。
とくに土地が多い場合や、自宅の評価額が高い場合は、
あるいは相続人が複数いるという家庭では、生命保険による現金確保の意味は大きくなります。
◆ 繰り上げ返済してよい人、慎重になるべき人。

もちろん住宅ローンの繰り上げ返済が悪いわけではありません。
次のような場合は問題ないでしょう。
・繰り上げ返済前に確認したいことを箇条書きにしました。
①相続税が発生する可能性はあるか
②手元預金はどれくらい残るか
③生命保険で納税資金を確保できているか
④不動産以外の資産はどれくらいあるか
⑤相続人が納税資金を準備できるか
一方で、土地評価が高いとか地価が値上がりし相続税がかかりそうという場合や
財産の多くが不動産、さらには手元資金がそれほど多くないという場合は
慎重に判断した方がよいと思います。
住宅ローンの利息を減らすメリットより、手元資金を失うデメリットの方が
大きくなることがあるからです。
◆ ローンの繰り上げ返済は慎重に、まとめ。

住宅ローンはできれば早く返したいものです。
私自身もローンを抱えていた時期がありますから、その気持ちはよくわかります。
しかし相続税がかかる可能性がある家庭では、繰り上げ返済が必ずしも正解とは限りません。
退職金やまとまった預金ができたときは、ローンを返すかだけでなく、
将来の相続での納税資金は足りるかという視点でも考えてみてください。
相続で本当に困るのは税額そのものではなく、納税するための現金が
ないことです。
相続税が発生する可能性がある家庭では、住宅ローンの繰り上げ返済も相続対策の
一部として考える必要があります。
住宅ローンを返済して安心したはずが、後になって相続人が困ることのないよう、
相続税と納税資金を含めて全体で考えることが大切だと思います。
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