逓増定期の名義変更にトドメの通達、実質遡及の混乱!

逓増定期の名義変更にトドメの通達、実質遡及の混乱!

国税庁により、逓増定期保険の名義変更にかかる保険契約の権利評価の見直しが行われました。2021年6月25日、資産計上額で評価するという通達(所得税基本通達36-37)が発遣されました。さらには2019年7月8日までの契約に遡及されることとなり、逓増定期の名義変更スキームは完全に封じられました。

これまで保険契約は、解約返戻金の額で評価できました。しかしこれで解約返戻率が低い時に個人に有償譲渡し、解約返戻率が一気に高くなった時点で解約し、その差額の一時所得を得るというスキームはほぼ使えなくなりました。

中小企業の事業承継や利益コントロールにも影響が大きく、今後法人の利益はオペレーティングリースなどのハイリスクな仕組みにシフトするものと考えられます。パブリックコメントから通達の発遣まで一連の流れを検証しました。

■逓増定期保険の名義変更、ホワイトデーショックまとめ。

◆ 国税の所得税基本通達の一部改正で名義変更トドメ!

国税庁から発遣された通達を下記に引用(斜体部分)しました。「保険契約等に関する権利の評価」を見直すとは、簡単に申し上げれば、保険契約を譲渡する場合の金額を下記のように変更することになります。

【解約返戻金の額→資産計上額】

「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)
(注)アンダ-ラインを付した部分は、改正部分である。

改正前

(保険契約等に関する権利の評価)

36-37使用者が役員又は使用人に対して支給する生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約に関する権利については、その支給時において当該契約を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額との合計額)により評価する。

改正後

(保険契約等に関する権利の評価)

36-37 使用者が役員又は使用人に対して生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約(以下「保険契約等」という。)に関する権利を支給した場合には、その支給時において当該保険契約等を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額との合計額。以下「支給時解約返戻金の額」という。)により評価する。ただし、次の保険契約等に関する権利を支給した場合には、それぞれ次のとおり評価する。

(1)支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利(法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限る。)を支給した場合には、当該支給時資産計上額により評価する。

(2)復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等に関する権利(元の契約が法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限る。)を支給した場合には、支給時資産計上額に法人税基本通達9-3-7の2の取扱いにより使用者が損金に算入した金額を加算した金額により評価する。

(注)「支給時資産計上額」とは、使用者が支払った保険料の額のうち当該保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払部分の保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金等で処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいう。

附 則

(経過的取扱い)

この法令解釈通達による改正後の所得税基本通達は、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用し、同日前に行った保険契約等に関する権利の支給については、なお従前の例による。

バレンタインショックで発遣された国税通達(法人税基本通達9-3-5の2)では、最高解約返戻率により、損金で落とせる割合が制限される仕組みとなりました。その結果損金割合は大きく削減され、資産計上額が大幅に増加することとなり節税効果がなくなりました。今回の法令解釈通達では、バレンタインショックルールで資産計上された額でしか、名義変更譲渡は認めませんというお達しです。

そもそも逓増定期の名義変更スキームは、解約返戻率の落差を利用して資金移動を行う仕組みです。買い取り金額を資産計上額とされたのでは、スキームが成り立たなくなり、逓増定期保険を個人で買い取る意味がなくなりました。

今回の通達の内容を精査、吟味するともはや抜け穴はなさそうです。所得税基本通達の一部改正で逓増定期の名義変更は、意味がなくなり完全にトドメを刺された格好になっています。

◆ パブリックコメントは意味がない応酬。

通達が出される前にパブリックコメントの募集ました。広く一般から形式的に意見を募る仕組みです。いろんな意見が出ても、国税庁の権力基盤の上に出される通達の内容が変わるわけではありません。いきなり出される通達の衝撃を和らげる、ソフトランディングの仕組みとして、パブリックコメントがあると考えればよいと思います。

パブリックコメントでは出された意見を集約して、国税庁の考え方を説明する形がとられています。いつもながら反論の機会はなく、国税庁の一方的な言い分を容認せざるを得ない仕組みです。そもそもパブリックコメントは、意味がない応酬となります。体裁だけの意見公募です。

■「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)
(保険契約等に関する権利の評価)に対する意見公募の結果について

◆ 実質的な適用遡及は現場の混乱を招く。

附則として(経過的取り扱い)の中に令和3年7月1日以後に名義変更する契約に適用するとあります。一見、既契約には遡及しないと取れなくもないですが、逓増定期保険の名義変更は通常、契約から4年から5年後に名義変更を行います。

同通達の適用開始までに名義変更を行ったものには遡及しないということですが、それは裏を返せば3年から4年前の契約でまだ名義変更の時期が到来していないものは、既得権を認めないということです。

もう少し正確に言えば、資産計上額の変更通達「法人税基本通達9-3-5の2」から資産計上額の見直しがルール化されましたので、それ以後の保険契約に適用されるということになります。はっきり言ってこれは遡及されていると感じるのは、一部の人だけではないと思います。

■国税庁 法人税基本通達9-3-5の2
(定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い)

国税OBなどでは、逓増定期の名義変更を得意としている方もかなりいらっしゃったはずです。それを配慮することなく、バッサリと既得権を認めなかった国税庁の強気の根源はどこにあるのでしょう。

◆ 節税保険の出口対策に逓増定期の名義変更が使えない理由。

バレンタインショックの駆け込み契約で、全額損金の保険に大量の契約が集中したことがありました。その解約返戻率がピークを迎え、解約返戻金による雑収入が大量に発生するのが令和9年・10年頃になるのはどこの企業も同じです。

この節税保険の出口対策として、逓増定期の名義変更をあてる設計をされていた方もあると思います。残念ながらその手も封じられましたので、発生する巨額の雑収入は保険以外の対策を考えるほかないのでしょうか。

保険代理店は、節税保険の雑収入対策としていろいろ提案がありますが、以前の全損保険のように、なかなかぴったりとはまりません。今後は設備投資、失効先送り、オペレーティングリース、一括償却などを組み合わせて、雑収入からくる利益を抑制するほかないところです。

◆ お宝保険の名義変更に影響はなし。

今回の通達は、過去のお宝保険の名義変更には、影響を与えないようです。通達によると「支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利」とありますのでほぼ関係がないと言えます。

全額損金であればそもそも資産計上額がないわけですから、問題はないことになります。長期平準定期などの1/2損金でも解約時期においては、解約返戻金の額は資産計上額を上回るのが普通です。よって過去の予定利率のよい時期に契約した保険を、後継者に相続対策として名義変更有償譲渡する手法は有効です。

◆ 逓増定期の名義変更にトドメ通達、まとめ。

最後の砦ともいうべき逓増定期保険の名義変更スキームは、今回の改正通達であえなく潰(つい)えました。見方によればリスク保障のための保険本来の目的に立ち返るという点では、一つの転機であるかもしれません。

それにしてもやはり国家権力は強権的に強かったということです。

コロナ対策やオリンピック対応で莫大な支出をしていますから、あらゆる税収の漏れをふさぎ、徹底的に搾り取る戦略です。

中小企業の立場から言えば、ひも付きの事業承継となる納税猶予制度よりも逓増定期の名義変更を残す方が、使い勝手が良いところがあります。しかし逓増定期の名義変更は、毎期保険料に充てられるだけの利益が出ている企業でなければ、使いようがありません。

通達が変わり資産計上割合が9割になるということは、それだけのキャッシュフローを4年以上寝かせていくだけの体力がなければどうしようもありません。

また、名義変更時に出る巨額の雑損失が法人の利益と相殺になり節税できなくては、意味がありません。それだけに逓増定期の名義変更ができる企業は、財務的に超優良でないと難しいわけです。またオーナー経営者が、財務一切の決定権を握っていないとできる相談ではありません。

今回の逓増定期の名義変更にトドメを刺した国税通達は、保険による節税対策封じの最終仕上げのような感じさえします。これにより苦労する保険営業、内心喝さいの保険営業など様々です。しかし、法人保険の活用範囲が大きく制限され、中小企業の選択肢が狭められたことは間違いないと思います。

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